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タウンハウスに引っ越しました

26:義兄

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 俺は早々にベットに入ったが、
少しウトウトしただけで
目が覚めてしまった。

入学まじかで緊張してるんだろうか。
まさか、この俺が?

俺は自嘲してベットから下りる。

子どもが寝るには十分の時間だが
大人にとってはまだ早い時間だろう。

窓から外を見ると
屋敷の明かりが庭にも伸びていたし、
遠くに見える街の明かりも
まだまだたくさん点いている。

俺は窓を開けた。

大きな窓はベランダになっていて
裸足のまま1歩外に出ると
心地よい風がに髪が流れる。

俺の黄金色の髪、という名の
ただの金色の髪は
母と父に言われて伸ばしっぱなしだ。

と言っても、一つに結べば
肩下ぐらいの流さになる程度だが。

綺麗な髪を切って欲しくないと
泣く勢いで言う両親に
俺は仕方がないと髪を伸ばしているのだ。

通常は朝の支度の時に
侍女に髪を整えてもらうのだが
月に何度かは、専門技術を持ったメイドに
身体のマッサージと同時に
髪の手入れもしてもらっている。

前世のエステみたいなものだが
これが驚くほどに気持ちがいい。

前世で女性たちがエステに
行きたがる理由がようやくわかった。

俺が髪を手で押さえると、
隣で息を飲む音が聞こえた。

ん?と思って横を見ると
なんと義兄が同じように
隣の部屋のベランダに出て来ていたのだ。

「おかえりなさい、兄さま」

俺がそう言うと、義兄は
ぎこちなく、ただいま、と言った。

「入学式が近いからな。
眠れないのか?」

そう言われて、俺は首を振る。

「今日はあまり疲れなかったので。
それよりも……」

義兄を見ると、どう見ても
寝る前の姿だし、ちょっとぐらい
話をしてもいいよな。

「なんだい?」

「少し、話をしてもいいですか?」

というと、義兄は驚いた顔をした。

だが、もちろん、と言い、
すぐに俺の部屋に来てくれると言う。

「いえ、僕が兄様の部屋に行きます」

俺は慌ててそう言って、
部屋を飛び出した。

こちらが無理を言っているのに
来てもらうなんて申し訳ない。

俺が隣の部屋をノックする前に
義兄が部屋のドアを開けた。

「いらっしゃい」

そう言って義兄は俺を部屋に入れてくれたけど。

なんだかものすごく、
無駄の一つもないような部屋だった。

飾りっ気が無いと言うか、
無機質と言うか。

養子だから遠慮してるのかな?
欲しいものがあれば俺が父に伝えるのは
正直、やぶさかでない。

何もない部屋だったけれど、
一応、ベットも机もクローゼットも、
家具はすべて一通りそろっている。

緑で統一された部屋は
洗練されていたし、
不自然なものは何一つない。

義兄は俺を机の椅子に座らせ
自分はベットに座った。

そうだよな。
自室にソファーセットがあるのは
通常はおかしいよな?

領地の屋敷の俺の部屋には
何故かあったが。

もちろん、このタウンハウスにある
隣の俺の部屋にも
ソファーはない。

部屋は領地の屋敷より狭いしな。

ふと、俺は机の上に飾られた石に目を奪われた。

整頓された机の上に、
どうみてもガラクタ、というか
庭か公園か、とにかくそのあたりで
拾ってきたような石が並べて飾ってある。

大切そうに。
そしてその並んだ石の端には
古びた小さい袋があった。

俺がナニーに縫ってもらった
匂い袋だ。

俺の視線に気が付いたのだろう。
義兄は恥ずかしそうに視線を外す。

「その、嬉しかったから」

と言った顔が、何故か
生前の弟の顔にダブって見えた。

意地っ張りで、反抗期で。
俺が何を言っても言うことをきかず、
ウザイ、シね、消えろ、しか言わなかった弟だが
たまに、本当にたまに。

弟は恥ずかしそうに俺の好意を受け入れる。

それは誕生日の日に用意した小さいケーキとか、
弟が欲しがっていたゲーム……は、
高価でプレゼントすることはできなかったが
自分で似たようなプログラムを組んで
作った自作のゲームソフトを渡したときとか。

俺は椅子から立ち上がり、
座っていた義兄の頭を抱き込んだ。

何故そんなことをしたかわからない。
ただ、前世の弟と、目の前の義兄の
顔が重なって見えて。

何故か義兄が傷付いていると思えて。

俺は義兄の頭を、いいこ、いいこ、と撫でて、
「大切に持っててくれてありがとう」と言う。

と、義兄は俺を抱きしめて来た。

「俺……、俺……」

堰を切らしたように、義兄が涙を落とす。

「ちょ、え? だいじょぶ?」

俺は焦る。

「兄貴……俺が、あの時シねなんて言ったから。
ウザイって、俺、俺が……」

うん?
ちょっと待って。
なんだって?

「俺が死ぬ筈だったのに。
兄貴が俺を庇って………俺を、
俺の代わりに……」

誰だ?
俺を抱きしめて泣くこいつは。

大きな体が震えながら
俺を抱きしめてくる。

俺の存在を確かめるように、
何度も、何度も俺の背を撫でる。

これは、誰だ?
7歳年上の義兄?

いや、違う。
こいつ、は。

「ごめん、変なこと言って」

義兄はそう言うが
俺から手を離そうとしない。

「でも、たまに俺を見る目が、
前の時と、一緒で。

俺に触れてくる手が、
仕草が、兄貴と一緒で……」

義兄の唇が、わななく。

「兄貴、俺……のこと、わかる?」

震える腕に、声に、まさか、と思う。

けれど。
分からないはずがない。

この義兄は。

いや、目の前にいるこの男は。

俺の大切な、憎らしいほど生意気な
俺の前世の弟……としか思えなかった。

俺が守りたかった、大切なたったひとりの弟。

なんだ、これは。
あの神様っぽいのが仕組んだのか?

呆然とする俺を、
義兄はしばらく抱きしめてから
俺を離した。

俺の顔を覗き込み、
「やっぱり」と小さく言う。

「兄貴にも記憶があるんだよね」

義兄は安心したように言い、
俺をもう一度、椅子に座らせた。

「兄貴、ごめんな」

そして義兄は俺に
謝罪の言葉を言うと、
前世で何があったのかを語り出した。




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