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隣国の王子
104:お願い俺を捨てないで!
しおりを挟む父は俺の言葉を嬉しそうにしたが、
だが、と言葉を続けた。
「この国の王家が
アキルティアを望んでいる。
万が一、王命など下ったら
もちろん、従う気はないが
面倒なことになるだろう。
だが、この国では
ジャスティス殿下よりも
格上の者がいないのも確かだ。
ジャスティス殿下との
婚姻を避けるには、
隣国の王子である
ルティクラウン殿下との
縁談が一番良いと思うんだよ」
この国の王や王妃というのは
本当に大変だからね。
と父は言う。
「ルティクラウン殿下は
王族でこの国の王家とは
対等だし、なにより
国王にはならないと
宣言している。
アキルティアの婿とするには
一番良い条件だ。
それにだ。
じつはルティクラウン殿下には
このタウンハウスの離れを
貸し出そうと思っている」
はぁ?
と俺は声を挙げそうになり
咄嗟に手で口を押えた。
義兄を見ると、
義兄も口をあんぐりと開けている。
「ルティクラウン殿下も
一年間とはいえ、
王宮に間借りをするのは
気が引けると言っていてね。
タウンハウスの離れは
ゲストハウスだから
誰も使っていないし、
丁度良いだろう。
もしアキルティアと
婚姻したら、
住む場所も公爵家の
離れで構わないと言う。
それならば、アキルティアも
ずっと父様のそばに
いることができるし、
素晴らしいと思わないかい?」
……思います、と
言えば良いのか?
でもこれ、言ったら
絶対に詰むよな。
「義父上、その言葉はすべて
ルティクラウン殿下が
言われたことなのですか?」
俺の代わりに義兄が
言葉を発してくれた。
だが。
「あぁ、そうだ。
口約束が不安なら、
書面に内容を落として
署名しても構わないとまで
言われている」
その返事に俺は
うがー!と叫びたくなる。
ルイは前世では
物凄く営業成績が良かった。
一緒に営業に行って
わかったことだが、
ルイは相手の話を聞くことで、
相手の望む言葉や条件を
読み取るのが抜群にうまい。
最初は話すら
聞く気が無かった相手を
自然に誘導し、
交渉の場まで引きずり出すのが
物凄くうまかったのだ。
まさか父までもが
ルイの手法にハマるとは
思わなかったが、
ルイの言葉はそれぐらい
父にとって魅力的だったのだろう。
それにルイは口は上手いが
嘘は言わない。
できないことを
出来るとは言わない。
ただし、
先ほどのように自分の望みを、
相手が望んでいることに合わせて
着飾った言葉で伝えているだけだ。
ルイが本気で営業を掛けて
仕事が取れなかった案件は
そう多くない。
そんなルイの提案を
俺はどうやって拒もうか。
「義父上、アキルティアは
まだまだ幼い子どもです。
結婚話はまだ早いのでは?」
義兄が急に俺を幼い子供だと
主張しはじめた。
すると父も、眉をひそめる。
「幼い子に婚姻を
強要するような真似は
さすがに可哀そうかと」
「まぁ、確かにそうだな」
「義父上は、
アキルティアが本当に
愛する人と一緒になるのが
一番だと言われていたではないですか」
義兄の言葉に、
さすがの父も言葉に詰まる。
「ルティクラウン殿下が
屋敷の離れに住まうのは
反対はしません。
ただ、交流を持つことと
婚姻は別で考えるべきかと。
もしこの一年間で、
2人の仲が深まり、
このまま添い遂げようと
思えるようになったら、
またこの話をすれば
良いのではないでしょうか」
義兄の言葉に、
父も、うむ、と頷いた。
「そうだな。
アキルティア、すまない。
父様が先走ってしまった」
いえいえ、いいですよ。
いつものことですから。
「だが、ルティクラウン殿下は
これから離れに住まうことになる。
仲良くしてやってくれ。
そしてもし、アキルティアが
婿にと望むのであれば、
父様に教えてくれ」
「はい。わかりました」
そんな時は来ないと思うけどな。
でもルイが近くに来るのは
それはそれで嬉しいかも。
毎日が楽しそうだ。
父はそこまで言うと
お茶を一口飲む。
「父はな。
アキルティアが幸せに
なってくれれば良いと思う。
だが、できれば
ずっと父様のそばにいて欲しい」
それは父の本音なのだろう。
そう言う父の顔は
少しだけ照れたような顔だった。
「さて。
ではそろそろ愛しの妻に
会いに帰るとするか」
父はそう言って立ち上がる。
俺と義兄も立ち上がった。
「じゃあ、おやすみ。
ジェルロイド、アキルティア」
「おやすみなさい」
「お気を付けてお戻りください」
俺と、義兄は返事をして
父を見送る。
父がタウンハウスの
屋敷の扉から
出て行くのを見届けた後、
兄が、ぼそっと呟いた。
「……また、
メンドクサイことになった」
その言葉は小さくて、
父を見送った使用人たちには
聞こえなかったようだけど。
近くにいた俺の耳には
しっかりと届いていた。
そしてその呟きの
深刻な響きに、
俺は思わず義兄の腕を掴む。
まさか旅に出るとか言わないよな?
「兄様、僕を捨てないで」
思わず縋る俺に、
義兄だけではなく、
使用人たち全員が動きを止め
俺を見た。
「だから兄貴、
そういうとこだって」
義兄は小さく言い、
ため息を吐く。
だが、すぐに笑顔を作り
俺の頭をぐりぐり撫でた。
「何を心配しているのか
わからないけれど。
アキルティアは私の
大事な可愛い弟だよ。
アキルティアが望む限り
ずっと一緒にいるから
安心して欲しい」
痛い、痛い!
そんなに力いっぱい
俺の頭をぐりぐりするな!
「ほんと、
アキルティアは可愛い
弟だね」
やたらと弟と
力を込め義兄は言い、
「さぁ、もう寝る時間だ」と
俺を自室へと促す。
俺は腑に落ちないまま
義兄に背中を押されて自室へと向かう。
自室までの短い道のりで
義兄が小さな声で俺に
先ほどの俺の発言が
どれほど不味ったのかを
教えてくれた。
さっきの様子は
使用人たちから見ると、
俺には大好きな義兄がいるのに
父がルティクラウン殿下との
婚約を言い出したので、
義兄が身を引くことを
懸念した俺が義兄に
縋りついた図。
だったそうだ。
言われたら、
確かにそうかも。と
俺も思えて来て。
俺はただただ
自分のうかつさに
呆然としてしまった。
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