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隣国の王子
99:加護?
しおりを挟む俺たち三人はとりあえず
情報交換して、それから
前世の話で盛り上がった。
今更だから言えることも
沢山あったし、
前世と今の世界との違いを
一緒に再認識したりして、
めちゃくちゃ楽しかった。
「つまりさ、
アキラはこの国の王子様と
そこにいる弟……じゃないな。
義兄殿を天秤にかけている
悪女ってことか」
ルイが笑いながら
そんなことを言う。
「悪女じゃねーし。
そんなわけないだろ。
だいたい、男同士だし
ティスだってまだ14歳だ。
前世だと中二だぞ。
恋愛も結婚も早いだろ」
俺がそう言うと義兄は
「この国の貴族は
幼少期に婚約者が決まることも
多いし、王族ともなれば
早く決まってあたりまえだ」
なんて言う。
お妃教育とか
そういうのがあるから
早いうちに王家で教育を
させるのが目的らしい。
子どもに何をさせる気だ?
って思うぞ、俺は。
「でもティスは決まってないだろ」
「……それを兄貴が言うから
ややこしくなるんだ」
義兄が言う。
「ほんと。
アキラはそういうとこが
ダメなんだよな」
ルイまでわかったようなことを言う。
「だって、あの事務の女の子。
お前のために、毎日、
飲みもしない牛乳パックを
コンビニで買って、
お前がミルクを貰いに来るの、
いつも待ってたんだぞ」
「へ?」
「ほら、長い髪の、
俺たちの1つ下の子」
「あー、あの真面目な?」
「そうそう。
お前のために資料作りを
手伝ったり、健気だっただろ?
なのに、お前、全然、
彼女の好意に気が付かないんだもんな」
え? 本気で?
あの子が?
「いや、ないない。
あの牛乳は、いつも自分が
コーヒーに入れて飲むのに
買ってて、飲み切れないから
飲んでくれたら助かるって
言ってたし。
資料整理も、
事務の仕事だから
手伝いますって。
真面目な子だったぞ」
俺が言うと、
義兄もルイも顔を見合わせて
はーっと息を吐く。
「兄貴。
もう前世のことはいいけど
今もかなりやらかしてるから」
「うん?」
「俺も義父も、
アキルティアを王家に
嫁に出さないように
色々頑張ってるのに、
兄貴、かなりその努力を
無効化してるよな」
義兄の言葉に俺は驚いた。
「してない、と思う」
「そう?
してないのに、殿下から、
王家がプロポーズに
使う花を貰って、なおかつ
髪に飾って、その花で作った
匂い袋を殿下とお揃いで身に付けて。
ついでに、中庭で
花の指輪を作ってもらったんだって?」
怒り半分、呆れ半分の声で
義兄に言われる。
俺は一応、
「ちがうちがう」と
手を振った。
「匂い袋はティスが欲しいって
言ったからだし、
お揃いなのは、量が沢山あったから
捨てたらもったいないからだし。
そもそもプロポーズの
花ってことは知らなかったし。
花の指輪は、
クリムとルシリアンに、
二人の婚約者たちに
指輪を作ってあげて欲しかったから
指輪の作り方を教えただけで。
その場にたまたま
ティスがいたから、そうなっただけで」
早口で言うと、
ルイが感心したような声を出す。
「すごいな。
偶然でそれだけやらかすなんて、
なかなかできないぞ。
天賦の才じゃないか」
「おまえ、冗談でも怒るぞ」
揶揄うルイに俺は
咎めるような声を出す。
「はは、でも、偶然なのに
そこまで上手く、
ジャスティス殿下の心を
掴むように動けるのは
才能以外、何ものでもないと思うぞ」
なに言ってんだ、ルイ。
俺は冷めた目でルイを見た。
「俺は別にティスの心を
掴んでなんか無いし。
ティスは俺の弟みたいなもんだ。
俺が嫁に行くとかいったら
可哀そうだろう」
ティスは可愛い女の子を
お嫁に欲しいハズだ。
「……むしろ喜ぶと思うけど?」
だが俺の気持ちを否定するかのように
ルイがからかうように言う。
「そんなわけないだろ」
俺は言うが、
ルイは笑うばかりで
本気で取り合おうとはしない。
そんな俺たちを見て
義兄は顔を歪めた。
「兄様、どうした?」
俺は義兄を見つめる。
義兄は「いや」と
短く言葉を紡ぎ、俺をじっと見た。
「確かに、
アキルティアは
人を惹きつけているな、
と、考えていた」
どういう意味だ?
「兄貴は自分の容姿を
どう思っているのかは知らないが、
客観的に、可愛い部類に
入ると思う」
「それは、俺も賛成」
ルイが合いの手のように言う。
俺は苦笑するしかない。
まぁ、この容姿が可愛い部類に
なることは認めるが。
「アキルティアは可愛いし
公爵家当主が溺愛する
直系の息子だ。
しかも貴重な紫の瞳を
持っていて、子どもを
成すこともできる。
アキルティアを手に入れれば
公爵家の権力も財力も
すべて手に入るようなものだ」
いやいや、そこまでは
言い過ぎだろう。
俺は苦笑するが
義兄は話を続けた。
「兄貴は偶然で誰かに
恋愛感情を持つなんて
皆無だろうけど。
アキルティアは確実に、
周囲を惹きつけてるし、
あちこちで好意を持たれてると思う」
そんなわけはない、と
言おうと思ったけれど、
義兄の真剣な顔に俺は口を閉ざした。
「アキルティアは
可愛い顔だし、親しみやすい。
他人に好かれるのも
当たり前だと思う」
「……それは、ありがとう?」
俺は何て言っていいのかわからず、
お礼を言ってみた。
「でも、もしアキルティアが
他人から過剰に好意を
受けているのなら、
それが【加護】ってことにならないか?」
一瞬、言われている意味がわからなかった。
過剰な好意がなんだって?
いや、俺は過剰な好意なんて
そもそも受けてないぞ!
……と、思う。
俺が反論するかどうか
迷っていると、義兄はそんな
俺を見て、だってさ、と言う。
「兄貴は普通に接していても
殿下がアキルティアに
恋をしていたら?
普通だったら、
王族の、しかも
王太子の結婚相手だ。
いくら公爵家で
紫の瞳を持っているとはいえ
通常であれば
アキルティアを
求めるなどありえない。
高位貴族たちの中には
殿下に似合う未婚の女性は
まだまだたくさんいるのだから」
そう言われてしまうと
俺は唸るしかない。
ティスの気持ちはわからないが
俺とティスの婚姻を
王家は望んでいる。
それは王妃様のお茶会で
はっきり言われたので
間違いはないと思う。
その時は、なんで俺?
って思ったけど。
「それに」
と、義兄はまだ続ける。
「アキルティアの周囲に
好意的な感情を持つ者ばかり
集まっている意味は?」
確かに俺は嫌な奴とは
いまだに出会ったことは無い。
でも、それすらも
疑うべきことなのか?
俺は思わず助けを求めて
ルイを見たが、
ルイは義兄の言葉を
真剣に聞いている。
「義父の、まぁ、あの異常な
愛情の傾け方は
義母への愛情と似ているが、
それでも、その感情も
アキルティアに【加護】が
あるからだったとしたら、
どうだろうか」
そこまで言われ、
俺は、息を飲んだ。
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