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世界の均衡
137:隠し事をばらしました
しおりを挟む俺がお茶を飲んでいると、
ルイが自分のカップを持って
俺の隣の椅子に移動してきた。
さっきまで父が座っていた椅子だ。
身分的には構わない位置の椅子だが
なぜかティスが嫌そうな顔をする。
ルイは、にまにま笑って
俺の頭をぐりぐり義兄のように撫でた。
「なにすんだよ」
俺が小声で言うと、
ルイは「ヤキモチでも焼かせようかと」
と小声で返してくる。
意味が分からん。
俺がそう思っていると
義兄が自分のお茶を淹れ終えて
ソファーに座った。
「アキルティア、殿下に話をするんだな?」
そして義兄は俺に確認するように言う。
俺は頷いた。
「うん、ティスが信じるかどうか
わからないけど、
隠したままは良くないと思う」
これから世界の発展に関して
協力していくのだから
隠しごとは無しだ。
俺の義兄の言葉に
ティスは目を見開き、
俺を正面から見つめた。
「私はアキの言うことなら
なんだって信じる」
俺の言葉にティスは
嬉しく思ったが。
何でも、は良くないぞ。
そういうことは
王子なんだから言わない方がいいぞ、
と心の中で注意をする。
でもそういう
まっすぐなところが
ティスは可愛いところだし、
好感ポイントなんだけどな。
「じつはね」
俺はゆっくりと声を出した。
「兄様は、僕の弟なんだ」
俺の言葉に、
空気が一瞬、固まった。
は?
なに言ってんだ?
って空気になり、
その空気をルイの大きな
笑い声が掻き消した。
「あ、アキ、アキラ、
その言い方は、ヤバイ、
オカシすぎる」
お腹を抱えて笑うルイを
俺は肘で軽くつつく。
うるさい。
ちょっと緊張して
言葉が足りなかっただけだ。
義兄を見ると、
義兄は義兄で呆れたような顔で
俺を見ている。
「ちょっ、待って。
言い方が変だったよね。
言葉が足りなかった」
俺は大慌てで
目を丸くしているティスに
さらに言葉を続けて言った。
「僕はね、
前世の記憶があって、
兄様は前世で僕の弟だったんだ」
それに、と俺はルイに視線を向ける。
「ルティクラウン殿下は
僕の友人だったの」
「同僚で親友で、特別だ」
ルイが俺の言葉を訂正するように言う。
俺は苦笑して
「悪友でした」と言い換えた。
ティスは驚いた顔のまま
固まっている。
「えっとね。
父様にも陛下にも言ってないんだけど
創造神の言っていた
この世界を発展させろ、って言うの。
そのために僕の前世の記憶は
そのまま残されていて、
兄様もルイも、それに巻き込まれて
ここにいるんだ」
「巻き込まれたわけじゃなくて
自分から来たんだけどな」
ルイがまた俺の言葉を訂正する。
だがその言葉に
義兄も頷いている。
「だからね。
兄様やルイと妙な話をしてたり
知らない言葉を使ってりしたら
前世の話だから
気にしないで」
「そうそう。
結婚式では、死が二人を分かつまで、
って言うけど
俺とコイツは、死んでもまた
一緒になったってことだ」
ルイが腕を伸ばして
俺の肩を抱き寄せる。
「ルイ、言葉の使い方がおかしい」
それは永遠の愛を誓う言葉だ、
と、俺がツッコむと、
義兄が俺を呼ぶ。
「アキルティア、こっちに来い」
「えーっ」
ルイが嫌そうな声を出すが
俺はルイの腕を
ぽい、と振り払って
義兄の隣に移動する。
義兄の座っているソファーは
二人掛けだから
広々なのだ。
「え? アキ?の弟?
兄?」
ティスは大混乱のようだ。
「殿下。
以前から私とアキルティアの
距離が近いと言われてましたが
そういう理由でした。
私は前世のアキルティアの
年の離れた弟でして。
前世では私は父が無く、
母も仕事で忙しく、
兄……アキルティアに
育ててもらったようなものでした」
「俺もそれに一役買ってたんだよね。
俺のおかげで食費が浮いたでしょ?」
ルイも恩着せがましく言ってくるが
もちろん、大助かりだったから
否定はしない。
「ほら。
小さいころから僕が
大人顔負けの理論で……とか
言われてたでしょ?
あれは前世の記憶があったからなんだ」
黙っててごめんね、って
俺は素直にあやまった。
ティスは俺が頭を下げたからだろう。
慌てた様子で立ち上がり、
俺のそばまで来る。
「殿下、信じられないなら
それでも構いません。
今までもこれからも、
何も変わりませんので」
義兄は近くに来たティスに
そんなことを言う。
けれど、ティスは首を振った。
「信じるよ。
アキがそんな嘘を付く理由なんてないし、
そう言われたら、
全部が腑に落ちる気がする」
ティスは俺の手を取る。
「じゃあ、アキとジェルロイドは
兄弟だから、結婚はしない?」
え?
今、そういう話だった?
「うん、結婚はしない、けど。
兄様は僕の前世の可愛い弟で、
今は兄だし」
俺は首を傾げながら返事をする。
義兄が呆れたような顔で
首を振っているのが見える。
「じゃあ、ルティクラウン殿下と
仲良しなのも、
幼い時だけじゃなくて
前世から知ってたから?」
「うん、そうなんだ」
幼い頃の話は嘘だけど
それは言わない方が良いよな。
「じゃあ、ルティクラウン殿下とは
親友……悪友だから、
結婚はしないよね?」
「うん。友達だから
結婚はしないよ」
その話、前もしたよな?
「俺は愛人でもいいんだけどな」
ルイの声が急に割り込む。
ややこしくなるから、
ヤメロ。
今は黙っててくれ。
「じゃあ、アキルティアは
誰と結婚するの?」
ティスにすがるように聞かれて
さらに俺は困惑する。
なんで結婚?
俺の結婚の話を
今する必要ある?
というか、ほんとに
そういう話だった?
「えっと、ティス?
僕は結婚しないよ。
まだ相手も決まってないし、
今はこの世界を発展させることで
頭がいっぱいだし。
僕は公爵家の子どもだけど
跡取りじゃないし、
身軽だから、世界のために
色々動きやすいと思うんだ。
結婚なんかしたら
身軽に動くこともできないだろうし、
当分は恋愛も結婚も考えれないよ」
俺がそう言うと
ティスは嬉しそうな顔をして
俺にしがみついてきた。
「わ、私も。
アキと一緒に頑張るよ。
この世界をもっと発展させるし、
そのために恋愛も結婚も
まだまだ必要ない」
え?
王子様がそれで良いの?
大丈夫?
と思ったけれど。
横目で義兄を見ると
何故か義兄は諦めたような顔で
俺とティスを見ているし。
ルイに至っては
ティスを揶揄う気満々の顔で
口元をにやけさしている。
俺、前世の話をするの、
結構緊張してたんだけどな。
案ずるより産むがやすしとは言うけれど。
話してみると
あっけなく終わってしまった。
まぁ、いいか。
それだけティスが俺を
信頼してくれてるってことだもんな。
俺はティスの頭をよしよしと撫でる。
「アキルティアとルイ殿下が
作業する部屋も王宮に
用意する必要がありますね」
義兄が今、ルイのことを
ルイ殿下って呼んだ!
やっぱり仲良くなってるじゃんか。
「今の役職はそのままで
新しい部署を立ち上げたという
認識で良いですよね」
義兄がティスに確認するように言う。
俺はその言葉にがぜん、
やる気がでてきた。
新しい部署か。
なんか、嬉しい。
俺にも仕事が与えられて
それに向かって頑張れるんだ!
考え方が社畜ベースっぽいが
嬉しいのだから仕方が無い。
俺はティスの手を取り
「頑張ろうね」と言うと
ティスは、うん、と
気を張っていたような
今までの顔とは違い、
幼い顔をして
嬉しそうに笑った。
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