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高等部に進級しました
175:告白
しおりを挟むサンドイッチ持った俺は
王宮でいつものように
ティスと楽しくお茶を飲んだ。
王家で準備してもらった
お菓子は美味しかったし、
照り焼きチキンを挟んだ
サンドイッチはティスに大好評だった。
俺は嬉しかったし、
お腹もいっぱいで、
ティスに「散歩に行こう」と
言われた時はただ単に
「腹ごなしでもするか」と
言う気分だった。
なのに。
ティスは良い香りがする花壇
……『祝福』の花壇に来ると、
花を1本手折って
俺に差し出した。
真剣なティスの顔に
俺は動けなくなる。
「アキルティア、
僕は、アキルティアが大好きなんだ。
ずっと一緒にいたい」
ティスはいつものように
「私」とは言わなかった。
でも、それだけ
「素の状態」のティスが
目の前にいるのだと思う。
「僕と結婚してください!」
顔を真っ赤にして
まっすぐに俺を見て叫ぶティスに
俺は目を見開いた。
心臓がバクバクして、
何が起こってるのか
一瞬、わからなかった。
ティスが「大好きだ」って
言ってくれるのは嬉しい。
だから俺はいつも
「僕もだよー」って返事をしていた。
でも、違うよな?
今のこの「大好き」は
きっと違う。
いつもとは違う「好き」だ。
どんなに恋愛経験が無くても
俺だってそれぐらいはわかる。
「アキルティア、
誰にも渡したくない。
愛してるんだ」
俺に追い打ちをかけるように
ティスが言う。
俺はどうすれば良いのかわからなかった。
差し出された『祝福』の花を受け取れば
結婚を了承したことになるのでは?
そう思うと手が動かない。
でもここでティスの申し出を
受けなかったら、
もうティスとの友情は
終わってしまうのだろうか。
それは嫌だ。
俺は頭の中が思考が
ぐるぐる回ってしまって
何も考えられなくなる。
「アキ!
ごめん、アキ。
突然だったから
驚いたよね。
ごめん、泣かないで」
ティスが肩に触れ、
俺を抱き寄せる。
「ごめん、
ちゃんとわかってるから。
アキは恋愛も結婚も
まだ早いって言ってたし、
僕のことはただの親友だって
思ってるってことも
ちゃんと理解してるんだ」
ティスはそう言いながら
僕の背に回した手で、
僕の髪を撫でる。
優しい手つきで。
振り払えないけれど、
動けない。
「ごめんね、ごめん。
ただ、アキがルイ殿下と
物凄く仲良くて。
僕じゃ割り込めないぐらい
二人はわかり合っていて。
嫉妬したんだ。
悔しかった。
僕は小さいころから
ずっとアキと一緒に育って来たのに。
僕の知らないアキがいて、
僕よりも親しい親友がいて。
僕はたとえ親友だったとしても
いつだってアキの。
アキルティアの一番だって
思えていたのに、
それが違うってわかったら
不安になってしまった」
僕の身勝手で、
アキルティアを泣かしてしまうなんて。
そう言って、ティスは
何度も俺にあやまってくれた。
でも俺は何も言えなくて。
ティスの腕の中は
義兄と同じぐらいに暖かくて。
抱きしめられた腕は
シャツの上からでも筋肉質なのが
よくわかる。
俺とは違い、ティスは
いつのまにか背も高くなり、
時間ができたら義兄に
鍛えてもらっていると言う言葉通り、
逞しい好青年になってきたと思う。
ティスは17歳だ。
そのことにあらためて思い立ち、
俺はティスのことが
急に知らない男性のように思えた。
ずっと俺の弟ようだと、
そんな風に思っていたのに。
いつのまにか俺は
ティスを見上げるようになっていた。
小さなころから俺は
顔を真っ赤にして
「好き」って言うティスが
可愛くて仕方なかった。
俺も好きって思ったし、
一緒にいて楽しくて。
ずっとこんな関係が続けばいいと思っていた。
だから本当は。
ティスが成長していくと同時に
俺に「好き」と言う時の
ティスの顔が真剣になっていったことも。
瞳の奥に熱い熱が
見え隠れしはじめたことも。
俺はなんとなく
気が付いていた。
でもそれに目を向けたら
ティスとの関係が変わってしまうようで
俺は怖かった。
だから気が付かないようにしていたんだ。
それに可愛らしく俺に
甘えてくるティスを見ていたら、
前世の弟ともしかしたらこんな風に
仲良くできたかも、って
そんな気持ちもあった。
ただ暖かで、居心地の良い
ティスとの関係を続けたかったんだ。
だってティスは
俺が前世でこんなふうに
弟に甘えて欲しかった、と
思うようなことを
再現してくれていたから。
「ご、めん、ティス」
そこまで考え俺は
ティスを前世弟の代わりに
していたのかもしれないと
思い至った。
俺の心の安寧のために
身勝手にティスの気持ちを利用して
振り回していたのかもしれない。
俺はもしかしたらずっと
ティスを傷つけていたのでは?
思わず謝った俺の唇を
ティスは持っていた花で押さえた。
「待って。
謝らないで、アキルティア。
返事はね、まだいい。
僕が結婚するのは早くても
成人を迎えてからだ。
学園を卒業するまでは
今のままだし、
僕はアキルティアを無理やり
お嫁にしたいなんて思わない。
僕のお嫁さんはアキしかいないって
僕は思ってるから、
婚約者も作らないし、
アキが結婚しないというなら
僕もしない。
だからね。
結婚できないとか、
そういう返事はいらないんだ」
ティスはそう言って
俺から体を離した。
ティスは俺の謝罪の言葉を
先ほどの返事だと思ったようだ。
そうじゃない、と
そう言うべきだと思ったけれど。
ティスの泣きそうな、
けれど優しい声に何も言えなくなる。
「いつも通りだよ、アキルティア。
今までと一緒だ。
何も変わらない。
僕はアキの親友で
世界を繁栄させるための仲間だ。
ただ、僕はアキルティアのことが
大好きで、結婚したいって思ってる。
だからいきなりルイ殿下に
嫉妬しちゃうかもしれない。
それぐらい僕は
アキのことが大好きだって
知っていて欲しかったんだ」
そう言うティスの笑顔は
大人びた、どこか苦しそうな笑顔だった。
俺な何かを言わなくちゃって思ったけれど、
ティスが俺の唇を大輪の花で
ずっと押さえていて。
結局俺は何も言えないままだった。
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