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愛溢れる世界

221:甘い言葉

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 その日は学園のテストが終わった日だった。

スクライド国のゴタゴタ以降、
俺は放課後はクリムとルシリアンと
図書室で授業の復習や予習を
するようになった。

時間が空いたティスが
たまに顔をだしたり、
クリムとルシリアンの
婚約者、メイジーと
エミリーも良く顔を出す。

女子二人は一学年下なので
勉強も教えやすい。

初めの頃は、
メイジーもエミリーも
俺たちの勉強会に
参加することをためらっていたが
テスト勉強だからと
強引に誘ってからは
テストが終わってからも
そのまま参加するようになった。

なにせ学園では
二人の婚約者を俺が
独占してるからな。

交流の場をこうやって
設けるのも良いと思うんだ。

ただルイはこの勉強会に
参加することはなかった。

そんな暇があったら
研究所で研究をしたいらしい。

研究所は王宮にあるし、
王宮に行けば義兄もいる。

と、思うのは俺の
被害妄想かもしれないが
ルイは授業が終わると
一人でさっさと王宮に行ってしまうのだ。

いいけど、別に。

どうせ親友とか言っても
恋人が出来たら
そっちが大事になるんだもんな。

なんてやさぐれる俺を
いつも慰めるのがティスだ。

公爵家の馬車はルイが使うので
俺はティスが学園にいるときは
ティスと一緒に馬車に
乗せて貰って王宮へ行く。

ティスが勉強会に来ない日は
公爵家の馬車がルイを
王宮に連れて行ってから
また俺のために
学園に戻ってきてくれる。

ルイは馬で通っても良いと
言うのだが、そうなると
俺は朝、一人で馬車で
通学することになるから……。

……そうだ。
一人で通学するのがら嫌なのだ。
悪いか。
俺は寂しんぼなんだ。

なんてルイには言っていないが、
ルイは俺にニヤニヤ笑って言うのだ。

「馬で一人で行っても
いいんだけどなー。
でもなー。
俺がいないと誰かさんが
寂しがるもんなー」

俺はそれには答えない。

違う、とは言えないが
頷くのも癪に障る。

それに朝の馬車の時間は
ルイから義兄のことを聞く
大事な時間でもある。

たいてい、心配ない。
上手くいってる。

なんて言葉ばかり
言われるのだが、
たまに義兄にプレゼントを
渡したいが何がいいか、
なんて相談を受けたりもする。

今日はテストが
終わった日だったので
勉強会はお休みだ。

それにテストの後は
学園は長期休暇になる。

社交シーズンの始まりだからだ。

テストの結果は
休み明けに発表になるが
俺としては手ごたえはバッチリだ。

俺は軽い足取りで、
久しぶりに早い帰宅になったと
クリムとルシリアンと一緒に
馬車停めに向かっていると
俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

立ち止まって振り返ると
ティスが後ろから走ってくるのが見える。

もしかして俺を見つけて
走ってきてくれたのだろうか。

王子ともなると、
公の場では感情を強く表したり
こうして有事でもないのに
走ったりしない筈なのに。

ティスが俺の前に来ると
クリムとルシリアンが
お辞儀をして、
ティスに俺の正面を空ける。

「今日は勉強会もお休みだろう?
王宮に遊びに来ない?

ルイ殿下の国で今流行している
お菓子をレシピと一緒に
取り寄せたんだ」

「行く」

秒で答える俺に、
クリムとルシリアンは苦笑する。

「あ、でも二人は……」

俺だけ招待されるわけには
いかないと思ったのだが
二人は首を振った。

「僕たちはこの後、
予定が入っておりまして」

クリムがすまなそうに言う。

「申し訳ありません」

とルシリアンも頭を下げる。

その後ろに、メイジーと
エミリーが歩いて来る姿が見えた。

そうか。
これから婚約者と一緒に
親睦会なんだな。

ティスも女子二人に気が付いたようで
「じゃあ、二人には
また今度ご馳走するよ」
と軽く言って俺の手を握った。

「行こう」

俺は慌てて二人に挨拶をする。

馬車停めにはすでに
キールがいたけれど、
俺がティスと一緒にいることで
王宮に行くことを悟ったようだ。

「アキルティア様、
王宮に向かわれますか?」

キールがティスに
騎士の礼をしてから俺に聞く。

「うん、えっと」

「私とアキは王家の馬車で行くから
あとから来てくれ」

ティスはそう言うと
俺を連れてさらに奥の
王家の馬車へと連れて行く。

俺はキールに手を振って
よろしく、と合図をした。

王家の馬車は豪華で
クッションもふわふわだ。

公爵家の馬車も負けてないけど。

俺はエスコートされることに
すっかり慣れてしまったが、
でもさ。

俺、結構元気になってきたし、
そろそろ筋トレするとか、
体力作りをしても良いと思うんだよな。

馬車の乗り降りぐらい
一人でできる……と思うし。

背も少しだが伸びたんだ。

そう思うのだが、
いつもティスが笑顔で
手を差し出してくるので
俺はつい、その手を掴んでしまう。

俺、もう17歳なんだけどな。
まだクマ連れだから
幼児扱いなんだろうか。

「アキ、どうしたの?」

馬車が動き出すと、
隣に座ったティスが心配そうに
俺の顔を覗き込んだ。

俺と二人っきりになると
ティスは口調が少し幼くなる。

王子様の仮面を外して
俺の前だからリラックスして
くれていると思うと、ちょっと嬉しい。

「テスト、上手くいかなかった?」

「ううん。そんなことない。
大丈夫」

楽勝だったぞ。

「えっと、ただね。
僕もそろそろ元気になったし
筋肉とか、付けたいなぁ、って」

「筋肉?」

ティスが首を傾げた。

「うん。
もっと運動とかして
体力付けて。

そうだ。
剣とか?
そんなの習ったり……」

「ダメだよ、アキ」

ティスが驚いた顔をして
すぐさま首を振った。

「なんで?」

「だって剣なんて重たいし、
危ないよ?

血豆が出来たりするんだよ」

血豆?
なんでいきなりそんな
スパルタな話になるんだ?

「え、っと。
ティス。
僕はね、ちょっと練習とか
できたらいいかな、って」

もっとふわふわっとした
軽い体力作り的な意味で
言ってるんだが。

「走り込みなんて
物凄くしんどいし、
足にだって豆ができるかも。

潰れたら血だらけで
物凄くい痛んだ」

それは……痛そうだけど。

「だから、アキはダメ。
きっと泣いちゃうよ?」

確かに血豆が潰れたら
泣くほど痛いとは思うけど。

俺はそういうのじゃなくて……

「アキはね。
剣よりも、甘いお菓子と
可愛いものが似合うよ」

にこ、っと笑顔になるティスに
俺はそれ以上は何も言えなくなる。

俺が筋肉ムキムキになるって野望は
叶わないんだろうな。

父を筆頭に俺の周囲には
過保護が多すぎる。

それにきっと血豆がどうとかは
ティスの体験談なんだろう。

頑張ってんだな、ティス。

「それにアキは私が守るから。
剣なんて持たなくてもいいんだ」

甘い声で、手を握られて。
俺はまた無性に恥ずかしくなる。

「ふふ。
頬が真っ赤だよ、アキ。
可愛い」

いえ、可愛くないです。

ほんとにティスは急に
こうして甘い言葉を吐いてくる。

もやもやしているのは
俺一人なんだろうか。

ティスは俺との結婚のこととか、
どう思ってんのかな?

ただ一緒に入れたらいいって
このままの関係でいいって、
そう思えるのもあと2年だと思う。

いや、ティスからしたら
学園の卒業までだからあと1年だ。

あと1年で俺たちの関係も
変わっていくのだろうか。

俺はその変化に
なんとなく不安を感じてしまう。

だから、思わず
ティスの手を強く握り返してしまった。

ティスは驚いたみたいだったけど。

「ずっと一緒だからね」って
俺の耳元で囁いた。



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