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世界の均衡

131:親友襲撃

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  俺と義兄が遅い昼食を食べ、
食後のお茶を飲もうとしたとき、
執事のキリアンが来客の知らせを持って来た。

なんと、ルイが来たと言うのだ。

義兄はあからさまに嫌な顔をして
「離れの準備はまだ整ってない」
なんて言っていたが、
ルイはただ単に遊びに来ただけだと思う。

だから俺はサリーに
ルイを庭に案内するようにいう。

そして俺のお気に入りの
池のそばのガゼボを指定して、
そこにお茶とお菓子を
準備するように伝えた。
 
ちょうどいい。
義兄とルイに話を聞いてもらおう。

それに今から食後のお茶と
デザートを食べる予定だったから
何の問題もない。

「兄様、ルイと一緒に
お庭でお茶をしましょう」

俺が言うと、
義兄は嫌そうな顔をしたまま
それでも頷いた。

「兄様、何故急に
そんなにルイのことを
嫌うんです?」

俺が聞くと、義兄はさらに
顔をしかめた。

「アキルティア、
いや、兄貴。
あの友だちは、ヤバイ。
気を付けた方がいい」

うめくように義兄は言う。

だが俺は首をかしげるばかりだ。

俺は嫌そうな義兄の手を引き
庭へと向かう。

ルイは離れに近いガゼボに
案内をされていた。

このガゼボは橋の上にあって、
その下には池がある。

その周辺は俺が良く
石を拾っている場所だから
勝手は良く知っていた。

池にはスイレンっぽい花が
沢山咲いていて、
ガゼボに座ると
とても綺麗に見える。

「ルイ」

俺がガゼボのそばで
立っているルイに声を掛けると
ルイは俺を見て
片手を小さく上げた。

そして俺と義兄を見て
「手を繋いでるなんて
仲良し兄弟だな」なんて言う。

揶揄う気満々の顔に
俺は肩をすくめて見せた。

まだ近くにサリーがいるから
その誘いには乗らないぜ。

俺はルイを促して
橋の上のガゼボに行くと
すぐにサリーがお茶の
準備をしてくれた。

俺はルイと義兄を座らせて
サリーが下がるのを待ってから
二人に声を掛けた。

「ここなら誰にも
話を聞かれないから大丈夫だ」

橋の上だから
誰かが近くに来たら
すぐにわかるし、
密談するには良い場所だろう。

俺はルイを見る。

「俺の話を聞いて、
公爵家に来たんだろ?
先ぶれも無しに」

俺が言うと、
ルイは素直に頷いた。

「アキルティアが創造神に
攫われたと公爵殿が息巻いて
王宮に来ていたからね。

まぁ、ジャスティス殿下も
来たがってたけど、
彼は俺と違って色々と
面倒な立場にあるから
俺一人で様子を見に来たってわけだ」

ルイも面倒な、というか
本来は一人で出歩いたり
できる身分じゃ無いハズなんだかな。

「んで。
アキラはあの死神に会えたのか?」

ルイの直球な聞き方に
俺は笑ってしまう。

だけれど、その問いに
ずっと嫌そうな顔をして
ルイを見ていた義兄も
俺に視線を向けた。

「うん。それがさ」

俺はお茶を飲みつつ、
何があったのかを話した。

自分でもまだ
整理できていないところも
あったから、きちんと
説明できなかったかもしれないが。

一応、時系列でベットで
寝ていたら
クマが踊ってお茶会の準備を
したところから、神殿裏に
放置されて、聖騎士に
保護されたところまで。

全部話をして、
「二人とも、俺と運命共同体だからな」
と最後に言う。

なんたってカミサマが
そう言ってたからな。

俺の言葉に
何故かルイは楽しそうな顔をして
義兄はため息をついた。

「なんで兄貴は
そうやって面倒事ばかり……」

「いやいや、
これは不可抗力だし、
俺のせいじゃないし」

「いやぁ、楽しいじゃないか。
つまり、この世界の魔力は
まだまだ研究の余地があり、
大量の魔力を人間は得る可能性が
あるってことだろ?

いや、そのまえに紫の魔力だ。

考えられないことをなす魔力だなんて!

凄いじゃないか!
さっそく試してみるか。

いや、普通に考えるようなことは
できないんだったな。

なんだか便利そうで
不便そうな、よくわからない
魔力だな。

だから性別が変わったり
子宮が生まれたりするんだな」

ルイが嬉しそうに
独り言を早口で話し始める。

ヤバイ。
ルイが暴走しはじめた。

そして義兄は胃のあたりを
手で押さえて、
うなだれたように首を振っている。

なんだ、この反応の違いは。

まとまりがないというか、
なんというか。

でもカミサマが
「やれ」っていったことだし。

俺は拒否したけど、
それは無視されたようだしな。

無理でもやるしかないんだ。
……嫌だけど。

それでも一人で抱え込んで
頑張らなくても良いのは助かる。

「と、とにかくさ」

俺は二人を交互に見た。

「カミサマがこの世界を
発展させろって言ってるんだから、
一緒に考えてくれよ」

俺がそう言うと、
ルイが俺を見た。

「それはいいけど、
結果はすぐには出せないぞ」

俺は頷く。
それは思っていたことだ。

世界を発展させるなど
数か月、数年単位で
できることではない。

短期プランと同時に
長期プランを考えて検証し、
必要があれその都度、
状況をに合わせて
変更していく必要がある。

そして
それらの行動ができるだけの
身軽な立場と、
実行できる権力が必要だ。

そこまで考え、
俺は、だから、俺なのか、と
ふいに思った。

俺はあの父に溺愛されている
血のつながったたった一人の息子で
けれど、次期当主ではないので、
気軽な立場で入られる。

それこそ、一生結婚せず
公爵家にいればいい、と
言って貰える程度には。

そして俺のために
転生してきた義兄は
次期公爵であり、
ルイに至っては隣国の王子だ。

権力も、財力もある。

人を動かすこともできるし、
しかもこの二人は
俺が頼めばきっと、
嫌がることなく動いてくれるだろう。

カミサマの人選は間違ってない。

「俺さ、ティスにも
このことを伝えようと思うんだ」

ティスならきっと
力を貸してくれるだろうし、
次期国王のティスに
手伝ってもらえたら
この国の改革も上手くいくと思う。

「そうだな、
実行力と言う意味では
この国の王子の協力は不可欠だな」

俺たちが考えたことを
実行できるだけの後ろ盾は必要だ。

俺とルイが話していると
義兄が俺を見る。

「それは前世の話も
含めて話すってこと?」

俺は頷く。

「その方が理解してもらいやすいだろ?」

「信じて貰えない時は?」

義兄は言うが
俺はきっとティスは
信じてくれると思うんだ。

根拠なんかないけど、
ずっと一緒に育ってきたから
大丈夫って、俺は思ってる。

「ならさ」

俺が義兄に返事をする前に
ルイが俺を見た。

「思い切って、この国の
国王と公爵殿も巻き込んだら?」

「「は?」」

俺と義兄の嫌そうな声が
綺麗にハモった。



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