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隣国の王子
93:可愛い使い魔
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急にタウンハウスに
戻った俺を見て
屋敷の使用人たちは
驚いたようだが、
さらに怒りの顔をした義兄に
出迎えた者たちは
言葉を無くしたように
無言で頭を下げた。
俺は馬車に押し込まれたので
義兄に「一人で帰れる」と
言ったのだが、
それが気に入らなかったのか。
もともと、俺は一人で
タウンハウスに戻る……
筈だったのに、義兄がいきなり
俺の馬車に乗ってきて、
一緒にタウンハウスに戻ってきたのだ。
何故だ?
何をそんなに怒ってるんだ?
聞きたいけれど、
怖くて俺も聞けない。
義兄は短く
「自室からアキルティアを出さないように」
とだけ告げた。
それから、
よほど急いでいたのだろう。
兄は「馬の準備を」と
侍従に言って早足で出て行く。
その場にいた全員が
大きな音を立てて扉が閉まり、
義兄が乗ったであろう
馬の蹄の音が着凝るまで
誰も動かなかった。
いや、動けなかったのか。
一番最初に我に返ったのが
タウンハウスの執事である
キリアスだった。
すぐさま侍女にお茶の準備を、と
命じて、サリーは俺を
さりげなく自室へと促す。
俺はサリーと共に
自室に戻り、
制服の上着を脱ぐ。
着替えようと思ったが、
キールがいない。
きっと、キリアスに
状況を説明しているのだろう。
サリーが
「お着換えをなさいますか?」
と聞いてくれたが、
俺はそれを断った。
「キールが来てからでいいよ」
一人でも着替えぐらいできるが、
それを言うと
サリーが手伝うと言うに決まっている。
別に構わないが、
さすがに13歳にもなれば
年上の女性の前で着替えるのは
恥ずかしい……ような気がする。
サリーは俺の
家族みたいなものだけど
サリーがどう思ってるか
わからないしな。
俺が椅子に座ると、
すぐに侍女がお茶と
茶菓子を持って来た。
サリーはそれを準備してから
「何かあればお声掛けください」
と、頭を下げて出て行く。
ドアが閉まるのを見て、
俺は、考える。
さて。
これからどうするか。
キリアスが事情を知れば
すぐにでも父に話が
伝わってしまうかもしれない。
父が介入してくると
もっと話がややこしくなる
なるだろう。
いや、本気で。
父は俺のことが大好きだが、
大好きすぎて、
俺の意志はまったく関係なく
父が俺のために良いと
思ったことを突っ走って行動してしまう。
匂い袋のことも
俺に聞いてくれれば良いのに
勝手に解釈してて
俺と義兄をティスの嫁に、とか
わけわからんことを
言い出して周囲を混乱させているのだ。
しかし、匂い袋か。
思ったよりも
この世界は、貞操観念が
強そうだな。
気を付けた方が良さそうだ、が。
今更、匂い袋を
どちらか一つに絞ることなんて
できそうにない。
ティスとお揃いのものを
やめたいのが本心だが、
そうすると、ティスが
「なんで? 私と一緒のは嫌?」
と訴えてくる姿が目に浮かぶ。
かといって、
義兄と同じ匂い袋をやめて
ティスと同じ物を使ったら
そういうことに
ならないか?
既成事実を作ったから
責任取ってティスと
結婚しろ、とか言われないか?
俺は、ぐはーっ、と
小声て呻いた。
あとルイだ。
ルイのこともどうやって誤魔化そうか。
俺はずっと公爵家で
箱入り息子だったから
幼い頃に出会った幼馴染、
なんて設定は無理だ。
義兄には正直に
話すしかないと思うが、
それ以外の人間に
どうやって説明すればいいのか。
それにあの父も
納得させる説明でなければならない。
俺が悩んでいると
窓を何かがつつく音がした。
窓を見ると、小さな、
銀色の鳥が窓を叩いている。
すげぇ。
銀色の小鳥なんて初めて見た。
大きさは文鳥ぐらいだろうか。
俺が窓をあけてやると
小鳥はすぐに部屋に入ってきて
俺の机の上に降り立った。
俺は窓を閉めて、
小鳥の前に座る。
と。
『アキラ』
小鳥が急に俺の名を呼んだ。
ビックリして俺は小鳥を凝視する。
『俺だ、わかるか?』
「ルイ?」
『そうだ。
この鳥は俺の魔力で作った物だ』
すげぇ!
めちゃくちゃすげぇ!
ファンタジーだ。
「さ、触っていい?」
『……別に構わないが、
開口一番にそれか?』
ルイが呆れたように言うが
だって不思議だし可愛いし、
危険がないのなら
触りたいに決まっている。
俺が指を伸ばすと、
小鳥は俺の指先に
ちょん、っと乗った。
可愛い!
人差し指で頭や顎を撫でると
小鳥は首を俺の指に
すりつけるような素振りをする。
すげぇ、可愛い!!
羽の感触も
ふわふわしているし、
本物の鳥みたいだった。
『とにかく、
情報を整理して口裏を合わせよう』
小鳥は俺への態度と、
俺の心情とは全く関係なく
ルイの声で言葉を紡ぐ。
小鳥の、というか
ルイの話では
ルイも今、王宮の特別室で
軟禁状態らしい。
まぁ、隣国の王子様と
公爵家の俺が公衆の面前で
抱き合ったのだから
「友情でした」では
すまないんだろうな。
何でも王宮で
俺の父がわめいていて、
城に戻ったものの
誰とも会話できない状態なんだとか。
それはそれで
うちの父が申し訳ない。
だがそのおかげで
時間が出来た、とルイは言う。
『それで、俺が考えた設定だが……』
小鳥はルイの言葉を紡ぎながら
俺の周囲を飛び、
肩に止まった。
『おい、聞いてるのか?』
「聞いてるよ。
でも可愛いなぁ、この鳥。
魔力があれば、
こんなのも作れるんだな。
ルイの髪が銀色だから
この鳥も銀色の羽なのか」
俺が言うと
『使い魔を作れるぐらいの
魔力を持っているのは
俺の国でも王族ぐらいだ』
とルイが応える。
聞くところによると、
ルイの国は魔法に関して
研究は進んではいるが、
国民全員が魔法を
使えるわけではないらしい。
ただ単に研究に力を
入れているだけだ。
この国よりも、
もしかしたら魔法を使える国民は
多いかもしれないが、
それでも魔法が貴重だ
という感覚はこの国と同じだ。
そして強大な魔法を使ったり、
巨大な魔力を持っている者は
王族以外はいないらしい。
なーんだ。
結局、この世界は
言う程ファンタジーではないんだな。
『お前が知らなかったように
俺の国よりもこの国は
魔法に関しての知識は遅れている』
「そうだな」
『だから今回は
それを利用しようと思う』
小鳥はルイの言葉を
紡ぎながら飛び去り、
今度は俺の机に降り立った。
そして嘴で毛づくろいをする。
物凄く鳥っぽい。
魔法で作ったのに。
『おい、聞いているのか?』
「聞いてる。
大丈夫」
俺は返事をしながら
小鳥の頭を指先で撫でる。
いいなぁ。
俺も使い魔、欲しい。
ルイに強請ってたら
作ってくれないかな。
俺は今後のことよりも
目の前の小鳥に夢中だった。
戻った俺を見て
屋敷の使用人たちは
驚いたようだが、
さらに怒りの顔をした義兄に
出迎えた者たちは
言葉を無くしたように
無言で頭を下げた。
俺は馬車に押し込まれたので
義兄に「一人で帰れる」と
言ったのだが、
それが気に入らなかったのか。
もともと、俺は一人で
タウンハウスに戻る……
筈だったのに、義兄がいきなり
俺の馬車に乗ってきて、
一緒にタウンハウスに戻ってきたのだ。
何故だ?
何をそんなに怒ってるんだ?
聞きたいけれど、
怖くて俺も聞けない。
義兄は短く
「自室からアキルティアを出さないように」
とだけ告げた。
それから、
よほど急いでいたのだろう。
兄は「馬の準備を」と
侍従に言って早足で出て行く。
その場にいた全員が
大きな音を立てて扉が閉まり、
義兄が乗ったであろう
馬の蹄の音が着凝るまで
誰も動かなかった。
いや、動けなかったのか。
一番最初に我に返ったのが
タウンハウスの執事である
キリアスだった。
すぐさま侍女にお茶の準備を、と
命じて、サリーは俺を
さりげなく自室へと促す。
俺はサリーと共に
自室に戻り、
制服の上着を脱ぐ。
着替えようと思ったが、
キールがいない。
きっと、キリアスに
状況を説明しているのだろう。
サリーが
「お着換えをなさいますか?」
と聞いてくれたが、
俺はそれを断った。
「キールが来てからでいいよ」
一人でも着替えぐらいできるが、
それを言うと
サリーが手伝うと言うに決まっている。
別に構わないが、
さすがに13歳にもなれば
年上の女性の前で着替えるのは
恥ずかしい……ような気がする。
サリーは俺の
家族みたいなものだけど
サリーがどう思ってるか
わからないしな。
俺が椅子に座ると、
すぐに侍女がお茶と
茶菓子を持って来た。
サリーはそれを準備してから
「何かあればお声掛けください」
と、頭を下げて出て行く。
ドアが閉まるのを見て、
俺は、考える。
さて。
これからどうするか。
キリアスが事情を知れば
すぐにでも父に話が
伝わってしまうかもしれない。
父が介入してくると
もっと話がややこしくなる
なるだろう。
いや、本気で。
父は俺のことが大好きだが、
大好きすぎて、
俺の意志はまったく関係なく
父が俺のために良いと
思ったことを突っ走って行動してしまう。
匂い袋のことも
俺に聞いてくれれば良いのに
勝手に解釈してて
俺と義兄をティスの嫁に、とか
わけわからんことを
言い出して周囲を混乱させているのだ。
しかし、匂い袋か。
思ったよりも
この世界は、貞操観念が
強そうだな。
気を付けた方が良さそうだ、が。
今更、匂い袋を
どちらか一つに絞ることなんて
できそうにない。
ティスとお揃いのものを
やめたいのが本心だが、
そうすると、ティスが
「なんで? 私と一緒のは嫌?」
と訴えてくる姿が目に浮かぶ。
かといって、
義兄と同じ匂い袋をやめて
ティスと同じ物を使ったら
そういうことに
ならないか?
既成事実を作ったから
責任取ってティスと
結婚しろ、とか言われないか?
俺は、ぐはーっ、と
小声て呻いた。
あとルイだ。
ルイのこともどうやって誤魔化そうか。
俺はずっと公爵家で
箱入り息子だったから
幼い頃に出会った幼馴染、
なんて設定は無理だ。
義兄には正直に
話すしかないと思うが、
それ以外の人間に
どうやって説明すればいいのか。
それにあの父も
納得させる説明でなければならない。
俺が悩んでいると
窓を何かがつつく音がした。
窓を見ると、小さな、
銀色の鳥が窓を叩いている。
すげぇ。
銀色の小鳥なんて初めて見た。
大きさは文鳥ぐらいだろうか。
俺が窓をあけてやると
小鳥はすぐに部屋に入ってきて
俺の机の上に降り立った。
俺は窓を閉めて、
小鳥の前に座る。
と。
『アキラ』
小鳥が急に俺の名を呼んだ。
ビックリして俺は小鳥を凝視する。
『俺だ、わかるか?』
「ルイ?」
『そうだ。
この鳥は俺の魔力で作った物だ』
すげぇ!
めちゃくちゃすげぇ!
ファンタジーだ。
「さ、触っていい?」
『……別に構わないが、
開口一番にそれか?』
ルイが呆れたように言うが
だって不思議だし可愛いし、
危険がないのなら
触りたいに決まっている。
俺が指を伸ばすと、
小鳥は俺の指先に
ちょん、っと乗った。
可愛い!
人差し指で頭や顎を撫でると
小鳥は首を俺の指に
すりつけるような素振りをする。
すげぇ、可愛い!!
羽の感触も
ふわふわしているし、
本物の鳥みたいだった。
『とにかく、
情報を整理して口裏を合わせよう』
小鳥は俺への態度と、
俺の心情とは全く関係なく
ルイの声で言葉を紡ぐ。
小鳥の、というか
ルイの話では
ルイも今、王宮の特別室で
軟禁状態らしい。
まぁ、隣国の王子様と
公爵家の俺が公衆の面前で
抱き合ったのだから
「友情でした」では
すまないんだろうな。
何でも王宮で
俺の父がわめいていて、
城に戻ったものの
誰とも会話できない状態なんだとか。
それはそれで
うちの父が申し訳ない。
だがそのおかげで
時間が出来た、とルイは言う。
『それで、俺が考えた設定だが……』
小鳥はルイの言葉を紡ぎながら
俺の周囲を飛び、
肩に止まった。
『おい、聞いてるのか?』
「聞いてるよ。
でも可愛いなぁ、この鳥。
魔力があれば、
こんなのも作れるんだな。
ルイの髪が銀色だから
この鳥も銀色の羽なのか」
俺が言うと
『使い魔を作れるぐらいの
魔力を持っているのは
俺の国でも王族ぐらいだ』
とルイが応える。
聞くところによると、
ルイの国は魔法に関して
研究は進んではいるが、
国民全員が魔法を
使えるわけではないらしい。
ただ単に研究に力を
入れているだけだ。
この国よりも、
もしかしたら魔法を使える国民は
多いかもしれないが、
それでも魔法が貴重だ
という感覚はこの国と同じだ。
そして強大な魔法を使ったり、
巨大な魔力を持っている者は
王族以外はいないらしい。
なーんだ。
結局、この世界は
言う程ファンタジーではないんだな。
『お前が知らなかったように
俺の国よりもこの国は
魔法に関しての知識は遅れている』
「そうだな」
『だから今回は
それを利用しようと思う』
小鳥はルイの言葉を
紡ぎながら飛び去り、
今度は俺の机に降り立った。
そして嘴で毛づくろいをする。
物凄く鳥っぽい。
魔法で作ったのに。
『おい、聞いているのか?』
「聞いてる。
大丈夫」
俺は返事をしながら
小鳥の頭を指先で撫でる。
いいなぁ。
俺も使い魔、欲しい。
ルイに強請ってたら
作ってくれないかな。
俺は今後のことよりも
目の前の小鳥に夢中だった。
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