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婚約騒動が勃発しました
74:同じ香りを纏って
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ティスは椅子に座ったまま
俺を抱きしめるような形で
俺の胸に顔を押しつつけていたが、
涙が止まったのだろう。
おそるおそるという様子で
顔を上げて俺を見た。
気まずそうな顔だが
俺は笑顔でそれを受け止める。
これでも前世では、
反抗期の癖に甘えたがりの
手がかかる弟を育ててきたのだ。
こういうことだって
慣れたものだ。
ティスが泣いたことなど
気にしてないと笑って
頭を撫でてやる。
花冠が邪魔だったけれど
髪を上から下に
梳くだけでもいいだろう。
「頑張ってるんだもんな。
たまにはこんなのも
いいんじゃないかな」
俺たちは親友だし、
愚痴や泣き言だって
オールオッケーだ。
それに。
ティスは俺よりも1つ
年上だけれど、
どうしても弟として
見てしまうんだよな。
ほっとけないというか、
なんというか。
必死で頑張って王子様を
やってるティスは
凄いと思うし、
応援したい。
でもそんなに早く
大人にならなくても
いいんじゃないかと俺は思うのだ。
王子とはいえ、
ティスはまだ14歳だ。
成人の儀式は18歳だし、
まだまだ俺もティスも
守られるべき子どもなのだ。
壁にぶつかったら
泣いたっていいし、
周囲の大人に頼ってもいい。
ただティスはそういう大人が
周囲にはいないから
俺があまやかしてやりたいと思う。
俺がよしよししていると、
ティスは顔を赤くしながら
「その」と呟いた。
俺は手を止めて
ティスを見下ろす。
すると思ったよりも
見つめ合った顔が
近いことに気が付いた。
っと、これじゃ、
キスする一歩手前みたいだ。
ティスは兄弟じゃなくて
他人だから、もう少し
距離は取った方が良いよな。
俺はティスから少し体を離す。
「あ、アキっ」
離れた俺の手を
ティスが掴んだ。
「その、お願いが……!」
うん?
願い?
「お願いが、あるんだ」
ティスは大きな声を
出したかと思うと、
すぐに小声になる。
大声を出したのが
恥ずかしいと思ったのか、
騒いだら護衛たちが
来ると思ったのか。
顔を赤くしながら
ティスは、もごもごと
何かを小声で言う。
お願いがあるんだ、
からその先が、
小声過ぎて聞こえない。
「ティス、良く聞こえない。
お願いってなに?」
俺はティスの口もとに
耳を寄せる。
「近っ、いや、違う」
「違う? 何が?」
よくわからん。
「だから、その!
私も……欲しいんだ」
「欲しい?」
俺の力作のライオンと
花冠だけでは
満足できないということか?
結構頑張ったんだぞ、ライオン。
「アキルティアと同じ
匂い袋を、私も……っ!」
ティスは顔を真っ赤にして
声は小さかったけれど。
叫ぶように。
吐き出すようにそう言った。
「匂い袋?」
やっぱりか。
義兄も言ってたもんな。
匂い袋を作ってやれって。
もしかして、ティスは
王子様だから匂い袋とか
持ったことが無いのかも。
匂い袋は手作りだし、
王族だから、そんなものより
香水を身に付けてるだろうしな。
現にティスからは
いつも良い匂いがする。
香水に疎い俺には
それが何の匂いかはわからないが。
「でもティスはいつも
香水つけてるよね。
匂い袋はいらないんじゃ……」
「いる!
アキと同じのが……欲しい、んだ」
ダメか?
と悲しそうな顔をされてしまうと
拒否はしづらい。
「それはいいけれど……
公爵家の庭の花を使ってるから
僕と兄様と同じ匂いになっちゃうよ?」
それはさすがにダメじゃないか?
「な、なら、王家の庭の花を
使ったらダメか?
王家の庭は広いし、
花は沢山あるし。
その花で私とアキと
お揃いの匂い袋を作って欲しい」
真剣に言うティスに
俺は思わずうなずいた。
もしかしてティスは
寂しんぼなのかも?
親友と同じものが欲しいなんて
子どもみたいだな。
「なら、花を探しに行こう!」
俺が頷くと、
ティスは物凄い笑顔になり
椅子から立ち上がる。
そしてライオンを袋に
入れ直してから、
俺に手を差し出した。
「行こう?」
もう一度言われて
俺はティスの手を取る。
手を繋いで王家の庭を歩くのは
幼いころから変わっていない。
最初は俺の体力が無さ過ぎて
ティスに手を引いて
貰っていたのだが、
体力がついた今も
ティスは俺と手を繋いでくれる。
子どもの癖に、
過保護なんだよな、ティスは。
俺の周囲は過保護ばかりだ。
ゆっくりと中庭から
さらに奥の庭へと俺を連れて行く。
花の強い香りが徐々にしてきた。
ティスの話では、
王家の庭は広くて、
数も多い。
広い敷地を仕切って
庭をいくつも作ってるらしい。
そしてその庭ごとに
植える花や
モニュメントなど
さまざまな趣向を凝らして
作られているんだとか。
そしてなんと、
各庭の花の匂いも
重ならないように。
香りの強い花は
隣接しないように
植えられているという。
王家の庭師、凄い!
「アキ、こっち」
生垣をぐるりと回り、
俺たちは小さな池のそばを歩く。
随分と庭の奥へと
来たような気がする。
庭は広く迷路みたいに
生垣で区切られているから
はぐれたら一人で
元の場所に戻れるか
自信がない。
俺が不安になって
ぎゅ、っとティスの
手を握った。
「どうしたの?
疲れた?」
俺の様子にティスは
心配そうに顔を
覗き込んでくる。
「大丈夫。
ただ迷子になりそうだと
思って、ちょっと
不安になったんだ」
「そっか!
じゃあ、
ちゃんと私の手を握ってて。
頼りにしてくれて
構わないから」
嬉しそうにティスは言い、
胸を張るようにして
歩き出す。
小さな子が得意な顔をして
張り切って歩いてるみたいだ。
思わず笑いそうに
なったけれど、
我慢、我慢。
俺はティスとしっかり
手を繋いで、
ゆっくりと庭を歩いた。
俺を抱きしめるような形で
俺の胸に顔を押しつつけていたが、
涙が止まったのだろう。
おそるおそるという様子で
顔を上げて俺を見た。
気まずそうな顔だが
俺は笑顔でそれを受け止める。
これでも前世では、
反抗期の癖に甘えたがりの
手がかかる弟を育ててきたのだ。
こういうことだって
慣れたものだ。
ティスが泣いたことなど
気にしてないと笑って
頭を撫でてやる。
花冠が邪魔だったけれど
髪を上から下に
梳くだけでもいいだろう。
「頑張ってるんだもんな。
たまにはこんなのも
いいんじゃないかな」
俺たちは親友だし、
愚痴や泣き言だって
オールオッケーだ。
それに。
ティスは俺よりも1つ
年上だけれど、
どうしても弟として
見てしまうんだよな。
ほっとけないというか、
なんというか。
必死で頑張って王子様を
やってるティスは
凄いと思うし、
応援したい。
でもそんなに早く
大人にならなくても
いいんじゃないかと俺は思うのだ。
王子とはいえ、
ティスはまだ14歳だ。
成人の儀式は18歳だし、
まだまだ俺もティスも
守られるべき子どもなのだ。
壁にぶつかったら
泣いたっていいし、
周囲の大人に頼ってもいい。
ただティスはそういう大人が
周囲にはいないから
俺があまやかしてやりたいと思う。
俺がよしよししていると、
ティスは顔を赤くしながら
「その」と呟いた。
俺は手を止めて
ティスを見下ろす。
すると思ったよりも
見つめ合った顔が
近いことに気が付いた。
っと、これじゃ、
キスする一歩手前みたいだ。
ティスは兄弟じゃなくて
他人だから、もう少し
距離は取った方が良いよな。
俺はティスから少し体を離す。
「あ、アキっ」
離れた俺の手を
ティスが掴んだ。
「その、お願いが……!」
うん?
願い?
「お願いが、あるんだ」
ティスは大きな声を
出したかと思うと、
すぐに小声になる。
大声を出したのが
恥ずかしいと思ったのか、
騒いだら護衛たちが
来ると思ったのか。
顔を赤くしながら
ティスは、もごもごと
何かを小声で言う。
お願いがあるんだ、
からその先が、
小声過ぎて聞こえない。
「ティス、良く聞こえない。
お願いってなに?」
俺はティスの口もとに
耳を寄せる。
「近っ、いや、違う」
「違う? 何が?」
よくわからん。
「だから、その!
私も……欲しいんだ」
「欲しい?」
俺の力作のライオンと
花冠だけでは
満足できないということか?
結構頑張ったんだぞ、ライオン。
「アキルティアと同じ
匂い袋を、私も……っ!」
ティスは顔を真っ赤にして
声は小さかったけれど。
叫ぶように。
吐き出すようにそう言った。
「匂い袋?」
やっぱりか。
義兄も言ってたもんな。
匂い袋を作ってやれって。
もしかして、ティスは
王子様だから匂い袋とか
持ったことが無いのかも。
匂い袋は手作りだし、
王族だから、そんなものより
香水を身に付けてるだろうしな。
現にティスからは
いつも良い匂いがする。
香水に疎い俺には
それが何の匂いかはわからないが。
「でもティスはいつも
香水つけてるよね。
匂い袋はいらないんじゃ……」
「いる!
アキと同じのが……欲しい、んだ」
ダメか?
と悲しそうな顔をされてしまうと
拒否はしづらい。
「それはいいけれど……
公爵家の庭の花を使ってるから
僕と兄様と同じ匂いになっちゃうよ?」
それはさすがにダメじゃないか?
「な、なら、王家の庭の花を
使ったらダメか?
王家の庭は広いし、
花は沢山あるし。
その花で私とアキと
お揃いの匂い袋を作って欲しい」
真剣に言うティスに
俺は思わずうなずいた。
もしかしてティスは
寂しんぼなのかも?
親友と同じものが欲しいなんて
子どもみたいだな。
「なら、花を探しに行こう!」
俺が頷くと、
ティスは物凄い笑顔になり
椅子から立ち上がる。
そしてライオンを袋に
入れ直してから、
俺に手を差し出した。
「行こう?」
もう一度言われて
俺はティスの手を取る。
手を繋いで王家の庭を歩くのは
幼いころから変わっていない。
最初は俺の体力が無さ過ぎて
ティスに手を引いて
貰っていたのだが、
体力がついた今も
ティスは俺と手を繋いでくれる。
子どもの癖に、
過保護なんだよな、ティスは。
俺の周囲は過保護ばかりだ。
ゆっくりと中庭から
さらに奥の庭へと俺を連れて行く。
花の強い香りが徐々にしてきた。
ティスの話では、
王家の庭は広くて、
数も多い。
広い敷地を仕切って
庭をいくつも作ってるらしい。
そしてその庭ごとに
植える花や
モニュメントなど
さまざまな趣向を凝らして
作られているんだとか。
そしてなんと、
各庭の花の匂いも
重ならないように。
香りの強い花は
隣接しないように
植えられているという。
王家の庭師、凄い!
「アキ、こっち」
生垣をぐるりと回り、
俺たちは小さな池のそばを歩く。
随分と庭の奥へと
来たような気がする。
庭は広く迷路みたいに
生垣で区切られているから
はぐれたら一人で
元の場所に戻れるか
自信がない。
俺が不安になって
ぎゅ、っとティスの
手を握った。
「どうしたの?
疲れた?」
俺の様子にティスは
心配そうに顔を
覗き込んでくる。
「大丈夫。
ただ迷子になりそうだと
思って、ちょっと
不安になったんだ」
「そっか!
じゃあ、
ちゃんと私の手を握ってて。
頼りにしてくれて
構わないから」
嬉しそうにティスは言い、
胸を張るようにして
歩き出す。
小さな子が得意な顔をして
張り切って歩いてるみたいだ。
思わず笑いそうに
なったけれど、
我慢、我慢。
俺はティスとしっかり
手を繋いで、
ゆっくりと庭を歩いた。
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