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世界の均衡
142:みんなでお泊り・2
しおりを挟むその日は夕方まで、
俺たちは年相応の遊びをした。
カードゲームをしたり、
チェスをしたり。
子どもの頃はティスと
かくれんぼしたり
鬼ごっこしたりもしたが
学園に入る頃には
勉強の割合が大きくなり、
純粋に遊ぶ時間なんて
なかったと思う。
だからルイと義兄と一緒に
身分も何もなく
ただ勝ち負けで争ったり、
カードゲームの勝敗を
お菓子を掛けて競ったり。
それはティスにとって、
いや、きっと王子である
ルイにとっても
楽しい時間になったと思う。
もちろん、俺と
義兄にとっても。
ゲストハウスで俺たちは
大はしゃぎをして、
気が付くとあっと言う間に
夕方になっていた。
俺たちは一度、
遊びを終えてタウンハウスに戻る。
夕食を食べるためだ。
タウンハウスに戻ったら
父が王宮から帰ってきていて
ルイとティスは少し
緊張したような顔をしたが、
父は二人に挨拶をすると
今日はすぐに領地に戻ると言う。
「可愛いアキルティアは
殿下たちと遊ぶのが
楽しいようだからな」
父は俺を抱き上げ、
頬で俺をすりすりする。
「父様以外の者と
一緒にいて嬉しそうにしている
アキルティアを見るのは
辛いから、今日は愛する妻に
慰めてもらうよ」
って、理由が!
理由がなんとも言えないが。
でも父がいないなら
まだまだ自由に遊び放題だ!
と思った俺に気が付いたのか、
父は義兄に
「間違いが無いように、
アキルティアを頼んだぞ」
なんて言う。
義兄は「もちろんです」なんて
返事をしたが。
なんだ?
間違いって。
俺は夜更かしをしても
悪いことなんてしないし、
いたずらをして喜ぶほど
ガキじゃないぞ。
などと思ったが。
もちろん父に言えるはずも無く
俺は父が快く母の元に
戻れるように、父に笑顔を向ける。
抱っこされていたので
その頬に、自分の頬をすり、っと
寄せた。
「僕は友達も好きですが、
父様が大好きですよ。
もちろん母様も大好きです。
母様にそのことを伝えてくださいね」
見る見るうちに
父はデレッとした顔になり、
「うむ、うむ。必ず伝えよう」
と満足そうな声を出した。
その後、父はすぐに馬で
領地に向かってしまい、
俺たちは心置きなく、
リラックス状態で夕食を食べる。
ティスとルイでさえ、
安堵の表情で公爵家の夕食を食べ、
美味しかったとシェフを呼んで
労いの言葉までかけてくれた。
その後、僕と義兄と
ティスはタウンハウスで
お風呂に入ることにした。
ルイはゲストハウスに戻って
魔法で風呂を沸かすと言う。
「魔法なら一瞬だぜ」なんて
笑うルイを羨ましいと
一瞬だけ思ってしまった。
俺も早く魔法を
使えるようになりたい。
いや、使えるようになっても
お湯を沸かしたりは
できないんだったな。
じゃあいったい、
何ができるんだよ、って思う。
カミサマ、
紫の瞳の魔力が
従来とは違うものだって
わかってたんなら
取扱説明書ぐらい
作っておいて下さい!
俺はそんなことを思いつつ
風呂に入り、
タウンハウスの
サンルームに向かう。
ここから庭にでて
ゲストハウスに向かうから
ティスと義兄と
ここで待ち合わせをしているのだ。
サリーとキールが
俺の心配をして
一緒にゲストハウスに行くと
散々言ってきたが
俺は「兄様も一緒だから」の
一言でそれを却下し続けた。
ただ義兄からは
今後も一人で夜中に
ゲストハウスに行くような
真似はしないこと。
夜以外でも、
もしゲストハウスに
行くのなら義兄か
キリアスに必ず伝える。
行くときは一人ではなく
キールかサリーを連れて行く、
と言うことを
何度も念押しするように
言われている。
ゲストハウスは庭続きだし、
俺にしてみれば
庭の一部だ。
だというのに
この過保護具合に
俺は閉口してしまう。
だが嫌だというと
今後絶対にゲストハウスに
行くことができなくなるのは
理解しているので
俺は素直に頷いた。
俺がサンルームに着くと
すでにティスも義兄もいて
二人とも楽な恰好をしていた。
俺も寝間着だったが
サリーが湯冷めをすると言い、
薄手のカーディガンのような
ものを羽織らされている。
「アキルティア、
それを持って行くのか?」
義兄が俺を見て言う。
俺の手には
抱き枕であるクマが
抱っこされていた。
「うん」
俺が頷くと、
義兄はため息をつく。
「いつも一緒なんだね」
ってティスは笑う。
だって、抱き枕だからな。
寝る時には必要だろう。
「ティスが先に寝るなら
貸してあげるね」
って俺が言うと、
ティスは顔を真っ赤にした。
「今日は、あ、アキと一緒に、
そ、そばで一緒に寝るんだ」
ティスの恥ずかしそうな顔に
俺は初めての修学旅行みたいなものか!
って思った。
初めて家から離れて
友だちと寝泊まりするときは
緊張するよな。
寝相が悪かったらどうしようとか、
そんな心配もあるし。
だから俺はティスに
大丈夫、って笑って見せる。
「僕の寝相は悪くないから
隣で寝ても蹴ったりはしないよ」
それは義兄と一緒に寝たり
父と一緒に寝たりして
大丈夫なことは確認済なのだ。
「そ、そう」
とティスはさらに顔を赤くする。
もしかしてティスは
自分の寝相が心配なのだろうか。
「アキルティア、いいから
行くぞ」
義兄がため息をつきつつ
俺たちを促す。
「サリー、キール。
行ってくるね。
おやすみ」
俺が言うと二人は
心配そうな顔をしつつ
頭を下げた。
俺たちは庭を歩く時の
簡易の靴を履いて
ゲストハウスに向かう。
庭に出ると大きなまるい月が
煌々と輝いてた。
「すっごい綺麗」
俺が思わず言うと、
ティスも義兄も空を見上げて
頷いてくれる。
これはゲストハウスの
サンルームから空を
見上げるのが楽しみだ。
俺たちはゲストハウスの
正面から入るのではなく、
庭から……ゲストハウスの
サンルームから室内に入った。
タウンハウスとゲストハウスは
サンルームに繋がる庭同士で
繋がっているのだ。
簡易靴を脱いで、
サンルームのガラス戸から
中に入ると、
「いらっしゃい」
とルイが俺たちを出迎えてくれた。
俺は室内に入ると
すぐに上着を脱ぐ。
サンルームの中は暖かくて、
うすぐらい照明にしてあった。
ふかふかの絨毯の上に
人数分の毛布も置いてあり、
部屋の隅に寄せられたテーブルには
飲み物が置いてある。
もちろん、保温付きのワゴンも
その傍には置いてあり、
お茶も飲み放題だ。
俺たちはまずは
ソファーに座り、
夕食前に盛り上がった
カードゲームの話をした。
義兄がお茶では無く
果実水を配ってくれて
俺たちはそれを飲みながら
他愛のない話をする。
国のことも、紫の瞳のことも。
勉強のことも、カミサマのことも。
身分も、しがらみも、
全く関係のない、
ただの友人同士の会話だ。
義兄も、俺の兄ではなく
ティスたちと同等の
友人のように会話をしている。
ガードゲームをしながら
このゲストハウスの中だけは
全員、年齢も身分も
お互いの立場なども関係なく
友人として接しようと
取り決めたのだが、
それがさっそく功を奏したようだ。
義兄もリラックスした表情だし、
ルイもティスも楽しそうだし、
それを見ていると俺も嬉しくなる。
いいなぁ、こういうの。
これからはルイも
ここにいるし、
定期的にお泊り会とか
できないかな。
俺はそんなことを思いつつ
にこにこしながら
皆を見つめてしまった。
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