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創造神の愛し子
151:神の怒り?
しおりを挟むおじいちゃん大神官の名前は
ローガンさんだった。
俺がクリムに促され
ローガンさんの前に椅子に座ると
すぐに侍従……っぽい騎士さんか
騎士っぽい侍従さんか。
よくわかんないけど
長袖のシャツの上からでも
筋肉が盛り上がってるのが
一目でわかる男性が
お茶を入れてくれる。
ゴツゴツの大きな指で
俺の前にティーカップを
置いてくれるのだが
カップが異様に小さく見えて
子どもの、おままごと用の
おもちゃに見えた。
「アキ様はミルクと砂糖でしたよね」
クリムが俺の隣から俺の紅茶に
ミルクと砂糖を淹れてくれる。
筋肉ムキムキの侍従さんは
クリムに後は任せたとばかり
一礼して部屋を出て行った。
俺はクリムに「ありがとう」と
紅茶に手を伸ばすと、
ローガンさんはまたポロポロと泣く。
「そのように親し気に……
この年まで生きていた甲斐が
あったというもの」
って、大げさだし!
むしろ元騎士だから、
砂糖ぐらい自分で入れろ、とか
言われるかと思った。
俺はお世話をされることに
慣れ過ぎてしまって、
そういうことに
気が付くのが遅いんだよな。
だいたい、
周囲がしてくれた後に
自分でやればよかった、
って思うんだ。
俺、クリムにも
ルシリアンにも普段から
エスコートとかされてるから
どこからどこまでが
友人としての親切なのか
よくわからなくなっている。
でも俺が「やれ」って
命令しているわけじゃないぞ。
周囲が勝手に動いてくれるんだ。
……俺が世間知らずで
見るに見かねて世話を
してくれているのかもしれないが。
「えっと、ローガンさん」
俺は紅茶を飲むタイミングがわからず
声を出す。
するとローガンさんは
また目を見開き
「名を呼ばれるなど、
なんたる誉れ!」といって涙を落とす。
こりゃ、話が進まないぞ。
ルイを連れて来なくて良かった。
クリムはひたすら小声て
僕の伯祖父がスミマセン、
スミマセン、スミマセンって
謝っている。
……カオスだ。
俺はローガンさんと
クリムを交互に見る。
この二人の仲は悪くはないと思う。
クリムはローガンさんのために
俺を連れてきたわけだし、
ローガンさんだって
神殿にいるけれど
実家に押しかけてくるぐらいの
関係性は築けているわけだ。
そして二人とも
俺にそれなりに好意は
持ってくれている……ハズ。
よし。
俺は椅子から立ち上がった。
こういう場合は
無理にでも距離を詰めて
人間関係を構築した方が
話が早いのだ。
伊達に前世でコミュ障を
自慢しているやつらと一緒に
仕事をしてたわけじゃないぞ。
初対面の人間と
すぐに親しくなれるのは
俺の特技の一つだからな。
オタク同僚たちだって
最初は俺のことを
無視するか、話しかけても
おどおどビクビクしてたのに、
あっという間に
「俺は他人とはどう関わって
いいのかわからないんだ!」って
面と向かって宣言されるぐらいの
仲にはなれたからな。
やたらと大げさに
リアクションする人間には
一気に親しく距離を詰める。
これが手っ取り早いんだ。
……自論だけど。
俺は立ち上がり、
ローガンさんのそばに行く。
ローガンさんもクリムも
俺の行動に驚いたような顔をした。
俺は膝を折り、
ローガンさんはの顔を
下から覗き込む。
「ローガンさん。
またお会いできて嬉しいです。
僕にはおじい様がいないので
前にお会いしたとき、
もし僕におじい様がいたら
ローガンさんみたいな方かも、って
思っていたんです」
親しくなるには
名前で呼ぶのが一番らしい。
そして年上の人に対しては
父のようだ、兄のようだと言う
言い方をして俺は相手との距離を
縮めるのがいいのだ。
姑息な手段のように思えるが
これは前世でルイが教えてくれた
テクニックだ。
ルイもこうやって営業先で
人脈を作り、仕事を取ってきていたらしい。
ルイの話では
女性との距離を詰めるのも
名前で呼ぶのが一番だとか
言っていたが、残念ながら
俺はそれを試したことが無い。
前世も今も、
女性には無縁だからな、はは。
「おじい様?
……紫の方が、わしをおじい様?」
ローガンさんは体を
ぷるぷる震わせる。
「僕のことはアキルティアと。
クリムとは友達ですので」
ね、と俺が言うと
「この年になり、
このような栄誉を賜るなど…」
と何やら泣きながら言っている。
クリムは驚いた顔をしていたが
俺が、大丈夫だと笑顔を見せると
ほっとしたような顔をした。
俺はローガンさんが
落ち着くのを待って、
クリムの隣に戻った。
俺が座り直して
紅茶を飲むと、
ローガンさんは緊張した顔で
俺を見る。
「紫の……い、いや。
アキルティア様」
「はい」
呼び捨てでも構わないが
そこまで強要はしない。
「みっともないところを
お見せしました」
「いいえ。
改めて。
お会いできて嬉しいです」
俺が言うと、ローガンさんは
何度もうなずいてくれた。
それからローガンさんは
クリムに、俺のお茶を
淹れ直すように言う。
お茶が冷めてしまったから、と
いうのだが、俺は元々
冷めたお茶が好きなのだ。
ネコ舌だからな。
でも俺はローガンさんが
クリムに聞かせたくない話を
するから、そう言ったのだと思った。
クリムもおそらく
気が付いたのだと思う。
「わかりました。
アキ様、窓の外には
騎士達もおりますし、
何かあればお声掛けください」
クリムはそう言って席を立つ。
俺は頷いた。
ローガンさんはクリムが部屋の
外に出るのを待って、
ようやく口を開いた。
「アキルティア様、
わざわざお呼び立てして
申しわけない。
わしは公爵家には縁が無い。
どのようにすれば
アキルティア様に会えるのか
わからんかったのでな」
「オルガノ家に
来ていただいて良かったです。
公爵家に直接、僕への
面会を打診されても
断ったと思いますから」
……俺じゃなくて父がな。
涙を拭って
俺を見たローガンさんは
以前見た優しい
おじいちゃん大神官ではなく
強い意志を持った騎士のように見えた
「アキルティア様。
どうか、力をお貸しください。
このままでは神殿は
創造神の怒りを買うでしょう」
おっと。
急に大事な話になってきたぞ。
俺は椅子に座り直し、
ローガンさんを見据える。
「話してください。
今、王宮にも神殿からの
使者が来たと聞いています。
いったい何があったんですか?」
俺の言葉にローガンさんは
うなずくと、じつは……
と俺が神殿に保護された後、
何があったのかを語ってくれた。
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