209 / 308
創造神の愛し子
169:創造神の望み
しおりを挟む驚いたように目を見開き
俺を見上げている面々に
俺は声を掛けようとして
違和感に気が付いた。
俺を見上げている?
なんで?
俺が一番、背が低い筈だ。
と、俺は自分が
金色の光に包まれて
宙に浮いていることに気が付いた。
俺の周囲にはまだ
あたたかい風が舞っている。
このおかげで俺は
宙に浮いているのか。
カミサマの力のせいか。
俺は驚いたものの
取り乱すほどではなかった。
なにせ、ベットから
いきなり転移させられて
クマとお茶会した経験がある。
このまま俺が空を飛んでも
まったく驚かないぜ。
カミサマの力は
なんでもありだからな。
でもこれ、どうやって下りるんだ?
俺の身体は、大きな創造神と
目を合わせることが
出来るぐらいの高さまで浮いていた。
はは。
この像の頭をぐりぐりできそうだな。
やってみようか。
なんて悪戯心が生まれた時、
しゅん、と風が止み
俺の身体が急降下する。
「アキルティア様!」
キールが大きな声で俺を呼び、
それと同時にカミュイと共に
俺に向かって駆け出すのが見えた。
が、俺は全然平気だった。
俺は勢いよく
床へと落ちたが
着地する前は、
ふわり、と身体が浮いて、
何事もなく床に下りることができたのだ。
ちょっと焦ったけど、
あっという間だったので
恐怖を感じる時間もなかった。
キールは俺の前に駆けこみ
慌てたように俺の様子を見る。
「アキルティア様、
お怪我は?
どこか痛いところはありませんか?」
「うん。大丈夫。
キール、ありがとう」
カミサマは偶像だというのに
頭を撫でられるのは嫌だったらしい。
カミュイもまた俺のそばで
「ご無事でなにより」と
泣きそうな顔で言う。
「それで、僕、どうなってたの?」
よくわからずにキールに聞くと
キールが口を開く前に
イシュメルがキールや
カミュイを押し出すように
興奮した声を出した。
「や、やはり愛し子様は
創造神に選ばれしお方!
愛し子様のお身体は、
突然、淡く光り始め、
どこからともなく現れた
金色の風に包まれて
お身体を宙に浮かせたのです!
その様子は創造神と
まるで会話をしているかのように
神々しく……」
話をしているうちに
イシュメルはどんどん
ヒートアップしていき、
再び目から怒涛の涙を流している。
あれか。
昨日は子どもみたいに
泣くやつだと思ったけれど、
ただ単に感情表現が
激しいやつだったのか。
「アキルティア様、
創造神とお話をされたのか?」
ようやく我に返ったように、
呆然と俺を見ていた
ローガンさんが口を開く。
俺は首を振った。
「会話はできませんでした。
ですが、僕の考えていることを
神様に伝えました」
「それで、創造神はどう?」
ローガンさんが俺の言葉を促すように言う。
そこで俺はようやく
ローガンさんがこの場所に俺を
案内した理由がわかった。
おそらくローガンさんは
昨日のイシュメルから
俺とどんな会話をしたのか
聞いたのだ。
そして俺がローガンさんに
話した内容と照らし合わせ、
どう動くかを考えた時、
創造神の答えを聞くという
ことを思いついたんじゃないだろうか。
創造神が俺がやろうと
していることに対して、
拒否するのか、推進するのかを
確かめたいと思ったのではないか。
どうするか迷った時、
自分で決断するよりも
神がそう告げたからと言う
言い訳がある方が心は軽い。
嫌な言い方をあえてすれば
責任を取る心配をしなくても良くなるのだ。
ローガンさんがそこまで
考えての行動だったのかはわからない。
けれど、少なくとも
俺がここで創造神と何らかの
コンタクトができると信じて
俺をここに連れてきたはずだ。
そして、これから神殿が
どう動くべきかを
俺を通して創造神に
聞きたかったに違いない。
クリムの屋敷で最後に聞いた言葉。
「自分の全てを祈りに変えて
創造神に捧げて来た。
それは、今更変えられん」
この言葉は、
創造神の意志から離れて
何かをすることはできないって
いう意味だったのだ。
ローガンさん、本当に
カミサマを崇拝してるんだな。
自分の意志よりも、
カミサマの意志を優先するなんて
俺にはできそうにない。
「神様は僕の考えについて
何かを言うことは
ありませんでした。
けれど、おそらく神様は
僕がすることを
否定はしないと思います」
俺は慎重に。
ローガンさんに俺の考えを
理解して欲しくて、
ゆっくりと言葉にする。
「だって神様はこの世界の現状を
変えたいと思っているのですから。
そのために人間たちに
行動して欲しいと
僕を通じて促そうとしているんです。
それが正しいとか
間違っているとかではなくて
前に進み、成長することが
神様の望んでいることではないでしょうか」
ダメだったら、
やり直せばいいだけですから。
俺がそう言うと、
ローガンさんは目を丸くする。
そして大きく笑った。
「アキルティア様の考え方には
驚かされてばかりじゃな」
そうか?
俺、そんなに変なこと
言ってるつもりはないんだけど。
「世界の命運の話をしておるのに、
ダメならやり直せばよいと
まるで子供が遊びをするように言う」
「僕は子どもですから」
そう言って笑って見せると、
ローガンさんは大きく頷いた。
「創造神もそのような
アキルティア様だからこそ
お選びになったのじゃろう」
俺の考えが子どもだから?
いやいや、違うぞ。
俺は子どもだが、
中身はちゃんとした社会人だからな。
「さぁ、こちらへ。
茶でも淹れましょう」
ローガンさんは俺たちを促す。
俺はキールに合図をして
部屋から先に出てもらう。
キールは頷き、
カミュイと共に部屋を出て行く。
この場に2人が入ったことは
内緒にしてもらわなければならない。
俺を助ける為だったんだから
大目に見てくれ。
俺は焦って2人を追い出したが、
ローガンさんは何も言わない。
見て見ぬふりをしてくれるようだ。
イシュメルに視線を向けたが
イシュメルはいまだに
床に膝をついてなにやら
訴えている。
俺、あれを聞かなくていいのかな?
俺がどうなったのか
聞いたから説明してくれてるんだよな?
「あやつのことは
ほおっておいて良いじゃろう。
いつものことですからな」
なるほど。
あれが通常運転なのか。
創造神を愛しすぎてる人って
思っておけばいいのか?
感情表現が激しくて
神様を愛しすぎている人……。
さすが、陛下の前であの父と
喧嘩する精神の持ち主だ。
俺の常識では考えられない思考をしてるんだろうな。
よし。
あまりお近づきにならないようにしよう。
俺は部屋から出て、
そっと扉を閉める。
はは。
扉を閉めてもイシュメルの
創造神賛美の声が聞こえてくる。
これだけ愛されてるんだから
カミサマも嬉しいだろうな。
いや、うっとおしいか?
でもあのカミサマは
この世界をずっと見てるわけじゃないから
大丈夫か。
俺はそんなことを考えながら
ローガンさんの後をついて行った。
107
お気に入りに追加
1,175
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。


転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる