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高等部に進級しました
187:堕ちる?【義兄ジェルロイドSIDE】
しおりを挟む俺はルイ殿下の提案に
頷きそうになった。
だが、よく考えろと
俺の理性が警告してくる。
俺はにんまり笑うルイ殿下を見て
だめだ、と咄嗟に思った。
俺はルイ殿下の
兄貴に対する執着度合いを知っている。
ルイ殿下と結婚なんかしたら
アキルティアは常に
ルイ殿下の危険な視線に
晒され続けることになる。
それはダメだ。
俺がそう結論付けて
ルイ殿下を見ると、
「へぇ」とルイ殿下は笑った。
先ほどまでの
人を揶揄うような笑い方ではなく
本当に、面白いというように。
「俺、ずっと営業やっててさ。
自信もって提案した内容で
NG出されたこと、ないんだよね」
なに言ってんだ?
突然。
「俺、弟君に対して
なかり自信があったんだけど。
さっきの話、何がダメだった?」
俺は言葉に迷う。
確かに魅力的な内容だった。
だが提案したあんたが無理なんだ、
なんて言えるはずがない。
俺は言葉を選びつつ、
口を開く。
「物凄く、魅力的な話だった。
けど、その……
結婚は、違うと言うか……」
どう言えばいいのだろう。
俺が言葉を濁すと、
ルイ殿下はどう受け取ったのか、
わかった、と頷いた。
「そうだよな。
弟君はアキラの弟だったし、
今の生活を見ても
恋愛の「れ」の字も見えないし。
結婚に夢見るタイプか?」
……違う。
何故、そんな乙女思考だと
思われなければならないんだ。
だがここで否定したら
じゃあ結婚しよう、と
言われるかもしれない。
だから俺は無言で通すことにした。
「大丈夫だって」
ルイ殿下はそう言って
俺の髪をくしゃ、と撫でた。
アキルティアと母以外、
誰も撫でようとしなかった俺の髪に。
前世でも俺にこうして
接するのは兄貴だけだった。
親しい者にしかしない仕草を
自然な動作でされて
俺は内心、驚いた。
「俺はさ、
アキラのことは『特別』だけど。
弟君のことは
それとは別に『特別』と
思ってるんだぜ」
は?
何を言いだすんだ、この人。
「アキラがいつも楽しそうに
俺に話す反抗期の弟ってのは
どんなやつだろうって、
いつも思ってた。
アキラが死んだときも、
俺の人生はアキラ以外は
すべてどうでもいいと思ってたけど
弟君だけは別だった。
俺がアキラが死んだショックから
抜け出して一番最初に
考えたことは弟君のことだったんだよ」
すでに引っ越ししていたから
会えなかったけれど。
そんなことを言われて、
俺は驚いた。
その話は一度、聞いたことがある。
だがその時はそんなに凄いことだとは
思わなかった。
ただ単に、
世間話みたいな感覚で聞いていた。
けれど。
ルイ殿下は俺のことも
『特別』だと思っていてくれたらしい。
「この世界に生まれてからも、
頑張って『兄』をしている
弟君は可愛いと思ってるし、
アキルティアのために
必死なのも、見てたからわかる」
その言葉に、俺は心が揺れた。
アキルティア以外に、
俺を見ていてくれた人間がいるのだと
純粋に嬉しかったのだ。
「俺はさ、
前世でいろんな女性と付き合ったけど、
家族になれそうな女性は
一人もいなかった。
でも、弟君となら、
家族になれると思う。
俺も弟君も、一番大事なのは
アキルティア。
それは変わらない。
でもその変わらないと言うのは
信頼にならないか?
互いに何があっても
アキルティアを守ると言う信頼に。
そしてこの想いを共有できるからこそ
俺たちは一緒にいれるし、
家族にもなれると思う」
俺と重なるルイ殿下の手に
力がこもる。
「俺は他人なんてどうでもいい。
前世の親も、この世界の親も。
でも、弟君と、
アキルティアだけは別だ。
この世界で俺の大事な人間は
二人だけ。
だからさ。
俺のそばにいて。
俺が寂しくて壊れないように」
俺はもう目を見開いて
ただルイ殿下を見ることしかできない。
物凄い愛の言葉を聞いた気がする。
「こう見えても俺は優良物件だぞ。
隣国の王子だし、
個人資産だってかなりある。
魔法は少なくとも
俺の国では一番強い魔法を使えて
魔力だって通常の人間とは段違いに多い。
アキルティアのことは大事だし、
この国と公爵家の利益を
最優先にすることも誓える。
そして。
家族は絶対に大事にする。
俺は家族に恵まれなかったから、
俺に家族ができたら
優しくして甘やかして。
沢山愛するって思っていた。
そして誰もが経験できるはずの
普通の何気ない日常を
一緒に過ごしたい。
俺のこの夢を叶えることが
できるのは、
弟君だけだ」
「な……に、言ってるんです?
俺はあなたにとって
弟君で、兄貴の弟でしかないでしょう?」
俺はなんとかそれだけ言った。
なにせルイ殿下は俺のことを
名前で呼んだことが無いのだ。
あくまでも俺を、
前世兄の弟扱いしかしていない。
そんな俺と結婚なんて……
「そんなこと気にしてたのか。
可愛いなぁ、弟君は」
ルイ殿下は重ねていた俺の手を
ぎゅっと握って
俺を引き寄せた。
「俺が弟君の名前を呼んだら、
もう絶対に逃げられないよ」
耳元でささやかれて、
腰が抜けるかと思った。
俺の方が7歳も年上なのに、とか
そんなことは一切思わなかった。
ものすごい色気で、
恋愛などしたこともない
俺には太刀打ちできない程の
甘くて強引な言動だった。
動けない俺を見て
ルイ殿下は俺の唇の端に
口元を寄せる。
「逃げないと、キスしちゃうよ」
無理。
身体が固まって動けない。
そっと、ルイ殿下の唇が
俺の口の端に触れた。
「腰ぬけた?
やっぱり可愛いなぁ。
それにこれぐらいで
固まってたら、
社交界の淑女たちに
襲われたらひとたまりもないぞ」
ルイ殿下はクスクス笑うが
俺は何も言えない。
それに社交界で俺に
こんなに強引に迫ってくる人間はいない。
口では色々言われるが、
義父を恐れて誰も強引には来れないのだ。
「俺、アキラだったら
いつでも抱けると思ってたけど、
弟君も抱けると思うんだよな。
こんなに顔を真っ赤にして
可愛い、可愛い」
頭を撫でられたが、
キャパオーバーで指一本も動かせない。
「俺が本気になる前に
返事をくれたら嬉しいなぁ。
そうじゃないと俺、
弟君のこと名前で呼んで、
本気で落としに行くよ?」
その笑みに、
俺は、あぁ、と思った。
逃げられない、きっと。
でもそれが、
実は嫌では無いことも
俺は気が付いてしまった。
だって俺はこうして誰かに
『特別』扱いされたくて。
……兄貴以外の人に
愛されたいと思っていたから。
兄貴の人生を潰した俺が
愛される人生を送るなど
無理だと心のどこかで思っていたが
その俺の前世をすべて
知ってもなお、俺を『特別』と
言うルイ殿下を。
俺は嬉しいと思ってしまったのだ。
だめだ。
逃げれる気もしないし、
逃げたくないと言う自分もいる。
まさかこんな感情を持つ日が来るなんて。
「返事は焦らないけど、
諦めるのは早い方が良いと思うよ」
なんてルイ殿下は俺の様子を見ながら言う。
俺の心の中まで見透かしているように、
頭を撫でていた手を
俺の頬まで移動させて。
「だって弟君、
俺のこと、それなりに好きでしょ?」
今度こそ、自然に唇が重なって。
「あーぁ、
とうとうキスしちゃった。
この世界ではこれで責任取って結婚とか
言えちゃうんだっけ?
キスだけじゃ無理だっけ」
なんて軽く言われて。
でも俺は、前世も含めて
初めてのキスにまともに受け答えできるはずもなく。
「大丈夫。
ちゃーんと責任取ってあげるからね」
と笑うルイ殿下に
頷くことも首を左右に振ることもできなかった。
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