完結・転生したら前世の弟が義兄になり恋愛フラグをバキバキに折っています

たたら

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婚約騒動が勃発しました

76:匂い袋は波乱を呼ぶ

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 ティスとの散歩は
花壇を抜けて終わりになった。

ティスがそろそろ戻らなければ、
と残念そうに言ったからだ。

そこで俺はティスと
王子専用の執務室に向かうことにした。

白い花の庭から
生垣を抜けて、
長い渡り廊下に出る。

俺はティスと手を繋いだままだ。

「アキ、疲れてない?
どこかで休む?」

いつもより多く歩いたからか
ティスが心配そうに
声をかけてくる。

「大丈夫、ありがとう」

随分と俺も体力が付いてきたし
これぐらいなら大丈夫だ。

早歩きだったら
息を切らしていたかもしれないが
ティスは俺に気を遣ってか、
ゆっくり歩いてくれたので
負担はない。

「執務室に付いたら
冷たい果実水か、
お茶を出すように言うから」

「大丈夫だよ、ティス。
あとは、兄様か
父様に会って帰るだけだし」

俺は笑って見せる。

ほんと、ティスって
いいやつだよな。

王子なのに偉ぶらないし、
俺にはめちゃくちゃ
気を遣ってくれるし。

いいやつで、
優しいなんて
これは成長したら
かなりの優良物件かも。

よく見るとティスは
顔立ちも調ってるし、
王子だし、次期国王だし。

そういや俺との婚約話は
どうなったんだろう。

俺から話をした方が
良かったかな。

ティスだって
子どもが生めるとはいえ
男の俺と結婚するよりも
可愛い女の子と結婚したいと思う。

となれば、
そろそろお見合いとか、
そういうことを
しなくてもいいのだろうか。

……随分忙しそうだし、
そんな時間なんてないのかも?

俺がティスに手を引かれて
歩きながら考えていると
あっという間に執務室まで
たどり着いた。

執務室の前には
護衛っぽい人たちが
二人立っていて
俺たちに気が付くと頭を下げる。

「今戻った」

ティスが言うと、
扉の前に立っていた一人が

「お待ちしておりました」

と言う。

そして
「さきほどから……その」
と俺を見て言い淀み、

ティスは
「ジェルロイドか」
と小さくつぶやく。

義兄?
義兄がどうかしたのか?

「随分と待たせたか?」

ティスの声に、
護衛っぽい人は
返事の代わりに頭を下げた。

これは……義兄は
ティスを待っていて、
遅くなったからお怒りモード、
ということか。

護衛が扉を開けると、
案の定、執務室には
沢山の秘書みたいな
人たちと、義兄がいた。

義兄はティスの顔を
見るなり、遅い、と
顔をしかめる。

空気が一瞬、
凍ったように、
秘書みたいな人たちが
脅えたような顔で
動きを止めた。

遅い、か。

きっと白い花の場所で
のんびり散歩をした分だけ
休憩時間がオーバー
してしまったのだろう。

ここは俺がティスを
かばってやらねば!

「兄様、怒らないでください。
僕は楽しかったので」

俺がティスを庇うように言うと、
義兄は文句を言うために
開けた口を、ため息で閉じた。

おぉ!という感嘆の声が
周囲から聞こえた気がしたが
気にしないでおく。

「兄様。
お仕事は忙しいですか?

一緒に帰れそうにないなら
僕は父様のところに行きますが」

俺がそう言うと、
義兄は首を振る。

「義父も今は忙しいだろう。
一人で帰れるか?」

なんだ、そうか。
もしかしたら、
俺の婚約話で揉めてるのか?

なら触らぬ神に祟りなしだな。

面倒だが馬車を
出してもらうとするか。

「わかりました。
じゃあ、一人で帰ります」

「待って、アキ」

ティスが俺を呼び留め、
何やら紙に書くと
近くにいた侍従にそのメモを渡した。

「馬車は私が用意させるから
安心して。
護衛にも連絡したから」

「ありがとう」

そうだった。
俺は王家のあの
白い花の庭から
直接、執務室まで
来てしまったから、
護衛のキールと離れたままだ。

やばいやばい。
キールを置いて帰るところだったぜ。

「次はいつ会える?」

ティスが俺と繋いだ手に
ぐっと力を込めるが、
いつと言われてもなぁ。

俺は義兄を見た。

たぶんだが、ティスの
スケジュールは
義兄が握っていそうだ。

「隣国の使節団が
帰るまでは無理でしょうね」

ほらな。
義兄は冷たく言う。

「それまでには
ちゃんと作っておくから。
ね?」

俺はティスを
励ますように言った。

ティスは俺と手を
繋いでいない方の手に
力作のライオンが入った
袋が握っていた。

もちろん、頭には
花冠が乗ったままだ。

「殿下。
アキルティアから
色々貰ったようですが、
さらにまだ、欲しがったのですか?」

呆れたような義兄の声に
ティスは小さく、だって、と言った。

『だって』だって!

ティスがそんな
子どもみたいに拗ねたような
言葉を言うなんて!

うっひゃー。
なんか、可愛い。

ここは俺がかばってやらないと。

「兄様、僕が勝手に
ティスにあげたいと
思ったんです。

あまりティスをいじめないで
あげてください」

俺がかばうと、
ティスは目を輝かせて
俺を見た。

うん、うん。
わかるわかる。

自分の味方がいたら
嬉しくなるよな。

「その、アキ。
ありがとう。
これは一生大事にする。

私はいつもこの部屋にいるから
ここに飾っても良いだろうか」

「もちろん。
好きにしていいよ。
もうそれはティスのだし」

そう言うと、
ティスは俺から手を離し、
嬉しそうに袋から
ライオンを取り出した。

おぉ!ってまた
周囲からどよめきのような
声が聞こえてくる。

ティスがライオンを机に置き、
笑顔になった時、
部屋にノックがして
キールが俺を迎えに来た。

馬車の準備もできたらしい。

「じゃあ、帰るね。
ティス、ありがとう」

「こちらこそ、ありがとう。
アキルティア。
気を付けて」

「うん」

俺は頷いて義兄を見る。

「兄様、今日は遅くなりますか?」

「そうだな。
夕食は先に食べててくれ」

「わかりました。
無理しないでくださいね」

俺はそれだけ言って
執務室を出る。

俺が部屋を出ると
キールと、もう一人
良く顔を見かける侍従さんがいて
俺たちを馬車まで案内してくれた。

さすが王家の馬車だけあって
乗り心地が良い。

そしてめちゃくちゃ良い香りがする。

と思ったら、
あの白い花が大量に束になり
馬車の座席に置かれていた。

どうやらこれを
持って帰って良いらしい。

キールは驚いていたが、
ティスから貰ったのだと言うと
納得したように頷いた。

そう、俺は知らなかったのだ。

この白い花が、
王家では求婚の申し込みに
使われる花だということを。

そして俺が
使って匂い袋を作り、
俺とティスが同じ香りを
身に付けているということが
どういう意味になるかと
言うことを。

俺がその意味に気が付いたのは
ティスに匂い袋を渡して
しばらくたってからだった。

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