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高等部に進級しました

196:恋のはなし

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 俺は風呂に入り
着替えを終えると、
クマを抱き上げた。

そしてクマをベットに座らせ
俺はすぐそばに、
デスクの椅子を置いて
そこに座る。

クマはすでに寝間着に
着替えさせられていて
俺の寝間着とお揃いだった。

サリーの仕業だろう。
俺が食事をしている間に
毎日こうしてサリーは
俺だけでなく、
クマの着替えや毛並みの
ブラッシングなど、
クマの世話もしてくれる。

……ただのぬいぐるみなのに、
いい侍女だと思う。

クマも絶対に満足待遇だよな。

「俺の話を聞いてくれよ、クマ」

俺は自分の感情を
整理したくて、
クマに話しかけた。

サリーもキールも
すでに下がってもらったし、
まだ義兄も戻ってきていない。

窓からゲストハウスを見たが
明かりがついていないので
ルイもまだ帰ってきてないのだろう。

何かあったのかもしれないし、
今後、俺が呼び出される
可能性が無いとは言えない。

だからその前に
色々と整理しておきたかった。

1人で頭の中で考えるよりも
話し相手がいた方が
考えはまとまりやすい。

まぁ、話し相手とはいっても
相手はクマなのだが。

俺はサリーの言葉を思い出した。

『大事なものが同じで、
志が同じ。

私は、望む未来を
手にしたとき、
幸せを感じるでしょう。

ですが、その隣に
キリアスがいてくれれば、
さらに、もっと幸せに思える』

サリーとキリアスは
俺とティスのように望む未来を
同じだという。

俺もティスも世界の繁栄を望んでいる。
そのために沢山のことを考えて、
一緒に行動してきた。

そして。
きっとたぶん。

その繁栄した世界で
俺はティスが隣にいてくれたら
嬉しいと思う。

「でもさ、クマ。
俺はその時、ルイや兄様が
そばにいてくれても嬉しいと思う」

それは恋とどう違うのだろう、
と、クマに問うが、
当たり前だが返事は返ってこない。

キリアスもサリーと
同じ様なことを言っていた。

『とても頑張っている姿を見て、
手助けしたいと思ったのです。

できればそばで支え、
共に未来を見たいと』

俺だってティスが
頑張ってることを知っている。

義兄に負けないように
必死で大人になろうと
頑張っていることも知っていた。

無理して大人のように
行動しなくても良いのに、と
思う反面、この国の王子だから
仕方が無いと思ったりもした。

そうやって頑張るティスだからこそ、
俺があまやかしてやらないと、
そう思ってたところもある。

ティスはいつだって
必死で頑張ってたと思う。

学業だって、
前世の記憶がある分、
俺の方が有利なのに、
それも負けじと頑張っていた。

最初のうちは俺が教えていたのに
今では俺が舌を巻くほど
様々な分野の知識を学んでいる。

それ以外の王子教育の出来も
素晴らしいと王宮の侍従さんたちが
噂していたのも聞いている。

それからルイが来てから
ティスは外交面でも頑張っていた。

ルイの国の王様は、
つまりルイの父親は
野心家で、できれば他国を
支配したいと考えているような
人間だったらしい。

だがルイの助けを借りて
ルイの国と不可侵条約を
結ぶ運びになったのは
ティスの功績だ。

まぁ、俺の愛し子としての
活動が成果を上げたとは
言ってくれたけれど。

国同士の問題なので
これから実際に動くのは
父や陛下たちだと思うが、
下準備はできたと言っていたから
もう大丈夫なんだと思う。

そう考えてみたら
今さらだけど、
ティスってすごいよな?

それに王子様だし。

俺が女子だったら迷わず惚れるよな。

と思って、ルイの言葉を
思い出した。

「……男とか女とか
関係なく堕ちるのが恋なんだって」

俺は呟き、クマを見る。

まん丸の瞳に俺の姿が映っている。

俺は相変わらずチビだ。

顔立ちは可愛いままだし、
紫の魔力が成長を妨げているとはいえ、
情けないぐらい、小さい。

食は随分と食べるようになったが、
味の濃いものと、脂っこいものが
苦手で、ついお菓子ばかり食べてしまう。

いくら食べても何故か
太らないのだから、
公爵家の侍女たちにやたらと
羨ましいと言われるのだが、
俺はもっと太って、というか
筋肉質のカッコイイ男前になりたい。

でも、無理だよな。

どう見ても俺の顔は
イケメンマッチョになりそうにない。

いや、顔は関係ないのか。

でも、この体もどう考えても
筋肉は無理そうだ。

だって重い物は持てないし。

「クマーっ」

俺は言いようのないモヤモヤが
沸き起こった。

それをどうにかしたくて、
椅子から立ち上がり、
クマをぎゅーっと抱きしめる。

すると、クマがいきなり
『苦しい』と言う様に俺の顔を
丸い手でぐいーっと押した。

「え?」

驚いた。

「こ、ここ、神殿じゃないぞ?
クマ?
カミサマ?」

状況がわからず、
俺はクマから手を離す。

クマはベットの上に立つと
両腕をぶんぶん、
ぐるぐると振り回した。

まるで怒ってるみたいに見える。

「クマ?
怒ってる?」

俺がおそるおそる聞くと
クマはぶんぶんと頭を縦に振る。

え?なんで?

「俺、クマに悪いことした?」

そう聞くとクマは首を横に振った。

じゃあ、なんで怒ってるんだ?

「えっと、クマはクマ?
カミサマ?」

俺がそう聞くと、
クマは首を傾げた。

うん。わからん。

「クマはどうしたの?
俺に伝えたいことがあるとか?

俺の愚痴なんぞ聞きたくない、
とか言われたら落ち込みそうだが。

クマは首を傾げたまま
俺に手を伸ばした。

俺はクマの柔らかい手を両手で掴む。

「え!?」

ぐらり、と視界が揺らぐ。

「そういうことかーっ」

と、思った瞬間、
俺はまた、クマに引きずられるように
ベットにしまった。


だがすぐに身体が浮遊する
感覚がして、とっさに閉じた目を開ける。

ここ、どこだ?

俺は周囲を見渡した。

何もない空間だった。

俺はクマをぎゅむっと
握っていたので、
一人ではなかったが、
それでも全く何もない場所に
戸惑ってしまう。

以前のような森でもなく
神殿でもない。

生き物も気配も無いし
壁も、床も、天井も、何もない。

ただ、何もない空間だけがある。

「誰かいませんか?
カミサマーっ?」

俺は声を出したが、
返事はない。

「クマ? ここはどこだ?」

俺はクマに聞くが
クマは俺の腕の中で何も言わない。

というか、クマ。
おまえ、ぬいぐるみに戻って無いか?

俺はクマを持ち上げて
ガシュガシュ上下に振ったが、
クマはただのクマのぬいぐるみだった。

「嘘だろーっ!」

そう叫んだ俺の声は、
響くことなく、
何もない空間に
吸い込まれるように消えてしまった。



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