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閑話6
前世兄のせいで胃が痛すぎる【義兄・ジェルロイドSIDE】
しおりを挟む……疲れた。
アキルティアが王宮に来たまでは良かった。
前世兄の優秀さがわかるぐらい
俺たちの溜まっていた仕事は
みるみるうちに減ったし、
優先順位すら見失っていた
俺たちに道筋を立てて
方向を示してくれた時は
さすが俺の前世兄だと尊敬の念まで生まれた。
ルティクラウン殿下まで
引っ張り出して、ずっと難航していた
隣国との調整もどんどん進み、
まぁ、俺も調子に乗っていたとは思う。
気が付けば
あっという間に夜になっていて
もともと体力がないアキルティアは
すでに限界が来ている状態だった。
それから眠いから
王宮にある俺専用の部屋の
ベットで一緒に寝たいと言う
アキルティアを何とか宥め
昼ご飯すら食べていないという
アキルティアに何とか
食事を食べさせたが。
ほんとにアキルティアは、
やらかしてくれる。
王家から婚約の打診があり、
それを断り続けている今、
アキルティアが王宮に
泊まるなどあってはならない。
どんな邪推をされるか
わからないからだ。
だがそのことは
伝えていないから
仕方が無いといえば
仕方が無いのかもしれない。
だが。
だが!
プリン一つで
「嫁に行く」とか言うか?
普通、言わないだろう?
昨夜に引き続き今朝もまた
声には出していなかったが、
あの食堂でアキルティアは
絶対に「嫁にしてー」とか
言う気だった。
そんな目をしていた。
咄嗟に殺気を送って威嚇して
黙らせたが、
俺が見張ってないところで
アキルティアが何を
しでかしているか
不安でしかない。
本人は冗談の
つもりかもしれないが
その冗談が通じるのは
前世兄であって
アキルティアではない。
そして相手は王家だ。
ジャスティス殿下だ。
一言でも「嫁にして」なんて
言ってしまったら
冗談では済まなくなる。
何故それがわからないのか。
あの無邪気を装った
天然ぼけの瞳に
どんなフィルターが
かかっているのか
ぜひとも教えてもらいたい。
だいたい前世兄は本人……
アキルティアの容姿の
可愛さを理解していない。
13歳にもなって
クマのぬいぐるみを
連れまわして違和感が無く
何も言われないのは、
ひとえにその容姿のせいだ。
確かに13歳は子どもだが
幼児ではない。
アキルティアは、いや前世兄は、
13歳を物凄く子供のように
捉えているような感じだが、
俺に言わせたら13歳なんて
もう立派な大人予備軍だ。
俺が前世で13歳の時は、
早く大人になりたくて
必死だった。
13歳なんてそんな
可愛いものではない。
だが、前世兄にとっては
13歳の前世の俺は幼児みたいな
ものだったのかもしれない。
いや、そんなことを
考えては落ち込むだけだ。
とにかく、アキルティアは
紫の瞳の魔力のせいか、
食事の量も少なく、
身体の発育も遅い。
まだ背も低いし、
小柄で華奢な体付きだから
誰も気にしてはいないが
普通は13歳にもなって
ぬいぐるみを持ち歩く真似はしないし
父親の膝の上で食事はしない。
まぁ、俺もたまに
甘やかしたくて
膝に乗せてしまうこともあるが、
それはそれだ。
アキルティアはその容姿の
可愛さに誤魔化されそうになるが
なにかとすぐにやらかして、
その後始末に俺は疲労困憊だ。
しかもそれが嫌じゃないのが
困ったところだ。
結局俺は、
前世兄の役に立っている
自分が嬉しくて仕方ないのだ。
そういえば、今朝は焦った。
昨夜は本当は俺も一緒に
アキルティアと同じ客間に
泊まるつもりだった。
寝る時の様子も
気にはなっていたし、
夜中に何かあっては困ると
思ったからだ。
だが、あの時は
俺があの場に残ることは
無理だと判断した。
なので一度、
自分に与えられた部屋で
シャワーを浴びて
着替えてから、
アキルティアの部屋に
行くつもりだったのだ。
だが、俺もさすがに
疲れ切っていて。
気が付けば眠ってしまっていた。
朝、目が覚めて
俺が大慌ててで
タウンハウスから届いていた
荷物を持ってアキルティアの
部屋に駆け込むと、
アキルティアは何も
覚えていない様子だった。
無邪気な顔に怒鳴りたくなる。
が、もちろん、
怒鳴ることなどできない。
俺は前世兄にも弱いが
アキルティアの可愛い、
いかにも弱そうな顔にも弱いのだ。
中身が前世兄だとわかっているのに
強く出たら泣かせてしまいそうで
感情的になれずに自分で感情を
押さえてしまう。
とにかく着替えさせて
早くタウンハウスに帰そう。
王宮に泊まったことが
王妃たちに知られてしまうと
不味いことになるかもしれないし
その前に義父に話をするべきか。
だが知られたくない。
面倒なことになりそうだしな。
誰をどう口留めするべきか。
そんなことを考えつつ俺は
アキルティアの着替えを手伝った。
するとアキルティアは
何故かシャツを脱いだら
全裸だった。
は?
って思ったぞ。
焦った。
いや、本気で。
俺は一瞬で、前世兄の弟に戻った。
それぐらい驚いた。
昨夜俺が寝ている間に
何かあったのかと思った。
夜這いに来るとしたら
ルティクラウン殿下か?
いや、まさか、
ジャスティス殿下が!?
まだまだガキだと思っていたが
もっと厳しくしつけておくべきだったか。
俺が慌てているのに
アキルティアは眠そうな目で
きょとんとしている。
慌てて
「兄貴、パンツは?」
と聞いても、良くわからない、
と言う顔をする。
「パンツ?」
と首を傾げて、アキルティアは
自分の身体を見下ろし、
おぉ!って驚いた声を出した。
可愛い声で、
おぉ!と驚かれると
めちゃくちゃ違和感だった。
だがそんなことではない。
「自分で脱いだのか?
誰か、夜中に来た?
脱がされた?」
と俺が聞いても、
アキルティアは首を傾げるばかりだ。
結局夜這いは俺の勘違いだったが
アキルティアのそばに居ると
神経がもたない。
胃が痛い。
前世ではこんなことには
なったことがないぞ。
前世では兄貴もこうやって
俺のことを考えて
胃を痛めていたのだろうか。
……いや別に。
だからと言って
どうとも思わないが。
嬉しくなんかないし。
とにかく何をしでかすか
まったくわからないアキルティアは
タウンハウスに送り出した。
あとは、ルティクラウン殿下だ。
この後、二人で話をしたいと
昨夜既に申し込みをしており、
今朝、了承を貰っている。
とにかくアキルティアはおいておいて
ルティクラウン殿下が何を考えているか
探るしかないな。
本当にアキルティアと。
前世兄と一緒にいたいというだけで
婚姻を望んでいる……ということが
あるのであれば、俺も考えてもいい。
だが、そんなことあるのか?
結婚だぞ?
もしルティクラウン殿下まで
本気で、恋愛感情で
アキルティアを望んでいると
言われたら……
俺は胃痛で倒れるかもしれない。
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