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高等部に進級しました

186:困惑【義兄ジェルロイドSIDE】

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  俺は突然のことに
言葉が出なかった。

ルイ殿下の提案は、
自分のことでないのであれば
物凄く魅力的に思えた。

ルイ殿下の言うことは
正しかった。

アキルティア……いや、
前世兄は、誰かに命令して
人を動かすことなど
したことが無いと思う。

会社での兄の様子は
見たことが無いので
何とも言えないが、
前世兄は、誰かに命じて
何かをさせるぐらいなら
自分で動くタイプの人間だった。

だからティス殿下のことが
本気で好きなのに
王妃になることが負担で
結婚を諦めるというのであれば
俺がその負担を減らしてやりたいとも思う。

俺ができることは
何でもしてやりたい。

それは俺の本心だ。

だが。
そのの中に
ルイ殿下との結婚も
入れて良いのだろううか。

それとこれとは
別の次元の話ではないか?

アキルティアの幸せと
俺の結婚を同列で考えても
良いのだろうか。

突然の提案で、
脳が上手くまわらない。

「弟君はさ、
誰か好きな人がいるわけ?」

ルイ殿下が俺に答えやすい質問をした。

「いません」

「結婚する気はあるの?」

「ありません」

この世界で俺は恋愛も結婚も
するつもりはなかった。

俺は生まれ変わった時に、
兄貴のために生きると決めたし、
そのために生まれて来たと思っているから。

あまり前世の兄貴に
守ってもらっていたなどと言うと、
アキルティアが嫌そうな顔をするから
そういった話はもうあまり
しないようにしている。

恩返しとか、感謝とか、
そういのは兄貴的に嫌なのだと思う。

だから俺は意図的に
兄貴をアキルティアとして。

可愛い義弟として接するように
心がけるようになったし、
俺がアキルティアを守るのは
前世とは関係なく、
義弟が可愛いから、と
言うようにしている。

俺の言葉にすっかり騙された兄貴は
俺と義兄弟の関係を
楽しんでいると思う。

だが兄貴が望んでいるような
『前世にはこだわらず、
自分の幸せだけ考えて生きる』ことは
俺には難しい。

俺の幸せはすべて
兄貴の幸せにつながっているから。

公爵家を継ぐのも、
後継者を作るつもりがないのも、
結婚する気がないことも。

すべては兄貴の……
アキルティアの為だ。

そして俺はその行動に
満足しているし、
アキルティアが自由に、
好きなことをして生きる手助けを
することは俺の、贖罪ではなく
望みなのだ。

アキルティアは前世の兄貴だが
俺の可愛い義弟だ。

その言葉も本心だ。

可愛い弟を守りたいし、
弟があちこちでやらかす尻拭いさえ、
俺は楽しんでいる。

俺はアキルティアが
自由に楽しく生きる人生を
手助けすることが
嬉しくて仕方が無いんだ。

「でもさ、
公爵家の次期当主が
結婚しないってのは醜聞に繋がるよ?

可愛い弟の為に、というのは
美談だけれど。

貴族ってのはそう言うのを聞くと、
養子だから虐められてるとか、
遠慮して可哀そうに、とか。

ひいてはアキルティアが
義兄を結婚させないように
してるんじゃないか、
なんて言葉もでるかもしれない」

「……なっ!」

そこまでは考えていなかった。

まさかあのアキルティアを
蔑む言葉を生む可能性があるなんて。

俺は動揺して、
手を伸ばしていたグラスに
爪が当たった。

そんな俺の手を
ルイ殿下がにんまりと笑って触れる。

手を重ねて、
ルイ殿下は腰をあげて
俺の顔を覗き込んだ。

「俺と結婚したらさ、
そういうの、全部なくなるよ?

アキルティアがティス殿下と
結婚しても、俺と弟君が
公爵家にいるんだ。

バカな真似をする者はいなくなるし、
後ろ盾としては十分だ。

隣国の王家もバックに付くんだからな。

それにアキルティアも何かあった時
公爵家に戻りやすいだろう?」

何かあったとき、など
考えたくはないが、
確かにそうだ。

結婚後、貴族社会では
実家に戻ることを醜聞として
嫌がる風潮がある。

だが俺とルイ殿下がいるのなら
そう言った懸念も払しょくされるだろう。

「それに俺も
アキルティアのことが
大事なのはわかってるだろ?

弟君がさ、
もし下手に何も知らない人物と
結婚して、本家の人間より
アキルティアが優先されることに
文句を言われたら嫌だろ?」

俺なら、何を置いても
アキルティアが最優先だ。

その言葉に俺の心は
物凄くぐらついた。

正直俺は、結婚するつもりはない。
少なくともアキルティアが
成人して結婚するまでは。

だが周囲は俺の結婚について
口出しをする者もちらほらいる。

さすがに表立っては
義父の顔もあって言われないが、
俺に結婚ができないほどの
何か理由があるのではないか、と
噂されていることも知っている。

自分の噂など
関係ないと放置していたが、
放置しすぎるのも
良くないのかもしれない。

それこそ義弟が俺に
結婚するなと命じている、
なんて噂にもなりかねない。

だがアキルティアと俺は
7歳も年が離れている。

アキルティアの成人を
待っていては
俺の結婚は遅くなる。

俺は何とも思わないが、
そのことがアキルティアを
攻撃する噂になるのは不本意だ。

「俺と結婚したら、
何も変わらない。

今まで通り、
アキルティアのために生きて、
ちょっと息抜きの時に俺と遊んで。

アキルティアの負担を減らしてやって
空いた時間はまたこのゲストハウスで
3人で夜通しカードゲームで遊んでもいい。

成人したら酒も飲めるだろうから、


ただ酒飲んで、笑って。
意味のない話をして。
何でもない時間を過ごす。

魅力的だと思わない?」

俺は兄貴と酒を飲むなんてしたことない。

何気ない時間も、
一緒に過ごすことができなかった。

いつも俺のために働いていた兄貴。
その負担を、今なら。
今の俺なら変わってやれる?

兄貴の負担が減ったら、
俺と一緒に、ただ笑って、
意味のない話をして、
なんでもない日常を
俺と過ごしてくれる……?

俺の心は驚くほど
ルイ殿下の提案に傾いていた。





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