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隣国の王子

113:義弟はやらかしまくる【義兄・ジェルロイドSIDE】

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 俺はアキルティアが
眠ったのを確かめてから
アキルティアの目を
隠していた手を離した。

泣いたように思えたのは
気のせいだったのか。

アキルティアは可愛い顔をして
ぬいぐるみにすりすりと
頬を擦り付けながら
寝ている。

本人の証言通り、
クマはいかにも抱き枕で、
アキルティアは全身で
クマに抱きついて眠っている。

それはシーツの上からでも
すぐにわかるし、
仕草だけでも幼児か!って
ツッコミたくなるぐらいだ。

しかし、アキルティアが
あんなに眠気に弱く、
幼い状態になるとは
知らなかった。

屋敷では確かに食事の後は
眠そうにしていたが、
すぐに自室で眠ることが
できていたので、
さほど気にしていなかった。

それに俺は
前世で兄が寝ている所を
見たことが無かったし。

前世の兄はいつも俺の前では
動いていた……というか
働いてばかりだったから
朝が弱いとか
眠気に弱いとか
そんなことは思いもよらなかった。

でも、さっきのアキルティアは
純粋に可愛かったと思う。

幼い弟に甘えられ、
懐かれている感覚で
正直、顔がにやけそうだった。

前世兄に頼られたいと
ずっと思っていた俺としては
物凄く嬉しいことだ。

が。

それは俺一人の場合なら、だ。

なにせここには
アキルティアとの結婚を
望んでいる二人の王子殿下が
いるのだから。

といっても、隣国の
ルティクラウン殿下は
前世兄の親友らしいし、
害はないだろう。

……と、思いたい。

問題はジャスティス殿下だ。

一目ぼれらしいが、
傍から見ていても殿下が
アキルティアに好意を
持っていることは誰もが、
いや、アキルティア以外は
誰もが知っていることだ。

それぐらいわかりやすく
好意を示されているのに
アキルティアは全く
その好意に気づかない。

たまに可哀そうになるが
王家に嫁に出したくない
俺としては万々歳だ。

王家なんぞに嫁に行ったら
苦労するのが目に見えている。

「アキルティアは
眠ったようです。
お手数をおかけしました」

俺は一応、
二人の王子に頭を下げた。

「いや、その……」

ジャスティス殿下が
頬を赤くしたまま
言い淀む。

「二人は良く、
一緒に寝ている、のか?」

そう来たか。
俺とアキルティアは
今は兄弟とはいえ、
血縁関係のない義兄弟だからな。

そう言った心配を
するのも当たり前だろう。

「私が公爵家に
引き取られたとき
アキルティアはまだ3歳でした。

恐らく初めての兄が
嬉しかったのでしょう。

時折、一緒に寝たいと
駄々をこねられましてね。

それ以来、アキルティアは
甘えたくなると
一緒に寝たいと言うんですよ」

まだまだ子どもで、と
俺は苦笑するように言う。

「今日は慣れない王宮に
一人で寝ることに
不安になったのでしょう。

クマと一緒に寝るように
なってからは、
私と一緒に寝たいなどは
あまり言わなくなっていたのですが」

常に一緒に寝ていると
思われるのも困るので
俺は今回のことが
かなり特殊な例だと言外に告げる。

「そう、か。
アキルティアはずっと
公爵家から出たことが
なかったのだしな。

慣れない場所は
さぞ不安なのだろうな」

わかったら、
王家の嫁に、などと思わず
さっさと諦めて欲しい。

「それにしても
アキルティア殿は
眠たいと随分と可愛らしく、
幼い感じになるのですね」

ルティクラウン殿下が
声を挙げた。

声を押さえて笑っているが、
きっと、ジャスティス殿下が
いなければ、お腹を抱えて
笑い転げているだろう。

そんな気配がする。

前世兄の同僚と言っていたが
かなり親しかったのだろうとは
すぐに推測できた。

だが、そんな相手が
何故、アキルティアに
求婚なのか。

一度、本気で話を
聞かなければならないようだ。

「さぁ、お二人とも、
アキルティアのために
ありがとうございました。

私も休ませていただきますので、
お二人もどうぞ、
お休みください」

追い出すように
二人を入口に促すと、
ジャスティス殿下が
俺を、じと、っとした目で見る。

「私たちを追いだして
アキルティアと一緒に
寝るわけではないよな?」

俺とアキルティアが一緒に
寝るのがそんなに不安か?

そんな心配をしなくても
俺にとってアキルティアは
兄だぞ?

いや、可愛い弟か。

ジャスティス殿下は
まだ14歳だったな。

閨の教育はまだ……だよな。

前世では漫画や小説、
インターネットなんかでも
情報が
溢れていたから、
わざわざ学ぶことなんて
なかったけれど。

この世界では

貴族の教養として
成人前までに教えられる。

何をどれぐらい学ぶかは
各家門や、当主の考えで
違うらしいが
王族ともなれば、
時期が来れば
それなりの知識を
教えられるのだろう。

少なくとも
ジャスティス殿下は
アキルティアを
対象で
見ているはずだ。

今はまだ知識が
追いつかなくても、
恋愛対象として見ていると
言うことはそういうことだ。

だからこそ、
ジャスティス殿下と
アキルティアとの距離は
適切に離して
おかなければならないし、

俺とアキルティアの距離が
近いことに邪推する必要は無いと
示しておかなければ
ややこしいことになりそうだ。

なにせ、アキルティアは
俺との距離がとにかく近い。

前世でも兄はやたらと俺に
べたべたひっついてきていたし、
他の家庭よりも俺たち
兄弟の距離は近かったと
言う自覚はある。

何せ俺は兄に
育てられたようなもんだしな。

ただ前世ではそれでも良かったが
この世界ではその距離感は
親しい相手限定だ。

アキルティアは友情で
抱きついたり、
手を握ったりするが、
この世界ではそれは
かなり相手限定なのだ。

幾度となく
そう言ったことを
アキルティアに伝えてきたが

アキルティアにはまったく
伝わっていない気がする。

俺はもうため息しか出ない。

「ジャスティス殿下、
私とアキルティアは
兄弟であり、それ以上でも
それ以下でもありません。

年が離れていますので
確かに可愛い弟だと
甘やかしている所もありますが
ただそれだけです」

きっぱり言うと、
ジャスティス殿下は短く
そうか、と頷いた。

「邪推をした、すまない。
アキがあまりにも
ジェルロイドを慕ってるから
その……嫉妬してしまった」

……素直だ。

こういうところが
前世兄的に
ほっとけないというか
気に入っていると言うか。

面倒を見たくなって
色々やらかしているんだろうと
言うことは俺でも理解できる。

とはいえ、このままだと
王家の嫁に一直線だと言うことに
早く気が付いてくれ!と思う。

俺はこの部屋に残ると
またヤヤコシイことになると思い、
二人の殿下と一緒に
アキルティアの部屋から出ることにした。

この調子だと明日の朝も
また面倒くさいことになりそうだな。

はぁ。
俺、最近ため息ばかり
ついてる気がする。


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