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学園に入学しました
33:食堂で
しおりを挟む俺は父があちこちで
暴走しているのではないかと
不安に思いつつも、
とりあえずは目の前のものを
食べることにした。
目の前の二人のトレーには
パンとスープとハンバーグ。
それに果物まで乗っている。
見ているだけでお腹いっぱいになりそうだ。
と、急に「アキ」と声を掛けられた。
俺が振り返ると、義兄が少し遠くから
こちらに向かってくるのが見えた。
「兄様」
義兄は俺のそばまで来ると、
持っているトレーを見せる。
「一緒に食べてもいいかい?」
「もちろんです」
俺が返事をしたけれど、
ルシリアンもクリムもコクコク頷いている。
突然の義兄の登場で驚いているようだ。
「良かった。
二人のことはアキから聞いているよ。
仲良くしてくれてありがとう。
一度、挨拶をしておきたいと
思っていたんだ」
丁度良かった、と言われ
二人はあたふたとお辞儀をする。
義兄は俺の隣。
ルシリアンの斜め前に座った。
ちなみに、クリムは
ルシリアンの隣だ。
席を決める時、
俺はどちらかの隣に
座るつもりだったのに、
二人そろって何故か
「隣に座ったとバレたら殺される」
とか言うのだ。
誰にだ?
父か?
さすがに父も子ども相手に
無茶なことは言わないと思うのだが。
義兄のトレーの上には
たっぷりの料理が乗っていた。
肉と野菜にスープにパン。
ボリューム満点だ。
そう言う俺のトレーには
ちょこっとの肉と、スープとサラダだけ。
義兄は俺のトレーを見て
少しだけ顔をしかめた。
「食欲、あまりない?」
「いえ、周囲の食べる量の多さに、
おなかがいっぱいで」
「自分は食べてないのに?」
「はい」
というと、義兄だけでなく
ルシリアンとクリムからも笑いが漏れた。
「見ているだけで腹いっぱいになるのは
経済的には良いかもしれないが、
もう少し食べた方がいい」
義兄はそういうと、
自分のトレーの上のパンを
俺のサラダの上に乗せた。
「いえ、量が多いです」
と抵抗すると、義兄はそれじゃあ、と
パンを半分にした。
まぁ、これぐらいならなんとかなるか。
仕方なくパンを手に取ると、
ルシリアンとクリムの
生暖かい視線に気が付いた。
「なに?」
「いえ、ご兄弟の仲が良いことに
驚いているのです」
とクリムは言う。
俺と義兄の不仲説でも流れてるのか?
首を傾げるとクリムが
「お二人が一緒にいる姿を
今まで見たことがなかったので」という。
確かに俺は公式の場に出たこと無いし、
入学式は義兄は生徒会でいなかったし、
義兄弟揃ってお茶会にも参加したことがない。
確かに一緒にいる姿を見せることは無いな。
「ですので、お二人の仲の良い姿を見て
微笑ましく思いまして」
というルシリアンに俺はさらに
首を傾げることになった。
なにが「ですので」なんだ?
俺は咄嗟に義兄を見るが
義兄はたいして気にしてない様子で
俺に分け与えたパンの半分を食べていた。
なんだ?
俺と義兄は対立してるとか
思われているのか?
確かに俺たちのことを知らない者からみたら
義兄にとって俺は邪魔者でしかないからな。
俺がいるから義兄は当主に
なれないかもしれないし、
もしかして、義兄は俺を
虐めてるとか思われてるのか?
ここは俺が頑張って
兄と俺が仲良しの所を
アピールしなくてはっ!
俺が義兄からもらったパンを
小さくちぎって義兄の口元に
持って行く。
「はい、兄様、あーん」
さすがにいきなり過ぎたのか、
義兄は笑顔を引きつらせている。
「兄貴、何を考えたか
わからなくもないがやめてくれ」
義兄は小声で俺に言う。
「はい、あーん」
俺は有無を言わさない。
早く食え。
腕が辛い。
義兄は仕方なく口を開けたので
俺はその口にパンを押し込んだ。
そんな俺の所業を
ルシリアンとクリムは
目を見開いたまま見つめている。
どうだ!
仲良し兄弟だろう。
「お二人とも、仲が良いんですね」
先に我に返ったルシリアンが
俺に向かってそう言った。
そうだろう、そうだろう。
俺は笑顔で頷く。
「兄様はいつも優しいので。
僕は義兄様が大好きなんです」
「……たのむ。
やめてくれ」
と義兄が小声で言うが知らん!
俺は仲良しアピールが重要だと感じたのだ。
だが、ぽつりと
「そうなんですね。
……やっぱり」
と、クリムが呟いた。
やっぱり?
あれ?
不仲説ではなかったのか?
俺がちらりと義兄を見ると、
義兄はやれやれと言わんばかりに
呆れた顔で俺を見た。
なんだ?
どうなってるんだ?
だがその問いに誰も答えてはくれない。
「仕方がない、アキ」
義兄が俺を呼ぶ。
「ほら、しっかりと食べろ」
そして小さく切った肉を
フォークに突き刺し、
俺の口元に持ってくる。
さっきの仕返しだろうか。
俺は仕方なく口を開けた。
もぐもぐ食べていると、
義兄は自分の分の食事をしながら
器用に俺のトレーの上のものを
フォークで突き刺し、
俺に運ぶ。
といっても、小さなパンとサラダぐらいだが。
食べる合間合間に、水を飲め、
次はスープだ、と指示が入る。
一生懸命もぐもぐするが、
指示されても間に合わない。
「兄様、早い。
そんなには無理」
と言うと、義兄は
俺の口元をハンカチで拭き、
「まだ食べれるか?」という。
俺が首を横に振ると、
義兄は今度は自分のトレーの上に
置いてあったリンゴを
俺に食べさせる。
「よし。これでいい。
今日は帰りは遅くなる。
一人で帰れるか?」
「はい、キールがいますから」
「なら寄り道せずに、
気を付けて帰れ」
義兄はそう言うと
食べ終わったトレーを手に
立ち上がる。
そして
「アキのことを頼む」
と二人に言い残して
足早に去って行った。
なんだったんだ、あれは。
というか、腹いっぱいだ。
俺たちの不仲説はどうなったんだ?
俺の頭の中はハテナでいっぱいだ。
こうして俺の初めての食堂は
もやもやして終わったのだ。
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