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婚約騒動が勃発しました
91:魔石と魔力
しおりを挟むそもそも魔力とは、なんだ?
俺はこの世界に来てから
ずっとそれを考えていた。
義兄は
「ファンタジーなんだよ」
なんて言うが、
そんな曖昧な言葉に
俺は納得できない。
この国では魔力の素は
人間や動物たちの感情や
生きているときに放出される
生体エネルギーから
生まれると信じられている。
魔石は、その空気中に
蓄積されたものを
吸い込んだ石が魔石に。
そして、魔石にならなくても
空気中にある魔力の素は
植物は水や土から。
動物たちは
それらを食べることで。
いわゆる
食物連鎖で、
魔力を体内に保有し、
それを人間が食することで
自然に人間の体内にも
蓄積されて魔力になる。
つまり、魔力とは
偶然の産物で、
身体に宿るかどうかは
運しだい。
いや、体質次第だと
考えられているのだ。
だが、俺はその
『偶然』という考え方が
物凄く嫌だった。
物事全ての事象には
理由があると考えるからだ。
もし俺の紫の瞳の魔力が
『偶然』この体に宿ったのなら
その紫の魔力はどこから来たんだ?
空気中をふよふよ漂っていると
言うのであれば、
俺の周囲の人たちは
みんな、紫の瞳になるんじゃないか?
何故、なんのために
紫の瞳の者は存在するのか。
俺は色々考えるが、
結局、その問いに戻ってくる。
だが、考えてもわかる筈がない。
だってその問いは
「何故人は生まれてくるのか」
という哲学的な話になるからだ。
だが俺の紫の瞳の魔力は
『偶然』で片付けられない。
ルティクラウン殿下の言うように、
俺の魔力は、なんかしらの
条件が揃って生まれたに違いないと
俺も思っているのだ。
そしてルティクラウン殿下の発言。
隣国の魔石は、
魔物から生まれる、という言葉だ。
おかしくはないか?
この国にも、魔物は出る。
それは人間と同じで、
魔力を帯びた
動植物を食べるからだと
言われている。
つまり、元は普通に
生きていた動物たちなのだ。
だが、ルティクラウン殿下の
言い方だと、魔物は最初から
魔物だったということに
ならないか?
いや、それ以前に。
なぜ魔石が魔物から出てくる?
魔物からしか魔石が
生まれないのであれば、
この国と隣国とでは
魔力の生まれ方が
変わることにならないか?
俺の頭は大混乱だ。
だめだ。
一人では処理できない。
「キール!」
俺が呼ぶと、
キールが慌てた様子で
俺のそばに来た。
「どういたしました?」
「紙!
沢山の紙とペン、持って来て!」
俺は自分がノートとペンを
持って来たことも忘れて
キールに言う。
キールが驚いた様子で
俺の鞄から筆記用具を
出してくれているのが見えるけど
それどころではない。
俺は立ち上がり、
これはどういうことかと
頭の中と言葉で情報を整理する。
独り言と言われるかもしれないが
俺は一人で脳内会話はできないのだ。
だから脳で考えた答えを
口から出す。
そしてその答えに対して
また脳で考えるのだ。
「アキルティア様、
筆記具のご用意ができました」
とキールに言われたけれど。
ちょっと待って。
俺の邪魔をしないでくれ。
俺はテーブル付近を
ブツブツ言いながらうろつき、
机に戻ると、
俺が考えた理論をノートに書く。
だが、書いているうちに
想像や現実味のない根拠を
元に空想しているだけだと
気が付いて、それをぐちゃぐちゃと
ペンで消す。
そんな俺をキールも
ルシリアンも呆然と見ていた。
が。
「ははは、相変わらずだ。
だからダメなんだよ。
目の前のことしか見えてない。
もっと視野を広くしてみろよ」
急にそんな声がした。
「うるせ、目の前のことで
いっぱいいっぱいなんだよ、ルイ」
と咄嗟に呟き、
自分がその言葉を発したことに驚いた。
え?
俺、今、なんて言った?
俺は、はっと顔を上げた。
「えっと、ここは、どこだ?」
「ここは魔法学の研究室で
お前はこの国の公爵家当主の息子で
名前はアキルティア。
んで。
俺は隣の国の第三王子で
ルティクラウン。
まぁ、ルイと呼ばれるのは
嬉しいが」
丁寧に俺に説明してくれた男を
俺はまじまじと見た。
「考えに没頭して
自論に走るのは、変わってないな」
そう言って笑った顔が、
俺の数少ない親友の顔と重なった。
金持ちで。
ハンサムで。
同期の中では一番
女子に人気があった。
俺とは所属している課が
違っていたので
しょっちゅう会うような
関係でもなかったが。
営業成績はいつもトップで
あいつと一緒に
俺が作ったプログラムを
他社にプレゼンに行くときは
いつだってまずは
時間を取って
俺の話を聞いてくれた。
他の営業のやつらは
プログラムのことなど
わからないから、
好きにしろ、
って感じだったけど。
あいつだけは違った。
俺がどう思い、何を考えて
このプログラムを作ったのかを
しっかりと聞いてくれた。
そしてその上で、
俺のプレゼンに
同行してくれたのだ。
俺にスーツとネクタイピンを
おしげもなくくれたヤツ。
俺の、親友。
ルイ。
母親がアメリカ人の女性で
ハーフだと言う彼は
瑠偉と名付けられていたが、
彼はいつも自分の名をカタカナで
書いていた。
幼いころはアメリカで
育ったらしく、
漢字は難しくて
メンドクサイと言う理由でだ。
そんなことまで思い出し、
俺はルティクラウン殿下を
もう一度、しっかりと見た。
銀色の長い髪に、
切れ長の蒼い瞳。
ハンサムだ、と思う。
俺は、笑った。
涙がにじんだ。
「すごいハンサムな顔だ。
イケメンは何があっても
やっぱりイケメンなんだな」
生まれ変わっても
また美形だなんて。
イケメンはイケメンにしか
生まれ変わらないんじゃないか?
俺は茶化して笑う。
そうでもしないと、
涙がこぼれて落ちそうだ。
「しかも王子だ、
優良物件だろう」
偉そうに言う
ルティクラウン殿下に
懐かしさがこみ上げる。
前世と同じような言葉。
同じ様な言い合い。
「ほんと、優良物件だ」
そう言って。
でも、涙が浮かんで。
ルイの、俺が死んだ後の
ルイのことが浮かんできて。
あいつはきっと、
俺以外に心を開くことが
できずに、寂しかったんだと思う。
顔が良かったから
付き合う友人は多かったし
母親との付き合いで、
一般には公開されない場所限定で
モデルなんかもしていた。
だから、一度着た服や
アクセサリーは
二度と着ないのに、
部屋に大量に置いてあった。
俺はルイと知り合ってから
それらを貰うことができて
本当に助かったが、
俺の感謝ぶりが良かったらしく、
ルイは何度も俺に
服だけでなく食事を
おごってくれたり
何かと手助けしてくれた。
代わりに俺は
ルイの話を沢山聞いた。
俺は貧乏で、
それを隠しもしなかったが
俺が貧乏人なところも
ルイは安心要素だったらしい。
俺はルイに近づいて
野心が持てるほどの
金も権力も気合もなかったってわけだ。
弟を育てるのに必死だったしな。
周囲のしがらみを捨てて
素で話せる相手。
それがルイにとっての俺であり、
俺にとってのルイだった。
俺たちは。
がし、って固く手を握って。
ルイはその俺の手を
自分の額に押し当てた。
「……やっと会えた」
感無量というその声に、
俺は息を飲んだが。
義弟と再会したときのように
抱きつかなかったことは
褒めて欲しいと思う。
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