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53:初めてのお茶会
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俺はその日、朝からドキドキだった。
というか、この一週間、
ずっとドキドキだった。
お茶会が楽しみ過ぎて、タウンハウスの
自室では鼻歌を歌ってしまうぐらいだ。
義兄はすっかり呆れていたが、
いいだろう?
とにかく俺は初めての
友人宅訪問にテンションが
上がりまくりなのだ。
今日はルシリアンのお茶会の日だ。
父を通して、
正式な招待状も貰った。
俺の手に届いた招待状は
家門の蝋封がしてあるもので
いかにも貴族らしい上等なものだった。
俺はそれを手にしただけで
テンションマックスだった。
それから義兄に手土産は
どうしたらいいのかとか、
服装はどうしたらいいのかと
ひたすら付き纏って聞いたら
「落ち着け」とあしらわれた。
俺は拗ねつつ、
一週間かけて茶会の準備をして
とうとう、今日、その当日を迎えたのだ。
手土産は後に残らない物が良いと言われ、
タウンハウスのシェフに頼んで
手土産を作ってもらった。
義兄が後から時間を見て
迎えに来てくれるので
俺はそれまで二人と
楽しく遊べることになる。
ふっふっふ。
「兄貴、その小躍りはやめて
そろそろ準備を終えたら?」
「踊ってない」
タウンハウスの自室で俺が
持っていく物の確認をしてたら
義兄が俺の部屋を覗き込んでいた。
キールの準備ができたら
出発できるので、
すぐに声を掛けて貰えるように
部屋の扉を開けていたのだ。
義兄は俺の部屋に入ってきて、
遠慮なしにベットに座る。
俺は時折、
義兄の弟っだったり
兄貴だったりする。
それは義兄や俺の感情で
いつでも入れ替わる。
互いに前世の記憶に基づいての
感情が大きくなったときに
互いの関係が変化するのだが、
今日は義兄にとって俺は兄貴らしい。
「たかが茶会ぐらいで
喜び過ぎ」
「たかがじゃないぞ。
初めてのことだし、
ルシリアンもクリムも、
ちゃんと友達を一人
連れて来てくれるって言ってたんだ」
「へぇ」
「俺、もしかしたら
今日、友達が二人増えるかも?」
わくわくして言ったのに
義兄は
「……友達なんて
必要ないだろ?」
なんて言う。
なんでそんなことを言うんだ!
って怒りそうになったけど。
俺はそれをぐっと抑えた。
あれだ。
前世弟の反抗期。
あれを思い出したのだ。
義兄は前世弟と同じような顔で
不機嫌そうに俺を見ている。
反抗期か?
ようやく反抗期がやってきたのか?
と思ったが、
義兄はそれ以上は反抗してこない。
それどころかベットに座り、
上目使いに俺を見ているではないか。
これはあれか?
父と同じ状態なのか?
俺が一人立ちするみたいで
寂しくなったのか?
そういや前世で弟も、
こんな顔して
「仕事ばっかりすんな、うぜえ」
って良く怒鳴ってたな。
「馬鹿だなぁ。
俺に友達が出来ても
家族が一番大事だし、
友だちよりも兄様が大好きだよ」
って言ってみたら、
義兄は顔を真っ赤にして
ぷい、と横を向いた。
やっぱりか。
コイツはもう
20歳だというのに、
いつまで俺のことを
兄だと甘えてくるのか。
と思いつつ、
俺も義兄がこうして
前世弟として俺に構ってくるのが
嬉しかったりするから
お互い様だけど。
俺は義兄と話すだけで
義兄の弟になったり、
兄貴になったりするけれど。
それは以前みたいに
「俺が兄貴だったから」とか
そんな意識は無い。
ただ自然に俺たち二人は
きょうだいで、兄とか弟とか
そんなことは関係ないって
思うようになったからだ。
それは義兄も同じだと思う。
俺たちは兄であろうと
弟であろうと、
ふたりっきりの兄弟なんだ。
それだけだ。
俺は笑って、義兄の前に立つ。
そしてその頭をゆっくりと
腹に引き寄せて髪を撫でた。
「いつも心配してくれて
ありがとな」
「……してねぇよ。
もう俺が守らなくても
兄貴は大丈夫だってわかってる」
「うん。
でも心配するのと
過保護は別だからな。
そうやって俺のこと
心配してるって示してくれて
俺は嬉しい」
前世でも弟の気持ちを
ちゃんと理解できていれば
あんなにすれ違わなかったのに、と
俺はつい思ってしまう。
だからこそ、今は
ちゃんと思っていることは
言葉にして伝えようと思う。
「大好きだよ、兄様。
兄弟になってくれて
ありがとう」
ぎゅっと腰をまげて
義兄を抱きしめる。
「あ、アキルティア様」
慌てたようなキールの声が
聞こえて来た。
俺と義兄が顔を上げると
ドアの外でキールと、
顔を赤くしたサリーが立っている。
「準備できた?」
俺が聞くと二人は
はい、と返事をして頭を下げた。
「じゃあ、兄様。
行ってきます」
俺は弟の顔をして義兄に言うと
義兄も兄の顔をして
「気を付けて行っておいで」
と言った。
俺と義兄は視線を絡ませ、
俺は机の上の荷物を手に取る。
「行こう、キール」
俺が部屋を出ると
すぐに義兄が立ち上がる気配がしたが
俺は振り返らずに部屋を出た。
義兄もすぐに自室に戻るだろう。
サリーは馬車に乗る前に
キールにシェフ特製の手土産を渡した。
今からそれを食べるのが楽しみだ。
俺はキールと共にミューラー侯爵家の
タウンハウスに出向いた。
公爵家のタウンハウスと
さほど距離は離れていなかった。
学園に通うためのタウンハウスなので
クリムの家のタウンハウスも
近くにあるのかもしれない。
馬車を下りると侯爵家の使用人たちが
一同に俺を迎えてくれた。
これが通常なのか
俺が公爵家だからなのか
そのあたりはわからない。
だが歓迎してくれているのだけはわかる。
俺は屋敷の人に案内されて
庭に出た。
広い庭だったが、
さすがにもう息切れはしない。
ちょうど大きな木の下で
木陰になるような場所に
ティーセットを準備した
茶会の場が見えた。
キールはこの辺りで控えているらしく
俺に一礼をしてその場で立ち止まった。
指定された時間通りに着いたはずだが
すでにクリムは先に来ているようだ。
そしてあと二人、見知らぬ人影がある。
とうとう俺も、新しい友人が……!
俺は駆けだしたいのを必死でおさえた。
喜びで顔がにやける。
……だが。
俺は足を踏み出した先で、
この茶会が俺が思っていた茶会とは
全く別だということに気が付くことになるのだ。
というか、この一週間、
ずっとドキドキだった。
お茶会が楽しみ過ぎて、タウンハウスの
自室では鼻歌を歌ってしまうぐらいだ。
義兄はすっかり呆れていたが、
いいだろう?
とにかく俺は初めての
友人宅訪問にテンションが
上がりまくりなのだ。
今日はルシリアンのお茶会の日だ。
父を通して、
正式な招待状も貰った。
俺の手に届いた招待状は
家門の蝋封がしてあるもので
いかにも貴族らしい上等なものだった。
俺はそれを手にしただけで
テンションマックスだった。
それから義兄に手土産は
どうしたらいいのかとか、
服装はどうしたらいいのかと
ひたすら付き纏って聞いたら
「落ち着け」とあしらわれた。
俺は拗ねつつ、
一週間かけて茶会の準備をして
とうとう、今日、その当日を迎えたのだ。
手土産は後に残らない物が良いと言われ、
タウンハウスのシェフに頼んで
手土産を作ってもらった。
義兄が後から時間を見て
迎えに来てくれるので
俺はそれまで二人と
楽しく遊べることになる。
ふっふっふ。
「兄貴、その小躍りはやめて
そろそろ準備を終えたら?」
「踊ってない」
タウンハウスの自室で俺が
持っていく物の確認をしてたら
義兄が俺の部屋を覗き込んでいた。
キールの準備ができたら
出発できるので、
すぐに声を掛けて貰えるように
部屋の扉を開けていたのだ。
義兄は俺の部屋に入ってきて、
遠慮なしにベットに座る。
俺は時折、
義兄の弟っだったり
兄貴だったりする。
それは義兄や俺の感情で
いつでも入れ替わる。
互いに前世の記憶に基づいての
感情が大きくなったときに
互いの関係が変化するのだが、
今日は義兄にとって俺は兄貴らしい。
「たかが茶会ぐらいで
喜び過ぎ」
「たかがじゃないぞ。
初めてのことだし、
ルシリアンもクリムも、
ちゃんと友達を一人
連れて来てくれるって言ってたんだ」
「へぇ」
「俺、もしかしたら
今日、友達が二人増えるかも?」
わくわくして言ったのに
義兄は
「……友達なんて
必要ないだろ?」
なんて言う。
なんでそんなことを言うんだ!
って怒りそうになったけど。
俺はそれをぐっと抑えた。
あれだ。
前世弟の反抗期。
あれを思い出したのだ。
義兄は前世弟と同じような顔で
不機嫌そうに俺を見ている。
反抗期か?
ようやく反抗期がやってきたのか?
と思ったが、
義兄はそれ以上は反抗してこない。
それどころかベットに座り、
上目使いに俺を見ているではないか。
これはあれか?
父と同じ状態なのか?
俺が一人立ちするみたいで
寂しくなったのか?
そういや前世で弟も、
こんな顔して
「仕事ばっかりすんな、うぜえ」
って良く怒鳴ってたな。
「馬鹿だなぁ。
俺に友達が出来ても
家族が一番大事だし、
友だちよりも兄様が大好きだよ」
って言ってみたら、
義兄は顔を真っ赤にして
ぷい、と横を向いた。
やっぱりか。
コイツはもう
20歳だというのに、
いつまで俺のことを
兄だと甘えてくるのか。
と思いつつ、
俺も義兄がこうして
前世弟として俺に構ってくるのが
嬉しかったりするから
お互い様だけど。
俺は義兄と話すだけで
義兄の弟になったり、
兄貴になったりするけれど。
それは以前みたいに
「俺が兄貴だったから」とか
そんな意識は無い。
ただ自然に俺たち二人は
きょうだいで、兄とか弟とか
そんなことは関係ないって
思うようになったからだ。
それは義兄も同じだと思う。
俺たちは兄であろうと
弟であろうと、
ふたりっきりの兄弟なんだ。
それだけだ。
俺は笑って、義兄の前に立つ。
そしてその頭をゆっくりと
腹に引き寄せて髪を撫でた。
「いつも心配してくれて
ありがとな」
「……してねぇよ。
もう俺が守らなくても
兄貴は大丈夫だってわかってる」
「うん。
でも心配するのと
過保護は別だからな。
そうやって俺のこと
心配してるって示してくれて
俺は嬉しい」
前世でも弟の気持ちを
ちゃんと理解できていれば
あんなにすれ違わなかったのに、と
俺はつい思ってしまう。
だからこそ、今は
ちゃんと思っていることは
言葉にして伝えようと思う。
「大好きだよ、兄様。
兄弟になってくれて
ありがとう」
ぎゅっと腰をまげて
義兄を抱きしめる。
「あ、アキルティア様」
慌てたようなキールの声が
聞こえて来た。
俺と義兄が顔を上げると
ドアの外でキールと、
顔を赤くしたサリーが立っている。
「準備できた?」
俺が聞くと二人は
はい、と返事をして頭を下げた。
「じゃあ、兄様。
行ってきます」
俺は弟の顔をして義兄に言うと
義兄も兄の顔をして
「気を付けて行っておいで」
と言った。
俺と義兄は視線を絡ませ、
俺は机の上の荷物を手に取る。
「行こう、キール」
俺が部屋を出ると
すぐに義兄が立ち上がる気配がしたが
俺は振り返らずに部屋を出た。
義兄もすぐに自室に戻るだろう。
サリーは馬車に乗る前に
キールにシェフ特製の手土産を渡した。
今からそれを食べるのが楽しみだ。
俺はキールと共にミューラー侯爵家の
タウンハウスに出向いた。
公爵家のタウンハウスと
さほど距離は離れていなかった。
学園に通うためのタウンハウスなので
クリムの家のタウンハウスも
近くにあるのかもしれない。
馬車を下りると侯爵家の使用人たちが
一同に俺を迎えてくれた。
これが通常なのか
俺が公爵家だからなのか
そのあたりはわからない。
だが歓迎してくれているのだけはわかる。
俺は屋敷の人に案内されて
庭に出た。
広い庭だったが、
さすがにもう息切れはしない。
ちょうど大きな木の下で
木陰になるような場所に
ティーセットを準備した
茶会の場が見えた。
キールはこの辺りで控えているらしく
俺に一礼をしてその場で立ち止まった。
指定された時間通りに着いたはずだが
すでにクリムは先に来ているようだ。
そしてあと二人、見知らぬ人影がある。
とうとう俺も、新しい友人が……!
俺は駆けだしたいのを必死でおさえた。
喜びで顔がにやける。
……だが。
俺は足を踏み出した先で、
この茶会が俺が思っていた茶会とは
全く別だということに気が付くことになるのだ。
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