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婚約騒動が勃発しました
90:魔石と研究室
しおりを挟むその日の夜には
一応、俺の熱は下がったが、
俺は夕方、タウンハウスに
大慌てで戻って来た父に
抱きしめられ、
号泣された。
「もう大丈夫なのか?
苦しいことは、ないか?」
「はい、父様
もう大丈夫です」
「あの隣国の王子が
アキルティアの邪魔なのか?」
父の言い方だと
ルティクラウン殿下が
排除されそうな気がして
俺は慌てて首を振る。
「いいえ。
邪魔なんかされていませんよ?
そんなことより、
父様、大好きです」
俺がすべてを凌駕する
魔法の言葉を言うと、
父は
「父様も大好きだよー」
と俺を抱きしめる。
よしよし。
これでとりあえず
ルティクラウン殿下から
意識を反らすことができた。
次は義兄だな。
寝起きの俺を随分と
心配していたし、
ルティクラウン殿下に
関してもだいぶ疑っていた。
他国の王子に妙な真似は
しないと思うが、
何かしないか心配だ。
対応策を考えなければ、
と思っていたが、
その日、
父は俺と一緒に寝ると
言い張ったり。
病人に必要以上に構うのは
疲れさせるからダメだと
執事に叱られたり。
ならば食事の介助をしたいだとか、
我がまま言いたい放題で
俺にベッタリだった。
おかげで俺は
なに一つ考えることができず、
しかも義兄がいつ
タウンハウス戻ったのかも
俺には知らされず。
俺はタウンハウスの
父の部屋で、
甘やかされるだけ
甘やかされて寝かされてしまった。
寝る時には
父に絵本まで読まれて
きっと父は俺のことを
いつまでも幼児だと
思っているんだろうなぁ、と
改めて思った。
その翌日は
すっかり元気になっていたが
サリーが心配するので
もう一日だけ学園を休んだ。
その次の日は、
魔法学の授業があったし、
自習時間もあるので
おじいちゃん先生と会える日だ。
俺は何が何でも
学園に行くと言い張り、
朝から準備をする。
ようやく義兄に会えたが、
心配そうにする義兄にも
「もう元気だ」と言って
馬車まで送ってもらった。
学園に着くと、
すぐにルシリアンと
クリムがやってきて
俺の身体を気遣ってくれる。
「ありがとう。
でも大丈夫なんだよ。
最近は元気になってたから
忘れていたけど、
小さい時は熱を出すなんて
日常だったんだから」
俺が笑うと、
二人はやっと
心配そうな表情を消し、
笑顔を見せた。
それからルシリアンが
「アキ様が休んでいた間の
授業のノートです」
とノートを渡してくれる。
「ありがとう、助かる。
それに今日は
魔法学と自習時間があるでしょ?
僕、それが楽しみで」
「アキ様は
魔法学が大好きですね」
クリムが言う。
「うん。魔法学も大好きだし
おじいちゃん先生も
好きなんだ」
「おじいちゃん先生ですか?」
クリムが同じように言い、
ぷぷって笑う。
「アキ様らしい
ネーミングですね」
「だって。
おじいちゃんだし、
そういえば、先生の名前、
聞いてなかったよね?」
俺がルシリアンを見ると
「確か名乗られてましたが
声が小さくて
聞き取れませんでした」
という。
そうだった。
でもそれも良い味出してると
思えてしまうから
あの先生は凄いんだよな。
なんて思っていたら。
「そうか。
そんなに良い教師なら
私も魔法学を学んでみようか」
と、急に会話に
乱入してくるやつがいる。
ルティクラウン殿下だ。
誰が何を学ぶかは自由だし、
拒否はできない。
でも自習時間は
俺とルシリアンが
人気のないおじいちゃん先生を
独り占めしているから、
なんだか嫌だな。
いや、そう思うのは
いけないことかもしれないが。
おじいちゃん先生との時間を
邪魔して欲しくないとか
思ったら、ダメだよな。
「私が参加するのは
嫌だと言う顔だな」
うん、嫌。
と、とっさに言いそうになり
俺は慌てて口を閉じた。
いかん、いかん。
ここは教室だ。
そんな言葉を隣国の王子に
言っていいはずがない。
「いいえ。
何を学ぶのかは自由ですし、
魔法学に興味があれば
参加されても良いと思います」
俺が余所行きの顔で言うと
ルティクラウン殿下は
面白そうな顔をした。
「では、今日は
魔法学を学ぶとしよう」
ルティクラウン殿下は
そう言って俺の席から離れて行く。
「良かったのですか?」
ルシリアンがに聞かれたが、
隣国の王子相手に
ダメだは言えないだろう。
「まぁ、クラスメイトだし
仕方ない、かな」
俺が言うと、
二人とも不安そうな顔で
そうですね、と頷いた。
楽しい時間は
あっという間にやってくる。
魔法学の授業があり、
その後は自習時間だ。
クリムは騎士学に行くと言い、
俺とルシリアンは
おじいちゃん先生の所へと向かう。
その後ろを
ルティクラウン殿下が
ついて来て、さらに後ろを
キールとルティクラウン殿下の
護衛がついて来ていた。
「先生、今日もよろしくお願いします」
俺がおじいちゃん先生の
研究室をノックして入ると、
おじいちゃん先生は
にこにこと俺たちを出迎えてくれた。
ただ、この後、
どうしても参加しなければ
ならない職員会議があり、
終わったら戻ってくるので
それまではこの部屋で
研究の手伝いをして
待っていて欲しいという。
俺たちはそれに頷き、
おじいちゃん先生に
頼まれた手伝いをすべく
広いテーブルに座った。
この研究室に来るようになり、
何度も手伝って来た内容なので
困ることは無い。
この部屋は前世の
高校の科学室みたいな部屋で、
色んな実験道具があったり
魔石の標本とかが飾ってある。
俺たちは広いテーブルに
魔石の標本を並べた。
テーブルの上には
大きくて浅い、
水槽みたいな透明な箱がある。
箱の中には砂が入っていて
さらに、形も色も様々な石が
沢山埋まっている。
俺たちはこの砂に
埋もれた石から
魔石を探し出して
取り出す作業をするのだ。
砂の中には
ただの石も混ざっているし、
ちゃんと見ないと
どれが魔石かわからない。
でも俺、なんとなくだけど
どれが魔石かわかるような
気がするんだよな。
手で持ったらわかるというか、
見たらわかるというか。
俺の特技を見抜いた
おじいちゃん先生は
手伝いと称して
良く俺にこうやって
石の分類をさせる。
ルシリアンには
迷惑な話かもしれないが
貴重な、それも
加工もしていない魔石と
触れ合う機会だし
それはそれで良いかと
思ったりもしている。
俺たちが作業を始めると
ルティクラウン殿下も
へぇ、と声を出して
俺たちの手元を覗き込んだ。
「私の国では
魔石は魔物から生まれると
言われているが、
この国では違うのだな」
何気ない言葉だった。
けれど、俺には驚きの言葉だ。。
「それ……は、
本当ですか?」
「うん? そうだが」
不思議そうに
ルティクラウン殿下は言う、が。
俺は飛び掛からんばかりに
ルティクラウン殿下に詰め寄る。
「もっと話を聞かせてください」
あまりの勢いに、
ルシリアンも驚いて
持っていた石をテーブルに
ごとん、と落とした。
けれど俺は
そんなことも気にならないぐらい
大興奮していた。
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