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婚約騒動が勃発しました

80:一件落着・1

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 義兄は果実水を飲んで
ふーっと息を吐いた。

「兄貴さ」

おっと、義兄が
急に弟になったぞ。

「殿下から貰った花、
何の花か知ってるか?」

「なんの?
あぁ『祝福』だっけ。
神殿に捧げるとか
なんかそう言うのに
使う花なんだろ?」

俺がそう言うと、
義兄は苦笑する。

「あの白い花は、
王族がプロポーズを
するときに使う花だ」

「は?」

「その花を一輪とはいえ
王家の茶会で
殿下に贈られて、
その花を髪に飾ってただろう」

そういや、
そういうこともあったな。

「そしてその後、
その花を使った匂い袋を作り、
殿下とお揃いで持っている。

そうなると、
周囲から見たら
どう思われると思う?」

俺は、は?ってなった。

風呂に入ったばかりなのに
背中に冷たい汗が流れる。

ヤバイ?
俺、やってはいけないことを
もしかして、やっちゃった?

「俺、やばい?
責任とって、ティスと
結婚しないとダメとか
言われてる?」

俺が焦って聞くと、
義兄は呆れたように言う。

「そうなるから、
考えて動けっていったろ」

そして義兄は指で
俺のおでこを
ピン、とはじいた。

「まぁ、殿下はどうせ、
何も考えずにあの花を
アキルティアに
渡したんだろうがな」

考えなしに感情で
動くタイプだからな、と
義兄は言う。

俺もティスはそのタイプだと思う。

俺の婚約がどうとか
騒がれている時に、
プロポーズの時に使う花を
わざわざ俺に渡すなんて。

きっとティスは
匂いが強い花だから
白い花にしようと
単純に思ったにちがいない。

まぁ、知らずに受け取った
俺も俺だけど。

「それだけならまだしも
兄貴は俺と同じ匂い袋も
まだ持ってるだろ?」

「あぁ。
だって捨てるなんて
もったいなくて
できないだろう?

王家の花で作った
匂い袋も山ほどあるし。

だから、交代で
使ってるんだ」

と言っても
ハンカチとかの小物は
義兄と同じ匂いのものを
クローゼットに入れてるので
変えようがない。

俺が身に付けている
匂い袋は服のポケットとか
そういうところに入れてるから
入れ替えは可能だが、
もともと使ってた匂いが
布には染み込んでるだろうし。

すぐに全部の匂い袋を
変更するなんて
できるわけがない。

「兄貴のその
もったいない精神は
凄いと思うけど、
貴族としてはダメかもな」

義兄はそんなことを言う。

「いいんだよ。
俺はこれで。

それでさ。
俺、なんかやらかしてるよな?
どうなってる?

っていうか、
どうしたらいい?」

俺は素直に助言を求めた。

義兄は考える素振りをする。

「基本的には
兄貴は何もしなくていいんだよ」

「どういうことだ?」

「現在、アキルティアは
殿下と俺を天秤に掛けている状態だ」

「はぁ?」

「そうだろ?
俺と殿下と同じ匂い袋を
持ってるんだから」

……そうなるのか?
やはり。

「それでアキルティアの
想いを成就させるためには
アキルティアは
俺と殿下の二人と
結婚させたらいい、と
無茶な話がでてきた」

「……その無茶な話、
聞きたくないけど、
あの父が言ってるのか?」

なんか、そんな気がしてきた。

義兄は苦笑したが
違う、とは言わなかった。

やっぱりそうか。

それで、

「二人と結婚したんだから
アキルティアは今まで通り
公爵家にいればいいんだよ、
王宮には通えばいいんだよ」

なんて言ってそうだ。

うん。
そういう父の姿が
目に浮かぶぞ。

「その話は、まぁ、
あの父が騒いでいるだけで
本気にしている者は
いない……と思いたいが」

思いたい?

もしかして本気にしてるやつ、
いるのか?

まぁ、あの父だからな。

強引に何でも押し切って
やってしまいそうなところが怖い。

「正直、アキルティアが
公爵家に残っても
王家に嫁いでも、
貴族の勢力図は
さほど変わらないと思う。

だが、アキルティアが
隣国に嫁げば、
公爵家の力が隣国のものになり
国力が落ちると考える貴族は
一定数いる。

あと、絶対にないが、
俺とアキルティアが
殿下と結婚したら
王家が力を付けすぎて
独裁政治になるという懸念を
持つ者もいる」

「俺が誰かを嫁にもらったら?」

「……そう考える者は
現状はいない」

ですよね。
そうだと思った。

「だが、まぁ、
今の状況は悪くない、かな」

義兄は呟くように言う。

「何が?」

義兄は少しだけ
おどけたように笑った。

「最初は俺と殿下と
アキルティアが
公爵家の庭の花で
作った同じ匂い袋を
使っているということで
アキルティアの想い人を
うやむやにするつもりだったんだ」

俺の想い人?

そうか。
俺は政略結婚するような
家柄だが、おそらく
結婚するなら恋愛結婚だろうしな。

父と母がそれ以外は
許さないだろう。

だから義兄は周囲から
俺が恋をしてるであろう相手、
つまり俺の婚約者候補が
特定できないように
しようと思ったのか。

だから、ティスに
匂い袋を作るように
言ったんだな。

俺は誰にも恋してないし
婚約するつもりもないんだが。

それが父の介入によって
兄弟揃って
ティスに嫁ぐとか
わけわかんない話に
なってしまったと。

凄いよな、父。

なんかわからないけど、
元凶は父のような気がする。

いや、父ならもう
すべてを強引に
解決できるんじゃないか?

俺は現実逃避をしそうになる。

しかし。
紫の瞳を持つ俺は、
とにかく誰かに嫁ぐと
思われているらしい。

そりゃそうか?

女性の出生率は
どんどん下がっているらしいし、

そんな中、
俺は子どもを生める
存在らしいし。

なんで女性の出生率が
下がったんだろうな。

この問題が片付けば
俺の結婚話とか
そういうのは全部
解決できそうなんだけどな。

俺、やっぱり将来は
その研究しょうかな。

結婚ばかりが人生じゃないもんな。




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