59 / 308
学園に入学しました
46:稀有な存在【宰相・シンクSIDE】
しおりを挟む
私が出資しているカフェの試食会に
参加したいと息子が言い出した時は驚いた。
息子は勉強だけはできる子だったが
それ以外に興味を持つことはなかったからだ。
話を聞くと、学友のアキルティア様を
学園の外に連れて行って差し上げたいと言う。
アキルティア様は紫の瞳を持つことから
厳重に警護されていて、
家と学園以外のことを全く知らないらしい。
社交もしてこなかったし、
外の世界を見て見たいと言っているのだとか。
息子としては、
アキルティア様の願いを
かなえてやりたいが
紫の瞳のアキルティア様を
気軽に遊びに誘うこともできないし、
不特定多数がいる場所に誘うことは
絶対に無理だろう。
ならば身元がしっかりしている者しか
参加できない試食会であれば
アキルティア様を連れだせるのではないかと
思ったらしい。
まさか息子は婚約者がいるのに、
アキルティア様に懸想しているのかと
思ったが、話を聞いていると
純粋にアキルティア様を心配しているようで
ならば、と力を貸すことにした。
公爵家に打診をしたところ、
案の定、公爵はしぶったが、
レセプションの開始時間を早めることで
学園が終わった後に到着する
アキルティア様たちは
注目される可能性は低いこと。
試食はその場ではなく、
別室で試食すること。
また追加でスイーツを所望するのであれば
店の者が対応することを提示し、
ようやく許可が下りた。
たいがい公爵も過保護だ。
まぁ、アキルティア様は
紫の瞳を持つ子どもだから
わからんでもないがな。
それにじつは私も
アキルティア様には興味を持っていた。
なにせ、殿下のそばにいた間諜に
誰よりも早く気が付いた方だ。
ただの子どもだと
思わない方が良いだろう。
そう思って迎えた当日。
私は息子たちが来たことに気が付いたが、
わざと挨拶を控えて、
息子たちがケーキや焼き菓子を
堪能するのを待った。
それから、さりげなく
シェフを連れて挨拶に行く。
私だけが挨拶をするよりも
シェフを紹介するという形を
取った方が警戒が薄れると思ったからだ。
思った通り、アキルティア様は
警戒心無く私に挨拶をして、
さらに「素敵なお父様だね」など
今まで言われたことが無いことを
息子に言っていた。
無邪気な言葉に、
腹芸が得意な私も自分を
恥じ入りそうになった。
しかも、ぽやぽやした空気で、
私に憧れているのではないかと
思えるような瞳で見られると、
気まずいような気分になる。
私は慌ててシェフを紹介した。
彼は平民だったが、
腕の良さは評判だったため、
近くの街の飲食店から引き抜いてきた。
それから料理や菓子の修行よりも
貴族相手の会話の仕方や
作法などを教え込んだのだが
まだやはり、ぎこちない。
だがそんなシェフの所作も
アキルティア様は
気にならないらしい。
笑顔でシェフとやりとりをしている。
私は無難にカフェの感想を聞いた。
招待した側の礼儀だろう。
息子も、その友人も
美味しかった、楽しかったと
ありきたりの返事をした。
それでその場は終わる筈だった。
私が何気なく
「アキルティア様はいかがでしたか?」
と言わなければ。
それからアキルティア様は
素晴らしい案を提示してきた。
カフェの内装、ケーキの大きさ。
どれも驚きの発想だった。
ケーキを小さくするなど
考えたこともなかった。
大きい方が喜ばれると思っていたからだ。
だがアキルティア様の意見を聞き、
多様な視点を持つ重要性に気が付いた。
しかもだ。
アキルティア様は小さいケーキだと
売り上げが下がると一瞬考えた私の
思考を読んだかのように、
どうやって売り上げを上げるかという
話まで始めたのだ。
驚くしかない。
10歳だぞ!?
公爵家はどんな教育を施しているんだ?
もっと話を聞きたかったが、
殿下が乱入してきて、
話は終了となってしまった。
殿下がアキルティア様にほれ込み、
その義兄にしごかれているのは
王宮内では有名な話だ。
殿下は弟が可愛い義兄からの
イジメだと思っているようだが、
試練の内容を聞くと、帝王学を主体とした
王になるための資質を育てるような
内容ばかりなので、
王宮に勤める者たちは放置している。
それが殿下の将来の役に立つと考えているからだ。
アキルティア様の義兄も
将来、アキルティア様が殿下に嫁ぐことを
視野に入れて殿下を鍛えているのだろう。
とはいえ。
限られた者しかいないとはいえ、
殿下がアキルティア様にしがみつき
会いたかったと泣きつく姿は
不憫に感じた。
だが、ようやく会えたと喜ぶ殿下に、
後から来たアキルティア様の義兄、
ジェルロイド様は、冷たく
すぐに帰る、という。
アキルティアに会えたからいいだろう
と言い放ったのだ。
絶望した殿下の顔に、
さすがに可哀そうだと思ったのは
私だけではなかったようで、
アキルティア様はその場で
殿下とジェルロイドをお茶に誘った。
もちろん、私にお伺いを立てて。
アキルティア様は
素晴らしい能力を持っていると思う。
できるのであれば、
息子の伴侶に、と思う程に。
だが、それは無理だろう。
それぐらいはわかる。
ならば、私はアキルティア様が
殿下の隣に立っていただけるよう、
努力をすることにしよう。
殿下はどう見てもアキルティア様しか
見ていない様子だが、
アキルティア様は殿下のことを
友人として見ている……だろう。
そうとしか思えない。
友人というか、年下の弟を
見るような瞳で見ている。
これでは恋愛に発展しない。
何かないだろうか。
息子と婚約者の茶会に、
殿下とアキルティア様をお誘いするか?
仲睦まじい様子を見て刺激を
受ける……のは殿下だけかもしれないが。
私はアキルティア様の
繊細な舌が、シェフの料理の隠し味を
当てるのを聞きつつ、
これからのことを考える。
アキルティア様はその舌さえも
優秀らしい。
シェフの顔色を見ればわかる。
私にはどれを食べても同じにしか
感じなかったし、アキルティア様の言う
【少し苦いレモンの皮】など、
まったくわからなかった。
今後も定期的に、このカフェに
アキルティア様を招待することは
できないだろうか。
味のオブザーバーとしてでもいい。
新作の味を見極めるためという理由であれば
ここにお連れして、その時に
殿下と会っていただければ……。
頭の中だけで画策していたはずだが、
私はジェルロイド様の鋭い瞳に気が付いた。
ついさっきまで、恥ずかしそうに
顔を真っ赤にしたアキルティア様を
可愛いと言わんばかりに見つめていたのに。
「私の可愛い義弟が
望まないことはやめてくださいね」
釘を刺したつもりだろう。
一瞬、どきりとした。
だが、アキルティア様が望めばいいのだろう?
私は悪い大人だからな。
そしてこの国の繁栄を願っている。
そこに殿下の幸せが加われば
文句なしではないか。
こうなったら息子の手も借ることになるだろう。
私はジェルロイド様の視線を受け流すように
わざとやんわりと笑って見せた。
参加したいと息子が言い出した時は驚いた。
息子は勉強だけはできる子だったが
それ以外に興味を持つことはなかったからだ。
話を聞くと、学友のアキルティア様を
学園の外に連れて行って差し上げたいと言う。
アキルティア様は紫の瞳を持つことから
厳重に警護されていて、
家と学園以外のことを全く知らないらしい。
社交もしてこなかったし、
外の世界を見て見たいと言っているのだとか。
息子としては、
アキルティア様の願いを
かなえてやりたいが
紫の瞳のアキルティア様を
気軽に遊びに誘うこともできないし、
不特定多数がいる場所に誘うことは
絶対に無理だろう。
ならば身元がしっかりしている者しか
参加できない試食会であれば
アキルティア様を連れだせるのではないかと
思ったらしい。
まさか息子は婚約者がいるのに、
アキルティア様に懸想しているのかと
思ったが、話を聞いていると
純粋にアキルティア様を心配しているようで
ならば、と力を貸すことにした。
公爵家に打診をしたところ、
案の定、公爵はしぶったが、
レセプションの開始時間を早めることで
学園が終わった後に到着する
アキルティア様たちは
注目される可能性は低いこと。
試食はその場ではなく、
別室で試食すること。
また追加でスイーツを所望するのであれば
店の者が対応することを提示し、
ようやく許可が下りた。
たいがい公爵も過保護だ。
まぁ、アキルティア様は
紫の瞳を持つ子どもだから
わからんでもないがな。
それにじつは私も
アキルティア様には興味を持っていた。
なにせ、殿下のそばにいた間諜に
誰よりも早く気が付いた方だ。
ただの子どもだと
思わない方が良いだろう。
そう思って迎えた当日。
私は息子たちが来たことに気が付いたが、
わざと挨拶を控えて、
息子たちがケーキや焼き菓子を
堪能するのを待った。
それから、さりげなく
シェフを連れて挨拶に行く。
私だけが挨拶をするよりも
シェフを紹介するという形を
取った方が警戒が薄れると思ったからだ。
思った通り、アキルティア様は
警戒心無く私に挨拶をして、
さらに「素敵なお父様だね」など
今まで言われたことが無いことを
息子に言っていた。
無邪気な言葉に、
腹芸が得意な私も自分を
恥じ入りそうになった。
しかも、ぽやぽやした空気で、
私に憧れているのではないかと
思えるような瞳で見られると、
気まずいような気分になる。
私は慌ててシェフを紹介した。
彼は平民だったが、
腕の良さは評判だったため、
近くの街の飲食店から引き抜いてきた。
それから料理や菓子の修行よりも
貴族相手の会話の仕方や
作法などを教え込んだのだが
まだやはり、ぎこちない。
だがそんなシェフの所作も
アキルティア様は
気にならないらしい。
笑顔でシェフとやりとりをしている。
私は無難にカフェの感想を聞いた。
招待した側の礼儀だろう。
息子も、その友人も
美味しかった、楽しかったと
ありきたりの返事をした。
それでその場は終わる筈だった。
私が何気なく
「アキルティア様はいかがでしたか?」
と言わなければ。
それからアキルティア様は
素晴らしい案を提示してきた。
カフェの内装、ケーキの大きさ。
どれも驚きの発想だった。
ケーキを小さくするなど
考えたこともなかった。
大きい方が喜ばれると思っていたからだ。
だがアキルティア様の意見を聞き、
多様な視点を持つ重要性に気が付いた。
しかもだ。
アキルティア様は小さいケーキだと
売り上げが下がると一瞬考えた私の
思考を読んだかのように、
どうやって売り上げを上げるかという
話まで始めたのだ。
驚くしかない。
10歳だぞ!?
公爵家はどんな教育を施しているんだ?
もっと話を聞きたかったが、
殿下が乱入してきて、
話は終了となってしまった。
殿下がアキルティア様にほれ込み、
その義兄にしごかれているのは
王宮内では有名な話だ。
殿下は弟が可愛い義兄からの
イジメだと思っているようだが、
試練の内容を聞くと、帝王学を主体とした
王になるための資質を育てるような
内容ばかりなので、
王宮に勤める者たちは放置している。
それが殿下の将来の役に立つと考えているからだ。
アキルティア様の義兄も
将来、アキルティア様が殿下に嫁ぐことを
視野に入れて殿下を鍛えているのだろう。
とはいえ。
限られた者しかいないとはいえ、
殿下がアキルティア様にしがみつき
会いたかったと泣きつく姿は
不憫に感じた。
だが、ようやく会えたと喜ぶ殿下に、
後から来たアキルティア様の義兄、
ジェルロイド様は、冷たく
すぐに帰る、という。
アキルティアに会えたからいいだろう
と言い放ったのだ。
絶望した殿下の顔に、
さすがに可哀そうだと思ったのは
私だけではなかったようで、
アキルティア様はその場で
殿下とジェルロイドをお茶に誘った。
もちろん、私にお伺いを立てて。
アキルティア様は
素晴らしい能力を持っていると思う。
できるのであれば、
息子の伴侶に、と思う程に。
だが、それは無理だろう。
それぐらいはわかる。
ならば、私はアキルティア様が
殿下の隣に立っていただけるよう、
努力をすることにしよう。
殿下はどう見てもアキルティア様しか
見ていない様子だが、
アキルティア様は殿下のことを
友人として見ている……だろう。
そうとしか思えない。
友人というか、年下の弟を
見るような瞳で見ている。
これでは恋愛に発展しない。
何かないだろうか。
息子と婚約者の茶会に、
殿下とアキルティア様をお誘いするか?
仲睦まじい様子を見て刺激を
受ける……のは殿下だけかもしれないが。
私はアキルティア様の
繊細な舌が、シェフの料理の隠し味を
当てるのを聞きつつ、
これからのことを考える。
アキルティア様はその舌さえも
優秀らしい。
シェフの顔色を見ればわかる。
私にはどれを食べても同じにしか
感じなかったし、アキルティア様の言う
【少し苦いレモンの皮】など、
まったくわからなかった。
今後も定期的に、このカフェに
アキルティア様を招待することは
できないだろうか。
味のオブザーバーとしてでもいい。
新作の味を見極めるためという理由であれば
ここにお連れして、その時に
殿下と会っていただければ……。
頭の中だけで画策していたはずだが、
私はジェルロイド様の鋭い瞳に気が付いた。
ついさっきまで、恥ずかしそうに
顔を真っ赤にしたアキルティア様を
可愛いと言わんばかりに見つめていたのに。
「私の可愛い義弟が
望まないことはやめてくださいね」
釘を刺したつもりだろう。
一瞬、どきりとした。
だが、アキルティア様が望めばいいのだろう?
私は悪い大人だからな。
そしてこの国の繁栄を願っている。
そこに殿下の幸せが加われば
文句なしではないか。
こうなったら息子の手も借ることになるだろう。
私はジェルロイド様の視線を受け流すように
わざとやんわりと笑って見せた。
151
お気に入りに追加
1,142
あなたにおすすめの小説
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
この恋は無双
ぽめた
BL
タリュスティン・マクヴィス。愛称タリュス。十四歳の少年。とてつもない美貌の持ち主だが本人に自覚がなく、よく女の子に間違われて困るなぁ程度の認識で軽率に他人を魅了してしまう顔面兵器。
サークス・イグニシオン。愛称サーク(ただしタリュスにしか呼ばせない)。万年二十五歳の成人男性。世界に四人しかいない白金と呼ばれる称号を持つ優れた魔術師。身分に関係なく他人には態度が悪い。
とある平和な国に居を構え、相棒として共に暮らしていた二人が辿る、比類なき恋の行方は。
*←少し性的な表現を含みます。
苦手な方、15歳未満の方は閲覧を避けてくださいね。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたアルフォン伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
アルフォンのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる