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世界の均衡
136:新しい部署ができました・2
しおりを挟む陛下はティスを見ていたが、
その後、俺たちを見回した。
「そなたたちには
過酷な試練になるやもしれん」
陛下は申し訳なさそうに言う。
「まだ若いそなたたちに
このような問題を託すのは
さすがに気が引ける。
長はジャスティスに任せるが
誰か顧問として大人を一人……」
その言葉に父が
動きそうになるのを俺は感じ、
大慌てで手を上げた。
「あの!
もし希望が叶うのであれば、
魔法学……魔石の研究をしている
魔法学の先生に打診しても
構わないでしょうか」
俺の言葉に父の動きが止まった。
「その理由は?」
陛下の言葉に、俺は頷く。
「創造神の話を聞きながら
僕は魔力、もしくは魔石の力を
もっと人間たちが活用できるように
なれば良いと思ったんです。
でも僕にはその知識はまだありませんし、
あの先生は魔石の研究をしています。
魔石の可能性を広げるための
素晴らしい研究をされているので
きっと、その知識は
この問題に役に立つと思うのです」
もっとも、先生が嫌がるのであれば
無理強いはしません、と
俺は一言付け加える。
陛下は、ふむ、と考えて
わかった、と頷いた。
「打診はしておこう」
陛下の言葉に俺は
頭を下げつつ、
父の腕をぎゅっと掴む。
父が「俺がやる!」と
暴れないようにするためだ。
父が俺たちの顧問になったら
話がややこしくなる。
振り回される未来しか見えない。
それに、学園にいるあの魔法学の
おじいちゃん先生だったら、
適当に俺たちを放置してくれるだろう。
魔石の知識もありがたいし、
先生なら、わざわざ王宮に
来てもらわなくても、
学園で話をすれば済むしな。
我ながら良いアイディアだと思う。
俺が自分の閃きに
満足していると、
陛下がこの話し合いを
まとめにかかった。
改めて俺たちが
創造神の意向に沿って
動くこと。
そのための部署を
王宮内に作ること。
その部署には俺やルイ、
義兄とティスがいるが、
子どもたちばかりになるので
大人を一人、顧問におくこと。
その顧問は学園の
魔法学の先生に打診してみること。
「そしてこのことは
口外無用にする」
陛下は力強くいう。
まぁ、そうだよな。
創造神に言われた、なんて話、
普通だと馬鹿にされるか、
逆に信じられると、
それはそれでややこしくなる。
いいかげん、俺は紫の瞳で
稀有な存在だと狙われがちなのに
創造神と話ができるとか言われて
さらに狙われかねない。
神殿の過激な神官たちがすでに
行動を映したみたいだしな。
俺は素直に頷く。
陛下の言葉は続いた。
「ただし、この件に協力ができて、
なおかつ信頼できると
判断した者に関しては
内容を明かして、
対策部へ引き込むことは構わぬ」
つまり、信頼できて
能力があれば、
一緒に頑張れると言うことか。
そういう人、いるかな?
「それは神殿関係者でも
構わないと言うことでしょうか」
義兄が手を上げ、
発言の許しを陛下に
視線で問うてから声を出した。
「神殿?」
父が眉をひそめる。
「はい、義父上。
アキルティアが創造神の声を
聞くためには、
神殿か、聖域に行く必要が
あるようです。
神殿に頻繁に行くことは
無いでしょうが、
協力者はいた方が心強いかと。
また実際に施策する場合、
平民たちを動かすには
神殿の力も借りる必要が
出てくるかもしれません」
「そうだな。
貴族たちは王家が言えば
それに従うだろうが、
平民たちにまで
その命令が伝わるのは難しいだろうな」
父も義兄の言葉に頷く。
「わかった。
王家と神殿との関係も
いずれは見直さねばならんと
思っていたところだ。
未来を担うそなたたちに
託すのも良いだろう」
陛下はそう言うと
ティスを見る。
「ただし、何かあれば
必ず報告はするように。
勝手に動くことはないように、
よいな」
「はい、父上」
ティスが良い返事をする。
よし、話はまとまってきたぞ。
この後、ティスと話がしたいんだけど
できるかな?
俺がティスへそっと視線を向けると、
ティスも俺を見ていた。
ティスも何か言いたそうだ。
そんな俺たちを見た陛下が
ひとまずはこれで話し合いは終わろう、と
声を掛けてくれる。
「アキルティア、
ジャスティスとお茶でも
飲んで帰るがいい」
その言葉にティスが嬉しそうな顔をする。
「はい。ありがとうございます」
俺が返事をすると
父が何か言いたそうにしていたが
俺は素早く
「父様、父様もこの後の
お仕事、頑張ってくださいね。
僕、仕事ができる父様も
かっこよくて大好きです」
と笑顔で父に言う。
父は嬉しそうな顔をして
大きく頷くと、
「よし、今日は早めに帰って
アキルティアとの時間を作るとしよう」
と立ち上がりながら俺を抱っこする。
「そのために
早く仕事を終えなければな」
父は俺の頬にすりすりしてから
俺の身体を下ろす。
「ジェルロイド、
あとは頼んだぞ」
父の言葉に、兄は歯切れのよい
返事をして頭を下げた。
父はそのまま陛下と一緒に
部屋を出て行く。
部屋にはティスとルイ、
義兄だけが残った。
よし。
ここで一気にティスとの
話も終えてしまおう。
俺がソファーに座ると、
ルイも再び椅子に座り直す。
ティスも陛下や父に
挨拶するために立っていたが
そのままソファーに座った。
だが、すぐに気が付いたように
俺を見る。
「アキ、喉乾いてない?
沢山話をしたし、お茶飲む?」
その言葉に義兄が反応する。
「では私が。
殿下はお座りください」
まだ立っていた義兄が
ドアの近くに置いて
あったワゴンに向かい、
お茶を淹れる準備をする。
この世界の、というか
王宮や公爵家のワゴンは
保温の魔石が組み込まれてあって
ポットはずっと暖かいままだ。
「ティス、あのね」
俺は義兄がお茶を持ってくるまでにと
ティスに話しかけた。
「ティスにはもう少し
話したいことがあるんだけど、いい?」
ティスはもちろん、という。
良かった。
すぐに義兄がお茶を持って来てくれて、
俺はお茶を一口飲んだ。
王家のお茶は高級な茶葉だし
美味いのだが。
何故、ストレートティーなのだ、義兄よ。
不満そうな俺の顔に気が付いたのだろう。
義兄が小声で
「砂糖もミルクも用意されてなかったんだ」と
小さくつぶやいた。
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