完結・転生したら前世の弟が義兄になり恋愛フラグをバキバキに折っています

たたら

文字の大きさ
上 下
77 / 308
中等部に進級しました

62:王妃の恋【王妃SIDE】

しおりを挟む
 紫の瞳のアキルティア。
その存在が稀有なことは、
何年も前からわかっていた。

いいえ。
本当は生まれる前からわかっていたわ。

だって、アキルティアは
あのキャンディス様の子どもなのだから。

私たちがまだ学生の頃、
キャンディス様は
すべての在学生の憧れだった。

もちろん、私も憧れていたわ。

私は陛下と……当時はまだ
第一王子であり、王太子の儀は
まだだったけれど。

すでに婚約はしていたから
私は未来の王太子妃として
決して軽はずみな真似は
できなかった。

でも友人と一緒に
キャンディス様の姿を見かけては、
心をときめかせていたものよ。

キャンディス様は私と陛下の1つ年下で、
学園に入学したときからとても人気だった。

当時のキャンディス様は
まだ幼さを残していたものの、
すらりとした立ち姿が美しく、
後ろ姿を見ただけで、
女子生徒たちはうっとりとしたものだ。

キャンディス様の体つきは幼いながらも
男性っぽかったが、顔立ちは
その辺の男子どころか
女子であっても、誰も叶わないような
美しい顔をしていて、
微笑みを見た女子生徒たちの中には
感激のあまり倒れる子もいた。

そんなに素敵なキャンディス様は
初等部に入学したころは今とは違い、
美しくても、やはり男性の姿だった。

だが、陛下の弟……チェスターコート様が
入学式でキャンディス様に一目惚れ。

そこから何年も、何年も、
ずっとキャンディス様を口説いて……時には
大げさに愛を囁き、
時には、男子生徒だけでなく
女子生徒や教師にまでキャンディス様は
自分の愛する人だと独占欲で威嚇して。

わかりやすい強烈な愛情を受け、
キャンディス様はゆっくりと、
そんなチェスターコート様に
心を預けていった。

学園を卒業するころには、
おそらくだけれど、身体は女性に
随分と変化されていたのだと思う。

整った顔立ちは優しくなり、
チェスターコート様を見る仕草が
とても可愛らしいものになっていた。

私は自分の気持ちを隠したまま
失恋したのだが、それはおそらくだけど
陛下も同じだったと思う。

私と陛下の婚約は生まれた時から
決められていたものだった。

それは覆すことができないものだったし
私もまた、王妃となるべく育てられた。

だから私がキャンディス様と
どうこうなどなれるわけがなかったし、
陛下もまた、王妃となるべく育てられた
私を手放すことなどできるはずもない。

そして私たちはキャンディス様に
何も告げることなく失恋したという
同じ傷を持つ仲間として、結婚したのだ。

陛下は弟であるチェスターコート様が
羨ましかっただろうし、
嫉妬もあっただろう。

だがそれを顔に出さずに、
学園を卒業後すぐに私と婚約を調えた。

それからすぐだ。
正式に立太子になるための
儀式を終えて、王太子となった。

翌年、チェスターコート様たちが
学園を卒業し、お二人が婚約をしたのを機に
私たちは結婚。

そこから三年かけて準備をして
私たちは国王と王妃になった。

その三年は跡継ぎのことなど
考える余裕もなかった。

毎日が必死だった。

けれど、今から思えば
その三年があったからこそ、
キャンディス様の子と、
私たちの息子との年齢差が
あまりなく生まれたのだから
僥倖と言える筈だ。

キャンディス様も
おそらくゆっくりと体が変化したので
すぐに懐妊はできなかったのだろう。

だからこそ、私たちの息子が生まれ
その翌年にキャンディス様の懐妊の
一報があった時、私も陛下も喜んだ。

もしかしたら、キャンディス様の子が
私たちの息子の伴侶になることが
できるかもしれないからだ。

もちろん、陛下とはそんな話は
一度もしたことがない。

だが何を思っているかは
言わなくてもわかる。

だって私も陛下も、
キャンディス様に
同志だから。

いまだに私たちは
キャンディス様に憧れ、恋い焦がれているのだ。

私たちのそんな気持ちは誰も知らない。
だが、きっと。

チェスターコート様だけは
何かを感じ取っていると思う。

だからこそ、チェスターコート様は
学園を卒業後、すぐに王家から
臣籍降下を申し出たのだ。

当時は、まだ陛下……クロウコート様と
チェスターコート様の御父上が
国王として立っていたので、
チェスターコート様の臣籍降下は
すぐに認められた。

公爵の地位と王家の領地を分け与えられ
チェスターコート様はキャンディス様を連れ
あっという間に王都から姿を消したのだ。

それ以来、キャンディス様は
なかなか王都に来ない。

社交界も最低限しか参加しなかったし、
また参加をしても、かつての姿ではなく、
いつもドレスを美しく着こなして、
まるで最初から女性だったかのように
振舞うようになってしまった。

それでもキャンディス様のすばらしさは
男だとか女だとか、そんなことは
超越したものだから、
関係ないと言えば関係ないのだけれど。

キャンディス様が出産をして
しばらくすると、
子どもは紫の瞳の子だと報告があった。

やっぱり、と私は内心、喜んだ。

紫の瞳の者の子どもは、
紫の瞳を受け継ぐと言われているからだ。

これで息子の婚約者候補として
王宮に呼ぶことができる。

そう思ったのだが、
なかなかうまくいかない。

チェスターコート様が
王宮に子どもを連れてくることに
難色を示したからだ。

紫の瞳の子は体が弱いと言われている。

だから外出しても問題がない程度まで
成長しなければ、馬車にも乗れないのだという。

だから私は待った。

5年間も。

ただし、息子には何も伝えていない。

私や陛下の想いと息子の感情は別だと
思ったからだ。

でももし、息子が紫の瞳の子を見て
恋に落ちたら、全力て応援するつもりだ。

私の叶わなかった恋心のために
キャンディス様の子を
欲しがっているのではない。

そう……思いたい。

決してこの想いは誰にも
知られてはならないし、
この想いで王妃としての行動を
狂わせてはならないのだ。


しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

処理中です...