完結・転生したら前世の弟が義兄になり恋愛フラグをバキバキに折っています

たたら

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高等部に進級しました

192:特別の好き

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 腰が抜けた俺が
ソファーに座っていると
再び扉をノックする音がした。

キールが扉を開けると、
ルイとクリム、ルシリアンが
顔をのぞかせた。

「アキ様!
いかがされました?」

俺を見て、
ルシリアンが慌てて
部屋に入ってくる。

「えっと、その。
腰が抜けて……」

恥ずかしくてゴニョニョと
俺は言ってしまう。

「もしや、殿下に何か……!」

とクリムが声に出して、
慌てて口を紡ぐ。

うん。
滅多なことは言わない方が良いと思う。

「それで?
なんでそんなことになってんだ?」

ルイが呆れたように言い、
俺のそばに来た。

キールはルイが来ると
すっと場所を譲って
ドアのそばに立つ。

だが今度は部屋の中だ。

「なんか、驚いて……?」

どう言えばいいかわからず、
俺は曖昧に言う。

「それより、なんでみんな、
ここに来てくれたの?」

俺が聞くと、
クリムとルシリアンが
顔を見合わせた。

「じつは、ティス殿下と
お二人で食事と聞いて、
その、心配してしまって」

クリムがおずおずと言う。

その言葉を引き継ぐように
ルシリアンが俺を見た。

「この場所には
王族でないと来ることが
できませんし。

そこで食堂で偶然出会った
ルイ殿下にお願いをして
ここまで連れて来ていただいたのです」

なるほど。

ルイは国賓だし王族だから
別枠でこのフロアを
使えるってことか。

というか、
ティスと二人でランチを
食べるだけなのに、
心配って。

どんだけ二人は心配性なんだ?

いや、何に心配したのかは
聞かないでおこう。

俺の挙動不審な様子に
俺がティスと何かあったことは
すぐにわかっただろうし。

それにしてもルイだ。
きっと俺とティスの様子を
おもしろがって見に来たんだろうな。

まぁ、正直助かったけれど。

ヤバかった。
ティスのあんな甘い声も
瞳も、俺は知らない。

思い出しただけで
頭が沸騰しそうになる。

「……やはり来てよかったです」

俺の様子を見ながら
ルシリアンがそうつぶやき、
隣に立っているクリムも頷いた。

俺はいたたまれなくなったが
すぐに動けるわけでもなく、
キールに頼んで皆に
お茶を淹れて貰った。

3人はすでに食事は
終わっていたらしく
俺の体調が戻るまでお茶に付き合ってくれた。

全員、俺に何があったかは
聞こうとはしなかったが、
きっと一目瞭然だったのだろう。

クリムには
「何か困ったことが起きた時は
すぐに大声を挙げて下さい」
と真剣な目で言われ、

ルシリアンからは
「アキ様、嫌な時は
きちんと嫌だと伝えることが
大切ですよ」と言われ、

ルイからは
「いつまでも相手は
子どもじゃないんだぞ」と言われた。

つまり俺は子どもだ、と
暗に言われたのだろう。

否定はできそうにない。

ようやく俺が動けるようになり
教室に戻ることになったが
ソファーから立ち上がった俺に
ルイが小さな声で言った。

「アキラはさ、
ややこしいこと考えなくても
いいから、好きなようにしろよ」

なんだ、いきなり。

俺はルイを見た。

「この世界にはな、
『アキルティア様のお望みのままに』
って呪文があるぐらいだ。

何をやっても大丈夫だろ」

「なんだよ、その呪文」

俺は笑った。

だがその呪文は何度も
聞いたことがあった。

公爵家の使用人たちが
良く使う言葉だからだ。

「でも、そう言うことなんだろ?
それがアキラが貰った
『祝福』なんだろ?」

その言葉に俺は
数年前に聞いた
カミサマの話を思い出した。

そうだ。

何があっても、
物事が俺に対して
良い方向に流れていく運の良さが
俺に与えられた『祝福』だとか言ってたっけ?

だから俺は今まで
好き勝手に自由に行動できたのだろうか。

確かにありがたいけれど
それは恋愛にも
有効なのだろうか。

疑問はあるが、
今まで俺がしてきたことで
不平や不満がでたことがないから
『祝福』はきっと、かなり
強力なものに違いない。

「アキラが望めば、
王妃がどうとか、
仕事がどうとか。

そう言うのは
それなりになんとか
なると思うぜ」

物凄く軽い調子で言われ、
そんな簡単に行くわけないと
咄嗟に反論しそうになる。

たが俺はルイの
いつもの調子良さに
「そんなもんか」と思ってしまった。

前世で他社と揉めた案件でも
ルイが「なんとかなるだろ」と
軽く言った時は、
たいていなんとかなった。

それはルイが未来を読めたとか
そういうことではなく、
「なんとかなる」と楽観したことで
緊張から抜け出して
その件に関して柔軟に
考えることができるようになったからだ。

今も同じだと俺は思った。

俺はティスと結婚するとか
王妃になるとか、
そんなことにばかりこだわっていた気がする。

まだ俺もティスも
成人を迎えていないし、
もっと視野を広く持って
もう一度、ティスとのことを
考えてみても良いのかもしれない。

それに今の俺の人生は
今ままでなんとかなってきたしな。

愛し子の活動も、
民衆の意識改革に関してもそうだ。

それからルイの国の
王家とも対立せずにルイを
この国に留めることができた。

無理だと思うことも、
俺だけじゃなくて、
みんなの力でなんとか
やってこれたのだ。

なら、これからもなんとか
なるのではないか?

俺はルイに背中を押される。

「ほら、とにかく
次の授業が始まるから
教室に戻ろうぜ」

「う、うん」

俺は背中を押されて
クリムやルシリアンたちと
一緒に部屋を出る。

キールが部屋の鍵を閉めて
フロアの階段傍にいた王家の警備騎士に鍵を渡した。

俺はゆっくりと階段を下りつつ
ティスのことを考えた。

いつのまにか、
ずっと可愛いと思っていた
ティスはいなくなっていた。

俺よりも年上だが
弟のようだと思っていたのに。

「なあ、アキラ」

階段を下りていると
ルイが再び俺の隣に来た。

そういえばルイも
急に背が伸びたと思う。

俺はルイを見上げたが
ルイは俺を見ることなく
前を向いたまま声を出した。

「もしさ、アキラが
ティス殿下を選ぶなら
アキラの懸念、
俺が全部払ってやるよ」

何を言ってるんだ?
って思った。

「アキラが特別に
好きなのは誰か、
ちゃんと考えてみろよ」

ルイはそれだけ言って
足を早める。

ルイは先頭を歩いていたクリムに
何やら耳打ちをして
早足で先に行ってしまう。

俺は足を動かしながら
ルイの言葉を頭の中で
繰り返す。

俺が誰が好きかを考える。

ルイが好き。
兄が好き。
ティスが好き。

全部一緒の『好き』では
もういられないんだ。

俺はそのことに気が付き、
思わず立ち止まったが。

すぐに後ろから来た
ルシリアンに背中を支えられ
また歩き出す。

「アキ様、大丈夫ですか?」

ルシリアンに聞かれて
俺は曖昧に笑って頷く。

「うん、ごめんね。
心配かけて。大丈夫」

心の中は全然大丈夫ではなかったが。

俺はなんとかそれだけ言うと
クリムとルシリアンに
心配を掛けないようにと
必死で足を動かした。








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