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隣国の王子
118:挙動不審の王子
しおりを挟む俺の荷物を持った義兄に連れられ
俺はティスたち王族が使う
食堂に向かう。
途中、王宮の侍従さんと
出会ったので
義兄は荷物と俺のクマを
公爵家の馬車へ運ぶように
依頼をした。
その後、すぐに
食堂に着いたのだけれど、
すでにティスもルイもいて
俺は素直に「遅れてごめん」と
あやまっておく。
俺が寝坊したから
待たせてしまったのかもしれない。
二人は気にしないと言ってくれたが
ティスの様子がおかしい。
俺の顔を見るなり、
頬が赤く染まり、おはよう、の
言葉さえ、つっかえている。
俺が義兄にエスコートされて
ティスの正面に座ると
ティスは耳まで真っ赤になった。
「ティス、大丈夫?
しんどい?」
熱でもあるんじゃないか?
「え、あ、う。ん。
大丈夫」
というが、あやしい。
これは早く朝食を食べて
俺は帰ることにしよう。
友人がいたら、
落ち着て休めないだろうしな。
「そういえば、
くまのぬいぐるみは?」
ティスの隣に
座っていたルイが言う。
「僕の着替えた服と一緒に
先に馬車に乗せておくように
兄様がお願いしたんだ」
俺の口調に、不本意だという
意志を感じたのだろう。
「そんなにクマと一緒に
いたかったの?」
とルイが笑いを堪えた顔で言う。
そんなこと、全然思ってない顔だ。
俺の今の容姿が可愛い系だから
からかう気満々なんだな。
だが俺はそんな誘いには
乗らないぜ。
目の前にはティスがいるからな。
今の俺はアキラではなく
公爵家のアキルティアなんだ。
前世の俺ならすぐさま
「そんなわけないだろ。
さっきまで俺が使ってた
抱き枕を知らない侍従さんに
運ばせるのが申し訳なかったんだ」
なんて言うかもしれないが。
俺は13歳の子どもだからな。
だから子どもが言うような
言葉を選んで言う。
「僕はクマさんが
大好きだから。
ティスだって、
僕のクマさんが
ふわふわで気持ちいいって
知ってるもんね」
と俺がティスに
話を振ると、
何故か水を飲もうとしていた
ティスが大きくむせた。
大丈夫か、ほんとに。
そばに控えていたメイドが
慌てた様子でティスに駆け寄る。
ティスは問題ないと
手で合図をしていたが、
もうお兄ちゃんは心配だよ。
まぁ、俺はティスの
兄ではないけどな。
ティスが落ち着いたあと
すぐに朝食が運ばれてきた。
俺の食事量に合わせてくれたのだろう。
皿には小さめのパンケーキに
フルーツとクリームが
たっぷり添えられている。
それに甘いミルクティーだ。
いただきます!と思って
周囲を見ると。
パンケーキを食べるのは俺だけで
ティスもルイも義兄も
普通のパンとハムにスープ。
それから卵。
あれ?
「ティス、僕だけパンケーキ?」
俺だけ特別扱いか?
「アキルティア。
殿下たちも、朝から甘いものは
食べないようだ。
そのパンケーキは
アキルティアが食べたいと
昨夜言っていたから
王宮のシェフが用意してくれたのだろう」
え?
本気で?
それは本気で申し訳ない。
俺、そんな主張をしたこと
全然覚えてないし。
「アキが好きって言ってたから。
ね、食べてみて」
ティスの言葉にうなずいて
俺はパンケーキにクリームを
たっぷりつけて食べる。
うまーい!
めちゃくちゃうまい!
このクリーム、
作り方教えて欲しい。
お願いしても、教えてくれないだろうな。
シェフの秘伝のレシピとか言うんだろうし。
うん?
「兄様?」
「なんだ?」
「僕、昨日、プリン食べた?」
ぶぶーっと、ルイが口元を
ナプキンでおさえつつ噴き出した。
ルイ、行儀が悪いぞ。
「アキはプリンが食べたかったんだよね」
義兄の代わりに、ティスが返事をしてくれる。
「昨日はね、アキが眠そうだったから
プリンは朝食の後に
出してもらうようにしたんだ」
そうか!
よかった。
あのプリンを食べてたのに
食べた記憶がないなんて
あんまりだ、と思ったが。
食べてなかったんだな。
そして今からそれを食べることができる、と。
なんだ?
ここは天国か?
こんなに美味しいクリームと
プリンが食べ放題なんて!
いや、食べ放題でもないか。
「そんなに嬉しそうな顔を
してくれると、私も……
シェフも喜ぶよ。
プリンは多めに作ったって
聞いているから、
お土産に持って帰る?
昨日のクッキーのお返しに」
ティスの提案に
俺は、うん、うん、と頷く。
俺の様子にティスは
近くにいた侍従さんになにやら
目線で指示をする。
そんな俺の様子に
義兄は
「アキルティア。
どんなにクリームと
プリンが美味しくても、
結婚は別だからな」
と当たり前のことを言う。
なに言ってんだ、
当たり前だろう?
俺がそう思って義兄を見ると
義兄はまた、大きく息を吐いた。
なんだ?
どういうことだ?
「アキ、でもね」
俺がパンケーキを再び
食べ始めると、
ティスが俺の顔をじっと見た。
「王家にお嫁に来たら、
毎日、このパンケーキと
プリンが食べれるよ」
それは魅力的!
と思ったけれど。
思ったけれど。
義兄の鋭い視線に
俺は心の中で
すみません、すみません、と
叱られた犬のように
絶対服従の状態で
必死で何度も謝罪した。
そんな俺の様子を
ルイはひたすら笑いを
堪えるようにナプキンで
口元を隠して震えていたし。
ティスはお嫁に来たら、
なんて自分から言ったくせに
何故か照れたようで、
顔をまっかにして
俯いてしまうし。
友人とお菓子の取り合いして
「俺んとこに嫁に来る?」とか
「俺のよめー」とか
ふざけて言うのは、
よくあることだと思うんだけどな?
そうか。
ティスはあまり友達が
いないから、そういう冗談を
言ったことが無かったんだ。
初めて冗談を言った時って
恥ずかしくなるよな。
よし、ここは俺がその冗談を
受け入れて「嫁にしてー」とか
言っておくべきか。
「兄貴、やめろ」
俺が口を開きかけた瞬間、
何故か義兄が弟になり、
ドスの利いた声で小さく言った。
声は小さかったから
ティスにもルイにも
聞こえなかったと思うが。
俺はその怒りのこもった声に
本気でビビった。
そこで俺は何も言わず、
大人しくパンケーキを
もぐもぐ食べて
プリンを待った。
俺、なんで朝から
こんなに叱られているのだろう?
理不尽でしかない。
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