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隣国の王子

110:誰と寝ます?

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 俺は文官たちから話を聞き、
それを元にティスと義兄と話をする。

だが、各省に話を回したり、
ましてや隣国とのやり取りを
間に挟んでしまうと
時間もかかるし、はっきり言って
伝言ゲームのような状態になることもある。

「ティス、ルティクラウン殿下を呼ぼう」

「え? は?」

俺の提案に部屋の全員が
口を開けて俺を見る。

「隣国とのやりとりは、
すべてルティクラウン殿下に
やってもらえば話は早いと思います」

「い、いや、
そうかもしれない……けど」

慌てるティスに
俺は「呼びましょう」と強く言う。

それでも迷うティスを見て
義兄に俺は声を掛けた。

「兄様、ルティクラウン殿下に
こちらに来れるか聞いて下さい。

どうせこの国には
遊びに来てるんだから
時間を持て余しているでしょう」

さすがに隣国の王子に
その言い方は無いと
思われるかもしれないが、
義兄は俺がルイと前世からの
友人だと言うことを知っている。

だから、わかった、と言い、
侍従にルイのところへ
使いを出してもらうことができた。

しばらくすると
ルイが侍従に連れられてやってきた。

一応、隣国の王子だから
見られて困るような書類は
先に隠してある。

「お誘いいただいてありがとう」

なんてルイは優雅に入ってくる。

だが文官たちは
ほぼ固まっていて、
声を出せそうにない。

俺はルイに持って来ていた
クッキーの小袋を見せた。

「ルティクラウン殿下、
クッキーを焼いてきたんです。
召し上がりませんか?」

丁寧に俺が言うと、
ルイはにやり、と笑った。

「それはそれは光栄です。
それで。
そのクッキーを頂くために
何をすれば?」

そう聞いてくるから
話は早い。

「じつは手伝って頂きたい
ことがありまして。
無礼講で手を貸していただけますか?」

俺が言うと、ルイは頷く。

「もちろん。
それに私たちは友人ですからね。
気軽に話をして頂いて構いません」

いきなり話しかけても良かったが、
俺とルイは一応、
そんなやりとりをしておいた。

そうでないと、
俺たちは構わないが、
周囲が不敬だとか
そんな話をしかねない。

だが気軽に話をして良いと
ルイが言ったので
もう大丈夫だろう。

俺はルイを
空いている椅子に座らせて
その手にポン、と
小袋を投げた。

「じゃあ、それはあげる。
初めて焼いたクッキーだけど
自信作だよ。

でもそれは部屋に戻ってから
食べて。時間無いし」

俺の物言いに、
ティスまでも固まっている。

だが俺は気にしない。

「さっそくだけど、
隣国との調整に
時間がかかってるんだよ。

どうせこの国に来て
遊んでるんでしょ?

ちょっと手伝ってよ」

俺がアキルティアの
口調で言うと、
ルイは面白そうな顔をする。

「僕を揶揄うのはあと。
ルイが余計なことばかりするから
ティスも兄様も休めないし、
文官さんたちも大変なんだから。

自分のことぐらい、
自分でしてよ」

「はは、それは申し訳ない。
郷に入れば郷に従えっていうだろ?
だからそうしてたまでだ」

それは前世のことわざだぞ、
誰も知らないし。

ルイが動いて欲しいところで
動かないから、
この国で対応している
ティスたちが迷惑をしているのだ。

この国のやり方に任せると言っても
限度があるだろう。

俺はルイに書類を見せた。

「ほら、隣国との話し合いは
ルイが窓口なんだろう?
なんでこれ、返事が来ないんだ?」

「あぁ、これはきっと
嫌がらせだな」

笑顔で言われて
俺は呆れた顔をしてしまう。

「俺、隣国じゃ
役立たずって思われてるし」

「じゃあ、僕の役に立ってよ」

「そう言われてしまうと
動くしかないよなぁ」

ルイはニヤニヤと笑う。

「無能なふりをするのは
自国だけで良くない?

この国ではその優秀さを
精一杯発揮してよ」

「そうしたら、
俺を婿にしてくれるか?」

またその話を持ち出すのか?
今はヤメロ。
忙しい。

「婿は却下。
結婚は本当に好きな人と
しなくちゃダメだ」

「アキのことは
本気で好きなんだけどなぁ」

ルイはそんなことを言う。
が。
それは友情だろう?

「僕もルイのことは好きだけど
友情では結婚できないの。
それよりもこれ。

隣国から返事が来ないんだから
どうするかルイが決めてよ」

俺が言うと、ルイは
仕方ないと、書類に目を通していく。

これで隣国とのスイーツ交流会関係と、
ルイが公爵家に間借りする際の
余計な段取りは、どうにかなるだろう。

イレギュラーなことは
ほとんど、ルイのせいだからな。

ルイのことが片づけは
あとは通常の業務に戻れるはず。

俺はルイと軽口を叩きながら
どんどん、ルイに書類を見せて
隣国関係のことはルイに判断させた。

合間合間に義兄が会話に入ってきて
この国との調整もしていく。

俺とルイと義兄の会話に
文官たちよりも先に
我に返ったティスも
会話に加わり、
夕方までには帰ろうと
思っていた俺は、
とうとう夜まで執務室に
居座ってしまった。

途中、キールが様子を見に来たが
どうしても、中途半端で
放置はできなくて。

キールには義兄と一緒に
帰宅するから、先にタウンハウスに
戻って状況を説明してもらうことにした。

キールは帰宅時に先ぶれを
貰えたら迎えに参りますと
言ってくれていたけれど。

遅くなったら
どうせ父も執務室に
来るだろうと思っていたから
キールには父もいるから
先に休んでいて、と返事をした。

そして、時刻は夜になったが
父は来ない。

絶対に心配して
やってくると思ったのに。

俺が義兄に言うと、
どうやら父は、公爵領と
隣接している伯爵領とで
いざこざが起こって、
伯爵領へでかけているらしい。

なるほど。
ここでもイレギュラーが
発生していたのか。

でもおかげで邪魔も入らず
仕事はかなり進んだと思う。

ルイにも感謝だ。

「よし、今日はこれで終わろう」

義兄の言葉に、部屋にいた
全員がほっとした顔をした。

「ルイもありがとう、
助かったよ」

俺が言うと

「いや、うちの国も
問題もあったからな。
こちらこそ迷惑をかけた」

ルイはそう言い、
俺を見る。

「どうだ?
夕飯を一緒に……」

「そうだね。
ぜひご一緒させていただきたい」

ティスがルイの言葉が
終わる前に言う。

「ジェルロイドもアキルティアも
ルティクラウン殿下と一緒にどうだ?」

ティスの提案に俺は頷く。

正直、腹が減ってたんだよな。

俺、もともとクッキーを
王宮で食べるつもりで
お昼ご飯も食べてなかったし。

しかもそのクッキーは
まだ一枚も俺の口の中に
入っていない。

なおかつ、疲れた。

「兄様」

俺は義兄を見る。

「兄様は今日、
タウンハウスに戻りますか?

ここに泊まるのなら
僕もベットに入れてください。

クマさんは椅子に置いておきますので」

俺の言葉に、
部屋にいた文官たちが動きを止めて
また一斉に俺を見た。

「……アキルティア」

義兄が何故かため息を付く。

ダメだったか?
でも俺、疲れたし。

「兄様のベットは狭いですか?
でもひっついて寝たら
大丈夫だと思います。

僕、お腹もすいたけど
疲れたから、もう眠たくて」

俺が更に言うと
義兄の眉間の皺が深くなる。

「アキ!」

急にティスが俺の手を掴んだ。

「アキルティアの部屋なら
すぐに客間を用意させるよ。

それか私と一緒に寝る?
私の部屋のベットは広いから
二人で寝ても大丈夫だよ」

え?そうなの?

わざわざ客間を用意してもらうのは
申しわけないから、
ティスの部屋に行こうかな。

「殿下、さすがに
許可できません」

だが、義兄がそれを却下する。

「じゃあ、アキ、
俺と一緒に寝るか」

とーっても色気むんむんで
からかうようにルイが言うが、
義兄にそれも却下された。

ルイは冗談だと思うが
義兄は怖いぐらい本気の顔だ。

「アキルティア、
食事をしたらクマと一緒に
タウンハウスに帰りなさい。

私も一緒に帰るから、
それでいいだろう」

まぁ、義兄が帰るのなら
それでもいいか。

「じゃあ兄様、
馬車の中で寝たら
連れて帰ってくださいね」

俺の言葉に義兄は頷き、
この話は終了したのだが。

この後、やたらとティスが
俺の手を握ったり、
食事の時はナプキンで
俺の口元を拭いてくる勢いで。

俺は眠くて仕方ないのに、
面倒くさいぐらい
かまってちゃんになってしまい、
俺はやっぱりティスの
部屋に泊ると言えば良かったと
ちょっとだけ後悔した。


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