完結・転生したら前世の弟が義兄になり恋愛フラグをバキバキに折っています

たたら

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創造神の愛し子

160:泣いたら終わり?

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 室内は静まり返り、
目の前に座るイシュメルの
泣く声だけが響いている。

……気まずい。

俺はポケットを探り
ハンカチを取り出した。

そして立ち上がり、
イシュメルにハンカチを差し出す。

「きつい言い方をして
申し訳ありません。

その、僕の考えを聞いて欲しくて
強く言ってしまったようです」

いつまでたっても
ハンカチを掴もうとしない
イシュメルの手を俺は掴んだ。

強引にその手にハンカチを握らせる。

だがイシュメルは俺に手を
握られたまま、
ハンカチを受け取ろうとしない。

俺はしょうがないと
ハンカチを掴むと
イシュメルの涙を拭いてやった。

イシュメルは惚けた顔で
俺を見ている。

大丈夫か?

そりゃ、こんな子どもに
泣かされて顔までハンカチで
拭かれた日にゃ、
呆然自失になってもおかしくは無いが。

俺はいじめたかったわけじゃないぞ。

イシュメルの信仰心を否定する気はないが
世界は信仰だけでは反映しないし、
創造神は人間のことを
特別気に掛けてないって
伝えたかっただけなんだ。

ん?

それがまずかったのか?

創造神は人間を特別視してるって
思ってたわけだから
それを俺が否定したことになるのか。

えー?
でもさ。
でもさ。
それは本当のことだし。

もしかして
知りたくなかった真実を
俺が押し付けた感じになってる?

ヤバイ?

俺は焦りに焦っていた。

だってさ。
前世で何度もプレゼンしたし
他社の担当者との話し合いが
上手くいかなかったことだって
一度や二度ではない。

でもその中で
意見が合わずに対立したからって
泣くような担当者はいなかった。

仕事なんだから
当たり前だ。

俺がめちゃくちゃムカついて
理詰めでやりこめた相手だって
泣きはしなかった。

怒りの顔で殴り掛かってはきたが。

俺はどうしていいかわからず、
前世弟が泣いたときみたいに
イシュメルの頭を抱き込んだ。

誰かの息を飲む音がしたが
そんなことに気にしてられない。

俺はイシュメルの顔を
胸に押し付けて、
よしよし、と頭を撫でる。

「嫌なこと言った?
ごめんね。

よしよし。
辛かった?

イシュメルさんを
否定したんじゃないよ?

僕は僕の考えがあって
イシュメルさんはイシュメルさんの
考えがある。

ただそれだけなんだ」

俺は必死でイシュメルを宥めた。

「創造神は偉大だからね、
沢山しなくちゃならないことがある。

だから。
人間たちは自分でできることは
自分でした方が良いと僕は思うし、
そうやって成長することで
創造神は喜ぶと思う。

でもそれは僕の考えだから
イシュメルさんが
それは違うって思うのなら
それでいいし、
無理に僕に合わせなくても
構わない」

信仰が悪いとは思わないし、
ただ意見が違うことを
伝えたかっただけ。

そのうえで協力を
してもらえないかと
俺は打診するつもりだったのだ。

……その前に、
こんなことになってしまったけれど。

俺が協力を打診して
それを神殿に持ち帰り、
相談してもらいたかったんだけどな。

ローガンさんにはすでに
話をしてあるから
相談もしやすいと思うし。

俺はイシュメルの頭を
よしよし撫でながら
どうするか思案する。

このまま喧嘩別れはしたくない。
だが、無理強いは良くないよな。

イシュメルはぐしぐし
俺の胸で泣いてるし、
俺は子どもを泣かしたような
罪悪感に苦しくなる。

「イシュメルさんは悪くないよ?
大丈夫、大丈夫。
僕と考え方が違っただけだからね」」

そう言っても、
イシュメルの泣き声は
大きくなっても収まりそうにはない。

俺は助けを求めてルイを見た。

『助けろ!』
と合図を送るとルイは俺を呆れた目をする。

なんだよ。
なんでそんな目で見るんだよ。

この場をどう収拾するか
考えてくれよ。
営業部のエースなんだろっ。

俺が目で必死で訴えたら
ルイは仕方ないと言う仕草で
俺の方へ歩いてきた。

そして俺とイシュメルを
そっと引きはがす。

「大丈夫ですか?」
とルイは優しい声を出して
イシュメルを見たが、
その目は冷たい。

宗教も嫌いだから
きっと神官も嫌いなんだろうな。

坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってやつだ。

イシュメルは俺が貸した
ハンカチを握りしめて
何度もうなずいている。

ルイは後ろに控えていた
神官たちに顔を向けた。

「どうでしょう。
このままでは話し合いを
続けることはできそうに
ありませんし、
一度、神殿にお戻りになられては?

また日を改めて、
今度は我々から神殿に
お伺いさせていただきますよ」

ルイの提案を神官たちは
了承した。

そして何故かいまだに
泣き崩れるようにしている
イシュメルを両脇で抱えて
俺に何度も頭を下げて
部屋から出て行った。

ルイは文官たちに
イシュメルたちを見送るように言い、
騎士達にはもう大丈夫だから
陛下に連絡をするように頼む。

そして一人残ったキールには
何か飲むものを持ってくるように言った。

キールがその指示を受けて
部屋から出て行くと、
部屋には俺と義兄、ティス、
そしてルイの4人になった。

俺は息を吐き、ルイを見る。

「なんで?
泣く?
プレゼンしてて泣くとかある?

相手の意見を聞いて
こちらの主張を提示しただけなのに。

解釈違いぐらいで泣くとか、
そんなのありえないよね!

仕事プロの意識、ないんじゃない?」

俺はイシュメルを
泣かしてしまった罪悪感と
うまく話し合いが出来なかった
苛立ちが沸き起こり、
それがそのまま口から
出してしまった。

イシュメルを傷つけた。
そう思うと、胸が苦しくなり
責任転嫁をしたくなる。

早口で俺が感情を吐き出すと
ルイは、落ち着け、と俺に言う。

でも俺は止まれなかった。

「子どもじゃないんだから
言いたいことは泣かずに
言えばいいのに。

最初から立位置が違ってて
解釈違いも理解したうえでの
交渉と話し合いでしょ?

それを意見が通らないから
泣いて通そうとするなんて
子どもか?
小学生か!?」

そんなこと言いたくないのに。
言葉が止まらない。

だって俺が、傷つけた。

そんなつもりは無かった。
ただ、互いの意見をぶつけ合いたかったんだ。

俺の感情が高ぶって来たからか
座っていた義兄が立ち上がり
俺の腕を引いた。

なんだ?と思うと
義兄が、よしよし、と
さっき俺がイシュメルに
していたように頭を撫でられた。

「大丈夫、大丈夫。
アキルティア。
誰も傷ついてないから。
安心して。
心配しなくていい」

アキルティア、と名前を呼ばれ
俺は、義兄を見た。

「ごめん。
ちょっと暴走した」

すっかり俺は前世の感覚になっていた。

義兄の胸にぎゅーっと
顔を押し付けると、
今度はティスに名前を呼ばれる。

顔を上げてティスを見ると
ティスが恥ずかしそうに
テーブルから少し離れて
両手を広げていた。

うん?

「わ、私のところに
来ても、いいよ」

って。
可愛ーーっ!

なにそれ。
俺を慰めようとしてくれてるの?

行く行くーっ。
と俺がティスの胸に
飛び込もうとしたら
義兄がヤメロ、と俺を抱き上げた。

そんな俺たちを
ルイが笑う。

そんないつものやりとりに、
心が落ち着いてきた。

「俺たち、さっきは
かなり良いチームだったよな」

ルイが笑って言う。

俺は義兄の腕から逃れつつ頷いた。

「うん。
ティスも兄様も
僕の補佐をしてくれて
ありがとう」

俺がお礼を言うと
ティスは広げていた手を
寂しそうに下げていた。

俺はちゃんとティスに
慰めて貰おうと
思ったんだぞ?

でも義兄がな。

俺は手を伸ばして
ティスの手を取る。

「ティス、ありがとね」

俺がそう言うと
ティスはようやく嬉しそうに笑った。


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