完結・転生したら前世の弟が義兄になり恋愛フラグをバキバキに折っています

たたら

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創造神の愛し子

156:バレました

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 俺は学園に戻り、
オルガノ家の御者と護衛騎士に
お礼を言って、急いで校舎に入る。

すると、馬車が学園に
入るのを見ていたのだろう。

キールが校舎内から
物凄い早さで走って来た。

「アキルティア様!」

「キール、ただいま。
ごめんね。
無理を言って。
何事も無かった?」

俺は息を切らすキールに
まずは感謝をする。

「キールのおかげで
良い時間を過ごせたよ。
ありがとう」

「い、いえ。
それは良かった……です」

なんとも歯切れの悪い返事に
俺は首を傾げた。

「何かあった?
王宮から連絡があったとか?」

「は、いえ。
連絡は無かった……のですが」

キールの目が左右に揺れる。

「どうしたの?」

連絡が無かったのなら
何の問題も無い筈だが。

「その、王宮から
連絡はなかったのですが、
使者が来ました」

「使者?」

なんじゃそりゃ。
と思った俺の肩に、
誰かの手がぽん、と乗る。

「私が使者だ」

冷たく響く義兄の声が
真後ろから聞こえた。

俺はひぇっと一瞬息を飲み、
そろそろと振り返ると
怒りに燃える義兄が
立っている。

「どういうことだ?
護衛を置いて、
どこに行ってた?」

やばっ。
本気で怒ってる。

俺は咄嗟にキールを見た。

キールは何も言ってません!
とばかりに、
首を振っている。

キールは俺のために
口を割らなかったのだろうが
それがさらに義兄を
怒らせたのだろう。

心配をかけたことは
理解できるので
俺は素直にあやまる。

「心配かけて
ごめんなさい」

「私が心配したことは
理解してるんだな?」

地を這うような声に
俺はビクビクだ。

なにせ小心者だし。

いや、待てよ?

ルイはどうした?

俺に任せろ!とか言ってた
あいつは何やってんだ?

俺がきょろりと
周囲を見たことに義兄は
気が付いたようで

「ルイ殿下ならいないぞ」

と言う。

「王宮に呼ばれて
先に出かけたからな」

なるほど。

ルイと俺を義兄が迎えに来て
俺だけいなかったってことか。

はっはっは。
乾いた声で笑うしかない。

これは誤魔化しようがないな。
思い切って開き直るか。

「アキルティア」

「はい。義兄様」

「……言い訳も、
開き直りも無用だ」

さすが俺の前世弟。
俺の思考パターンが読めてますな。

なんて現実逃避してたら
義兄は俺の腕を掴んで
馬車停めの場所に向かって
ずんずんと歩いて行く。

「に、兄様、どこへ?」

「決まっている。
王宮だ。

陛下に呼ばれてから
どれだけ時間がかかってると思う」

早足で歩かれて、
俺はそれに必死で付いていく。

キールも慌てた様子で
俺の後ろをついてきた。

公爵家の馬車はすぐに
出発できるように
準備をされていて。

俺は馬車に押し込められて
王宮へと向かう。

馬車は義兄と俺とキールの
3人で乗ったが、
全員無言で、
重苦しい空気に呼吸がしづらい。

ほんと、キールには
とばっちりで
申しわけなくなる。

義兄が一緒だからか
王宮についても迎えは無く、
俺は義兄に連れられ
王宮の謁見室へと
連れて行かれた。

本来であれば陛下と
謁見する場なのだから
王宮内のどこよりも
静かで、厳かな場所だ。

だが、俺は無言で
兄に連れられて謁見室に
近づいたとき、
何故俺が呼ばれたのか
その理由に気が付いた。

私語どころか、
吐息さえ慎むはずの場なのに
父の大きな怒鳴り声が
廊下まで響き渡っている。

……すまん。
俺がのんびり2杯目の
お茶など飲まずに
学園に戻っていれば
もう少し早く来れたのに。

ところが。
いつもは父が怒鳴り、
大暴れしていれば
その迫力に陛下までもが
閉口してしまうのに。

廊下に父とは別の声が聞こえて来た。

しかも父に向って
かなりの大声で何やら
反論している。

すげぇ!

父に反論できる人間が
この王宮にいたなんて!

俺はビックリだし
驚いたし、なんなら
その人物を尊敬までした。

俺が驚きのあまり
足の動きがゆっくりになったからだろう。

義兄が違う、という。

「義父に意見を言っているのは
王宮の人間ではない」

「うん?」

「神殿から来た神官たちだ」

「おぉ!」

ローガンさんが言ってた
強硬派の人たちだな。

凄いな。
創造神を信じてるから
父のことなど怖くないんだな。

でもどんなに創造神に祈っても、
あのカミサマは父を成敗なんて
しないと思うぞ。

なにせ人間たちのすることに
直接、手出しはできないんだからな。

謁見の間にたどり着き、
扉を守る衛兵に義兄が声を
掛けると、衛兵たちは
目を輝かせて俺を見た。

遅くなって、すまん。

衛兵の二人が左右に分かれて
扉を大きく開けてくれたが、
扉が開いたことに
部屋の中にいた人たちは
誰も気が付かなかった。

それぐらい、
謁見室の中はカオスだった。

俺と義兄が入り口で
立っている間に部屋の扉が
背中で閉まる。

そうだよな。
こんな状態、誰にも知られたくないよな。

謁見室の中は、
物凄い熱気に包まれていた。

謁見室なので
陛下は高い場所に座り、
その横にはティスが立っている。

だが二人とも顔を青くして
じっと前を見ているだけだ。

その前には父と
神官たちが3人、
陛下の前に横並びに立っている。

ただし、陛下から見たら
横並びだけど
父と神官は向かい合わせになり
何やら言い争っている。

父と子どもの喧嘩のように
言い争っている神官は
1人だったが、とにかく声が大きい。

父の周囲には騎士たちが
何人もいて、父たちを
宥めようとしているようだが
それは功を奏していないようで、

騎士たちは父が
上げようとした腕を
必死で抑えるのが
精いっぱいみたいだったし

2人の神官も
取っ組み合いの喧嘩に
なりそうな勢いで
大声を挙げている神官さんの
腰を掴んで押さえていた。

神官たちはどう見ても
父よりはまだ若い。

全員、茶色い短髪で、
細身の文官っぽい印象だった。

騎士ではないから
身体を鍛えてはいないのだろうけど
見るからに筋肉が無さそうなのに
よく父に向かって行くな、と感心する。

父は毎日、今でも現役騎士たちと
訓練しているみたいだからな。

鍛錬は怠らない主義だし。

喧嘩したら絶対に負けそうなのに
向かって行く姿が凄いと思う。

だからこそ、思想や信仰は
怖い部分もあるのだが。

義兄は俺の背を少し押した。

なんとかしろと言いたいのだろう。

だが、ちょっと待ってくれ。

俺はここまで来るのに
すでに息が切れている。

義兄も焦っていたのだろう。

いつもなら体力が無い
俺を気遣うはずが、
かなりの早足だった。

それにしてもルイはどうした?

こうなる前に、
なんとかしなかったのか?

俺はルイを視線だけで探す。

するとルイは父たちから
少し後ろに離れた場所で
傍観者のように立っていた。

なにやってんだ。

俺がルイをにらむと
ルイは俺に気が付いたようだ。

俺を見て、口もとを歪める。

あぁ、楽しんでる。
絶対に。

おまえを信じた俺が
バカだったよ。

あれほど「くれぐれも頼む」
と言ったのに。

怒りを感じる俺に
ルイが何やら指で俺に
合図を送ってくる。

前世でプレゼン中とか、
声を出して話せない時に
意思疎通をするために
二人で考えたものだった。

俺はそれを見て、
ため息をついた。

ルイの合図は

『暴走』
『成り行きを見る』

だった。

……仕事相手じゃないんだから
戦局を見る必要はない。

成り行きを見るな。
なんでもいいから止めろ。

俺は呼吸を調えながら
こめかみを押さえた。


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