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高等部に進級しました
194:恋の相談
しおりを挟む俺は着替えが終わると
キールには、もう大丈夫だと
下がってもらうことにした。
キールは心配そうにしながらも部屋を出て行く。
俺は扉が閉まるのを待ってから
ベットに寝転がっているクマを抱き上げた。
「クマーっ。
ヤバイ、よくわかんないけど
物凄く、ヤバイっ」
俺はぎゅーっとクマを抱きしめる。
俺の抱き枕のクマは
今ではすっかり俺の感情のはけ口だ。
クマはカミサマとの媒介にはなるが
俺の部屋では話さないし動かない。
でも俺はカミサマのところで
クマが動いているのを
見ているから、なんとなく
ただのぬいぐるみとして
見れなくなっていた。
「クマ、聞いてくれよ、
さっき、サリーとキリアスが……」
と俺がクマに言いかけた時、
部屋をノックする音がした。
そのサリーがお茶を持って来たのだろう。
俺が返事をすると
扉を開けてサリーが
ワゴンを押して入って来た。
ワゴンの上にはお茶の準備と
いろんなお菓子が乗っている。
今日はおやつを俺に
選ばしてくれるらしい。
サリーは俺がクマを
抱きしめていることに
気が付いたようだが、
何も言わずに小さなデスクの上に
紅茶を淹れて置いてくれた。
「アキルティア様、お茶菓子は
如何いたしましょうか」
俺はベットにクマを置き、
ワゴンを見る。
マフィンやクッキー、
バウンドケーキもある。
俺はランチを食べた後だから
ジャムが乗ったクッキーを
食べることにした。
あと、小さなシフォンケーキ。
クリームも乗せてね、というと
サリーが俺の要望通りに
お菓子を綺麗に皿に盛りつけてくれる。
「ねぇ、サリー」
俺はベットに座り直した。
「はい」
サリーは手を止め俺を見た。
「キリアスのこと、好きなの?」
カチャン、と皿とトングが当たって音がした。
「も、申し訳ございませんっ」
驚くほどの動揺ぶりだった。
俺は長年サリーに仕えて貰っているが
こんな姿は見たことが無い。
でも、そうか。
全然気が付かなかった。
サリーは義兄のことが
好きだとばかり思ってたから。
義兄は憧れで好きだけど
キリアスは恋愛的に
好きだとか。
そういうことなのか?
サリーは指を震わせて
俺に頭を下げている。
「サリー、大丈夫だから
顔上げて?」
俺がそう言うと
サリーは頬を赤くした顔で
頭を上げた。
「ねぇ、サリー。
聞いてもいい?」
俺が言うと、
サリーは視線を揺らしたが
「なんなりと」と返事をする。
「キリアスのこと
好きって気が付いたのは
どうやって?」
俺の質問に、サリーは
目を見開いた。
そんなこと聞かれるとは
思ってもみなかったのだろう。
あからさまに狼狽えた表情で
視線を揺らす。
でも俺がじっとサリーを
見つめていると、
観念したかのように
口を開いた。
「……最初は、
アキルティア様のことを
お伝えすることで
親しく話すようになったのです」
うん?
俺のこと?
どう言う意味かと思うと、
サリーは言葉を付け足した。
俺がタウンハウスに来た頃、
俺の食事の趣向から
服や食器など使う物、
領地で俺がどうやって
生活していたのかまで、
サリーは事細かに
キリアスに報告していたらしい。
それに合わせて
キリアスがタウンハウスの
使用人たちに指示を出して
くれていたのだろう。
どうりでタウンハウスでも
領地と変わらず居心地が良いわけだ。
……なんていまさらだが。
「その、話すうちに
キリアスと私が目指している
未来が同じだと気が付いたのです」
「未来が同じ?」
「はい。
大事なものが同じで、
志が同じ。
そのことに気が付いてからは
互いに、未来について
話をするようになりました。
私が望む未来と
キリアスが望む未来が
同じだとわかったとき、
私は……嬉しく感じたのです。
きっと私は、望む未来を
手にしたとき、
幸せを感じるでしょう。
ですが、その隣に、
同じものを望んでいた
キリアスがいてくれれば、
さらに、もっと幸せに思えると
そう気が付いたのです」
サリーが望む未来が
どんなものか俺はわからない。
でも頬を真っ赤にして
俺に話してくれたサリーは
いつもの固い専属侍女ではなく
恋する乙女だった。
年上のサリーは、
身分のことがあったので
姉のように慕って、
とは言わないが、
それでもずっと俺のそばに
居てくれた大切な存在だ。
「サリー」
「はい」
「こっちきて」
俺がベットに座ったまま言うと
サリーは戸惑うまま俺の前に立った。
俺とサリーの身長差は
じつはあまりない。
というか、若干、俺の方が低い。
だから俺はサリーが俺の前に来ると
その手を取って、ベットに座らせた。
代わりに俺が立ち上がる。
焦るサリーの頭を
俺は、なでなでした。
「サリー、僕ね、
サリーのことが大好きだから
サリーが幸せで嬉しい」
キリアスのことを
頬を染めて話すサリーは
俺が見たこともないぐらい
恥ずかしそうで、でも
幸せそうだった。
「もしサリーがね、
キリアスと結婚するなら、
僕が見届け人になるからね。
キリアスに、サリーのこと
幸せにしてって、
ちゃんとお願いするから」
サリーは年齢から言っても
すぐに結婚しても
おかしくはないと思う。
キリアスだって
義兄より年上だし。
「でも結婚しても
僕のそばにいてね。
僕の乳母になってくれるんでしょ?」
昔サリーが言ってくれたことだが
俺は覚えていた。
俺が子どもを生むなど
考えれないし、
可愛い女の子と結婚することも
想像すらできない。
でも、俺はサリーが
そう言ってくれたことが
物凄く嬉しかったのだ。
サリーは目に涙を浮かべて
「はい」と、でも力強く返事をしてくれた。
「私は生涯、
アキルティア様にお仕え致します」
「うん。
結婚することが決まったら
まずは僕に言ってね。
父様よりも先にだよ?」
本来は逆かもしれないが、
父にいきなり話したら
余計なことになりそうな気がする。
父は俺に関しては
ナナメ上の方向に暴走するからな。
俺の専属侍女のサリーの結婚となると
どんな口出しをしてくるかわからない。
俺が先に状況を把握して
父を牽制しなければ。
使命感に燃える俺に
サリーは頭を下げて礼を言う。
そしてそっと立ち上がった。
「アキルティア様」
「なに?」
「……私だから良いのですが、
他人をご自身のベットに
座らせるなど、
何が起こるかわかりかねません」
サリーは立ち上がるなり
俺を厳しく見た。
俺はその瞳にタジタジになる。
「何かあっては遅いのです。
アキルティア様はご自身の
魅力をしっかりと自覚され、
よからぬ者に隙を与えないように
お気を付けください」
「う、うん?
わかった。ありがとう」
俺の魅力?
よからぬ者?
一瞬、首を傾げたが
俺もさすがに女性をベットに
座らせるのは良くなかったかと
素直にあやまる。
「ごめんね、サリー」
仕えるべき主の俺が
サリーをベットに座らせたのだ。
サリーがどう思おうと
拒否はできないだろう。
え?
俺もしかして、
ものすごいセクハラしたことになってる?
俺は焦ったが、
そのあとすぐに俺に向けた
サリーの笑顔に、
俺は心を奪われた。
それは俺の母に似た、
愛される幸せを知る者の笑顔だった。
「アキルティア様のお気持ち、
大変嬉しく、身に余る思いです」
サリーの優しい笑顔は、
筆頭侍女としての顔ではなく、
優しい、親しい者に向けるような笑顔だった。
「身を固める決心ができたら
必ずアキルティア様にご報告いたしますね」
「うん。待ってる。
結婚式の準備は僕も手伝うからね」
そういうとサリーは笑顔のまま
頭を下げ、ワゴンを押して部屋を出て行った。
いつのまにか机の上には
俺のお茶とクリームたっぷりの
シフォンケーキとクッキーが乗っている。
さすがだ。
しかし。
「結婚か」
俺はサリーとキリアスのことを
嬉しく思いながら
先ほどの言葉を思い出す。
「大事なものが同じで
志が同じ」
それは友情とは違うんだ。
俺はその言葉を何度も
頭の中で繰り返し。
気が付くと夜になっていた。
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