完結・転生したら前世の弟が義兄になり恋愛フラグをバキバキに折っています

たたら

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48:義兄と俺

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 俺は義兄の口から手を離した。
そして座っている義兄の顔を覗き込む。

こいつは俺よりも7歳も年上なのに、
何時までたっても俺の弟だ。

俺はよしよし、と義兄の頭を撫でた。

「何度も言ってるだろ?
前世は前世だ。
今の人生には関係ない」

俺は義兄の目を見る。
そういや久しぶりだな。
こうやってこの顔を覗き込むのは。

「前世で俺は確かに
弟を守ってるつもりだったけど
でも、違うんだよ」

「違う?」

「そう、俺が、弟に守られてたんだよ」

意味が分からないと言うような顔を
義兄はした。

「母さんが死んで、
もし俺が一人だったら
多分、途方に暮れてた。

俺は仕事ばかりの母さんを
早く楽にさせたくて
必死に仕事をしてたんだ」

事実、俺は給与の高さだけで
あの仕事を選んだ。

「その母さんが死んで、
俺は仕事をする意味を失い、
燃え尽きたようになったんだ。

でも、俺には弟がいた。
幼い弟がいたから頑張れた。

俺の顔を見たら、すぐに
うぜえ、とか言う弟だったけど、
文句言ったら、すぐに失言だったって
顔をする弟が可愛くて、
俺はその顔を見るたびに
頑張って生きよう、って思ったんだよ」

前世では、言ったこと無かったよな。
大好きだなんて。

そんなの、兄弟で言うなんて
それこそ、うぜえ、だ。

でももう前世の話だ。
今なら言ってもいいだろう。

「俺は弟に救われてたんだよ。
だから大事だったし、
守りたかった。

俺は死んだけど、
弟には幸せになって欲しかった。

なぁ、自己満足だって言うかもしれないけど
俺は弟がいて、弟を守れて幸せだったんだよ」

だからもうさ。
いいんだ。
前世がどうとか、もうやめよう。



俺は、義兄を見つめた。

義兄を弟ではなく、
俺は目の前の義兄を
兄として見ているのだと
俺は、あえて口に出した。

「兄が弟を可愛がるのは当たり前だけど、
犠牲になることはない。

前世の俺も、犠牲になんか
なってなかった。
俺がやりたくてやってたんだ。

今の俺も、兄の人生を
使いつぶしてまで
幸せになりたいなんて思わない。

俺は確かに特殊な瞳を持っていて
色んな奴に守ってもらわないと
生きていけない存在なのかもしれない。

でもな。
兄だけに守られるつもりはないし
自分でできることは自分でやる。

それに父だって、
母だって俺には……
俺たちにはいるんだ。

子どものうちは大人に頼るべきだし、
頼っていいんだ。

そして、兄さんだって。
前世の俺がそうだったように、
弟に頼って、甘えていいんだぜ」

伝わるかな。俺の気持ち。

弟が大好きだったし、
義兄も好きだ。

大事な兄弟だって思ってるから、
俺のために生きるのではなく、
自分の幸せのために生きて欲しい。

義兄は唇を震わせて、俯いた。

俺はその頭を胸に引き寄せる。

「なぁ。
もういいだろ?

俺はもう兄貴じゃない。
ちゃんとさ。
この世界で、やりなおそう。

俺たちは兄弟で、
俺が弟だ」

義兄は俺の胸を濡らし、頷く。

「公爵家のこと、頼むよ。
俺で補佐できることは
ちゃんと補佐するからさ。

それに俺、人の上に立って
何かを指示するより、
一人で理論を完成させて、
一人で実証していく方が好きなんだよ」

「……知ってる」

義兄が呟くように言う。

「ケーキのうんちくとか、
カフェのコンセプトとか話すときの
どや顔。

前世で俺に逆上がりのコツとか
短時間で効率良く安売りスーパーを
自転車で回る方法とか語った時と
同じ顔してた」

え、本気で?

でも俺の理論は完璧だった筈だ。
俺的には。

「なぁ、ちゃんとこの世界で
家族になろう。

俺だけでなく、
この世界の父や母とも。

せっかく生まれ変わったんだ。
前世の悔いを解消するために
生きるんじゃなくて、
今、この人生を楽しもうぜ」

義兄はわかってくれたと思う。
だって俺の背に腕を回し、
ぎゅっとしがみついてきたから。

「でもさ。
たまになら、こうやって
兄貴にもどってやるよ」

甘えていいぞ。
そう言うと、腕の中の義兄が
嬉しそうに笑ったような気がした。

その夜から、ちょっとだけ
俺と義兄の関係が変わった。

俺のことを必死で守ろうとしていた義兄は
過保護は過保護だったけれど、
俺の周囲の全てを威嚇して
排除するような真似はしなくなった。

それから、二人で父とも話をした。

俺の将来のために義兄を犠牲にしたくないこと。

もし将来、嫁か婿を貰っても、
義兄が当主になるなら
ちゃんと補佐をするつもりだし。

俺が成人してから当主教育をするよりも
義兄が頑張ってくれているのだから
俺の中継ぎではなく、正式な当主として
義兄が公爵家を継ぐ方が、
父だってずっと楽だと思う。

そんな説明をすると、
父はしばらく考えた後、
それが二人で考えた答えか?と聞いた。

俺と義兄が顔を見合わせて頷くと、
父は「わかった」と言った。

その後すぐに「まさか嫁に行く相手がいるのか?」と
聞いてきたので、それだけは即座に
否定したけれど。

父は俺が嫁に行きたいと思う相手がいるから
そんな話をしたと思ったようだ。

俺はそうじゃなくて、
俺自身が当主とかは向いていないと
説明して、この話は終わった。

たぶん、父は義兄が卒業したら
次期当主として公表すると思う。

義兄は肩の力が抜けたようで、
刺々しい空気を醸し出す回数が
かなり減った。

と、思う。

そんな義兄の卒業式は
答辞を呼んで微笑を浮かべる義兄に
何故か顔を赤く染め、
黄色い悲鳴を上げる在校生が続出した。

俺は義兄の立派な姿を見て、
思わず涙がこぼれた。

それはアキルティアとしての
涙ではなく、
立派に育った弟を見て
感極まった秋元秋良の
涙だったと思う。

この義兄の姿を見て
前世の俺は満足したんだ。

だってそれ以降、
俺は義兄の行動を見て
失敗しないかとハラハラしたり、
俺が守ってやらないと、と
気負うことは無くなったから。

前世の俺の、
俺が守ってやらなければならない
幼い弟は、もういないのだ。

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