完結・転生したら前世の弟が義兄になり恋愛フラグをバキバキに折っています

たたら

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64:王家の嫁に・2【王妃SIDE】

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 私はアキルティアが庭で
靴を脱いだと言う報告後、
数日たってから
アキルティアを茶会に誘った。

私と二人だけの、王家の庭での茶会だ。

この場でアキルティアから
ジャスティスを好きだと言う言葉を
引き出そうと考えたのだ。

数日後、私の茶会に来たアキルティアに
私はさりげなく、けれど
わざと大げさに

「二人はらぶらぶなんですってね」と
笑いながら言った。

すると、なんということか
アキルティアは真顔で

「誰と誰がらぶらぶなんですか?」
と聞いてきたのだ。

私は思わず目を見開いてしまった。

まさかこんな返しが来るとは思わなかったからだ。

口元を扇で隠し、
私はアキルティアを見る。

アキルティアは瞬時にジャスティスとの
ことを言われているのだと
思い立ったのだろう。

「殿下とは有り難いことに
親しくさせていただいています。

いまだに殿下と学ぶ時間を
設けていただいて、
陛下と王妃様には感謝しております」

などと笑顔で言う。

私が言いたいことを理解していて、
答えをはぐらかしたのだ。

あまりの手腕に、
思わず唸りそうになった。

大事に大事に育てられた箱入りの筈なのに、
アキルティアは抜群に頭が良く、
機転が利く。

この会話の流れも、
自分が不利にならないように。

けれど、決して否定も肯定もせず
私の意図を受け流している。

純粋に、欲しい、と私は思った。

王家に、欲しい。

王妃として、ジャスティスを支えて欲しい。
そうなれば王家はこの先何十年も
安泰だろう。

私は少しだけ本気を出した。

「でもこの前はティスの前で
靴を脱いだと聞いたわよ?」

仲良しというのであれば、
その
かなり深いのではないかと、
示唆したのだ。

だがアキルティアは
たいして驚くこともなく笑う。

子どもらしい邪気のない笑顔で。

「無知なことを恥じ入るばかりです」

子どもだから仕方がないと、
そう言わんばかりの顔だった。

大人顔負けの知識と機転で
周囲の大人を振り回すのに、
こんな時だけ子どもに戻るのかと
私は扇に隠れて苦笑する。

こうなったら、直球で言うしかない。
小手先で何を言っても無駄だろう。

「ねぇ、アキルティア。
王家に嫁に来ない?」

アキルティアは飲もうとしていた
紅茶のカップを持ったまま動きを止めた。

「息子のこと、嫌いじゃないんでしょう?」

「……互いに友情は感じているとは思います」

アキルティアは、はっきりと言う。

「なら、いいじゃない。
愛情も友情も同じ様なものよ」

私もこれだけは、はっきり言える。
だって私も陛下も、失恋と言う友情で
結ばれているのだから。

「息子を愛して嫁に来いとは言わないわ。
でもね。
私も陛下も、あなたのことを
気に入っているし、何よりあなたは
稀有な存在だわ」

私がそいう言うと、
アキルティアは瞳を揺らした。

あぁ、言い方が悪かったわね、と
私はすぐに言い直す。

「貴方の瞳のことを言ってるんじゃないわ。
あなたの才能のことを言っているの」

今ではあなたが紫の瞳かどうかなど
関係ないと思っている。

「才能?」

「ええ。あなたの考え方や、
物事に対する捉え方。
視野の広さ。

王宮に潜り込んだ間者を見つけた
洞察力。

ミューラー侯爵家が出資している
カフェの売り上げが伸び続けているのは
あなたのおかげだとも聞いているわ」

私がそう言っても、
アキルティアは首を振るばかりだ。

謙遜ではなく、本気で自分には
価値が無いと思っているようだ。

だが、違う。
その価値を知り、活かすべきだ。

「あなたが公爵家を継ぎ、
公爵領を繁栄させるために
その能力を使うのであれば
諦めようと思っていたわ。

でも、あなたは公爵家の当主の座を
義兄に譲った。

なら、その能力を国の繁栄のために
使ってみない?

いえ、使って欲しいの」

私はアキルティアの手に、
自分の手を重ねた。

情に訴えるやり方は好きでは無いけれど、
アキルティアにはこの方が
有効だと思える。

ねぇ、アキルティア。
あなたは優しいから、きっと迷うわよね?

あともう一押し。

と、思ったのに。

「母上!」と大きな声がして
ジャスティスがお茶会に乱入してきた。

この時間であれば、
邪魔が入らないと画策したのに
時間切れになったようだ。

とても残念だけど、
今回は諦めよう。

あまり強く押してしまうと
アキルティアに警戒されるかもしれないし。

警戒して、キャンディス様に
私との会話を漏らされても困るもの。

次は今日のことなど忘れたかのように
振舞うことにしましょうか。

そして忘れたころにまた揺さぶりをかけるの。

アキルティアは機転が利くし、
とても賢いけれど。

ずる賢い貴族たちを相手に
何十年も貴族社会を泳いできた私から
逃げられるかしら?

私は王妃だから、国のために。
母親だから、可愛い息子のために。

そしてズルい大人だから、
時には嘘を付き、時には笑顔を振りまいて。

子どものあなたを、
絶対に王家の嫁にして見せるわ。

ふふ。
なんだか楽しくなってきた。

しかもキャンディス様と親戚になるなんて
なんて素晴らしいのでしょう。

伊達に何年も王妃をしているわけではないのよ。

アキルティア。
あなたに「お母様」と呼ばれる日が楽しみだわ。






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