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閑話4
可愛い可愛い天使さま・2【エミリーSIDE】
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お茶会が進んで行き、
アキルティア様が私たちに
可愛らしい栞を見せて下さった。
可愛らしいと思ったけれど、
アキルティア様は
「今日のお茶会が楽しみで、
よければみんなでお揃いのものを
持てたらいいなと思って
作って来たんです」
という。
もしかしていただけるのかしら?
え?
私にも?
紫の瞳を持つアキルティア様の
手作りのものを?
公爵家の秘宝と言われる
アキルティア様が作ったものを?
私たち全員が戸惑うと
アキルティア様はそれはそれは
悲しそうな顔をされた。
天使を悲しませるのは
本意ではない。
けれど、本当にいいのだろうか。
たかが栞と言うかもしれないが、
もし邪な考えを持つ者が
この場に居れば、この栞一つで
「アキルティア様と懇意にしている」
と、社交界で吹聴することもできる。
しかもルシリアン様の言葉から
ジャスティス殿下も
アキルティア様の手作りの物は
何もお持ちではなさそうだ。
しかもしかも!
この栞はアキルティア様と
お揃いなのだという。
恐れ多い。
言え、違うわ。
殿下よりも先に
アキルティア様の手作りで
なおかつお揃いの栞を持つなんて……。
私たちは迷ったけれど
どんどん悲しそうな顔をする
アキルティア様をそのままに
しておくことなどできなかった。
ルシリアン様とクリム様が
顔を見合わせ頷き、
私たちとも目を合わせる。
ここで、ありがたく頂戴しようと
四人の意志が決まったのだ。
丁寧にお礼を言って
手にした栞は、公爵家の庭で
取れたのだろう。
大きな赤い花が
綺麗に押し花にされている。
鮮やかな赤い花の横には
小さい黄色い花と葉が
同じ様に押し花になり
添えられていた。
他の栞をそっと見ると
使っている花は同じのようだけれど
添えてある花や葉は
どれも少しづつ違っている。
アキルティア様は
とても感性の豊かな方かもしれない。
それに1つ1つ、
丁寧に作られたのが
この栞を見ただけですぐにわかった。
公爵家と言えば、
お金に困ることもないだろうし、
何でも手に入るだろう。
けれども手土産の
甘いサンドイッチは
アキルティア様が好きなもので
シェフの手作りだった。
高価な菓子を持ってくることだってできたのに。
もし私たちと交友を持つために
プレゼントというのであれば
高価な物を持ってくることだってできる。
でもアキルティア様が
私たちに差し出したのは
手作りの栞だった。
1つ1つ、私たちのために
作ってくれた栞。
私は心が温かくなるのを感じた。
アキルティア様は本当に
素敵な天使様だ。
心が温かくなって、
メイジー様もきっと同じだったと思う。
最初はアキルティア様の前で
緊張していたのだけれど
おしゃべりをしているうちに
どんどん、いつもの状態に
なってしまった。
つまり、私とメイジー様の
女子トークということだ。
こうなってしまうと、
ルシリアン様もクリム様も
私たちが落ち着くまで
じっと待っていてくれる。
申しわけないけれど
おしゃべりが楽しくなると
お二人のことを忘れて
ついついおしゃべりをしてしまうの。
けれど。
メイジー様とドレスの話をしていた時だ。
ふと、私は相づちが1つ
多いことに気が付いた。
アキルティア様だった。
驚く私たちに
アキルティア様は笑う。
「僕も着る服には困っていて。
父も義兄も母も、
いつまでたっても僕のことを
可愛い、可愛いと、
フリルやレースの付いた服を
着せようとするんです」
そう言われて、
申しわけないけれど、納得した。
アキルティア様のシャツは
とても可愛らしいレースが付いていて
ボタンを留める糸は
アキルティア様の髪と同じ
金色だった。
紫の瞳と同じ色の差し色が
ポケットにされていて、
日差しが暑いと脱いだジャケットは
落ち着いた深緑だったけれど。
それを脱いだアキルティア様は
日の光の下で黄金に輝く
天使以外の何者でもない。
もちろん、レースもお似合いだし、
リボンもフリルも、
アキルティア様には何でも似合うだろう。
ご家族の気持ちは痛いほどわかった。
けれど、アキルティア様の気持ちもわかる。
私もメイジー様も、
両親からの干渉に嫌気がさしていたからだ。
アキルティア様とのおしゃべりは
とても楽しかった。
あからさまに両親を非難するのも
頂けないと思い、
私もメイジー様も言葉は多くは言わない。
けれどもアキルティア様は
私やメイジー様の言葉の
奥に隠された意味を理解され、
私たちに頷き、答え、
笑顔で受け入れてくださる。
私もメイジー様も嬉しくなって
どんどんおしゃべりが加速した。
おしゃべりをしていると
アキルティア様とも
とても仲良くなったように感じて
私もメイジー様も、
アキルティア様が公爵家の方だと
すっかり忘れて夢中でしゃべった。
あぁ、楽しい。
言葉にしなくても、アキルティア様は
私が考えていることまで
きちんと理解してくださる。
「母が早く寝なさいとうるさいですし」
というと、
たいていは「睡眠は大切ですよ」とか
「親はすぐにうるさく言いますものね」
とか。
そんな返事が返ってくる。
けれどアキルティア様は違った。
「早く寝るのは大事ですけど、
何故今寝たくないのか、
何がしたいのかを
聞いてくれれば意地を張らずに
素直に寝るのにね」
と、言ってくださったのだ。
まさに、そう!って思った。
私だって睡眠が大事なのはわかっている。
けれど、本を読んでいたり
刺しゅうをしていたり。
今はどうしても寝たくないと
思っている時に限って
「早く寝なさい」と叱られる。
そしたら私だって「わかってる!」って
反発したくなるものでしょう?
そして意地になって
夜更かししてしまったりするの。
こんなこと誰にも言ったこと無いのに、
アキルティア様は理解してくださる。
本当に素敵な天使様だわ。
この方のために
何かできることは無いかしら。
ルシリアン様と一緒に、
私もアキルティア様を
お守りできたらいいのに。
アキルティア様が私たちに
可愛らしい栞を見せて下さった。
可愛らしいと思ったけれど、
アキルティア様は
「今日のお茶会が楽しみで、
よければみんなでお揃いのものを
持てたらいいなと思って
作って来たんです」
という。
もしかしていただけるのかしら?
え?
私にも?
紫の瞳を持つアキルティア様の
手作りのものを?
公爵家の秘宝と言われる
アキルティア様が作ったものを?
私たち全員が戸惑うと
アキルティア様はそれはそれは
悲しそうな顔をされた。
天使を悲しませるのは
本意ではない。
けれど、本当にいいのだろうか。
たかが栞と言うかもしれないが、
もし邪な考えを持つ者が
この場に居れば、この栞一つで
「アキルティア様と懇意にしている」
と、社交界で吹聴することもできる。
しかもルシリアン様の言葉から
ジャスティス殿下も
アキルティア様の手作りの物は
何もお持ちではなさそうだ。
しかもしかも!
この栞はアキルティア様と
お揃いなのだという。
恐れ多い。
言え、違うわ。
殿下よりも先に
アキルティア様の手作りで
なおかつお揃いの栞を持つなんて……。
私たちは迷ったけれど
どんどん悲しそうな顔をする
アキルティア様をそのままに
しておくことなどできなかった。
ルシリアン様とクリム様が
顔を見合わせ頷き、
私たちとも目を合わせる。
ここで、ありがたく頂戴しようと
四人の意志が決まったのだ。
丁寧にお礼を言って
手にした栞は、公爵家の庭で
取れたのだろう。
大きな赤い花が
綺麗に押し花にされている。
鮮やかな赤い花の横には
小さい黄色い花と葉が
同じ様に押し花になり
添えられていた。
他の栞をそっと見ると
使っている花は同じのようだけれど
添えてある花や葉は
どれも少しづつ違っている。
アキルティア様は
とても感性の豊かな方かもしれない。
それに1つ1つ、
丁寧に作られたのが
この栞を見ただけですぐにわかった。
公爵家と言えば、
お金に困ることもないだろうし、
何でも手に入るだろう。
けれども手土産の
甘いサンドイッチは
アキルティア様が好きなもので
シェフの手作りだった。
高価な菓子を持ってくることだってできたのに。
もし私たちと交友を持つために
プレゼントというのであれば
高価な物を持ってくることだってできる。
でもアキルティア様が
私たちに差し出したのは
手作りの栞だった。
1つ1つ、私たちのために
作ってくれた栞。
私は心が温かくなるのを感じた。
アキルティア様は本当に
素敵な天使様だ。
心が温かくなって、
メイジー様もきっと同じだったと思う。
最初はアキルティア様の前で
緊張していたのだけれど
おしゃべりをしているうちに
どんどん、いつもの状態に
なってしまった。
つまり、私とメイジー様の
女子トークということだ。
こうなってしまうと、
ルシリアン様もクリム様も
私たちが落ち着くまで
じっと待っていてくれる。
申しわけないけれど
おしゃべりが楽しくなると
お二人のことを忘れて
ついついおしゃべりをしてしまうの。
けれど。
メイジー様とドレスの話をしていた時だ。
ふと、私は相づちが1つ
多いことに気が付いた。
アキルティア様だった。
驚く私たちに
アキルティア様は笑う。
「僕も着る服には困っていて。
父も義兄も母も、
いつまでたっても僕のことを
可愛い、可愛いと、
フリルやレースの付いた服を
着せようとするんです」
そう言われて、
申しわけないけれど、納得した。
アキルティア様のシャツは
とても可愛らしいレースが付いていて
ボタンを留める糸は
アキルティア様の髪と同じ
金色だった。
紫の瞳と同じ色の差し色が
ポケットにされていて、
日差しが暑いと脱いだジャケットは
落ち着いた深緑だったけれど。
それを脱いだアキルティア様は
日の光の下で黄金に輝く
天使以外の何者でもない。
もちろん、レースもお似合いだし、
リボンもフリルも、
アキルティア様には何でも似合うだろう。
ご家族の気持ちは痛いほどわかった。
けれど、アキルティア様の気持ちもわかる。
私もメイジー様も、
両親からの干渉に嫌気がさしていたからだ。
アキルティア様とのおしゃべりは
とても楽しかった。
あからさまに両親を非難するのも
頂けないと思い、
私もメイジー様も言葉は多くは言わない。
けれどもアキルティア様は
私やメイジー様の言葉の
奥に隠された意味を理解され、
私たちに頷き、答え、
笑顔で受け入れてくださる。
私もメイジー様も嬉しくなって
どんどんおしゃべりが加速した。
おしゃべりをしていると
アキルティア様とも
とても仲良くなったように感じて
私もメイジー様も、
アキルティア様が公爵家の方だと
すっかり忘れて夢中でしゃべった。
あぁ、楽しい。
言葉にしなくても、アキルティア様は
私が考えていることまで
きちんと理解してくださる。
「母が早く寝なさいとうるさいですし」
というと、
たいていは「睡眠は大切ですよ」とか
「親はすぐにうるさく言いますものね」
とか。
そんな返事が返ってくる。
けれどアキルティア様は違った。
「早く寝るのは大事ですけど、
何故今寝たくないのか、
何がしたいのかを
聞いてくれれば意地を張らずに
素直に寝るのにね」
と、言ってくださったのだ。
まさに、そう!って思った。
私だって睡眠が大事なのはわかっている。
けれど、本を読んでいたり
刺しゅうをしていたり。
今はどうしても寝たくないと
思っている時に限って
「早く寝なさい」と叱られる。
そしたら私だって「わかってる!」って
反発したくなるものでしょう?
そして意地になって
夜更かししてしまったりするの。
こんなこと誰にも言ったこと無いのに、
アキルティア様は理解してくださる。
本当に素敵な天使様だわ。
この方のために
何かできることは無いかしら。
ルシリアン様と一緒に、
私もアキルティア様を
お守りできたらいいのに。
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