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世界の均衡
146:満点の星・3
しおりを挟む「ティス、ルイ。
兄様も、上見て。
物凄く綺麗」
俺の声に、全員が
天井を見た。
ガラスの天井の向こうに、
満天の星が見える。
「すごいね。
この世界の星は、
物凄く輝いていて、
たくさんあって。
きっと空気が綺麗で、
この世界が澄んでるから
こんなに星も
輝いてるんだろうね」
俺の言葉に、ルイも
義兄も頷く。
前世の世界を知らないティスは
俺の言葉に理解できない部分も
あったと思う。
けれど。
「私は空を見上げたのは
初めてな気がする」と呟いた。
「夜空とは、こんなに綺麗で
こんなに沢山の星があったんだな」
俺はその言葉に
ティスの頭を撫でたくなる。
空を見上げる余裕も無く、
ティスはきっと
頑張ってきたのだろう。
でも、俺は毛布にくるん、と
包まれて、義兄の膝の上だ。
残念ながら毛布から
腕を出すことができない。
「ティスもルイも、
横になって見上げてみて」
俺が言うと、二人は素直に
毛布を手に仰向けに
寝転がって星を見る。
「アキルティア」
義兄が俺を呼ぶ。
だが義兄は膝枕だから
寝転がるのは却下だ。
俺がそう言うと、
義兄は怒るか拗ねるか
するかと思ったら、
何故か嬉しそうな顔になった。
義兄の喜ぶツボがよくわからん。
でも俺が仲間外れは
可哀そうだからと
義兄も「一緒に寝ていいよ」と
言うと、義兄は一瞬だけ
ティスを見て、
俺とティスの間に寝転がった。
なんだ?
急に弟モードになって
ティスにヤキモチか?
まぁ、可愛いから許す。
俺たちは全員で
仰向けのまま夜空を見上げ、
そのまま会話を続けた。
でも、確かに真剣な話を
している筈なのに。
あまりにも綺麗な夜空で
内容が頭に入ってこない。
それは他の皆も
同じだったと思う。
綺麗な夜空で、皆が近くにいて。
毛布はふかふかで、あったかくて、
安心できる声がして。
眠たいけれど、
絶対に寝たくないって
思えるほど、貴重な時間が流れている。
俺は幸せだな、って思った。
この世界で父や母の愛情を
感じた時に、何度も幸せだって
俺は思って来た。
義兄とこの世界で再会して
兄弟に戻れたときも
幸せだって思った。
でも。
そんな家族の繋がり以外で
俺はこの世界で初めて
「幸せだな」って思った。
「皆と一緒で幸せだ」
眠たいけど、寝たくない。
この時間を終わらせたくない。
俺はそう思ったけれど。
睡魔に負けて結局は目を閉じてしまった。
そんな俺の髪を
義兄は丁寧に撫でてくれていて。
「アキルティア?
寝たのか?」
って聞かれたけれど。
眠くて返事ができない。
「みんな一緒で幸せ、か」
ティスの声がする。
「私も、アキと会えて、
そしてここにいる皆に会えて
幸せだ。
王子と言う身分など気にせず、
関係ないと接してくれる者は、
この国にはいない。
両親でさえ、私を王子として見る。
そんな私を、
ただの一人の人間として
見てくれるのは
アキルティアだけだった」
「じゃあ、これからは
俺たちがいるから
大丈夫だな」
ルイがいつもの
明るい口調で言う。
「そういう気持ち、
俺もわかるし。
王子が嫌になったら
ここで息抜きしたらいい」
ルイの言葉に、
ティスが小さく笑った。
気配が緩んだから、わかる。
義兄もまた
「ならここでは
私がティス殿下を
弟扱いしても構わないということか」
なんて言う。
「弟? 私は弟か?」
ティスの口調は
拗ねたようだったけど、
声は笑っていた。
「ええ、アキルティアと同じ、
手のかかる弟ですよ」
「それはそれで……
嬉しい」
ティスの声に俺も嬉しくなる。
「けれど。
アキルティアは嫁には
出しません」
急に義兄の強い声がする。
「今は、だろう?」
ティスの声に義兄が唸る。
「王家に嫁に行くのは
正直反対です。
しかも、このままいくと
アキルティアは王妃になる。
紫の瞳で、性別が男の王妃。
国内外で非難の目が
生まれないとは言い切れない。
公爵家が守ったとしても
王家が守ったとしても
心無い者はいるでしょう。
公爵家も、私も。
……いえ、俺も。
アキルティアの兄弟として、
可愛い弟が傷付く
ことは見過ごせません」
義兄が俺のことを
可愛い弟って言った!
ちょっとだけ嬉しい。
でも俺、もう寝てしまってて
夢を見てるのかな?
俺が王妃なんて、
笑えない話なんだけど。
「だから俺と結婚するのが
最善なんだって。
身分的にも釣り合うし、
俺は王子だけど
無価値な三番目だし。
無駄に金と地位だけはあるから
アキラ一人ぐらい
十分養えるし、風評被害も
心配ないぞ」
ルイがそんなことを言う。
「ティス殿下より、
俺の方が絶対に優良物件だと
思うんだけどな」
確かに、そうかも。
絶対に王妃になりたい、って
思っている女性でなければ、
責任が少ない第三王子の方が
優良物件って思われやすいと思う。
でも、結婚は『条件』で
するものじゃないから、
そういうのは関係ないと思うぞ。
「ティス殿下がその調子なら
俺にも勝機はあると思うし。
なぁ、どうする?
俺がアキルティアに求婚したら。
俺と決闘でもするか?」
なんてルイは言うが。
ルイはどうしてそう
俺のことで、俺が会話に
参加していないのに
そうやって揶揄うのか。
ルイの言葉に
ティスは真剣な声を出した。
「ルイ殿下がアキを本気で
愛していると言うなら考える」
ルイの冗談に、
ティスは真面目に答えている。
もう、しょうがないなぁ、ティスは。
それはルイの言葉遊びで、
本気で答えなくてもいいんだぞ。
だってほら、ルイだって
言葉に詰まってるじゃないか。
ルイが俺を、アイシテル、なんて
いうわけないんだから。
ルイは言葉に詰まったようだけど、
だからと言って誰もそれを
責める者もいない。
ルイが「純粋なお子ちゃまには負けた」と
動く気配がして、
部屋の空気が緩むのを感じる。
あったかい、と俺は思った。
ここにいる全員との絆が
今までよりもずっと強くなったと、
そう感じたのだ。
みんなが揃ったこの場所が、
物凄く心地よく感じて、
俺は安心して意識を飛ばす。
ゆっくり、ゆっくりと
俺は眠りの世界へと意識を
落としていきながら、
皆のやわらかな気配をずっと感じていた。
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