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婚約騒動が勃発しました
88:殿下乱入
しおりを挟む俺は黙って
ルティクラウン殿下の
話をひたすら聞いた。
適当に相槌を打ち、
話を長引かせる。
話を聞いていると、
ルティクラウン殿下は
かなりの生物オタクだと思える。
いや、魔法オタクかもしれない。
俺の持つ魔力にも
興味があるようだったし。
俺には魔力があるのに、
何故、普通に魔法を使えないのか。
その魔力は何故身体を
性転換させることだけにしか
使えないのかを
ひたすら疑問視している。
そりゃそうだ。
俺だってそれは疑問だよ。
そして俺に答えが
わかるはずもない。
ただわかっているのは
話を長引かせているうちに
きっと、義兄かティスが
この場に来てくれるのでは
ないかということだけだ。
俺が会議室で
ルティクラウン殿下と
話をすることは
キールを通じて
王宮に連絡してもらっている。
このことを知ったら、
助けに来てくれると思うんだよな。
……きっと。
来てくれないと拗ねるぞっ。
「つまり」
いきなり、
ルティクラウン殿下が
大きな声になった。
「ぜひ、私の研究を
手伝って欲しい」
「え、いや」
やばっ。
思わず真顔で、
素で答えてしまった。
ルティクラウン殿下の動きが止まる。
「何故?
画期的で人類のためになる
研究だとは思わないか?」
「でも、僕の犠牲が
前提の研究としか
思えないのですが」
俺も紫の瞳の理由とか
女性の出生率の低下とか
そういうのを解明したいと
思っていたけれど。
ちょっと俺と
ルティクラウン殿下とは
方向性が違うんだよな。
「犠牲?」
ルティクラウン殿下は
大きく首を振る。
「この研究は人類に
大きな貢献を生みだすものだ。
絶対に進めるべきだろう」
「え、嫌」
俺は間髪入れずに言う。
いや、不敬だろう。
隣国の王子様相手に。
もうちょっと、
言い方を考えろよ、って
頭では思うのだが。
ルティクラウン殿下の様子が、
前世で俺が良く知る人物に、
そっくりだったのだ。
人の話を聞かないところや
強引なところや、
俺の迷惑を顧みず、
やりたいことを
やろうとするその姿勢が。
前世でも俺は
その人物が無茶なことを
言う度に、「嫌」の
一言で終わらせてきた。
その感覚が蘇ってしまったのだ。
「だが、人類の……」
「嫌です」
俺はかぶせるように、
反射的に言ってしまう。
俺の物い言いに、
ルシリアンとクリムが
はらはらしている様子が
手に取るようにわかったが、
スマン。
なんか、反射的に
口からでてしまうんだよ。
ある意味すごいぞ、
ルティクラウン殿下。
俺の無意識を操っている。
「女性の出生率が……」
「嫌です」
取り付く島もないというのは
こういうことだろう。
俺がひたすら「嫌」を
言い続けていると、
突然、ルティクラウン殿下が
笑い出した。
「すごいな。
ここまで拒否されるなんて。
私のことをこうまで
拒否する人物は、
君で二人目だ」
すごいな。
王子殿下に傍若無人に
拒絶するやつが
俺以外にもいるなんて。
「ただの公爵子息に
馬鹿にされたと罰しますか?」
「まさか。
そんなことをしたら
国際問題になる」
「それがわかってるのなら
違う方法を考えてください」
解剖学は絶対に嫌だ。
「厳しいなぁ」
ルティクラウン殿下は
俺に視線を向ける。
そして俺の顔をじっとみた。
「なんか、懐かしいなぁ。
こういうやりとり、
好きだったんだよね」
ルティクラウン殿下は
俺を見ながら、
俺ではない誰かを見ているような瞳をする。
俺は何を言えばいいかわからずに、
ルティクラウン殿下の
瞳を見つめ返した。
と、その時、
「アキ!」と声がして
ティスが部屋に入って来た。
息を切らして、
きっと急いできてくれたのだろう。
「アキ?
あぁ、アキルティアだから
アキなのか」
ルティクラウン殿下は
呟くように言う。
「ティス、こんなに汗をかいて。
大丈夫?」
ぜいぜい息を切らすティスに
俺は持っていた鞄から
ハンカチを取り出した。
「水とかあったら
良かったんだけど。
何か持って来てもらう?
でも冷たい水は
お腹を壊しちゃうから
お茶の方が良いかな。
喉が渇いた時は
熱いお茶の方が汗が早く
引くんだよ」
俺が言いながら
ティスの額を拭いてやる。
そんな俺とティスの
やりとりを
ルティクラウン殿下は
無言で聞いていたが、
やがて
「アキ?」
と何故が疑問形で
俺の名を呼んだ。
「はい」
愛称で呼ぶのは許してないけどな。
「……アキ、ラ?」
その言葉に俺は
ティスの汗を拭く手が
止まりそうになった。
それでも俺は
不自然な仕草にならないように
ティスの汗を拭う。
ただし、心臓が
どくどくと鳴っていた。
誰だ?
こいつ。
俺の前世の名前を
呼んだ……のか?
それとも、ただの偶然か?
アキと呼ぶつもりが
ついアキラと言ってしまったのか?
俺の動揺を
ティスはどう受け止めたのか
俺のハンカチを持っている手を
ぎゅっと握って、
俺の身体を引き寄せた。
「ルティクラウン殿下、
この国にいる間は
自由にしていただいて
構いませんが、
アキルティアには
勝手に近寄らないように
申し上げていたはずですが」
え?
そうなの?
「申し訳ない。
ただ、アキルティア殿は
私と同じクラスでね。
クラスメイトとして
交流を持ちたいと
思ったのですよ」
クラスメイトとは
仲良くしたいですから。
と、ルティクラウン殿下は
また丁寧な話し方で
ティスに言う。
「そうですか。
ですがアキルティアは
私の……婚約者、ですから」
違うし!
とは言えないよな。
きっと、俺を庇ってくれてんだよな。
ほんと、ティスはいいやつだ。
「なるほど。
大切にされているということですか。
さすが、紫の至宝と
呼ばれるだけある」
いや、いや。
至宝なんて言われるほど
価値はないですが。
俺、ホントに無価値なんで、
俺の人体実験は
どうか諦めてください。
俺は先ほどまでの
「嫌」「嫌」連発の
冷たい自分の対応を思い出し
俺の実験を諦めついでに、
俺の不敬も忘れてください!と
心の中で必死で祈った。
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