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高等部に進級しました

211:恋はおだやかに

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 クマにキスされたティスは
驚いたようだけど、
すぐにクスクスと笑った。

「アキのクマは可愛いね」

「うん、相棒で心の友だから」

俺がそう言うと、
クマはソファーの上に立ち、
俺とティスの間で
ふんぞり返る。

そして何故かティスの手を
丸い手で持って、
俺の手と重ねて来た。

クマ、俺とティスの間を
取り持とうとしてるのか?

ティスは不思議そうに
俺と手を繋ぐけれど。

「……クマ。
知恵熱出るから、
そんなに急がないで」

「えっと、熱?
アキ、大丈夫?」

ぎゅっとティスが俺の手を握る。

「だ、だい、大丈夫」

ティスが俺の顔を見る。
心配そうな顔に心臓がバクバクしている。

クマが俺の手に。
ティスが握っている手とは
逆の手に柔らかい手を重ねた。

クマが頑張れって言ってくれてる気がして
俺は勇気を出す。

「ぼ、僕ね。
ティスのこと……その、
えっと、す、好き」

言ってやった!
俺、頑張った!

と俺は達成感満載で
ティスの顔を伺う。

だがティスは笑顔で、
うん、ありがとう、と言う。

え?
あれ?
伝わってない?

クマを横目で見ると
クマは、やれやれ、と
オーバーゼスチャーで首を振っている。

「ち、違うの。
いや、違うくないけど」

俺は慌てて言い募る。

「僕ね、ティスのことが好き」

「うん。私も」

ってティスは言うけど
違うよな?

これ、友情の好きだって
思われてるよな?

って俺は思って。

そして同じことを
ずっとティスにしてきたことに
気が付いた。

「アキ?」

物凄い罪悪感にさいなまれ
ティスの手を離して
俺はソファーから飛び下りる。

「ごめん、ティス」

俺はティスを見た。

「僕、ずっとティスのこと
傷付けてたんだ」

なんで気が付かなかったのか。
ずっとずっとティスは
俺のこと見ててくれたのに。

「でも、僕はティスが好き。
好きなんだ」

俺はティスを見ながら必死で言う。

「僕ね、カミサマのところで
いくつもある未来の映像の中に、
ティスが戦場に立つ姿を見たんだ。

絶対に嫌だって思った。

ティスが僕を守るために
誰かを傷つけるのも、
その為にティスが苦しむのも。

ティスが苦しい顔をするぐらいなら
僕が世界なんか変えてやるって。

戦争ぐらい回避してやるって
そう思ったんだ」

ティスの瞳がゆっくりと見開かれる。

「……それぐらい、
ティスのこと、好き。

世界を変えるぐらい。
……カミサマに排除しろと
言われた国を救うぐらい、
……好き」

俺はそう言ってから、
これはものすごく重たいセルフを
言ってしまったのではないかと
後悔する。

だって世界を変えるぐらい好きって
なんだそれ、だし。

というか物理的に
世界を変えてしまったんだぞ、俺。

カミサマの力を
ティスのためにフル活用して
大盤振る舞いで頑張った。

それは事実なんだけど、
そんなこと言われても困るよな。

もしかして俺の愛の重さに
ティス、ドン引きしたりして。

俺は不安になって、
おそるおそるティスを見る。

ティスは俺の視線を受け止め、
何度か瞬きをした。

それから何を言われたか
理解できないとでも言うように
軽く首を振る。

「待って、アキ。
それは、それはもしかして、
私と……ううん、僕の好きと
同じ意味の好きだってことでいい?」

もしかして、これ、夢?
なんて呟くティスの瞳が潤んでる。

俺が頷くと、
みるみるティスの頬が
赤く染まってきて、
きっと俺も同じぐらい
顔は真っ赤だと思うけれど。

「夢じゃなくて、
ほんとに、好き」って俺が言うと
ティスが笑顔になる。

「嬉しい」って呟いて
ティスが俺に手を伸ばすから
俺もその手を取ろうとしたけれど。

指先が触れた時、
ものすごく大きな声が聞こえた。

「殿下ーっ!
アキルティアが来たと言うのは
本当かっ」

父だ!
父、何故わかった!?

あ、従者か。
ティスの従者が俺のために
お茶を淹れていたから
そこでバレたのか。

ヤバイ。
こんな俺の顔を父に見られたら
どうなるかわからない。

「クマ!」

俺が咄嗟に呼ぶと
クマはわかってると
言わんばかりの俺の手を掴む。

「アキ」

「ごめん、ティス。
また来るね」

俺がクマを抱き上げると
すぐに足もとに光の筒が出た。

「殿下ーっ!」

父の声が近い。

クマ、早く!
と思った瞬間、俺はもう
自室のベットにいた。

ふー、やれやれ。

俺は思わず汗を拭う仕草をしてしまう。

「クマ、ありがと」

物凄いミッションを完了した気がする。
疲労感が半端ない。

でも、言えた。
きっと伝わったと思う。

俺はベットにころん、と転がった。

そしてクマを抱き上げ
黒く丸い目と視線を合わせる。

「いつも助けてくれるよね。
感謝してる」

最初はただの抱き枕だったのに。

「可愛いクマが、
こんなに凄いチートクマになるなんて」

俺が呟くように言うと
クマは短い手を伸ばして
俺の頬に触れた。

「ずっと一緒だからな、クマ」

俺はその柔らかい手に
頬を擦りつける。

「もしさ、もしだけど。
俺に子どもが出来たら、
その子と遊んでやってくれよ。
きっとさ、楽しいと思う」

自然にそんな言葉が出てきて、
俺は、そんな自分を笑ってしまう。

「子どもって。
俺が生むのか?
ティスの?」

そんな発想を自然にした自分に
驚いてしまったが、
でも、自分が子供を産むことに
違和感はあるけれど、
嫌悪感はない。

領地にいる母の話を
聞いていたかもしれない。

男性の身体だったのに、
父と恋に落ちたことで
徐々に女性へと変化して
俺を生んだ母。

その時の気持ちを聞いていなかったら
俺も物凄く戸惑ったとは思う。

でも、俺よりも先に
同じ経験をした母が
そばに居ることは物凄く心強い。

「なぁ、クマ」

俺はクマを胸の上に置く。

「カミサマの祝福は、
嘘じゃなかったな」

戦争のこともティスのことも。
それだけじゃない。
母のことも紫の魔力のことも。

俺が「幸運だ」と思える状況に
なっていっている。

俺の力だけではなく、
周囲の皆の力で。

俺の都合の良いように
周囲が動いてくれたのは
きっとカミサマの祝福の
おかげだと思う。

これがなければ、
こんなにうまくいくはずがない。

俺はベットの上で
カミサマに感謝を捧げた。

イシュメルではないけれど、
カミサマに心から「ありがとう」と
そう伝えたのだ。

すると、胸の上のクマが少し光って
少しだけクマが重たくなって。

俺、疲れてたからな。

眠くなってきた自分に
そんな言い訳をして。

俺はゆっくり目を閉じた。


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