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婚約騒動が勃発しました
73:私の唯一・2【ティスSIDE】
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私は素晴らしい獅子を
ちゃんと見たくて、
袋からそっと獅子を取り出した。
テーブルの上に置くと、
目や鼻は木の実で作られており、
雄々しいというよりは
可愛い印象を受ける。
だが、可愛らしい
アキルティアが作った物だ。
そう思えば納得がいく。
それに王家の紋章は
獅子を模っている。
アキルティアは
恐らくそれも考慮に入れて
作ってくれたのだろう。
こんな素晴らしいものを。
アキルティアは私の為だけに
作ってくれたのだ。
どれほどの時間を費やしたのか
想像もつかない。
だが、それほどの時間を
私のためだけに
使ってくれたと言う事実に
胸が熱くなる。
思わず涙がにじんだ。
私が何も言わなかったからか、
アキルティアが早口で言った。
「実用性はないんだけど
獅子は王家の証だし
机の上にでも置いておいて
くれたらいいな、と思って」
あぁ、やはり。
王家の証だから、
獅子を作ってくれたのだ。
アキルティアが匂い袋を
作ってジェルロイドに
渡していることは聞いている。
だが言わばそれは、
アキルティアが作り、
自らも使う物をジェルロイドに
分け与えているだけだ。
だが、これは違う。
アキルティアが
私のためだけに
作ってくれた物だ。
「えっと。
栞とか、匂い袋とか、
実用性があった方が良かった?」
まさか!
そんなわけあるはずがない。
否定しようとして、
私はまだアキルティアに
お礼すら言えてないことに気が付いた。
感動が大きすぎて
言葉がでなかったのだ。
「い、や。
そうじゃなくて」
違う、そんな言葉じゃない。
お礼だ。
感謝の言葉を伝えなくては。
「嬉しくて。
アキルティアが、
アキが、私の為だけに
こんなに素晴らしいものを
作ってくれたから」
嬉しい。
王子と言う身分があるため
身の回りの物は
超一流の物ばかりだ。
けれど、どんなに
高価なものよりも、
どんなに世間の評価が
高い物よりも。
私にはアキルティアが
作ってくれたこの獅子が
何よりも価値があり、
何よりも嬉しい。
「そうだ。
それと、もう一つ」
「まだあるの?」
私をこんなに喜ばせて
まだあるというのか。
アキルティアはテーブルの上に
大きな布に包まれた物を置く。
「それは?」
「公爵家の庭に咲いてたのを
ここに来る前に摘んできたんだ」
アキルティアは言いながら
布を開いた。
中から白い小さな花が沢山でてきた。
「アキが摘んだの?
自分で?」
公爵家には庭師がいる筈だ。
なのに、アキルティアが
自らの手で、私のために?
「当たり前だろ」
そう言われて、
さきほど止まった涙が
また浮かんでくる。
嬉しい。
私が手を伸ばすと、
その手をアキルティアは止めた。
私のために摘んだのではないのか?
首を傾げる私に
アキルティアは笑う。
「ちょっとだけ待ってて。
すぐにできるから」
何を?
と思う私の前で、
アキルティアは器用に
花を束にして編み始めた。
驚いた。
それにすごく器用だ。
この獅子を作るぐらいだから
器用だとは思ったが、
白い指先がどんどん花を
束にして、それをまとめて
輪にしていくのは圧巻だった。
「はい、できた」
そう言ったアキルティアの
手には、輪になった花がある。
アキルティアが立ち上がり
私の頭に乗せた時、
私はようやくそれが
花冠だと気が付いた。
「ティスはいつか
王冠を頭に乗せるんだろうけど。
今は、これ」
可愛らしい声に、
私はとうとう涙を落としてしまった。
私はいまだに、
『できそこないの王子』と
陰では呼ばれている。
ジェルロイドがいてくれるから
まだ随分とマシになったが、
一人では、まだ上手く
仕事の段取りもできなければ
つい感情が先走って
何かあると考えずに
行動してしまいそうになる。
いや、ジェルロイドが
制止しないと実際に
行動してしまったこともあった。
その度に私は落ち込み、
後悔をする。
そんな私に
ジェルロイドは一人で
完璧にならなくてもいい。
私ができないところを
支えるために
側近がいるのだと
そう言ってくれるが、
自分の不甲斐なさを毎日
噛みしめる日々だ。
そんな私に、
アキルティアは冠を授けてくれた。
まるでアキルティアに
私が王になることを
認めて貰えた気がする。
嬉しくて。
けれども、自分が不甲斐なくて。
私は目から零れ落ちた涙を
止めることができない。
早く泣き止まなければ
アキルティアが不信に思う。
焦っていると、
いきなりアキルティアが
私のそばに来て
そっと私の頭を抱き寄せた。
アキルティアの胸に
顔をうずめるような形になる。
そしてアキルティアは
私の背をゆっくりと撫でた。
私を慰めるように。
私の弱い心を救うように。
アキルティアの心臓の音が
すぐ聞こえてくる。
いいのだろうか。
私は王になるというのに、
このように弱いところを
曝け出しても。
アキルティアは私の弱さも
脆さも、こうして受け止めてくれる。
嬉しくて。
涙がまた溢れて来た。
それを隠したくて
私はアキルティアの胸に
顔を押し付けた。
シャツの生地を通して
暖かなアキルティアの
肌の感触がする。
気恥ずかしいが、
それすらも、嬉しい。
もっと近づきたい。
アキルティアと親密になりたい。
たとえアキルティアが
私のことを友人としか
思っていなくても。
それでも、私はアキルティアが欲しい。
私はアキルティアの背に腕を回す。
ぎゅっと抱きしめると、
ふわりと花の匂いがした。
これが、アキルティアが
作った匂い袋の香りなのだろう。
私も同じものが欲しい。
もしアキルティアの香りと
同じものを持つことが出来たら
いつもアキルティアが
そばに居るように思える。
そうしたらきっと、
私は頑張れる。
私も強請っても良いだろうか。
同じ香りを、とーーー。
ちゃんと見たくて、
袋からそっと獅子を取り出した。
テーブルの上に置くと、
目や鼻は木の実で作られており、
雄々しいというよりは
可愛い印象を受ける。
だが、可愛らしい
アキルティアが作った物だ。
そう思えば納得がいく。
それに王家の紋章は
獅子を模っている。
アキルティアは
恐らくそれも考慮に入れて
作ってくれたのだろう。
こんな素晴らしいものを。
アキルティアは私の為だけに
作ってくれたのだ。
どれほどの時間を費やしたのか
想像もつかない。
だが、それほどの時間を
私のためだけに
使ってくれたと言う事実に
胸が熱くなる。
思わず涙がにじんだ。
私が何も言わなかったからか、
アキルティアが早口で言った。
「実用性はないんだけど
獅子は王家の証だし
机の上にでも置いておいて
くれたらいいな、と思って」
あぁ、やはり。
王家の証だから、
獅子を作ってくれたのだ。
アキルティアが匂い袋を
作ってジェルロイドに
渡していることは聞いている。
だが言わばそれは、
アキルティアが作り、
自らも使う物をジェルロイドに
分け与えているだけだ。
だが、これは違う。
アキルティアが
私のためだけに
作ってくれた物だ。
「えっと。
栞とか、匂い袋とか、
実用性があった方が良かった?」
まさか!
そんなわけあるはずがない。
否定しようとして、
私はまだアキルティアに
お礼すら言えてないことに気が付いた。
感動が大きすぎて
言葉がでなかったのだ。
「い、や。
そうじゃなくて」
違う、そんな言葉じゃない。
お礼だ。
感謝の言葉を伝えなくては。
「嬉しくて。
アキルティアが、
アキが、私の為だけに
こんなに素晴らしいものを
作ってくれたから」
嬉しい。
王子と言う身分があるため
身の回りの物は
超一流の物ばかりだ。
けれど、どんなに
高価なものよりも、
どんなに世間の評価が
高い物よりも。
私にはアキルティアが
作ってくれたこの獅子が
何よりも価値があり、
何よりも嬉しい。
「そうだ。
それと、もう一つ」
「まだあるの?」
私をこんなに喜ばせて
まだあるというのか。
アキルティアはテーブルの上に
大きな布に包まれた物を置く。
「それは?」
「公爵家の庭に咲いてたのを
ここに来る前に摘んできたんだ」
アキルティアは言いながら
布を開いた。
中から白い小さな花が沢山でてきた。
「アキが摘んだの?
自分で?」
公爵家には庭師がいる筈だ。
なのに、アキルティアが
自らの手で、私のために?
「当たり前だろ」
そう言われて、
さきほど止まった涙が
また浮かんでくる。
嬉しい。
私が手を伸ばすと、
その手をアキルティアは止めた。
私のために摘んだのではないのか?
首を傾げる私に
アキルティアは笑う。
「ちょっとだけ待ってて。
すぐにできるから」
何を?
と思う私の前で、
アキルティアは器用に
花を束にして編み始めた。
驚いた。
それにすごく器用だ。
この獅子を作るぐらいだから
器用だとは思ったが、
白い指先がどんどん花を
束にして、それをまとめて
輪にしていくのは圧巻だった。
「はい、できた」
そう言ったアキルティアの
手には、輪になった花がある。
アキルティアが立ち上がり
私の頭に乗せた時、
私はようやくそれが
花冠だと気が付いた。
「ティスはいつか
王冠を頭に乗せるんだろうけど。
今は、これ」
可愛らしい声に、
私はとうとう涙を落としてしまった。
私はいまだに、
『できそこないの王子』と
陰では呼ばれている。
ジェルロイドがいてくれるから
まだ随分とマシになったが、
一人では、まだ上手く
仕事の段取りもできなければ
つい感情が先走って
何かあると考えずに
行動してしまいそうになる。
いや、ジェルロイドが
制止しないと実際に
行動してしまったこともあった。
その度に私は落ち込み、
後悔をする。
そんな私に
ジェルロイドは一人で
完璧にならなくてもいい。
私ができないところを
支えるために
側近がいるのだと
そう言ってくれるが、
自分の不甲斐なさを毎日
噛みしめる日々だ。
そんな私に、
アキルティアは冠を授けてくれた。
まるでアキルティアに
私が王になることを
認めて貰えた気がする。
嬉しくて。
けれども、自分が不甲斐なくて。
私は目から零れ落ちた涙を
止めることができない。
早く泣き止まなければ
アキルティアが不信に思う。
焦っていると、
いきなりアキルティアが
私のそばに来て
そっと私の頭を抱き寄せた。
アキルティアの胸に
顔をうずめるような形になる。
そしてアキルティアは
私の背をゆっくりと撫でた。
私を慰めるように。
私の弱い心を救うように。
アキルティアの心臓の音が
すぐ聞こえてくる。
いいのだろうか。
私は王になるというのに、
このように弱いところを
曝け出しても。
アキルティアは私の弱さも
脆さも、こうして受け止めてくれる。
嬉しくて。
涙がまた溢れて来た。
それを隠したくて
私はアキルティアの胸に
顔を押し付けた。
シャツの生地を通して
暖かなアキルティアの
肌の感触がする。
気恥ずかしいが、
それすらも、嬉しい。
もっと近づきたい。
アキルティアと親密になりたい。
たとえアキルティアが
私のことを友人としか
思っていなくても。
それでも、私はアキルティアが欲しい。
私はアキルティアの背に腕を回す。
ぎゅっと抱きしめると、
ふわりと花の匂いがした。
これが、アキルティアが
作った匂い袋の香りなのだろう。
私も同じものが欲しい。
もしアキルティアの香りと
同じものを持つことが出来たら
いつもアキルティアが
そばに居るように思える。
そうしたらきっと、
私は頑張れる。
私も強請っても良いだろうか。
同じ香りを、とーーー。
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