107 / 308
婚約騒動が勃発しました
84:懐柔か敵対か
しおりを挟む部屋は緊張に包まれていた。
義兄の圧が凄いからだ。
義兄は説明すると言ったものの、
俺とティス、ルシリアンとクリムの
顔を見回す。
なんだ、この緊張感は。
ルティクラウンのことだと思うが、
義兄のこのピリピリ感は何なのか。
俺はいたたまれずに先に口を開いた。
「兄様。
ルティクラウン殿下のことでしょうか。
今朝急に、転校生ということで
僕のクラスに転入してきたのですが」
俺がそう言うと義兄は頷いた。
「そうだ。まさに突然だった。
事前に何の連絡もなく、
隣国、ブリジット王国第三王子、
ルティクラウン・ブリジット殿下が早朝、
単身でこの国にやってきたのだ」
誰もが、は? という顔をした。
「ルティクラウン殿下が王宮に着いた後、
しばらくしたら、護衛たちも王宮に
やって来たんだけどね」
とティスが義兄の言葉に付け加える。
義兄はティスの言葉を受け取り、
「ブリジット王国とは長年、
良好な関係を築いている。
我が国の王女が過去に嫁いだこともあり、
王家とは親戚筋だと言ってもいいだろう」
という。
親戚だからって、
何の連絡もせずに
突然遊びに来て良いわけないけどな。
「ルティクラウン殿下の目的は
恐らくだが、アキルティアだ」
俺?
やっぱりっていうか
あの時の視線は気のせいじゃなかったか。
突然の義兄の言葉に
俺は言葉を詰まらせる。
「以前、間諜騒ぎがあっただろう」
王宮で、とは言わなかったのは
この場にクリムとルシリアンが
いたからだろう。
「あの間諜は、おそらく
ブリジット王国の者だ」
あの時俺はまだ10歳だったし、
捕まった人がどうなったかとか
わざわざ聞かなかったんだよね。
話を聞くところによると、
なんでも【紫の瞳】の者は
この国にしか生まれないらしい。
しかもこの国でも、
現在、紫の瞳の人間は
俺の母以外は俺しかいない。
つまり、紫の瞳の人間を
手に入れようとすると
俺しかいない、ということになる。
しかも俺を伴侶として
望んでいるのならともかく、
女性の出生率が下がっているのなら
俺を研究して、紫の瞳を
持つ者を沢山生まれるように
すればいい、という話も
隣国ではでてきているらしい。
めちゃくちゃ怖い。
それ、人体実験ってことだよな。
しかし、あの間諜騒ぎで
そこまで聞き出していたのか。
拷問とかそんなので
聞き出したのだろうか。
俺、痛いのは嫌いだから、
そういうのは嫌だな。
自白剤とかこの世界、あるのかな?
そういや俺、以前ネット動画で
ヤバイ薬品の作り方の動画に
ハマってたことがあったんだよな。
内容が内容だから、
更新してもすぐに運営側に
削除される動画で、
削除されても削除されても
懲りずに動画をアップするアカウント主と
運営側のいたちごっこということで
結構話題になっていた。
俺はその話題を聞いてから
動画を見るようになったんだけど
結局、アカウントが停止されたんだと思う。
思っていたよりも早く、
動画はアカウントごと消えていた。
でも俺、その動画で
薬品の作り方とかメモってたんだよな。
自白剤ではないけれど、
気分が良くなるような薬とか。
元の世界では怖くて試せなかったけれど、
この世界なら、そういうの作ったら
役に立つだろうか。
拷問よりも、良いとは思うけれど。
でもマウス実験とか、人体実験とか
必要になってくるから、
やっぱり無理か。
なんてとりとめもないことを
考えていたら、気が付くと
義兄の話は
どんどん進んでいた。
「つまり、女児の出生率が下がっているのは
この国だけの問題ではないということだ」
その言葉に、俺は我に返った。
「この国の【公爵家に守られた紫の秘宝】は
隣国だけでなく、すでに各国でウワサされている」
なに、その中二病みたいなネーミング。
俺は目を細めて義兄を見る。
「そしてアキルティアへの求婚は
隣国国だけでなく、各国の王族からも
届く様になった」
え、そうなの?
「もちろん、すべて断っているが、
そんな中、ぜひアキルティアを
欲しいとひたすら乞う国があった」
「それがルティクラウン殿下の国ですか?」
俺が聞くと、義兄は頷く。
「かなりの数の手紙を貰っていたからな。
手紙では無理だと踏んで
実際に会いにきたのだろう」
「あの、僕は一通も読んでませんが」
おずおずと言うと、
義兄は当たり前だという。
「すべて義父の手で処分されていたからな。
今回はスイーツ交流会と言う名目があったため
仕方なく入国を許可したが、
不用意にアキルティアに近づくことは
許されない」
義兄はクリムとルシリアンを見た。
「そこで君たちには
常にアキルティアのそばに居て
守ってやって欲しい」
「はい」
「もちろんです」
と二人は言うけれど
ちょっと待って?
話がついていけない。
「あの、兄様?
逆に友達になって、
結婚できない、って僕から告げては
ダメなのでしょうか」
人体実験は怖いが、
友だちになったら
さすがに友を人体実験に
使おうなんて思わないだろう。
だが俺が名案だと思った
その言葉に、部屋の空気が
一瞬、凍った気がした。
「つまり、あの隣国の王子と
仲良くなりたいということか?」
怖い、怖い。
どうしうたんだ、義兄よ。
何故そんな怖い目で俺を見る。
俺は可愛い義弟で、
お前を大切に育てた前世兄だぞ。
「ねぇ、アキ。
アキはあの隣国の王子が
好きになったの?」
俺が義兄を見ていると、
ティスがいきなりそんなことを言い、
俺の手をぎゅっと握ってくる。
なんだ、いきなり。
「好きになったって、
さっき会ったばかりだし
印象はあんまり……良くなかったけど」
「じゃあ、嫌いか?」
なんでそんなに嬉しそうなんだ?
この国の王子なんだから
隣国の王子殿下と仲良くしようよ。
俺はおろおろしながら
クリムとルシリアンを見たが
二人もティスと義兄の間で
おろおろしている。
「友達は多い方が良い……し、
助け合い?もできるし」
俺は友達っていいよね?
と義兄とティスに言ってみた。
だが。
「敵になるかもしれない者と
友だちになんかなれない」
とティスが言い、
義兄までもが
「友だちは選ぶべきだ」と言う。
どうしたんだ、二人とも。
隣国って。
ブリジット王国って
敵対するほど悪い国なのか?
そんな情報はティスの
時事教育の授業にも
入ってこなかったぞ。
というか、友好状態が
続いている筈だよね?
と思ったけれど、
もちろん、言えるはずもない。
俺は気まずい空気の中、
「ルティクラウン殿下には近づきません」
とティスと義兄に宣誓するように言う。
そのおかげなのか、若干、空気が緩む。
クリムとルシリアンが
俺のそばで息を吐いた。
なんか、俺の身内がスマン。
俺は心の中で二人に謝罪した。
98
お気に入りに追加
1,175
あなたにおすすめの小説
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!?
※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる