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学園に入学しました
47:黒歴史だ
しおりを挟むケーキのプレオープンに参加してから
俺は物凄く反省した。
俺は公爵家当主の息子とはいえ
ただの10歳の子どもなのだ。
偉そうに大人に講釈を垂れて良いはずがない。
しかも前世での俺はただのプログラマーだ。
営業も確かにやったことがあるが
専門家ではないし、食に関しては
投稿動画を見ていただけ。
子どもだから多めにみて
もらえたのだと思うが
うんちくを垂れ流した自分が
恥ずかしくて仕方がない。
黒歴史としか思えないのに
思い出したかのように
ルシリアンやクリムがその話をする。
勘弁して欲しい。
その上、何故か俺はルシリアンに頼まれ、
あれから新作ケーキを食べに
何度かあのカフェに出向いている。
もちろん、クリムも一緒だ。
なんでも俺の舌と着眼点が珍しいと
シェフもルシリアン父も大絶賛らしい。
俺はケーキを食べれるし、
外出できるのが嬉しいけれど
本当に良いのだろうか。
ただ、時折、その試食に
ティスがやってくるので、
この試食会はティスの息抜きが
本来の目的ではないかと
俺は思っている。
王子のティスをもてなすのに、
いくら友だちで側近候補としても
ルシリアン一人では
きっと困るだろうしね。
俺はティスの幼馴染だし
気も使わなくていいので
丁度良く使われているのかもしれない。
別に嫌じゃないし、
全員が幸せになる
ウインウインの関係だと思う。
と言った内容のことを
義兄にも伝えたが、義兄は
「ふーん」と言っただけだった。
ちょっと怖い。
でもダメとは言われなかったし、
ティスも義兄にそんなにイジメられて
無いと言うし、大丈夫だろう。
何より俺はケーキを
食べることができるのが嬉しいしな。
小さいケーキを
色んな種類食べれるのだ。
新作というので、1つのケーキを
食べて感想を言えばいいのかと
思っていたけれど、
毎回行くと、シェフがいくつもの
種類のケーキを準備していて、
俺はそれを食べて1つ1つ、感想を言う。
商品になるものだから
ちゃんとダメだと思うところは
ダメだって伝えるようにしているぞ。
その中から、その日は1つだけ選び、
また次の試食会では
その1つの改良版と
違うケーキを食べる。
そうやって美味しいケーキを
作り上げていくのだ。
季節も変わっていくし、
俺もその都度、食べたいものが違う。
前回はそう言った意味合いもあり、
季節に合わせたデザートを
作るのもありだと伝えておいたので
次はきっと、そういうデザートが
出てくるに違いない。
今から楽しみだ。
そうこうしているうちに
義兄の卒業が迫ってきていて、
義兄は忙しそうだ。
卒業したら義兄は
本格的に当主補佐として
働くこととなる。
そろそろ俺の考えを
きちんと父と義兄に伝えないとな。
そこで俺は学園が休みの日で
父がタウンハウスに来る日を見計らい、
義兄に話があるから父と一緒に
聞いて欲しい、と伝えた。
義兄は目を見開き、
その前に二人だけで話をしようと言われ、
俺は頷く。
先に父と話をするべきか
二人同時に話をするべきかと
悩んでいたのだが、
反対するであろう義兄と
先に話し合っておいた方が
良いだろうという
判断になったからだ。
そして今、まさに俺は
義兄の部屋に向かうところだ。
夕食を食べ、風呂に入って
学園の宿題も終わっている。
後は寝るだけの時間だ。
よし、行くぞ。
今日はクマのぬいぐるみは
俺のお部屋で留守番だ。
俺は義兄の部屋の前に立つ。
廊下はところどころに置いてある
すうぼんやりとした明かりだけだが、
義兄の部屋は俺のすぐ隣なので
問題はない。
俺は深呼吸をして部屋をノックしようとしたが
その前に扉が開いた。
ビック知り過ぎて、
俺は目を見開いたまま固まってしまった。
「驚いた? 気配がしたから」
と義兄は笑うが、心臓に悪い。
俺は義兄に背中を押され
部屋に入る。
「寝る前の果実水も
用意しておいたよ」
義兄は言いながら俺を椅子に座らせる。
そして机にカップを置くと、
自分はベットに座った。
「それで?」
唐突に義兄が聞く。
俺はどう言おうか考えたけれど、
直球で伝えることにした。
誤魔化すよりも素直に伝えた方が
理解してもらいやすいに違いない。
「えっと、兄様はもう卒業だよね」
「ああ、そうだね」
俺はカップを手に取り、
一口、中身を飲んだ。
「これからのことだけど」
俺はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「まだ将来はどうなるか
わからないけど、公爵家は
兄様は継ぐべきだと思う」
義兄の顔が険しくなった。
「だ、だってさ。
そもそもそのためにこの家に
引き取られてきたわけだし。
俺が成人になって、
進路を決めるまで領主代理をするなんて
バカげてると言うか、先が長いだろ?
俺は婿を取るか、嫁を貰うか
嫁に行くかだろうけど。
そのどれになっても、
当主は兄様でいいと思う」
義兄は何も言わない。
「だいたいさ。
7歳も年が違うだぜ?
俺が成人になるまで、
あと8年近くもある。
その間の8年。
公爵家のために尽くして、
俺のために当主の座を降りるなんて
おかしいだろ?」
「………い」
義兄が何か言う。
「何? 聞こえない」
「おかしく、無い、と言った」
義兄は俺を見る。
あまりにも鋭い目だったので
俺は無意識にカップを机に置いた。
殴りかかってくるかと思う程
義兄の顔は怖かった。
「兄貴は、俺と7歳離れてた」
「ん?」
過去形ということは、前世の話か?
「俺は兄貴を傷つけてばかりだったけど
兄貴はずっと俺を守ってた。
人生を掛けて、最後まで
俺のために生きてくれた。
だから今度は俺の番だ。
俺は、兄貴のために……」
「待て待て待て」
俺は飛び上がり、
義兄の口を両手で塞ぐ。
「何言ってんだ。
本気で怒るぞ」
俺の怒りが伝わったのだろう。
義兄は口を閉ざし、俺の顔を見た。
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