42 / 308
学園に入学しました
29:新しい友達
しおりを挟む
入学式は正直、前世の学校と
あまり変わり映えはしなかった。
制服は前世の学校で言うブレザーみたいな感じだ。
違うのは、女子が少ないせいか、
女子の制服はきちんとした規定がなく、
ブレザーっぽい制服を着ている子もいれば
セーラー服っぽい制服を着ている子もいる。
ただ足を見せないことがマナーなので
スカートの丈は膝下ぐらいまであり、
靴はロングブーツのようなものを
履いている子が多い。
夏は暑そうだ。
男女とも共通なのはスカーフだけだ。
男子はネクタイの代わりに、
細いスカーフみたいなものを首に巻いて、
胸当たりでクリップで留めるが
女子は薄手の大きなスカーフになっている。
女子のスカーフは、クリップで留めても
リボンみたいに結んでもいいらしい。
なかなか可愛いとは思う。
スカーフは学年ごとに
メインカラーがあるようだが、
あまり厳しい制限は無いらしい。
とりあえずメインカラーが多めに
入っているのであれば、
少しぐらいフリルが付いていたり
柄が入っていても構わないという。
ちなみに俺の学年のメインカラーは
緑で、義兄のカラーは青だった。
またスカーフクリップは自由らしく、
皆、思い思いのものを付けていた。
たとえば、家門をあしらったものから
宝石を付けたようなものまで。
義兄はシンプルなシルバーの
スカーフクリップを使っているらしい。
婚約者同士であれば
お揃いのものを使用するらしいのだが
義兄も俺もそんな相手はいない。
しかも義兄は公爵家に養子に来たが
次期当主になるかどうかは
俺の将来の選択次第だ。
だから嫁なんぞ、もらう環境ではない。
だって当主になるか
ただの補佐になるかでは
大きく違う。
嫁になる方も、どちらになるか
わからない相手に嫁ぐなど、
本気で愛していないと無理だと思う。
女性の数が減少していることから
男性同士での婚姻も認められてはいるが
子どもを成すという意味では
それなりの高位貴族は、
俺のような紫の瞳の人間を嫁にもらうか
結婚してくれる女性を探すかの
どちらかを選択するだろう。
いずれにせよ、女性は女性というだけで
結婚相手はよりどりみどりだ。
公爵家とはいえ、わざわざ
当主になるかどうかわからない者に
嫁に来たがる者はいない。
そう考えると俺は早く
将来について考えるべきなのだろうが
さすがに10歳だ。
もう少しだけ待ってほしい。
自分に何が出来て、何ができないのかを
きちんと見極めてから考えたい。
そんな俺のスカーフクリップは、
恥ずかしいが、リスだ。
シルバー製だが、可愛らしいリスが
どんぐりを持って食べている姿をしている。
俺は支度を手伝ってくれたサリーに
これを差し出され、本気で遠い目になった。
するとサリーは代わりに、と
ずらりと高価な箱に並んだ
スカーフクリップを見せた。
「ではどれに致しますか?」と言われて
箱を見ると
どれも動物で……。
お座りしている犬や、寝転がっている猫。
羽ばたく小鳥。
長い耳のうさぎ。
なんでだ。
何で可愛い物ばかりなんだ?
しかも無駄に金を掛けたとわかる
シルバーの高級品。
きっと父か母が揃えたのだろう。
「リスでいい」とうなだれた俺を
誰か慰めてくれ。
馬車で一緒になった義兄は
「似合ってる」と言ってくれたが
口元が笑っていた。
「まぁ、いいんじゃない?
今の兄貴は可愛いんだし」
と小声で言われ、
俺がどれだけ恥ずかしかったか!
そして俺は入学式で
新入生代表になった。
まぁ、当然だろう。
入学試験は楽勝だったしな。
代表として話す内容も無難にしたし、
別に緊張するようなこともない。
ただし、義兄が在校生代表として
壇上に上がった時は無駄にドキドキした。
義兄が失敗しないか、
うまく話せるか、心配で仕方がなかったのだ。
だから俺は、周囲の一年生たちから
注目されていたことなど
全く気が付かなかった。
それに気が付いたのは、
入学式が終わり、新入生たちが
教室に向かう時だった。
隣に座っていた生徒が
俺に声を掛けてくれたのだ。
「あの、アッシュフォード公爵家の
ご子息様ですよね」
横を向くと、まだ幼い顔立ちの
緑がかった髪の子だった。
「突然、失礼致します。
あの僕、オルガノ伯爵家長男、クリム・オルガノです」
知ってる!
武門の家で、現当主は騎士団長とかしてるんだよな。
「初めまして。
僕はアキルティア・アッシュフォードです」
友だちになれるかもしれないと
笑顔で対応すると、クリムは頬を赤く染めた。
「あの、できればお友達になっていただけますか?
僕がいれば、その、随分と違うと思いますし」
何のことかと思うと、
クリムいわく、俺を狙う? とにかく
あまり良くないような視線が
俺に集中しているらしい。
護衛騎士がいるとはいえ
学園内では護衛がおおっぴらに
行動することはできないし、
クリムは未来の騎士団長になるために
体も鍛えている。
弱いものを守るために
騎士になるのが夢なので
護らせてほしい、と言われた。
すげぇな。
護られるのはどうかと思うが、
友だちになるのは大歓迎だ!
「もうそんな夢を持ってるなんてすごいね。
僕と、ぜひお友達になってください」
俺はクリムの手を握る。
「でも、あの」
守ってもらわなくてもいい、と
言わないと。
「僕も守られないように頑張ります」
そういうと、クリムは笑った。
「自分ができることだけをします。
友だちですから」
カッコイイ!
「じゃあ、僕もクリムに
できることがあったら言ってね」
そう言うと、クリムは
ありがとうございます、と笑った。
俺たちは一緒に保護者席に向かう。
すぐに父と母が俺に気が付いて寄って来た。
「もう友達ができたのか?」
と父が言うので俺はクリムを紹介した。
クリムも丁寧にお辞儀をして
「オルガノ伯爵家の長男、クレム・オルガノです。
ご子息とは、席が隣になったご縁で
親しくさせていただいています」と言う。
すげえ!
この世界の10歳、あなどれん!
「まぁ、丁寧にありがとう」
母は笑って、うちの息子をよろしくね、という。
「オルガノ騎士団長の息子か。
心強いな。
よろしく頼む」
と父は言い、クレムはしっかりと頷いた。
「か弱きももを護るのが騎士たるもの。
ご子息はこの僕がお守りします」
いやいや、おかしくない?
俺、友達だよね?
「うむ、たのんだぞ」と父は偉そうに言う。
焦る俺に、クレムはそっと笑った。
ん?
これはわざと言ったのか?
「ではそろそろクラス発表ですので
僕たちはこれで」
「そうだな。
アキ、私はキャンディスを連れて
一旦、領地に帰るが
夜には戻る。
学園にはキールがいるから
必ず一緒に帰ってくるんだぞ」
「はい」
父の言葉に俺は頷く。
「週末には帰ってきてね」
母の言葉にも頷くと、
二人は護衛を連れて馬車へと歩き出す。
「ふー。
やっぱり公爵様は貫禄があるね」
とクリムは笑った。
「今の、わざと?」
「うん。
父から公爵様がご子息を溺愛してるって
聞いていたから。
ご子息と友達になったって言ったら
大変そうかなと思って。
護衛とか守るとか言ったら
友だちだってすぐに認めてもらえると思ったんだ」
すげぇ。
俺、クリムにこの賞賛のことばを
なんど心の中で言っただろうか。
でもいう。
クリムすげえ!
あまり変わり映えはしなかった。
制服は前世の学校で言うブレザーみたいな感じだ。
違うのは、女子が少ないせいか、
女子の制服はきちんとした規定がなく、
ブレザーっぽい制服を着ている子もいれば
セーラー服っぽい制服を着ている子もいる。
ただ足を見せないことがマナーなので
スカートの丈は膝下ぐらいまであり、
靴はロングブーツのようなものを
履いている子が多い。
夏は暑そうだ。
男女とも共通なのはスカーフだけだ。
男子はネクタイの代わりに、
細いスカーフみたいなものを首に巻いて、
胸当たりでクリップで留めるが
女子は薄手の大きなスカーフになっている。
女子のスカーフは、クリップで留めても
リボンみたいに結んでもいいらしい。
なかなか可愛いとは思う。
スカーフは学年ごとに
メインカラーがあるようだが、
あまり厳しい制限は無いらしい。
とりあえずメインカラーが多めに
入っているのであれば、
少しぐらいフリルが付いていたり
柄が入っていても構わないという。
ちなみに俺の学年のメインカラーは
緑で、義兄のカラーは青だった。
またスカーフクリップは自由らしく、
皆、思い思いのものを付けていた。
たとえば、家門をあしらったものから
宝石を付けたようなものまで。
義兄はシンプルなシルバーの
スカーフクリップを使っているらしい。
婚約者同士であれば
お揃いのものを使用するらしいのだが
義兄も俺もそんな相手はいない。
しかも義兄は公爵家に養子に来たが
次期当主になるかどうかは
俺の将来の選択次第だ。
だから嫁なんぞ、もらう環境ではない。
だって当主になるか
ただの補佐になるかでは
大きく違う。
嫁になる方も、どちらになるか
わからない相手に嫁ぐなど、
本気で愛していないと無理だと思う。
女性の数が減少していることから
男性同士での婚姻も認められてはいるが
子どもを成すという意味では
それなりの高位貴族は、
俺のような紫の瞳の人間を嫁にもらうか
結婚してくれる女性を探すかの
どちらかを選択するだろう。
いずれにせよ、女性は女性というだけで
結婚相手はよりどりみどりだ。
公爵家とはいえ、わざわざ
当主になるかどうかわからない者に
嫁に来たがる者はいない。
そう考えると俺は早く
将来について考えるべきなのだろうが
さすがに10歳だ。
もう少しだけ待ってほしい。
自分に何が出来て、何ができないのかを
きちんと見極めてから考えたい。
そんな俺のスカーフクリップは、
恥ずかしいが、リスだ。
シルバー製だが、可愛らしいリスが
どんぐりを持って食べている姿をしている。
俺は支度を手伝ってくれたサリーに
これを差し出され、本気で遠い目になった。
するとサリーは代わりに、と
ずらりと高価な箱に並んだ
スカーフクリップを見せた。
「ではどれに致しますか?」と言われて
箱を見ると
どれも動物で……。
お座りしている犬や、寝転がっている猫。
羽ばたく小鳥。
長い耳のうさぎ。
なんでだ。
何で可愛い物ばかりなんだ?
しかも無駄に金を掛けたとわかる
シルバーの高級品。
きっと父か母が揃えたのだろう。
「リスでいい」とうなだれた俺を
誰か慰めてくれ。
馬車で一緒になった義兄は
「似合ってる」と言ってくれたが
口元が笑っていた。
「まぁ、いいんじゃない?
今の兄貴は可愛いんだし」
と小声で言われ、
俺がどれだけ恥ずかしかったか!
そして俺は入学式で
新入生代表になった。
まぁ、当然だろう。
入学試験は楽勝だったしな。
代表として話す内容も無難にしたし、
別に緊張するようなこともない。
ただし、義兄が在校生代表として
壇上に上がった時は無駄にドキドキした。
義兄が失敗しないか、
うまく話せるか、心配で仕方がなかったのだ。
だから俺は、周囲の一年生たちから
注目されていたことなど
全く気が付かなかった。
それに気が付いたのは、
入学式が終わり、新入生たちが
教室に向かう時だった。
隣に座っていた生徒が
俺に声を掛けてくれたのだ。
「あの、アッシュフォード公爵家の
ご子息様ですよね」
横を向くと、まだ幼い顔立ちの
緑がかった髪の子だった。
「突然、失礼致します。
あの僕、オルガノ伯爵家長男、クリム・オルガノです」
知ってる!
武門の家で、現当主は騎士団長とかしてるんだよな。
「初めまして。
僕はアキルティア・アッシュフォードです」
友だちになれるかもしれないと
笑顔で対応すると、クリムは頬を赤く染めた。
「あの、できればお友達になっていただけますか?
僕がいれば、その、随分と違うと思いますし」
何のことかと思うと、
クリムいわく、俺を狙う? とにかく
あまり良くないような視線が
俺に集中しているらしい。
護衛騎士がいるとはいえ
学園内では護衛がおおっぴらに
行動することはできないし、
クリムは未来の騎士団長になるために
体も鍛えている。
弱いものを守るために
騎士になるのが夢なので
護らせてほしい、と言われた。
すげぇな。
護られるのはどうかと思うが、
友だちになるのは大歓迎だ!
「もうそんな夢を持ってるなんてすごいね。
僕と、ぜひお友達になってください」
俺はクリムの手を握る。
「でも、あの」
守ってもらわなくてもいい、と
言わないと。
「僕も守られないように頑張ります」
そういうと、クリムは笑った。
「自分ができることだけをします。
友だちですから」
カッコイイ!
「じゃあ、僕もクリムに
できることがあったら言ってね」
そう言うと、クリムは
ありがとうございます、と笑った。
俺たちは一緒に保護者席に向かう。
すぐに父と母が俺に気が付いて寄って来た。
「もう友達ができたのか?」
と父が言うので俺はクリムを紹介した。
クリムも丁寧にお辞儀をして
「オルガノ伯爵家の長男、クレム・オルガノです。
ご子息とは、席が隣になったご縁で
親しくさせていただいています」と言う。
すげえ!
この世界の10歳、あなどれん!
「まぁ、丁寧にありがとう」
母は笑って、うちの息子をよろしくね、という。
「オルガノ騎士団長の息子か。
心強いな。
よろしく頼む」
と父は言い、クレムはしっかりと頷いた。
「か弱きももを護るのが騎士たるもの。
ご子息はこの僕がお守りします」
いやいや、おかしくない?
俺、友達だよね?
「うむ、たのんだぞ」と父は偉そうに言う。
焦る俺に、クレムはそっと笑った。
ん?
これはわざと言ったのか?
「ではそろそろクラス発表ですので
僕たちはこれで」
「そうだな。
アキ、私はキャンディスを連れて
一旦、領地に帰るが
夜には戻る。
学園にはキールがいるから
必ず一緒に帰ってくるんだぞ」
「はい」
父の言葉に俺は頷く。
「週末には帰ってきてね」
母の言葉にも頷くと、
二人は護衛を連れて馬車へと歩き出す。
「ふー。
やっぱり公爵様は貫禄があるね」
とクリムは笑った。
「今の、わざと?」
「うん。
父から公爵様がご子息を溺愛してるって
聞いていたから。
ご子息と友達になったって言ったら
大変そうかなと思って。
護衛とか守るとか言ったら
友だちだってすぐに認めてもらえると思ったんだ」
すげぇ。
俺、クリムにこの賞賛のことばを
なんど心の中で言っただろうか。
でもいう。
クリムすげえ!
162
お気に入りに追加
1,137
あなたにおすすめの小説
【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。
mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】
別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。
転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
伴侶設定(♂×♂)は無理なので別れてくれますか?
月歌(ツキウタ)
BL
歩道を歩いていた幼馴染の俺たちの前に、トラックが突っ込んできた。二人とも即死したはずが、目覚めれば俺たちは馴染みあるゲーム世界のアバターに転生していた。ゲーム世界では、伴侶(♂×♂)として活動していたが、現実には流石に無理なので俺たちは別れた方が良くない?
男性妊娠ありの世界
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
英雄の恋人(♂)を庇って死ぬモブキャラですが死にたくないので庇いませんでした
月歌(ツキウタ)
BL
自分が適当に書いたBL小説に転生してしまった男の話。男しか存在しないBL本の異世界に転生したモブキャラの俺。英雄の恋人(♂)である弟を庇って死ぬ運命だったけど、死にたくないから庇いませんでした。
(*´∀`)♪『嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す』の孕み子設定使ってますが、世界線は繋がりなしです。魔法あり、男性妊娠ありの世界です(*´∀`)♪
婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話
黄金
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。
恋も恋愛もどうでもいい。
そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。
二万字程度の短い話です。
6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる