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愛溢れる世界

222:いつだって甘い空気

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 王宮に付いたら
俺はそのままティスに
連れられてサロンに向かう。

今日は午前中のテストで
授業は無かったから
お昼ご飯は食べてない.

お腹が空いてるんだけど、
俺はそれを言わなくても
サロンでおやつを
食べさせてもらえると思うので
素直に歩く。

キールは王宮に入ると
俺のそばにはいるけれど
基本的には護衛というより
侍従になる。

俺が王宮に来たことを
父や義兄たちに伝えたり
イシュメルたち神殿側から
何か伝言が無い入ってないかを
確かめたり、雑務をしてくれるのだ。

それが終わったら
キールは自由時間だ。

なにせ、俺が王宮に
着いた途端、さりげなく
王家の護衛が俺にも付くのだ。

キールは俺がティスと
遊んでいる間は
義兄の手伝いをしたり、
騎士団の人たちと訓練したり。

俺のそばにいることもあるが、
今みたいな時間は
王宮の食堂で食事をしたりする。

もっとも本来、
護衛というのはこんなに
ゆるい感じではないと思う。

でも俺はキールには、
俺が王宮にいる間は
自由にしていいって言ってるし、
父の許可も得ている。

王家の護衛が沢山いるのだから
過剰防衛の中にいるよりも
騎士団の人たちと訓練している方が
キールにとっても有意義だと思うし。

それに。
きっと、たぶん。
キールはティスの護衛たちと
あまり一緒にいたくないと思う。

ティスは王族だから
護衛には近衛騎士が付くのだけど
キールは元近衛騎士だった。

元同僚との関係はわからないが
キールは父が俺のために
無理に引き抜いたと思うので
あまり関わらないように
俺なりに配慮しているのだ。

だってさ。
ティスの周囲にいる
護衛の近衛騎士たちは
みんなキールよりも年上だ。

普通はもっと若い護衛でも
いいんじゃない?

って思うけれど。

ティスのそばに居る護衛たちは
全員、強面で、身体付きも良くて、
キールを呼び捨てにするような
人たちばかり。

つまり、近衛騎士時代の
キールの先輩や上官たちなんだと思う。

ベテランの騎士たちばかりが
ティスのそばにいて
逆に陛下や王妃様のそばには
若い近衛騎士が多い。

見栄えか?
見た目重視なのか?

もちろん、騎士なんだし、
実力もあるとは思うけど。

それに戦争を回避してから
ティスの命を明確に
狙う相手がいなくなったので
護衛や警護も王宮でも
かなりゆるくなったと思う。

平和な日々がやってきたのだ。

だってさ。
俺とティスが
ふたりっきりになる時間が
やたらと増えた。

これはティスの護衛を
そばでしなくても大丈夫って
陛下が判断されたからだろうし、
ティスが命の危険が無く
過ごせる日々が来たことは
純粋に嬉しい。

王宮にあるティス専用の
サロンに着くと、
明るい日差しが差し込む
暖かい部屋に、
お茶と軽食の準備がしてあった。

俺はティスに
エスコートしてもらって、
大きなテーブルの前に座る。

テーブルから少し離れた
窓のそばには、
公爵家のサロンと同じように
ふかふかのラグが敷いてある。

俺はそのラグの上で
日向ぼっこするのが好きだった。

俺がラグを見たからか、
「食べたら、あそこで休もうか」
とティスが笑う。

俺が椅子に座ると
すぐに侍女がそばにきて
お辞儀をしてから
カップにお茶を注いでくれた。

もちろん、俺はミルクティーだ。

軽食はサンドイッチと
スコーン。

たっぷりのクリームや
ジャムもある。

それからクッキーや
サブレ? みたいなのもあった。

それから……

「これが隣国のお菓子?」

俺はさらに綺麗に並んでいる
皿を見つめた。

メレンゲクッキーだと思う。

メレンゲを焼いて作るやつ。

「うん。食べてみて」

ティスに言われるまま食べると、
サクっとした食感で
口に入れると、しゅわ、っと解ける。

おぉーっ。
この感覚、久しぶり。

「ね、珍しいでしょ」

ティスの笑う声に俺は頷く。

そういやこの世界で
メレンゲクッキーを食べたのは
初めてのような気がする。

「こちらは隣国から
取り寄せたもので、
こっちはね、

レシピをみて王宮のシェフが
ぜひアキに食べて欲しいって
作ったんだよ」

言われて皿をよく見ると
メレンゲクッキーが2種類あった。

俺はその両方を食べ比べしてみる。

どちらも美味しい!
としか言えない自分が悲しい。

すまん。
語彙力が無い。

ふと俺は部屋の隅に
いつも俺のためにプリンを
作ってくれるシェフが
立っているのに気が付いた。

俺はシェフに向かって
手を振った。

「美味しいです。
いつもありがとうございます」

シェフは目を丸くして、
恐れ多い、と言いながら
何度も頭を下げる。

「僕ね、シェフが作る
プリンが世界で一番おいしいと
思うけど。

シェフはプリンだけでなく
お菓子を作ったら世界一だね」

公爵家のシェフといい勝負だと思う。
俺は公爵家のシェフも
世界一だとは思っているが。

その心の声は伝えずに
俺がシェフのお菓子は美味しいと
もう一度伝えると
シェフは何故か感激したように
涙を浮かべる。

そして何度も俺に礼を言って
部屋を退出していった。

「ふふ。
シェフは随分喜んでたね」

ティスが言う。

うん。
喜び過ぎだと思うぐらいだ。

「アキに美味しいって
言って貰えて
嬉しかったんだよ」

なんてティスは言うが
そんなの何時だって言ってるし、
王宮のシェフは感激屋なんだと思う。

「アキ、沢山食べて?
シェフがアキのために
沢山作ったんだから」

「うん。ありがとう」

確かに目の前のメニューは
俺の好きなものばかりだ。

サンドイッチは照り焼きチキンだったし
スコーンは俺の好きな
たっぷりクリームが用意されている。

お茶は甘いミルクティーだったし、
メレンゲクッキーはそのままだけど
それ以外の焼き菓子は
俺が好きなチョコが沢山使われている。

俺はありがたくいただくことにした。

素直に美味しい。

とはいえ、俺は以前より
量を食べるようになったけど、
一度にたくさんは食べれない。

ティスはそんな俺の様子を見ながら
俺が残したものに手を付けていく。

ほんと、申し訳ない。
俺が残したらもったいない、と
良く言うので、
それを解消してくれるのだ。

俺はサンドイッチは1切れ食べたら
十分だから、俺が1切れ食べたら
残りはティスが食べてくれる。

ティスは俺が食べたお菓子の残りを
さりげなく自分の皿に乗せて
食べてくれるのだ。

俺、めちゃくちゃ過保護……
じゃなかった、
甘やかされてるよな?

だってティスは王子様で、
俺よりも身分は上で。

誰かが手を付けた料理ではなく
まず一番に、手を伸ばして
食べたいものを選べる筈なのに。

「ティスも好きなものを
先にとっていいんだよ?」

俺がそう言うと
ティスは首を振る。

「アキが食べたものを
食べたいんだよ」

にこにこと笑って
そんなことを言われたら
拒否はできない。

ただ食事をしてるだけなのに、
何故か甘い空気になり、
俺は胸がいっぱいになる。

やっぱり俺、
ティスのこと好きだ。

この空気も、
息が苦しくなるけど
嫌じゃないし。

でも、と思う。

このままでいいのかな、俺。

もう一度ちゃんと
ティスに好きって言ってみる?

なんか思いが通じ合ったっぽいけど、
俺たちの関係はこの一年、
やっぱり変わったような、
変わってないような感じだし。

恋って、どうなるのが正解で
俺はどうしたらいいんだろうか。

こんなことなら前世で
恋の指南書とか読んでおけばよかった。

前世ならノウハウ本とか
ハウツー本とか山ほどあったのに。

俺はそんなことを考えながら
メレンゲクッキーを
山ほど平らげてしまった。

口の中でシュワって解けるから
いくらでも食べれたのだ。

すげぇな、メレンゲ。



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