75 / 308
中等部に進級しました
60:殿下と仲良し
しおりを挟むお茶会の翌日、
俺は学園の昼休みに、
クリムとルシリアンに
小声で平謝りをしていた。
茶会の後、義兄に聞くと、
人形とはいえ、婚約者の服を
着せ替えるとかは、
とにかくハシタナイらしい。
それに隠れペアルックも
年齢的にかなりやばいと言うか
俺としては、ただの
ファッション感覚で提案したのだが
聞きようによっては
大人の女性たちの
アダルトな恋案件になるようだ。
え?
そんなことで?
と思ったが、
この世界の貞操観念は
かなり固いらしい。
そんなわけで、
俺は女性二人にとてつもなく
失礼な話をしたことになる。
婚約者にそんなことを
言ってしまった俺を
クリムもルシリアンも
気にしてないとは言っても、
良い気分ではなかっただろうし、
こんなことで友達を失いたくない。
俺は公爵家だから
大声で平謝りはできないが、
それでも2人は笑って許してくれた。
「アキ様はそういうことを
知らずに、守られてきたんですね」
とルシリアンにしみじみ言われ、
俺は、そうかも、と素直に頷いた。
「父は僕には過保護すぎるぐらいですし
兄様も、昨日見た通りで」
「兄上様も、アキ様のことを
とても可愛がっておられましたね」
とクリムも言うが、違う。
あの、頭をぐりぐり撫でていたのは
可愛がっていたのではなく、
おちょくっていたのだ。
なにせ、あの後、
タウンハウスに帰ってすぐに
義兄は俺の部屋にやってきて
大笑いしたのだから。
「兄貴、友達作りに行って、
友だちの彼女を紹介されたの?」
ってあまりにも笑うから、
「ああそうだよ!
でも俺は女子たちと友達に
なったからな。
いいんだよ」
と言い返すと
「クマさんの服を作ってもらうから?」
と、また笑われた。
くそ。
思い出すだけでむかつくぜ。
「本当にそんなことは良いのです」
ルシリアンはそう言って
中庭のベンチで笑う。
「そんなことより
アキ様。
一つお願いしたいことが」
ルシリアンは真面目な顔をする。
「昨日いただいた栞なのですが」
「うん」
やっぱり茶会で栞はNGだったか?
「僕たちがお揃いの栞を
貰ったことは、殿下には
内緒にしておいていただけますか?」
「ん? なんで?」
別にわざわざは言わないけれど。
「いえ、その。
殿下が暴走する……というか」
ルシリアン、声が小さい。
「僕たち側近候補が
アキ様から栞を頂いたのに、
殿下が貰っていないとなると
その……」
ルシリアンを助けるように
クリムがそう言い、
俺はなるほど、と思う。
側近がモノを貰っているのに
殿下が貰ってないと
不味いというわけだ。
でもたかが
庭の花で作った栞だぞ。
ティスが欲しがるようなものでは
無いと思うのだが。
俺はそう言ったが
二人は首を振るので
俺はわかった、と頷く。
俺にはわからない
身分とかそういう何かが
あるのかもしれないしな。
俺もそういうのを
そろそろ学んだ方が良いのかもしれない。
勉強以外の、大事なことだ。
貴族社会は苦手意識があるが
そういうのも、早いうちから
学び、慣れる必要があるしな。
そう思ったその日の放課後、
俺はさっそく、その考えを
強くする出来事が起こった。
その日の放課後、俺は
ティスに呼ばれて王宮に来ていた。
どうやら王子教育と
剣術の稽古の時間の間に
隙間時間が生まれるらしく、
その時間に会いたいと言われたのだ。
会うと言っても、
いつも茶会のような
たいそうなことではなく、
ちょっとした時間に話し相手に
行くような感じだ。
ティスが俺を呼ぶときは
たいてい、愚痴と、泣き言と
義兄のことで
いっぱいいっぱいになった時だ。
何故義兄のこと?と思うが、
義兄は公爵の次期当主として
公表されたものの
その優秀さを請われて
ティスの側近として
王宮に勤めている。
ティスに容赦なく意見を言い、
ダメだしできるのは王宮では
義兄ぐらいらしくて、
せっかく義兄が卒業して
試練とやらが無くなったと
安堵していたのに
ティスはまた義兄に
仕事で攻められているらしい。
さすがに俺もそれを聞いて
ティスが可哀そうになり、
人前では弱音を吐けないティスの
愚痴聞き役として、
ティスに乞われるまま
王宮に気軽に出向くように
なってしまった。
王宮に行くと父や
義兄に会うこともできるし、
二人とも俺に会うと
嬉しそうにするから
本当は街出て遊んでみたいと
思う気持ちもあるけれど、
今はこういう生活もいいかな、と思っている。
義兄は王宮に勤めているのと
俺がまだ在学中なので一緒に
タウンハウスに住んでいる。
父と母は領地にいるが、
父は毎日登城しているし、困ることは無い。
そして俺は
王宮の庭でダラダラしていた。
何故庭でダラダラかというと、
天気が良いから庭を散歩しようと
ティスに誘われたのだ。
今日の授業は午後から魔法学の
授業があっただけで、
すぐに帰宅となった。
ティスも今日は忙しいらしく
午前中の授業を出て
すぐに王宮に戻ったらしい。
そんなわけで、放課後とはいえ
まだ日が傾く前に王宮に来たので
ティスが俺を散歩に誘ったのだ。
だが俺は広い庭の散策に
疲れてしまった。
ルシリアンの家の庭では
俺も体力が付いてきたと
正直にんまりしたが、
さすが王宮の庭は広い。
成長したと思ったが、
やはり相変わらず
この体は体力がなかったようだ。
まぁ、以前よりはだいぶ
マシにはなったとは思うのだが。
俺が息切れし始めたことに
気が付いたティスは
近くに東屋が無いから
ここで休もうと侍従に言い、
大きなシートを準備させた。
前世で言うブルーシートのようなもので
地面に敷いて座ることができるシートだ。
俺はありがたく、木陰の下で
靴を脱いで座った。
咄嗟に護衛達が視線をずらす。
「うん?」
「アキ、なんで靴脱ぐの?」
「え? だって、靴は土がついてるし
そのままシートに座ったら
シートが汚れるだろう?」
何言ってんだ。
シートに座るときは靴を脱ぐのが
常識だろう。
と俺は思ったのに、
「汚れるぐらい、構わない」と
ティスは座る俺に靴を履かせてきた。
しかも
「私以外の前で、靴を脱ぐなんてやめて欲しい」
なんて言われる。
いつの間にか、ティスは
一人称が僕から私に変化していた。
そろそろ王太子としての
自覚が出てきたのかもしれない。
ティスももう、14歳だしな。
俺は言われている意味に納得はできなかったが、
王家の庭で靴を脱ぐのはダメだったのかと
思い直して、わかった、と靴を履く。
靴を履くと、侍従が小さなテーブルの
ようなものと、冷たい水を持って来てくれた。
王宮にいると、至れり尽くせりだ。
シートは大きく、
寝転がるぐらいはできそうだ。
ティスは俺が水を飲むのを待って、
人払いをする。
そして侍従がいなくなると、
ティスは途端に、幼い顔に戻り、
「アキ~っ」と俺に泣きついた。
俺は、はいはい、と言いながら
話を聞く。
今日の話題は生徒会の話だった。
何でも生徒会長になりたかった
伯爵家の次男が、やたらとティスに
つっかかってくるらしい。
しかも義兄を尊敬しているらしく、
やたらと義兄とティスを比べて
嫌味を言うそうだ。
その義兄の推薦でティスは
生徒会長をしているのだから、
とっとと受け入れればいいのに。
でもティスは権力を使わず、
義兄の推薦だとか
そんなことも言わず。
ただ生徒たちが楽しく学園に通えるよう、
そしてそのために生徒会の仕事が上手く回ることを
一番に考えて動いている。
偉いと思う。
だから俺は、ティスは偉いね、って
頭を撫でる。
ティスは俺の膝の上に頭を乗せて
すっかり甘えたモードだ。
俺の膝に顔をうずめて
腕を背中に回してぎゅっとしがみつく。
王太子だし、未来の国王陛下だし。
弱音を吐く場所もないんだろうな。
まだ14歳だ。
甘えたいときもあると思うが
両親が健在なのに甘えることも
できないなんて、不憫な境遇だと思う。
だから俺はティスを甘やかし、
頭をよしよしと撫でる。
そんな俺たちを見た侍従たちが
「愛し合う二人」とウワサしていることなど
まったく知らずに。
俺がそのことに気が付いたのは、
久しぶりに呼ばれた王妃様との
お茶会で「二人はらぶらぶなんですってね」と
言われた時だった。
思わず、
「誰と誰がらぶらぶなんですか?」と
真顔で聞いた俺を責めないで欲しいと思う。
112
お気に入りに追加
1,137
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。
mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】
別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。
僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
伴侶設定(♂×♂)は無理なので別れてくれますか?
月歌(ツキウタ)
BL
歩道を歩いていた幼馴染の俺たちの前に、トラックが突っ込んできた。二人とも即死したはずが、目覚めれば俺たちは馴染みあるゲーム世界のアバターに転生していた。ゲーム世界では、伴侶(♂×♂)として活動していたが、現実には流石に無理なので俺たちは別れた方が良くない?
男性妊娠ありの世界
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる