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高等部に進級しました

206:本格始動

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 それからの展開は早かった。
デアーグの協力があり、
俺が初めてスクライド国に
行った日から一週間後には
ルイの父親、ブリジット国王を
退位に追い込めた。

ブリジット国王はルイの
兄によって母と一緒に
幽閉されているらしい。

とはいっても、
ルイの母は子どもに
興味がないだけでなく、
政治にも興味が無い、
贅沢をしたいだけの人だったようで
幽閉されることを理解した途端、
ルイの父と離婚すると言い出したらしい。

好き放題してきたらしいが、
罪は犯していないと言うことで
ルイの母親だけは
離縁して実家に戻されるかも
しれないと、そんなことを
俺はルイから聞いた。

ルイは家族に関しては
すでに諦めているのか
淡々とした口調で、
俺は少し心配したが、

「まぁ、俺には弟君がいるから
大丈夫だ。家族になるしな」

なんて本気か冗談か
わからないことを言うので
返事に困ってしまう。

もちろん、戦争は回避したし
あとは俺とキングナイト王国の
支援活動がメインになる。

そして、だ。
俺はとうとう、紫の魔力の
チート能力を発揮したのだ。

ぶっちゃけて言うと、
この魔力、何でもありだった。

この国の干からびた農地を
耕して新しい種をまこうと
言う話が出て、
ティスも含めて
俺たち全員でその土地の
視察に来た時だ。

俺は自分の魔力で
何かできるとは思っていたが、
どのように何をすればいいのかは
まだ明確になっていなかった。

だから何となく、
「ここを綺麗に耕せたら
何か植えれるのにな」
と呟いた、ただそれだけだ。

そしたら突然、クマから
ぐわーっと紫の光が出て、
畑を耕してしまったのだ。

しかもそれは、
何ヘクタールになるのか
わからないほどの広さの土地を
一気にやってしまった。

俺だけでなく、
そばにいた義兄もルイも
クリムもルシリアンも、
それからティスも。

デアーグも、ゲリーも、
作業をしにきてくれていた
スクライド国の軍人や
近所の住民も。

とにかくみんなが口を開けて
ぽかん、としてしまった。

やばくね?

だって俺が「やるぞ!」と
思った瞬間、クマが
ぐわーっと光って
できてしまうのだ。

さすがに種は生み出すことが
できなかったので、
キングナイト王国から
運んだ物にはなるのだが。

種をみんなで撒いて、
水をやって。

「はやく育って実が成ると良いな」
って俺が呟いたら、
また、クマがぐわーって
光って、種から芽が出て、
にょきにょき樹になって、
実が成ったりする。

「あ、俺知ってる。
チートってやつ」

とルイが間抜けな声で言う。

俺も一度はチートとか
そんなことできたらいいな、
なんて思ったが。

まさかここまで本当に
凄いことができるとは
思わなかった。

あまりの能力に、
俺もアニメで見たみたいに
チートで無双?とかできるかも。

そう呟いてしまったが、
義兄に「夢想? 夢に見たことを
そのまま再現してるのか?」
と義兄に聞かれてしまい、

俺は子どもみたいな発想をした自分に
少し恥ずかしくなった。

そんなことを繰り返していると
スクライド国にも
『創造神の愛し子』の噂は
どんどん広まっていき、
俺は国を挙げての有名人となった。

どこに行っても大歓迎だし、
なにせ、力の使い甲斐がある。

ただし、どこで何をするかは
ちゃんとキングナイト王国での
会議で決めているし、
その話合いには、デアーグや
ゲリーの意見も反映している。

俺が無双するのは1年だけ。

来年以降はスクライド国が
自力で生きて行けるように
自給自足の補助をするように
していく予定だ。

それからルイと一緒に
元王家の魔物を生み出す研究所にも
出向いてみたが、
そこは悲惨だった。

動物の死骸が放置されていて
とにかく息苦しい。

良くない魔素が充満していると
ルイは言っていたが、
俺は気持ち悪さに
「クマ―!」と叫んで
クマを両手で持ち上げてみたところ、
クマがビームを乱射してくれて
あっという間に部屋は正常になった。

よくわからんが、
俺がクマを振り回していたら
クマからビームが出て
物理的に壁や家具をぶっ壊していて、
ついでに空気も浄化したらしい。

ルイに「落ちついて力は使え」と
さすがに叱られたが、
俺は笑って誤魔化して終わりにした。

だってめちゃくちゃ
気持ち悪かったんだ。
無理を言うな。

俺たちも頑張っているが
大人たちはもっと頑張ってくれている。

陛下も父も、スクライド国と
友好条約を結び、
支援の取り決めなどを
デアーグたちの意見を
取り入れて、
調整しながらやっている。

デアーグたちと話し合いが
必要な時は、
俺が力を使って、
キングナイト王国から
父や宰相さん、騎士団長さんを
運んでいる。

あたりまえだが、
さすがに陛下は連れてこない。

ただ陛下がいなくても
どこにいても大魔王になる
父がいるので、
問題はないと思う。

なぜなら
父とデアーグの相性は
悪くはない。

お互い自分の強さに自信があり
好き勝手に自己主張をするあたり、
似た者同士なんだと思う、きっと。

あとこの国の元国王や貴族たちは
きちんと裁かれることになり、
それ相応の処分がされるという。

だがそれもまだまだ先だろう。
なにせこの国がきちんと
機能をするようになるまで
時間がかかる。

役人の数も少ないから
役所でさえ機能していないのだ。

そういったことや
子どもたちの育成なども
当面はキングナイト王国が
支援をするらしい。

そうそう、ブリジット国も
国王が代替わりをしたので
同じ様に支援を申し出てくれた。

これで隣り合う三国が
仲良くなれれば、
俺も嬉しい。

スクライド国とキングナイト王国の
国境は行き来できるように
見直されて、検問所もできた。

貿易ができるようになれば
関税なども決めて
きちんと対応するのだと
クリムが教えてくれた。

きっとクリムの父が
中心になって動いてくれているのだろう。

ルシリアンも父親と一緒に
スクライド国に来てくれて
軍部の改革に乗り出してくれている。

戦争をするための軍ではなく
民を守るための軍にするためだ。

今まで戦うことしか知らなかった
軍人たちに、騎士団長たちは
災害が起こった際の
住民たちの避難の仕方や
救助の仕方などを伝えたり、
治安維持にどうすれば良いのかなど

すでにキングナイト王国で
使用している教本を元に
教えようとしてくれているのだ。

デアーグも軍事国家であることが
一番良いとは考えておらず、
王族や貴族といった制度は
廃止しても構わないが、
軍が政治を仕切るのは
良くないと考えているらしく、
そう言ったことも含めて
俺の父とも相談しているらしい。

なかなか良い感じではないか?

当初は俺の力で
スクライド国とキングナイト王国を
限られた人と物資だけを
繋いできたが、

俺のぐわーという
チート能力のおかげで
あっという間に二国間を
繋ぐ整備された道が出来たので
俺の力で国同士を行き来するのは
今では俺と俺のそばにいる
人間たちだけだ。

俺の膨大な紫の魔力は
本来であれば俺の身体を
もっと虚弱体質にした筈だが
国家間を移動するために
俺は頻繁に魔力を使うので
今のところ俺が体調を
崩すような予兆は無い。

あと、あの映像が山ほど
並んでいた奇妙な空間にも
願えばいつでも
出入りできることにも
気が付いた。

あの場所での映像は
色々な場所の、
様々な未来の可能性が
映し出されている。

1つの事象に対して
さまざまな未来が
映し出されているし、
もちろん、時間順に並んで
いるわけでもない。

どの映像とどの映像が
繋がっているのかもわからないし

1つの映像に拘って
何か対策を練ったとしても
それが別の未来に繋がったのかは
実際にその時が来ないと
わからない。

ただそれでも俺は
時間が空けばあの空間で、
映像を見ながら気になったことを
メモして、未来予測をする。

予測をして、行動して
またその結果を持ってあの
空間の映像を見る。

何が最初でどのきっかけで
どんな未来になるのか。

誰もわからないし、
俺が思った通りに何も
進まないのかもしれないけれど。

それでも俺はあの映像に
頼りきるのではなく、
情報の1つとして考えて
ルイや義兄、ティスたちに
映像と俺が考えたことを披露する。

そこで皆でまた考えたことを
今度は父や陛下たちに伝えるのだ。

そうやって俺たちは約一か月、
ほぼスクライド国のために
身を粉にして働いた。

そしてようやく
まとまった休憩時間を
持てるようになってきたころ、
ルイが呟くように言った。

「……そろそろ、研究所で研究したい」

そうだな、疲れてきたよな。

ルイの言葉に俺たち一同、
深く頷いた。


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