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創造神の愛し子
169:創造神の望み
しおりを挟む驚いたように目を見開き
俺を見上げている面々に
俺は声を掛けようとして
違和感に気が付いた。
俺を見上げている?
なんで?
俺が一番、背が低い筈だ。
と、俺は自分が
金色の光に包まれて
宙に浮いていることに気が付いた。
俺の周囲にはまだ
あたたかい風が舞っている。
このおかげで俺は
宙に浮いているのか。
カミサマの力のせいか。
俺は驚いたものの
取り乱すほどではなかった。
なにせ、ベットから
いきなり転移させられて
クマとお茶会した経験がある。
このまま俺が空を飛んでも
まったく驚かないぜ。
カミサマの力は
なんでもありだからな。
でもこれ、どうやって下りるんだ?
俺の身体は、大きな創造神と
目を合わせることが
出来るぐらいの高さまで浮いていた。
はは。
この像の頭をぐりぐりできそうだな。
やってみようか。
なんて悪戯心が生まれた時、
しゅん、と風が止み
俺の身体が急降下する。
「アキルティア様!」
キールが大きな声で俺を呼び、
それと同時にカミュイと共に
俺に向かって駆け出すのが見えた。
が、俺は全然平気だった。
俺は勢いよく
床へと落ちたが
着地する前は、
ふわり、と身体が浮いて、
何事もなく床に下りることができたのだ。
ちょっと焦ったけど、
あっという間だったので
恐怖を感じる時間もなかった。
キールは俺の前に駆けこみ
慌てたように俺の様子を見る。
「アキルティア様、
お怪我は?
どこか痛いところはありませんか?」
「うん。大丈夫。
キール、ありがとう」
カミサマは偶像だというのに
頭を撫でられるのは嫌だったらしい。
カミュイもまた俺のそばで
「ご無事でなにより」と
泣きそうな顔で言う。
「それで、僕、どうなってたの?」
よくわからずにキールに聞くと
キールが口を開く前に
イシュメルがキールや
カミュイを押し出すように
興奮した声を出した。
「や、やはり愛し子様は
創造神に選ばれしお方!
愛し子様のお身体は、
突然、淡く光り始め、
どこからともなく現れた
金色の風に包まれて
お身体を宙に浮かせたのです!
その様子は創造神と
まるで会話をしているかのように
神々しく……」
話をしているうちに
イシュメルはどんどん
ヒートアップしていき、
再び目から怒涛の涙を流している。
あれか。
昨日は子どもみたいに
泣くやつだと思ったけれど、
ただ単に感情表現が
激しいやつだったのか。
「アキルティア様、
創造神とお話をされたのか?」
ようやく我に返ったように、
呆然と俺を見ていた
ローガンさんが口を開く。
俺は首を振った。
「会話はできませんでした。
ですが、僕の考えていることを
神様に伝えました」
「それで、創造神はどう?」
ローガンさんが俺の言葉を促すように言う。
そこで俺はようやく
ローガンさんがこの場所に俺を
案内した理由がわかった。
おそらくローガンさんは
昨日のイシュメルから
俺とどんな会話をしたのか
聞いたのだ。
そして俺がローガンさんに
話した内容と照らし合わせ、
どう動くかを考えた時、
創造神の答えを聞くという
ことを思いついたんじゃないだろうか。
創造神が俺がやろうと
していることに対して、
拒否するのか、推進するのかを
確かめたいと思ったのではないか。
どうするか迷った時、
自分で決断するよりも
神がそう告げたからと言う
言い訳がある方が心は軽い。
嫌な言い方をあえてすれば
責任を取る心配をしなくても良くなるのだ。
ローガンさんがそこまで
考えての行動だったのかはわからない。
けれど、少なくとも
俺がここで創造神と何らかの
コンタクトができると信じて
俺をここに連れてきたはずだ。
そして、これから神殿が
どう動くべきかを
俺を通して創造神に
聞きたかったに違いない。
クリムの屋敷で最後に聞いた言葉。
「自分の全てを祈りに変えて
創造神に捧げて来た。
それは、今更変えられん」
この言葉は、
創造神の意志から離れて
何かをすることはできないって
いう意味だったのだ。
ローガンさん、本当に
カミサマを崇拝してるんだな。
自分の意志よりも、
カミサマの意志を優先するなんて
俺にはできそうにない。
「神様は僕の考えについて
何かを言うことは
ありませんでした。
けれど、おそらく神様は
僕がすることを
否定はしないと思います」
俺は慎重に。
ローガンさんに俺の考えを
理解して欲しくて、
ゆっくりと言葉にする。
「だって神様はこの世界の現状を
変えたいと思っているのですから。
そのために人間たちに
行動して欲しいと
僕を通じて促そうとしているんです。
それが正しいとか
間違っているとかではなくて
前に進み、成長することが
神様の望んでいることではないでしょうか」
ダメだったら、
やり直せばいいだけですから。
俺がそう言うと、
ローガンさんは目を丸くする。
そして大きく笑った。
「アキルティア様の考え方には
驚かされてばかりじゃな」
そうか?
俺、そんなに変なこと
言ってるつもりはないんだけど。
「世界の命運の話をしておるのに、
ダメならやり直せばよいと
まるで子供が遊びをするように言う」
「僕は子どもですから」
そう言って笑って見せると、
ローガンさんは大きく頷いた。
「創造神もそのような
アキルティア様だからこそ
お選びになったのじゃろう」
俺の考えが子どもだから?
いやいや、違うぞ。
俺は子どもだが、
中身はちゃんとした社会人だからな。
「さぁ、こちらへ。
茶でも淹れましょう」
ローガンさんは俺たちを促す。
俺はキールに合図をして
部屋から先に出てもらう。
キールは頷き、
カミュイと共に部屋を出て行く。
この場に2人が入ったことは
内緒にしてもらわなければならない。
俺を助ける為だったんだから
大目に見てくれ。
俺は焦って2人を追い出したが、
ローガンさんは何も言わない。
見て見ぬふりをしてくれるようだ。
イシュメルに視線を向けたが
イシュメルはいまだに
床に膝をついてなにやら
訴えている。
俺、あれを聞かなくていいのかな?
俺がどうなったのか
聞いたから説明してくれてるんだよな?
「あやつのことは
ほおっておいて良いじゃろう。
いつものことですからな」
なるほど。
あれが通常運転なのか。
創造神を愛しすぎてる人って
思っておけばいいのか?
感情表現が激しくて
神様を愛しすぎている人……。
さすが、陛下の前であの父と
喧嘩する精神の持ち主だ。
俺の常識では考えられない思考をしてるんだろうな。
よし。
あまりお近づきにならないようにしよう。
俺は部屋から出て、
そっと扉を閉める。
はは。
扉を閉めてもイシュメルの
創造神賛美の声が聞こえてくる。
これだけ愛されてるんだから
カミサマも嬉しいだろうな。
いや、うっとおしいか?
でもあのカミサマは
この世界をずっと見てるわけじゃないから
大丈夫か。
俺はそんなことを考えながら
ローガンさんの後をついて行った。
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