216 / 308
高等部に進級しました
171:仲間が増えました
しおりを挟むとうとう俺は16歳になった。
高等部に進級したのだ。
ティスは17歳。
この国では18歳で成人だから
ティスはあと1年で学園を卒業して
成人を迎える。
早いものだ。
俺が神殿に出入りするようになり、
もう3年が過ぎた。
あれから王家と神殿の関係は
俺たちが間を取り持つようになり、
以前よりもかなり良好になっている。
俺はローガンさんと相談をして
創造神の愛し子を名乗ることになった。
そしてその名を広めつつ、
『創造神からのお言葉』として
食物連鎖や環境破壊などの
考え方を地道に布教した。
そんな考え方をする人間は
この世界にはいなかったので
最初は驚かれたけれど、
言っている内容は本当のことなので
誰も疑わなかった。
少しづつだけれど
この考え方は受け入れられているとは思う。
貴族の間では
年中行われていた狩りも、
動物の繁殖期には
行わないようになったし、
食べ物だって「命をいただく」という
考え方も生まれた。
創造神に感謝をして
食事をするのと同時に、
与えてくれた命に感謝して
食べるという考え方だ。
この考え方は前世日本人の
俺にはなじんだ思考だが
人間が動植物の中で
一番偉いと思っているこの世界の
人々には考え難いものだったらしい。
最初の頃は反発する貴族も多かった。
父がいるから俺に面と向かって
反抗する人間はいなかったが
俺はそういう人がいると言う
情報を受け取ると、
積極的に出かけて話をした。
俺が人前に出ることを
父は嫌がったが、
逆に俺はこの稀有な紫の瞳を
利用することにしたのだ。
『神のご意思です』と言えば
たいていの人間は黙る。
そして前世でスマホ専用の
プログラムを作ったのに、
パソコンで動かないとか言う
わけのわからないクレームを
持って来たおじさんを
相手にしたときのように。
じっくり、ていねいに、
相手が理解するまで
時間をかけて説明してやった。
え?
別にストレス解消じゃないぞ。
そんな俺に付き合うキールも
義兄も苦笑していたが、
俺、自分の考えを話すのが好きだからな。
相手が感情的になればなるほど
理屈で納得させてやる!って
燃える人間なんだ。
それ以外では
神殿が集めた情報を元に
王家を通じて支援をする仕組みを
ティスや義兄、ルイと一緒に作った。
最初は細々と活動していたぐらいだが、
今ではこの国で起こったことは
たいていのことは王宮で把握できるし、
それに対しての対処法も
神殿と一緒に考えて行えるようになった。
あと大きく変わったことと言えば、
俺たちが集まっていた部署が
父の管轄である『相談課』に
吸収されたということだろうか。
理由は神殿が持ってくる情報には
国の騎士団を動かす必要が
ある場合もあるので
俺たちだけでは対処するのに
無理があること。
またルイが魔法や魔石の研究を
本格的にしたいと
言ったことが挙げられる。
そんなわけで学園の
おじいちゃん先生を顧問とした
『魔法研究所』が王宮内に
設立されて、
ルイはそこ入り浸っている。
とはいえきちんと学園には通っているし、
ルイは留学生の扱いではあるが、
この研究所の成果を踏まえ、
国賓扱いになった。
それに、
創造神の愛し子に請われ、
世界の発展に協力する、
という理由で、帰国せずに
ずっと俺のそばにいることに
ルイの国の王家からも
認められた。
ルイの国も創造神を信仰してるし
世界の崩壊を止めると言われれば
拒否はできないだろう。
ルイいわく「厄介払いだ」だそうだが、
本人は物凄く嬉しそうだった。
どうやら両親にも
「戻ってこなくていい」とまで
言われたらしい。
俺は憤慨したが、
ルイは気にしてないと言う。
ただ、一番上の兄だけは
ルイに手紙で
「何かあれば頼って欲しい。
自分が国王になったら
必ず、この国を良い国に
導いていくから協力して欲しい」
と言うようなことを
伝えたらしい。
それを教えてくれたルイは
ちょっと嬉しそうだった。
そんなルイは今、魔法に夢中だ。
もちろん、
公爵家のゲストハウスで
生活しているので
毎日顔は合わせている。
それからルイが抜けた分、
クリムとルシリアンを引き込むことにした。
二人はこのままいくと
ティスの側近になるし、
今のうちから経験を積むのも
良いだろうと陛下が判断したのだ。
仕事としては、
クリムは騎士を
目指しているので
俺たちの事務作業を
手伝ってはいるけれど、
騎士見習のような立ち位置だ。
実際に護衛としての動きを学べると
クリムは嬉しそうに言う。
いずれティスを護るのだから
そう言った経験は大事だと
思ったがクリムは違ったようだ。
「アキ様のことは
これからもずっと
僕がお守りしますね」なんていう。
俺ではなく、
ティスを守るのでは?
と思ったが、どうやらティスが
それを望んでいるそうだ。
首を傾げる俺にクリムは
「見知らぬ護衛をアキ様のそばに
付けるのは嫌らしいですよ」笑った。
俺が理詰めで攻撃している姿を
見続けて、新人イジメでもすると
思われたのだろうか。
本当にそうだったら
地味にへこみそうだ。
俺とルシリアンは
神殿から来る情報を
整理したり、
必要なことをピックアップしたり。
また必要な対策案を考えて
提案したり、それに関して
神殿と王宮との調整をしたりと
それなりに忙しい。
ルシリアンは優秀で、
細かいことに良く気が付くし、
俺が何かを考えだして
声に出したことや、メモを
したことをいつのまにか
丁寧に清書して書き残してくれている。
これは本当にありがたい。
こうやって考え、
提案書としてまとめたものを
審議し、実際に動いたり、
指示を出すのは父の役目だ。
義兄とティスは元々の
王子としての仕事もあるので
俺が要請したときと、
時間が空いたときにだけ
仕事を手伝ってくれている。
また魔法研究所に関しては
俺も紫の瞳の魔力のことが
あるので、時折、
ルイのところに行って
研究にたずさわったりもした。
魔力や魔石に関しては
前世とは全く関係ない仕組みで
俺もルイのことを言えない程
魅力的に感じていて
愛し子の役目が終わったら
卒業後はこの研究所で
研究員になりたいと思うぐらいには
楽しい時間を過ごしている。
父は俺が学園が終わると
すぐに父のそばで仕事をするので
大喜びだったし、
父がそばにいる間は
護衛は必要ないので
キールはその間、
支障が無い時はクリムを連れて
騎士たちの訓練に
参加している。
なんとなく俺の周囲の皆が
それぞれ楽しく過ごせていて
俺は嬉しくて仕方が無い。
神殿に行くと
相変わらずイシュメルは
大げさに創造神と俺を
褒め称えてくれる。
最初は驚いたけれど
今では慣れたものだ。
ただ、慣れたとしても
イシュメルが話しているというのに
それを放置することができなくて
俺はいつもイシュメルに捕まると
ずーっと話を聞くことになってしまう。
イシュメルが情報を
持っている時は良いのだが、
ただ単に創造神のすばらしさだけで
体感的に1時間以上も話されると
さすがに疲れてくる。
イシュメルの話を
早く終わらせる方法を
見つけることが
俺の目下の目標だ。
あと神殿が絡んでいるとき、
つまり『愛し子仕事』に行くときは
必ずカミュイが護衛についてくれる。
聖騎士は忙しいと思うのだが
カミュイは必ず自分がお守りします、と
俺に騎士の礼をしてくれるのだ。
俺はありがたいと思うのだが、
キールがそんなカミュイに
過剰反応をする。
俺の護衛のポジションを
取り合ってるのか?って思う程、
「俺が護衛だ」とか言って
すぐにカミュイと喧嘩をするのだ。
かと思えば、俺が
神殿でローガンさんと
打ち合わせをしている間は
二人で剣を持って
一緒に訓練しているようで、
仲が良いのか悪いのかよくわからない。
そんなこんなで
平穏ではないが楽しい日々を
送っているのだが、
俺は今、心配していることがある。
それは義兄の結婚のことだ。
義兄と俺は7歳年が離れている。
つまり義兄はもう23歳だ。
この世界ではそろそろ
結婚していてもおかしくない年齢だ。
むしろ、遅いぐらいなのだ。
義兄は結婚しない。
跡継ぎは俺の子どもにする。
なんて言ってはいるが、
俺はまだまだ結婚する気は無いし、
俺の子を生んでくれる女性と
出会える気もしない。
もちろん、
俺が子どもを生むというのも
出来る気がしない。
子どもを生むとか言われても
イメージがわかないので
そんなことを言われても
よくわからない、というのが本音だ。
結婚というのは、
好きになった相手とすることだと思う。
俺は恋愛に疎い人間だが
それぐらいは理解している。
この世界では政略結婚が主流だが
公爵家はそんなことはしなくても良いし、
俺は義兄には幸せになって欲しい。
このままだと俺のために
人生を使ってしまうのではないかと
そんな不安もある。
俺は社交界には出ないので
良くわからないが、
ルイ曰く、
「弟君は男性からも
女性からも、かなりの人気だよ。
俺ももっとアピールしようかな」
……らしい。
まぁ、ルイはいつもの冗談だろうが、
実際に義兄は、次期公爵だし
ハンサムだし、優良物件だからな。
俺はぜひ義兄には婚活してもらって
すてきなお嫁さんを
連れてきて欲しいと思っている。
そうやって充実した日々を
俺は過ごしていたのだが。
この俺の平穏な日々は
あるティスの一言によって
崩れ落ちてしまった。
95
お気に入りに追加
1,181
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる