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中等部に進級しました
51:父に会いに
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その日俺は、学校の帰り道、
ティスとも父とも義兄とも
約束をしていなかったが
王宮に押しかけた。
先ぶれ?
そんなもんは知らん。
俺は長年王宮に通ってるから
すでに顔パスなのだ。
俺が家の馬車で王宮に行くと
すぐに護衛のキールが
衛兵に声を掛けて
馬車を城の中に入れるようにしてくれる。
恐らくここから王宮の正面に
俺の乗る馬車が着くまでに
父か義兄のところに
俺が来たよ、という連絡が
入るのだと思う。
だっていつも、
先ぶれなしで押しかけても
正面入り口で馬車を下りると
俺を知っている誰かが
必ず待っているのだから。
案の定、城の正面に着くと
父が偉そうに待っていた。
いや、偉そうに、じゃないな。
父は普通に待っていたが
父の護衛や城の衛兵、
侍従たちが父の後ろで
小さくなって立っているので
父が偉そうに見えるのだ。
どうした? 父よ。
そんなに胸を張って
やたらと気合いが入った顔をして。
馬車のドアをキールが
開けてくれたのだが、
あまりにも父の顔が真剣だったので
俺は馬車を下りるのをためらった。
父の仕事を邪魔してしまったのだろうか。
いや、それなら無理に
出迎えてくれなくても良かったのだが。
一瞬、帰った方が良いかと思ったが、
父の顔は、怒っている顔ではない。
ではどうしたのかと思っていると
父はおもむろに馬車に近づき、
俺に手を伸ばした。
「アキルティア」
「はい。父様。
急に来てすみません。
父様に会いたくなって
来てしまいました」
本当は話したいことがあって、
と言う方が良いのだが
幼いころから、こういう言い方を
した方が父が喜ぶことが
わかってからは
俺はこうした言い回しを
するようになった。
父は子離れができない大人なのだ。
「そうか。
アキルティアは父様が大好きだものな」
父は嬉しそうな顔をして
俺の脇の下に手を入れる。
うん?
もしかして抱っこするつもりか?
俺はもう13歳だぞ。
抱っこされるのが嫌なのではなく
父よ。
年齢を考えてくれ。
そろそろ無理なんじゃないか?
俺が中等部に入ったぐらいから
父は俺を抱っこしなくなった。
それは俺の成長を認めて
幼児扱いしなくなったのではなく
物理的に俺が成長して
重たくなったからだと思っている。
もちろん、父はそんなことは言わないが。
その父が俺を久しぶりに
抱っこしようとしている。
大丈夫だろうか。
拒否したら父はきっと
拗ねたり泣きマネをしたりと
面倒なことになると思うので
俺はそのまま父に抱き上げられる。
ふと父の肩越しに
護衛や侍従さんたちを見ると、
彼らは一様に、ハラハラした様子で
父の行動を見守っている。
先ほどの緊張感の原因は
これなのかもしれない。
たかが息子の抱っこごときで
周囲を振り回すのはやめて欲しい。
「あぁ、アキルティアは
大きくなったなぁ。
だが、まだまだ俺は
アキルティアを抱っこできるぞ!
見たか!」
と俺を抱き上げたまま
父は侍従さんたちを振り返り
見せびらかすように俺を高く
持ち上げるのだが、
いったい誰に自慢してるんだ、父よ。
恥ずかしいから、
そろそろおろしてくれ。
「いやぁ、素晴らしい。
さすが、老いを知らないとは
こういうことだね」
と、ものすごーく
どう聞いてもお世辞としか
思えない声がする。
「そうだろう、そうだろう。
これで俺の力がわかったな」
父は嬉しそうに俺を下ろす。
俺はそばまで歩いてきた
男性に会釈をした。
初めて見る顔だが、
意志の強そうな顔に、緑の髪。
がっちりした体格に騎士の制服を着ている。
年は父と同じか少し年上のようだが
父とは親しい間柄のようだ。
「アキルティア、
オルガノ伯爵家の当主、
この国の騎士団長でもあるオルガノ殿だ」
クリムの父親だ!
俺は慌てて挨拶をする。
「アキルティア・アッシュフォードです。
ご子息には毎日、助けていただいていて
とても感謝しております」
「いやいや、愚息からも
良く話を聞いておりました。
一度ご挨拶をしたいと
思っていたところです。
こちらこそ、愚息がご迷惑を
かけてなければ良いのですが。
マグマ・オルガノと申します。
アキルティア様。
どうぞお見知りおきを」
オルガノ氏は騎士らしく礼をする。
うっはー。
カッコイイ!
「アキルティア」
父が俺の腕を引く。
「こいつと父様と、
どっちがカッコイイ?」
え?
俺、カッコイイって口に出してた?
「父様は確かにただの相談役で
こいつは騎士団長だが、
俺と騎士団長とどっちがカッコイイ?」
「も、もちろん、父様です」
慌てて言うと、
父は「そうだろう、そうだろう」と
満足したように頷く。
ほんと、父がスミマセン。
俺は恐縮してさりげなく
オルガノ氏に頭を下げる。
オルガノ氏はそんな俺に気が付き、
豪快に笑った。
「良いご子息をお持ちのようだ」
「当たり前だ」
父は俺の手を取り、
「さぁ、行こう」
と歩きだす。
どうやら父とオルガノ氏が
一緒に話をしている時に
俺が王宮に来ると言う連絡が
入ったらしい。
そこで二人そろって
俺を迎えに来てくれたようだ。
王宮の正面入り口前で
俺を待っている時に
父は俺が成長したことを自慢し、
「大きくなってきたから
抱っこができなくなった」
と話したらしい。
父としては
成長した俺が恥ずかしがるから
抱っこしなくなった、という趣旨で
話をしたつもりだった。
だがオルガノ氏は
「私はまだまだ息子を
抱っこする力はありますぞ。
老いるには早いですからな」
と、返事をしたらしい。
つまり、父が年を取ってきて
重たくなった俺を抱き上げる
力がないという意味で
話を捉えてしまったのだ。
そこで軽い言い争い(?)になり、
父が周囲を威圧するぐらい
興奮状態になり、
俺を抱っこするために
胸を張って待っていたと言うのだ。
オルガノ氏は
「いやぁ、あいつは君のことに
なるとすぐに熱くなるから
揶揄いがいがある」なんて
俺にこっそり言うものだから
俺は苦笑するしかない。
しかし。
父のことは天才肌で
そこにいるだけで周囲を振り回す
一匹オオカミだと思っていたのに、
こんな友達がいたなんて。
ずるいぞ、父よ。
俺だって友だちを作りたいんだ!
ティスとも父とも義兄とも
約束をしていなかったが
王宮に押しかけた。
先ぶれ?
そんなもんは知らん。
俺は長年王宮に通ってるから
すでに顔パスなのだ。
俺が家の馬車で王宮に行くと
すぐに護衛のキールが
衛兵に声を掛けて
馬車を城の中に入れるようにしてくれる。
恐らくここから王宮の正面に
俺の乗る馬車が着くまでに
父か義兄のところに
俺が来たよ、という連絡が
入るのだと思う。
だっていつも、
先ぶれなしで押しかけても
正面入り口で馬車を下りると
俺を知っている誰かが
必ず待っているのだから。
案の定、城の正面に着くと
父が偉そうに待っていた。
いや、偉そうに、じゃないな。
父は普通に待っていたが
父の護衛や城の衛兵、
侍従たちが父の後ろで
小さくなって立っているので
父が偉そうに見えるのだ。
どうした? 父よ。
そんなに胸を張って
やたらと気合いが入った顔をして。
馬車のドアをキールが
開けてくれたのだが、
あまりにも父の顔が真剣だったので
俺は馬車を下りるのをためらった。
父の仕事を邪魔してしまったのだろうか。
いや、それなら無理に
出迎えてくれなくても良かったのだが。
一瞬、帰った方が良いかと思ったが、
父の顔は、怒っている顔ではない。
ではどうしたのかと思っていると
父はおもむろに馬車に近づき、
俺に手を伸ばした。
「アキルティア」
「はい。父様。
急に来てすみません。
父様に会いたくなって
来てしまいました」
本当は話したいことがあって、
と言う方が良いのだが
幼いころから、こういう言い方を
した方が父が喜ぶことが
わかってからは
俺はこうした言い回しを
するようになった。
父は子離れができない大人なのだ。
「そうか。
アキルティアは父様が大好きだものな」
父は嬉しそうな顔をして
俺の脇の下に手を入れる。
うん?
もしかして抱っこするつもりか?
俺はもう13歳だぞ。
抱っこされるのが嫌なのではなく
父よ。
年齢を考えてくれ。
そろそろ無理なんじゃないか?
俺が中等部に入ったぐらいから
父は俺を抱っこしなくなった。
それは俺の成長を認めて
幼児扱いしなくなったのではなく
物理的に俺が成長して
重たくなったからだと思っている。
もちろん、父はそんなことは言わないが。
その父が俺を久しぶりに
抱っこしようとしている。
大丈夫だろうか。
拒否したら父はきっと
拗ねたり泣きマネをしたりと
面倒なことになると思うので
俺はそのまま父に抱き上げられる。
ふと父の肩越しに
護衛や侍従さんたちを見ると、
彼らは一様に、ハラハラした様子で
父の行動を見守っている。
先ほどの緊張感の原因は
これなのかもしれない。
たかが息子の抱っこごときで
周囲を振り回すのはやめて欲しい。
「あぁ、アキルティアは
大きくなったなぁ。
だが、まだまだ俺は
アキルティアを抱っこできるぞ!
見たか!」
と俺を抱き上げたまま
父は侍従さんたちを振り返り
見せびらかすように俺を高く
持ち上げるのだが、
いったい誰に自慢してるんだ、父よ。
恥ずかしいから、
そろそろおろしてくれ。
「いやぁ、素晴らしい。
さすが、老いを知らないとは
こういうことだね」
と、ものすごーく
どう聞いてもお世辞としか
思えない声がする。
「そうだろう、そうだろう。
これで俺の力がわかったな」
父は嬉しそうに俺を下ろす。
俺はそばまで歩いてきた
男性に会釈をした。
初めて見る顔だが、
意志の強そうな顔に、緑の髪。
がっちりした体格に騎士の制服を着ている。
年は父と同じか少し年上のようだが
父とは親しい間柄のようだ。
「アキルティア、
オルガノ伯爵家の当主、
この国の騎士団長でもあるオルガノ殿だ」
クリムの父親だ!
俺は慌てて挨拶をする。
「アキルティア・アッシュフォードです。
ご子息には毎日、助けていただいていて
とても感謝しております」
「いやいや、愚息からも
良く話を聞いておりました。
一度ご挨拶をしたいと
思っていたところです。
こちらこそ、愚息がご迷惑を
かけてなければ良いのですが。
マグマ・オルガノと申します。
アキルティア様。
どうぞお見知りおきを」
オルガノ氏は騎士らしく礼をする。
うっはー。
カッコイイ!
「アキルティア」
父が俺の腕を引く。
「こいつと父様と、
どっちがカッコイイ?」
え?
俺、カッコイイって口に出してた?
「父様は確かにただの相談役で
こいつは騎士団長だが、
俺と騎士団長とどっちがカッコイイ?」
「も、もちろん、父様です」
慌てて言うと、
父は「そうだろう、そうだろう」と
満足したように頷く。
ほんと、父がスミマセン。
俺は恐縮してさりげなく
オルガノ氏に頭を下げる。
オルガノ氏はそんな俺に気が付き、
豪快に笑った。
「良いご子息をお持ちのようだ」
「当たり前だ」
父は俺の手を取り、
「さぁ、行こう」
と歩きだす。
どうやら父とオルガノ氏が
一緒に話をしている時に
俺が王宮に来ると言う連絡が
入ったらしい。
そこで二人そろって
俺を迎えに来てくれたようだ。
王宮の正面入り口前で
俺を待っている時に
父は俺が成長したことを自慢し、
「大きくなってきたから
抱っこができなくなった」
と話したらしい。
父としては
成長した俺が恥ずかしがるから
抱っこしなくなった、という趣旨で
話をしたつもりだった。
だがオルガノ氏は
「私はまだまだ息子を
抱っこする力はありますぞ。
老いるには早いですからな」
と、返事をしたらしい。
つまり、父が年を取ってきて
重たくなった俺を抱き上げる
力がないという意味で
話を捉えてしまったのだ。
そこで軽い言い争い(?)になり、
父が周囲を威圧するぐらい
興奮状態になり、
俺を抱っこするために
胸を張って待っていたと言うのだ。
オルガノ氏は
「いやぁ、あいつは君のことに
なるとすぐに熱くなるから
揶揄いがいがある」なんて
俺にこっそり言うものだから
俺は苦笑するしかない。
しかし。
父のことは天才肌で
そこにいるだけで周囲を振り回す
一匹オオカミだと思っていたのに、
こんな友達がいたなんて。
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