完結・転生したら前世の弟が義兄になり恋愛フラグをバキバキに折っています

たたら

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高等部に進級しました

219:新しい関係?

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 俺が義兄に頭を撫でられてから
しばらくすると、ルイと
ティスがやってきた。

するとルイは俺の目の前にある
プリンの花を一目見るなり
顔をしかめる。

「アキラ、おまえ。
どれだけ食う気だ?」

ルイは言ながら
自然に義兄の隣に座った。

ティスも俺の隣に座り
そのタイミングで
侍従が部屋に入ってきて、
ルイとティスの
前にも小さなプリンを置く。

俺はちょっとだけ。
あ、って思った。

最近はずっと俺の両隣は
誰かが座っていたから。

たいていは、ティスと
ルイだったけれど。

そうか、ルイはもう
義兄の隣が定位置なんだって
なんとなく思って。

でも4人いるのなら
俺の両隣に誰かが座るなど
ありえないし、と思い直して。

俺は考え方が
ネガティブになりすぎだと
軽く首を振る。

よし、プリンを食べよう。
こんな時はプリンだ!

と俺がスプーンを持つと
義兄が手を伸ばして
俺の頭をよしよしと撫でた。

義兄には俺の考えてることが
お見通しのようだ。

寂しくないし、
俺と義兄の兄弟の絆は
ルイごときに遮られることは
ないからな。

俺が大丈夫だと義兄を見ると、
義兄が笑った。

それも、嬉しくて
たまらないと言うような顔で。

俺は驚いた。

いや、俺だけでなく
ルイもティスも驚いたようで
動きを止める。

義兄はいつも真面目な顔で
こんな風に笑うところなど
見たことが無い。

「ジェルロイド?
どうしうた?」

ティスが目を丸くして言うと
義兄は、自分が笑っていたことに
今気が付いたかというような
顔で口元に手をかざす。

「スミマセン。
少し嬉しくて」

「嬉しい?
何が嬉しかったんだ?」

ルイが義兄の横から
すかざす言う。

「いや、いえ」

義兄はルイとティスを
交互に見て、気まずそうな顔をした。

「アキルティアが素直だったので、
少し嬉しくて」

俺?
俺はいつも素直だぞ?

なに言ってるんだと義兄を見ると
義兄は俺を見ながら苦笑した。

「アキルティアと私が出会ったのは
アキルティアがまだ3歳の時でした。

ですがアキルティアは幼い頃から
聡明だったせいか、
甘え方を知らない子どもで、

寂しい、辛い、甘えたい、と
言った感情をうまく
出せていないように思えたのです」

俺が義兄の言葉にドキっとした。

そんなことはない。
そんなことは無いが、
俺は生まれた時から前世の記憶があったから
素直に両親に甘えることに
少し抵抗があった。

甘えたいが、前世では
甘えたことがなかったので
どうしたら良いのかわからなかったのだ。

なにより周囲の大人の気持ちが
理解できたので、わがままを
言ってはならないとか、
今甘えたら迷惑がかかるとか、
そういう気遣いをしていた。

父の俺に対する過保護は
そういう背景もあったのかもしれない。

俺が自分から甘えに行けないから
父は俺に全力で甘えさせようと
していた……いや、少しは
そういう気持もあったかもだが
あれは、あの父の標準仕様だ、うん。

ただ、あれから16年。
俺の前世の記憶を持った心と
身体のちぐはぐさが
最近は無くなってきたと言うか、
ここが俺の居場所だと
思えるようなことが増えたからか。

俺は子どもの頃よりも
ずっと甘えたことを口に出せるようになった。

我が儘を言っても、
誰も俺を咎めないし、
俺が甘えても、
誰の迷惑にもならないと
時間をかけて理解したからだ。

だから今の俺は3歳の頃の俺よりも
よっぽど素直で、
甘えたで寂しがり屋で、
なおかつそれを素直に
口に出すようになったと思う。

ただそれを義兄に
気づかれていたとは思わなかったが。

「最近のアキルティアは
義兄である私がいないと
こうして拗ねたりして、
年相応……というか、
幼い頃の感情を今、
やりなおしているように思えて」

義兄はそう言って
優しい顔で俺を見る。

「私はそれが嬉しいのです」

その義兄の顔は
俺の見て来た義兄の顔でも
可愛い弟の顔でもなく、
大人の、大人の男の顔だった。

俺は何も言えなくなって。
口を開いたら
義兄にしがみついて
泣いてしまいそうな感じがして。

俺は黙ってスプーンを動かす。

「べ、別に僕は
兄様がいなくても寂しく……」

ない、とは言えないから
最後まで言わずに
プリンを口に入れる。

それに気が付いたのだろう。
義兄は穏やかに笑い、
ルイは苦笑している。

ティスがそんな俺の髪を
義兄がしたみたいに
優しく撫でた。

「アキはジェルロイドのことが
大好きなんだものね」

ってティス。
全然フォローになってません。

俺はもうプリンに集中することにする。

「おい、アキラ。
あまり食べ過ぎると、
今度は夕食が食べれなくなるぞ」

「プリンは別腹で飲み物だからいいの」

「カレーじゃないんだから」

と義兄が呆れたように言うが
ティスはきょとん、とした。

しまった。
また前世の感覚で話をしてしまった。

カレーが飲み物って話の流れも
前世で流行ったことだから
ティスはわからないだろうし、
この世界にはカレーが無いからな。

ほんと、気を付けないと
ティスが仲間外れになってしまう。

俺は反省しつつ、
ティスに俺のとっておきの
クリームが乗ったプリンを
スプーンですくってみせた。

「はい、ティス。
あーん」

「え? あ、うん」

きょとん、としていたティスは
俺が差し出したスプーンに
一瞬迷ったような顔をしたけれど
ぱく、っと口に入れた。

「おいしいよね、プリン」

「うん。そうだね」

ティスは顔を赤くして言う。

「ティスは可愛いよね」

うん、可愛い。

俺がそういと、
今度は義兄とルイとティス。
それどころがティスにお茶を
入れるためにやってきた
侍従さんまで動きを止めた。

「え? 可愛い?」

ティスが目を見開いで俺を見る。

「うん。可愛い」

俺はティスの髪を
さっきされたように
なでなでした。

「そっか。嬉しいけど
アキには、カッコイイって
言って欲しいかな」

と急に笑顔で言われて
俺はまたドキッとする。

そうだった。
ティスはたまに可愛いが
心臓に悪いぐらいに
カッコイイ時もあるんだった。

また俺はプリンを食べるしかない。

そんな俺をルイがまた笑う。

「アキラ、俺のもやるよ」

笑いながら差し出された
プリンの器を
俺はありがたく受け取る。

「ルイは食べないの?」

「……誰かさんのせいで
さっき、食べ過ぎた」

「あー、そうだった。
ごめん。僕には無理そうだったから」

「と、思ったから
何も言わずに受け入れたんだ」

ルイが言うので
俺はごめーん、と軽く言う。

「何かあったの?」

ティスがそう聞いて来るので
俺はスクライド国の街にある
食堂での話をした。

「……それでね。
脂も多そうだったし、
食べたら胃もたれしそうって
思って、隣に座るルイの皿に
全部そーっと移したんだ」

「ついでに、パンは
クリムの皿に乗ってたな」

ルイがティスにそんなことまで
暴露する。

「仕方ないじゃん。
あれを食べたら寝込む自信あったもん。

ティス~、ルイが虐めるー」

と泣きまねして
隣のティスに泣きつくと、
ふふ、とティスは笑った。

「ルイ殿下とそうやって
分かり合ってる姿は
妬けるけれど。

アキが私のところに
泣きつくのは嬉しいかな」

俺は慌ててティスから
身体を離す。

絶対に今、俺の顔は真っ赤だと思う。

なんか、絶対にティス。
今までとは違う、と思う。

今まではこんなこと言わなかった!

俺はそう思ったけれど
もちろん、そんなことを
言えるはずもなく。

またもくもくとプリンを食べるしかなかった。



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