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世界の均衡

123:加護と世界・2

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 カミサマの話は続いた。

 『そなたは
そなたが住む世界を
どう思う?』

まるい手でお茶を飲みながら
クマは俺を見る。

ぬいぐるみなのに、
お茶を飲んでも
布の身体は水浸しに
ならないんだな。

なんてどうでもいいことを
俺は思った。

「どう、とは?」

カミサマの意図が分からず
俺は首を傾げる。

『実際に住む人間から見て
生きやすい、住みにくいなど
何かないか?』

そう言われ、
俺は魔法のことを思い出した。

「もっと人間たちが
魔法、もしくは魔石を
使うことができれば良いと思います。

俺の元の世界は、魔法のかわりに
科学がありました。

あれは人間たちの研究の末、
手に入れた文明の力だと思います。

でも魔法は違う。

人間がどんなに努力をしても
手に入らない不確かなもので
人間の生活が左右されるのは
あまり良くないのではないかと」

はっきり否定して良いのか
わからず、俺はそこまで言って
口を閉ざした。

魔力よこせ!とは言えないしな。

それに俺は紫の瞳の話もしたい。

世界がどうとかよりも
まずは自分のことを知りたいのだが。

クマは顎に手を当てて
考えるような素振りをする。

カミサマの声も聞こえないので
カミサマもきっと
考えているのだろう。

「あの」

俺は思い切って声を出した。

「そもそも
紫の瞳の魔力とか
加護というのは
どんなことができるんですか?

魅了の力とかあるのでしょうか」

聞くのは話が途切れた今しかないと
俺は話を持ち出したが。

クマがそんな俺をちら、と見て
ふん、と鼻を鳴らして笑った。

絶対に笑った!
ぬいぐるみのクマのくせに。

魅了?
はぁ?

みたいな顔した!

『魅了など、
通常の人間には過ぎた力だ』

ですよねー?
俺はその言葉が聞きたかったんですよ。

それで十分です。

『私の与えた加護は、
幸運を呼び寄せる力、だ』

幸運?
運が良くなるってことか?

『人間たちは良く、
運が良い、悪いというだろう?

起こった出来事は
同じであっても、人によっては
運が良いと判断し、
別の人間は運が悪いと判断する。

私が与えた加護は
常に、与えた者にとって
幸運になるように、
周囲が動く力だ』

どう言う意味だ?

俺が首をかしげると、
そうだな、とクマは俺を見る。

『そなたが何かをした場合、
周囲の者はそなたを咎めるのではなく
好意を持つように運が作用する』

好意、と言う言葉に
俺はドキっとした。

『たとえばそなたが
他人を傷つけたとしよう。

本来であれば、そなたは
咎められるはずがが、
周囲はそなたが
悪いのではないと
判断するような状況になる。

運が悪かっただけ。
偶然、そうなっただけ。

そなたが悪いわけではないし、
逆にそなたを守らなければ、と
周囲の人間はそう思うように
物事や状況が動くだろう』

それ、魅了ってことにならないか?

いや、ならないんですね。
運が良いだけなんですね。

丸い目でクマに見つめられ
俺は反論せずに、そうですか、と
頷いた。

「じゃ、じゃあ、
俺の持っている紫の魔力は
子どもを生む以外に
何かできないんですか?」

これも聞いておきたい。

だが、クマはまた
何を言ってるんだ?と
言いたげに、大げさに
両手を上げて首を振る。

前世でよく見た映画や
アニメの中で外国の人が
やれやれ、というようにする、
大げさなジェスチャーだ。

『何故、そう考える?
人間とは不思議な生き物よな』

いや。
そう考えたんじゃなくて、
子どもを生めるってのが
事実だし。

どうなってんだ?

もしかして、
人間たちとカミサマとでは
もしかして紫の瞳の魔力自体、
捉え方が違うんじゃないだろうか。

これは腰を据えて話を聞かねば。

俺は椅子に座り直す。

「今いる世界では
紫の瞳の者は

『持っている魔力を
すべて使って、
子どもを生むことが
できる身体になる』

と言われていて、

それ以外のことでは
魔力は使えない
……少なくとも、俺も含めて
今までの紫の瞳の者たちは
全員、使えなかった、と思います」

俺はクマを見た。

「この体の魔力も、
最初は試してみたんです。

炎を出す、水を出す、
色々やりたくて本を見て
学んでみましたが、
無理でした」

俺は雷を出したりしたかったのに。

「そして、この体は
子どもを生む体になるために
魔力はかなり消費されるらしく、
ずっと病弱で、成長も遅い
……みたいです」

俺の訴えに、
クマは上げていた手を下ろし
俺を見た。

どうやらカミサマは
驚いているらしい。

『そうか。
人間は思いつかないことは
できない生き物なのだな』

どういう意味だ?

確かに思いつかないことが
できるはずもないが。

そんなの、当たり前だろう?

俺の心を読んだかのように
カミサマは、息を深く吐いた

カミサマは言う。

紫の瞳の加護は、
通常の人間では

ものなのだと。

つまり、魔法で言えば、
既にある火を生み出すとか
水を出すとか俺がやりたかった
雷を落とすとか。

そういうものは
すでに他の人間たちが
考え、やっているとだから
紫の瞳の魔力ではできない。

紫の魔力とは、
魔法だからだ。

そんなの、聞いてないし。

通常では、できないことを
紫の加護の持つ者は可能にするから

男でも子供を生むことが
できるようになったり、
女性に体が変化したりするということだ。

またカミサマの話では、
前世で女性だった魂は
赤味を帯びた紫の瞳に
なることが多いらしい。

つまり、
赤味を帯びた紫の瞳の人間が
女性の身体に変化すると言われているが
そうではないのだ。

その本人が無意識に
『子どもを生みたい。
女性になりたい』と思うから、

紫の魔力を無意識に使って
身体を変化させているのだろう。

そして紫の魔力は
通常の人間の魔力よりも大きい。

身体を変化させるぐらいだからな。

俺が身体が弱いのは
その膨大な魔力を使わずに
いるから、身体が疲れているのだろう、
ということだった。

つまり魔法をガンガン使えば
俺は元気になると言うことだ。

なんだよそれ。
早く言ってくれよ!

俺はクマに掴みかかりたくなる。

でも魔法を使うって言っても
すでに誰かが思いついてるような
ことはできないんだろう?

じゃあ簡単に魔法を使うなんて
できないじゃん。

頭を抱える俺に、
クマはまたテーブルに乗り
俺の頭を撫でる。

嬉しいけど、クマ。
熱いお茶がカップに入ってるから
テーブルに乗ったら危ない。

俺はクマを抱き上げて
前の椅子に座らせる。

クマは大人しく椅子に座ったが
俺の腕を離さない。

中身がカミサマでなければ
俺はクマを抱っこして
座っても良いのだが、
さすがに躊躇ってしまう。

クマは俺の腕に
しがつみいたままだ。

はそなたを
気に入ってるようだな』

カミサマは言う。

俺を気に入ってると言う意味か?

ぬいぐるみなのに?

『すべてのものに
魂は宿る。
はそなたに
大事にされて魂を
宿らせているのだろう』

本気で!?
すげぇ!

クマ!
お前は俺の抱き枕だが
それは言わないでおこう。

『紫の加護の話は理解できたか?
では世界の話に戻ろう』

俺は全然納得してないが
カミサマは俺に意見を言わせず
話を世界へと戻してしまう。

『そなたには、
世界をもっと繁栄させて欲しいのだ』

は?

ただの元社畜に何言ってんの?

俺は声を大にして言ってやるぜ。

「人選、間違ってません?」

そんな俺を、俺の腕に
しがみついていたクマが
つぶらな瞳でじっと見た。

クマ、俺を責めるように
見るのはやめて欲しい。









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