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中等部に進級しました
59:お迎え
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執事さんの話を聞くと、
どうやら義兄が俺を迎えに来たらしい。
もう?
早くない?
俺の名誉はまだ挽回されていないし
クリムやルシリアンとも
まだ、楽しいおしゃべりもできていない。
帰ってもらってくれ、と
俺が言いそうになった時、
爽やか青年を装った義兄が
庭に入って来た。
義兄は俺の視線に気が付くと
にやり、と口元を歪めた。
俺の視線や仕草で
茶会が思ったように進んでいないことに
気が付いたようだ。
しかも視線の先には、
可愛らしい女子が二人いる。
義兄は口元に笑いを浮かべながら
近づいてきた。
そして丁寧に挨拶をして、
奥に座る女子にも声を掛ける。
楽しそうな義兄に、
俺は心の中で
「あぁ、そうだよ。
友だちを紹介してもらおうと
思っていたのに、
二人の婚約者を紹介されたんだよ」
と兄に向って言った。
声には出さなかったけれど
義兄にはお見通しのはずだ。
屋敷の使用人が
すぐに義兄の席を俺の隣に用意して
義兄は遠慮するような
言葉を言いながら俺の隣に座った。
そして俺の頭を
ぐりぐりと撫でる。
かいぐりかいぐりするのは、ヤメロ。
「アキルティアは世間知らずだから
迷惑をかけてしまったようだね」
と兄は椅子に座ると
すぐにそんなことを言った。
「いえ、迷惑だなんて。
アキルティア様には素晴らしい
アイデアを頂きましたの」
と、すぐさまエミリーが
俺を庇ってくれる。
「へぇ、アイデアを?」
「えぇ、素晴らしい思い付きでしたわ」
とエミリーは俺が提案した
隠れペアルックの話をした。
「隠れてお互いの印を身に付けて
想いあうなんて、
まるで物語のようで……
アキルティア様はとても
ロマンティックな方ですわ」
うん?
ちょっと違う方向に評価されてる気がする。
「そ、それに、私にも
素敵な提案をしてくださいましたの」
負けじとメイジーも言う。
「私とクリム様のお人形を作って
着せ替えを……とても恥ずかしいのですが、
私が作った、私を模った人形を
クリム様のお部屋に飾っていただけたら
ずっと一緒にいるようで、
嬉しく思います」
とメイジーが顔を真っ赤にして言うと
クリムも隣で顔を赤くしている。
初々しいが、
そう言う恋愛に
特化したい内容の話だったっけ?
俺が首を傾げると、さらに義兄は
俺の頭をかいぐりかいぐりする。
「喜んでもらえて良かったが
アキルティアは、そう言うことに
関しては全くの無知でね。
義父もアキルティアを
甘やかしているし、
屋敷から外に出さないように
していたから、他人との
関わり方が少し変なんだよ」
なんだ、変って。
俺のコミュニケーション能力の
高さを知らないな。
「だが、そんなアキルティアを
支えてやってくれると嬉しい」
と義兄が言うので、
四人は慌てて、もちろんです、と
頭を下げる。
話をしていると、
すぐに侍女が義兄の前に
紅茶を置いた。
義兄は礼を言ったが、
すぐに侍女に、
「申し訳ないのだが、
砂糖とミルクもいただきたい」という。
義兄が砂糖とミルクを
紅茶に入れて飲むなど見たことが無い。
ついでに俺の紅茶も、今日はストレートだ。
何故かというと、茶会では
招待側が心を込めて選んだ茶葉と、
最適な飲み方でお茶が提供されるので
砂糖やミルクも、招待側が勧めない限りは
入れずに飲むのがマナーだと
義兄から聞いていたからだ。
なのに何故、砂糖とミルク?
俺が首を傾げているうちに
すぐに侍女が小さなミルクピッチャーと
砂糖壺を持って来た。
義兄は何も言わずに
紅茶を一口飲み
「美味しいですね。
香りも良い」
と紅茶を褒める。
ルシリアンも領地のお茶で
上品な香りが人気なのです、と
返事をした。
「とても美味しいので
気が引けるのだが、
ミルクを入れても構わないかい?」
義兄が聞くと、
ルシリアンはもちろんです、という。
気が引けるなら入れるなよ、
と俺は内心ツッコンだ。
だが義兄は俺の心の中の
ツッコミなど知らずに
紅茶にミルクをたっぷり
上から砂糖を入れた。
そしてティースプーンで
ゆっくりと紅茶をかき回す。
「アキルティア」
そして義兄は俺の名を呼んだ。
「甘いミルクティーだ。
好きだろう?」
優しい声で言われたが、
口元は笑っている。
義兄はわざとこんなことをしたのだ。
理由はわからないが
俺を揶揄うつもりなのかもしれない。
どうせ俺は、
毎晩ぬいぐるみを抱いて寝ている
ミルク大好きなお子ちゃまだからな。
俺は素直に義兄のカップを貰い、
かわりに俺の飲んでいた紅茶を
義兄に押し付けた。
「じゃあ、兄様はこの紅茶をどうぞ」
「あ、アキ様。
新しい紅茶を……」
「いや、これで大丈夫だ」
ルシリアンが義兄に新しい紅茶を
用意すると言ったのだが、
義兄はそれを断った。
そうそう、どうせ義兄は
外ではあまり飲食はしないらしいし、
紅茶だって少ししか飲まないんだ。
新しいお茶を準備しても
もったいないだけだぞ。
俺は義兄にもらった紅茶を飲む。
「おいしーっ」
砂糖とミルクが五臓六腑にしみわたるぜ!
と内心唸ったら、
クスクスと女子二人に笑われた。
「アキルティア様は本当に
お可愛らしいですわ」
と二人に言われたが
ちょっと待て。
こんな子どもに……いや女子に
可愛らしいと言われるなんて!
義兄はさらに笑いを
堪えるような顔をして
俺の頭をぐりぐり撫でる。
「えぇ、本当に。
アキルティアは可愛いと
家族だけでななく
屋敷の者たちからも言われていて、
公爵家ではアキルティアを
中心に回っているようなものです」
義兄は俺を揶揄っていると言うか
俺をいじって遊んでいるのだろう。
これで俺がムキになって
言い返したら
「だから兄貴は子どもなんだよな」
なんて言われるに違いない。
だから俺は絶対に何も言わないぞ。
俺はどう義兄に反撃してやろうかと
考えながら甘い紅茶を飲む。
そんな俺と義兄の様子を
頬を染めて見ている
二人の女子のことなど、
この時の俺は全く気が付かなかった。
どうやら義兄が俺を迎えに来たらしい。
もう?
早くない?
俺の名誉はまだ挽回されていないし
クリムやルシリアンとも
まだ、楽しいおしゃべりもできていない。
帰ってもらってくれ、と
俺が言いそうになった時、
爽やか青年を装った義兄が
庭に入って来た。
義兄は俺の視線に気が付くと
にやり、と口元を歪めた。
俺の視線や仕草で
茶会が思ったように進んでいないことに
気が付いたようだ。
しかも視線の先には、
可愛らしい女子が二人いる。
義兄は口元に笑いを浮かべながら
近づいてきた。
そして丁寧に挨拶をして、
奥に座る女子にも声を掛ける。
楽しそうな義兄に、
俺は心の中で
「あぁ、そうだよ。
友だちを紹介してもらおうと
思っていたのに、
二人の婚約者を紹介されたんだよ」
と兄に向って言った。
声には出さなかったけれど
義兄にはお見通しのはずだ。
屋敷の使用人が
すぐに義兄の席を俺の隣に用意して
義兄は遠慮するような
言葉を言いながら俺の隣に座った。
そして俺の頭を
ぐりぐりと撫でる。
かいぐりかいぐりするのは、ヤメロ。
「アキルティアは世間知らずだから
迷惑をかけてしまったようだね」
と兄は椅子に座ると
すぐにそんなことを言った。
「いえ、迷惑だなんて。
アキルティア様には素晴らしい
アイデアを頂きましたの」
と、すぐさまエミリーが
俺を庇ってくれる。
「へぇ、アイデアを?」
「えぇ、素晴らしい思い付きでしたわ」
とエミリーは俺が提案した
隠れペアルックの話をした。
「隠れてお互いの印を身に付けて
想いあうなんて、
まるで物語のようで……
アキルティア様はとても
ロマンティックな方ですわ」
うん?
ちょっと違う方向に評価されてる気がする。
「そ、それに、私にも
素敵な提案をしてくださいましたの」
負けじとメイジーも言う。
「私とクリム様のお人形を作って
着せ替えを……とても恥ずかしいのですが、
私が作った、私を模った人形を
クリム様のお部屋に飾っていただけたら
ずっと一緒にいるようで、
嬉しく思います」
とメイジーが顔を真っ赤にして言うと
クリムも隣で顔を赤くしている。
初々しいが、
そう言う恋愛に
特化したい内容の話だったっけ?
俺が首を傾げると、さらに義兄は
俺の頭をかいぐりかいぐりする。
「喜んでもらえて良かったが
アキルティアは、そう言うことに
関しては全くの無知でね。
義父もアキルティアを
甘やかしているし、
屋敷から外に出さないように
していたから、他人との
関わり方が少し変なんだよ」
なんだ、変って。
俺のコミュニケーション能力の
高さを知らないな。
「だが、そんなアキルティアを
支えてやってくれると嬉しい」
と義兄が言うので、
四人は慌てて、もちろんです、と
頭を下げる。
話をしていると、
すぐに侍女が義兄の前に
紅茶を置いた。
義兄は礼を言ったが、
すぐに侍女に、
「申し訳ないのだが、
砂糖とミルクもいただきたい」という。
義兄が砂糖とミルクを
紅茶に入れて飲むなど見たことが無い。
ついでに俺の紅茶も、今日はストレートだ。
何故かというと、茶会では
招待側が心を込めて選んだ茶葉と、
最適な飲み方でお茶が提供されるので
砂糖やミルクも、招待側が勧めない限りは
入れずに飲むのがマナーだと
義兄から聞いていたからだ。
なのに何故、砂糖とミルク?
俺が首を傾げているうちに
すぐに侍女が小さなミルクピッチャーと
砂糖壺を持って来た。
義兄は何も言わずに
紅茶を一口飲み
「美味しいですね。
香りも良い」
と紅茶を褒める。
ルシリアンも領地のお茶で
上品な香りが人気なのです、と
返事をした。
「とても美味しいので
気が引けるのだが、
ミルクを入れても構わないかい?」
義兄が聞くと、
ルシリアンはもちろんです、という。
気が引けるなら入れるなよ、
と俺は内心ツッコンだ。
だが義兄は俺の心の中の
ツッコミなど知らずに
紅茶にミルクをたっぷり
上から砂糖を入れた。
そしてティースプーンで
ゆっくりと紅茶をかき回す。
「アキルティア」
そして義兄は俺の名を呼んだ。
「甘いミルクティーだ。
好きだろう?」
優しい声で言われたが、
口元は笑っている。
義兄はわざとこんなことをしたのだ。
理由はわからないが
俺を揶揄うつもりなのかもしれない。
どうせ俺は、
毎晩ぬいぐるみを抱いて寝ている
ミルク大好きなお子ちゃまだからな。
俺は素直に義兄のカップを貰い、
かわりに俺の飲んでいた紅茶を
義兄に押し付けた。
「じゃあ、兄様はこの紅茶をどうぞ」
「あ、アキ様。
新しい紅茶を……」
「いや、これで大丈夫だ」
ルシリアンが義兄に新しい紅茶を
用意すると言ったのだが、
義兄はそれを断った。
そうそう、どうせ義兄は
外ではあまり飲食はしないらしいし、
紅茶だって少ししか飲まないんだ。
新しいお茶を準備しても
もったいないだけだぞ。
俺は義兄にもらった紅茶を飲む。
「おいしーっ」
砂糖とミルクが五臓六腑にしみわたるぜ!
と内心唸ったら、
クスクスと女子二人に笑われた。
「アキルティア様は本当に
お可愛らしいですわ」
と二人に言われたが
ちょっと待て。
こんな子どもに……いや女子に
可愛らしいと言われるなんて!
義兄はさらに笑いを
堪えるような顔をして
俺の頭をぐりぐり撫でる。
「えぇ、本当に。
アキルティアは可愛いと
家族だけでななく
屋敷の者たちからも言われていて、
公爵家ではアキルティアを
中心に回っているようなものです」
義兄は俺を揶揄っていると言うか
俺をいじって遊んでいるのだろう。
これで俺がムキになって
言い返したら
「だから兄貴は子どもなんだよな」
なんて言われるに違いない。
だから俺は絶対に何も言わないぞ。
俺はどう義兄に反撃してやろうかと
考えながら甘い紅茶を飲む。
そんな俺と義兄の様子を
頬を染めて見ている
二人の女子のことなど、
この時の俺は全く気が付かなかった。
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